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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第六章、助っ人

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88、採寸

 いや、そんなこと言われても…。私が黙っている間にも話は進んでどんどんと断りづらい空気が流れていく。


「という訳で…!アイリス様、どうでしょう?私たちを助けるとでも思ってどうか代役を引き受けていただけないでしょうか!?」


「いや、だから無理ですけど」


「そこをなんとか!!もう貴女くらいしか頼める人がいないんです!!」


「「「お願いします!!!」」」


 こうして全員に頭を下げられたらもう私には引き受ける以外の選択肢がなかった。自分の押しの弱さにはほとほと困ったものだ。正面から必死に助けを求められてしまえば拒否することが出来る訳ない。


「…わかりました。わかりましたから!!でも私は演技に関しては素人ですよ?セリフは減らして下さいね」


「ありがとうございます!!やはり流石私の見込んだ女性ですわね!ならば早速台本の修正をしなくては!では私はこれで!!」


 一息にそう言い放つとリリアン先輩は私たちを残して自然発生した竜巻の如く一瞬でいなくなった。私を勧誘した超本人がいなくなるなんてあっていいのだろうか。


「…えっと、先輩はどちらに?」


 私の疑問を解消してくれたのは、先程自己紹介をしてくれたトーマス先輩であった。


「ああ、彼女はこの演劇サークルの脚本家なんですよ。既存の台本を使うこともありますが、最近は彼女が書いたものを演じることが多くて。今回の台本も彼女が手がけたものなんです。おそらく今頃は自室へと籠って台本の修正をしていると思います」


 へぇ、エリック先輩といいリリアン先輩といい色んな才能を持った人が集まっているのか。演劇というのは色んな人の支えがあって作られているみたい。脚本、衣装、役者、それに音響や照明。一つの作品を作るためには多くの人の協力が必要不可欠だ。それを考えると演劇って奥が深いものなんだなぁ。


「そうなんですね。事情は分かりましたけど本日は台本もないですし何をすれば?」


「君はこっちに来て採寸だよ!役者が変わるんなら衣装のサイズも変わるからね。ソフィアは僕の手伝いをして。さあぼうっとしてないでいくよ」


 エリック先輩はぼけっと突っ立っていた私の手を引っ張りながらどこかへ連れていく。その後をソフィアが小走りで追いかけてきた。先輩の説明によれば演劇サークルの所有する空き教室の一室はエリック先輩が衣装作りをするための部屋になっているんだって。


「うわぁ!!!」


 辿り着いた教室へと入るとあまりの布の多さに目を疑ってしまう。机の上には様々な種類の布が積み上げられており、服のデザインの途中なのかスケッチブックが開いた状態で置かれている。また、小物入れにはボタンやビーズなんかの細かい部品が色や種類ごとに綺麗に整頓されて敷き詰められていた。物が多い部屋だが、机の上以外の場所はきちんと片付けられている。

 見る人が見たら大喜びしそう…。特に手芸好きのお母様とか、ね…。


「これはまた…すごいですね…」


 私同様に言葉を失ったソフィア。しかし先輩は私たちのことなんてお構いなしで何やらテキパキとメジャーを取り出したりノートを探したり、採寸の準備を進めていた。


「よし、早速始めるからアイリス、とりあえず服脱いでくれる?」


「はい?」


 えっと、私の空耳か?先輩は今、服を脱げと仰ったのかな…?つまりここで裸になれと?


 困惑する私に何故か不思議そうな顔をして先輩はこう続けた。


「いや当たり前に考えて服の上から採寸なんて出来るわけないでしょ?それとも何?アイリスはドレスを一から仕立てたことがないわけ?」


「流石にそれはありますけど…!私だって一応乙女なんですよ!?男の人の前で服を脱ぐのはちょっと…」


 恥じらう私の姿を見て何を思ったのか、先輩は急に顔を真っ赤にしながら凄まじい勢いで弁解し始めた。


「何言ってるの!?僕が自ら測るわけないでしょ!何のためにソフィアを連れてきてると思ってるのさ!」


 いや、それならそうと先に言ってくれればいいのに…。変な勘違いを生ませたのは先輩の方だ。全く言葉足らずにも程があるだろう。先輩は未だにプリプリと何か小声で怒りながらも気を取り直すように咳払いをして指示を出してきた。


「ゴホンッ!!教室の隅に衝立で囲まれてる場所があるの見えるでしょ?そこで下着になってソフィアがメジャーでサイズを測ってくれる?どこを測るかはこっちで指示を出すから」


 言われるがままになんとか全ての採寸を終えた私たち。自分のドレスを仕立てるのなんてしばらくしてなかったからこんなのは久しぶりで少し疲れた。ほんとにそんなところまで測るの?っていう箇所が何個かあったし…。まあ服作りをしたことがない身からすれば分からないってだけで、先輩にとっては重要なことかもしれないから黙ってたけどね。それにもし文句を言ったら10倍で返ってきそうな気がしたのだ。


「オッケー、じゃあ今日は帰っていいよ。お疲れ様。僕は作業があるから何か聞きたいことがあればさっきの部屋で他のメンバーに聞いといて」


  エリック先輩に追い出されてしまったので私たちは再び先程の部屋へと戻ることにした。確か次の舞台まで2週間とかいう怖いワードを耳にしたので、今からでも出来ることをした方がいいに決まっている。こうして私は演劇サークルの先輩の指導のもと、簡単な発生練習と表情作りの特訓メニューに取り組んだ。


 そうそう、その間ソフィアといえば。彼女が言い出したことでこうなってしまったという責任があるみたいで演劇サークルの裏方の手伝いに自ら名乗りを上げたようだ。


 それにしても今日一日で色んなことが起こりすぎじゃない?笑顔の練習をし過ぎて口角がずっとピクピクしている。普段あまり使わない表情筋を動かしたせいで筋肉痛になったみたいだ。


 …こんなんで本当に舞台がうまくいくのかなぁ…。

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