85、ストーカー?
今日もいい天気だなぁ。爽やかな風が廊下を通り抜け、暖かい日差しが差し込む教室で窓の外を眺めていると夏の足音がすぐそこまで聞こえてくる。そんな穏やかなお昼時、
(ああ、また、だ)
それをぶち壊すかのように強い視線を向けられていることに気づいた。ここ最近こんなことばかり続いている。昼休みの時間や放課後、または体育の時間の時。ふとした瞬間に誰かに見られている気がして辺りを見渡すのだが誰もいない。なにこれ怖すぎる!私は霊感は特にないはずなんだけど…。
私はとうとうたまらなくなってそのことをソフィアに相談する事に決めた。
「ねぇ、ソフィア。最近変だと思うことがあってさ」
「え、何?」
「気付いたら誰かに見られてるような気がするんだよね。でも周りを見渡しても誰もいないの」
「え、やっぱり!?私も同じことを思ってた!!私の気のせいかと思ってたけどアイリスもそう思うなら勘違いじゃないってことだね」
ソフィアからの返答は意外なものであった。まさか彼女も同じ思いをしていたなんて。よくよく考えればそりゃあそうか、私たち常に一緒にいるんだもんね。でもそうなってくるとその視線は私じゃなくてソフィアに向けられているものなのかもしれない。
「ねぇ…ならさ。その視線の正体を暴いてみない?ずっと誰かに見られてるのって正直怖いよ」
「そうだね…。2人でやればきっと大丈夫だよね。私もその意見に賛成!」
話がまとまると私たちは早速、その誰かを捕まえる算段を立て始めた。
「…よし、じゃあ今日の放課後それで行こう」
二人で廊下を並んで歩く。なるべく人気のない場所を選んで。さあ、相手はどう来る?内心ハラハラしながらもその瞬間が来るのを辛抱強く待った。軽い雑談をしながら他の気配に集中すると…、来た!!やっぱり誰かいる。ソフィアに軽く目配せすると、彼女も気付いたのか頷きを返して返事をした。よし作戦決行だ!
「ごめんソフィア、私ちょっと御手洗いに行ってくるね。あそこのベンチで少し待っててくれる?」
少しわざとらしく大きな声で宣言した私はさっと離れて近くのトイレに隠れた。私たちの予想通りならその視線の主はソフィアか私かどちらかの方へ着いてくるはず。視線を感じなくなった方が挟み込んで捕まえるという作戦だ。
しばらく待つと流石にトイレの中には入って来なかったみたいでその誰かはソフィアの方へと向かったのだろう。私はトイレからそっと出ると彼女を待たせているベンチの周辺に怪しい人影がないか目を凝らして探した。すると…見つけた。花壇の奥の茂みにしゃがみこむ人の姿を。私は足音を立てないように裏から回り込むと、その人物目掛けて大声を上げた。
「そこで何してるんですか!?」
「ひゃっ!!!」
思いの外可愛らしい声を上げたその人物は、私の声にびっくりしたのかその場にペタンと腰を落としてしまう。そこにいたのは深い緑色の髪を三つ編みにして眼鏡をかけた可愛らしい女の子だった。いや、女の子というよりリボンの色からして三年生、つまり先輩で…。ていうか誰、この人!!
「最近私たちを付け回していたのは貴女ですか?」
少し強めの口調で問いただすと先輩はあわあわしながら何かよく分からないことを口走っている。
「…まさかそちらから話しかけてくださるなんてっ!どうすればいいの、私は。いやそうじゃなくて!まずは落ち着くのよ、私!」
先輩の反応に困っているとソフィアが近付いてきて私と同様に疑問符を浮かべるのを真横で見た。
「えっと…これはどういう状況??」
「いや、それが私にもさっぱり」
1人でひとしきりブツブツ言っていた先輩はようやく落ち着いたのか立ち上がってスカートの砂を叩き落とすと裾を軽く掴んで綺麗なお辞儀をして挨拶して来た。
「ご機嫌麗しゅう、お二方。私はリリアン・タリンタと申します。以後お見知り置きを」
「ご丁寧にありがとうございます。しかし今は先輩が何故こんな所にいて、ここで何をしていたのか教えて頂きたいものですけど」
「そもそも私たちに熱い視線を送っていたのは先輩で間違いないですか?何か私たちに御用でも??」
私の少し冷たい態度をフォローするかのように、ソフィアが柔らかい口調でこう付け足した。腐っても先輩は先輩。失礼がないようにという彼女の配慮なのだろうが、この人のやっていることはストーカーだ。なぜ優しくしてあげねばならないのか。
するとそのリリアンと名乗った先輩は良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに目を輝かせて鼻息を荒くしながら興奮気味に喋りだした。
「えぇ、それは私で間違いないです!怖がらせてしまったのなら申し訳ありません!しかし!私は私の運命の人を陰ながら見守りたかった、ただそれだけなので!!!私の存在に気付いていて下さったのですか!?」
…本当に、何を言っているんだこの人。話が全く見えて来ない。
「あの…仰っている意味が分かりませんわ。運命の人って、どなたのことを言ってますの?」
先輩はきょとん、とした顔をしたかと思うと今度はいきなり距離を詰めて私の両手をすくい上げると、
「もちろん貴女に決まっています!アイリス・アルベルン伯爵令嬢様♡」
蕩けた目で見つめてくる。うげっ…!!まさかの私!?こんな癖の強い人に好かれる要素が私のどこにあるというのだ。しかも私と彼女は初対面のはずなのに。




