82、勿体ない
※テオドール視点
翌朝、ドアのノックの音で目を覚ました。こんな早い時間に誰だ?ぼんやりした頭でドアを開けるとそこにはソフィアちゃんが立っていた。
「…おはよう…」
「ちょっと、先輩!なんですかその格好は!?今すぐ支度しますよ!」
会って早々にソフィアちゃんはズカズカと部屋の中へ入ってきたかと思うと、俺の背中を押して半ば強引に椅子へと座らせた。寝起きで寝癖のついた髪の毛を梳かされ服を着替えさせられ、洗面台に連れていかれ…。色々と世話を焼かれているうちだんだん頭がハッキリとしてくる。そうだった、昨日は色々あって…。
「中身が先輩とはいえアイリスの世話を焼く日が来るなんて…人生って分からないな…」
ボヤきながらも少し嬉しそうに支度を手伝ってくれるソフィアちゃん。意外と面倒見がいい所があることを初めて知った。ソフィアちゃんてば、俺が話しかけるといつも若干怯えてるしこんな風に沢山喋ったことはあまりなかったから新鮮だ。
それはそうと朝が早過ぎないか?こんな時間に起きたのはいつぶりだろうか。
「ソフィアちゃんたちっていつもこの時間に起きてるの?いくらなんでも早過ぎない?」
「仕方ないんですよ、人があまりいない時間帯に食堂へ行かないと。私たちだとかなり目立ってしまいますから」
言われてみれば…。アイリスちゃんはもちろんソフィアちゃんも、少し他の人とは変わった容姿をしているから苦労することが多そうだ。
「そういうことね。オッケーじゃあ早速行こうか。その前に…」
俺はソフィアちゃんに顔をグッと近づけてこう言った。
「先輩、じゃなくて、アイリスって呼んでくれないと。ほら、言ってみて」
「ひゃっ!!分かりましたから!離れて下さい!」
心無しか顔を赤くしながら照れる様子はさながら恋する乙女だ。確かにアイリスちゃんの顔ってすごく整ってるから女の子でもドキドキするのかもしれない。まじまじと鏡に映る彼女の顔を見つめると、言葉に表すのは難しいが、とても印象的で一度見たら忘れないような顔つきをしている。しかしながら当の本人はそれを全くもって活かしていないのだから不思議だ。整った容姿というのはそれだけで武器になるというのに。あーあ、俺ならもっと上手く使うけどなぁ…。
あ、そうだ!いいこと思いつーいた!!
無事に朝食を取り終えてお次は教室へと移動する。久しぶりに歩く一年生の廊下はとても懐かしく、二年前まで使っていた教室を彼女たち後輩が使っていると思うと少し感慨深い気持ちになった。
「おはようございまーす!!」
俺は教室へ入ると同時に元気良く挨拶したのだが、誰も返事を返してこなかった。あれ、おかしいな。聞こえなかったのか?すると俺の挨拶に反応した数名のうちの一人、生徒会の後輩でもあるディラン君が血相を変えてこちらに飛んできた。
「貴方何してるんですか!?早くこちらに!!」
腕を強く引かれるがままに教室後方の席へと連れていかれると、とある席に座らせられる。その席を囲むように立っているディラン君、ルーク君、ソフィアちゃんは三者三様の反応をしていた。戸惑っていたり苦い顔をしていたり、少しの怒気をはらんでいたり。
「すみませんがテオ先輩、もっとアイリスさんらしく振舞って頂かないと困ります」
「流石にあれはないですよ。先輩は普段の彼女の様子を知っているでしょうに」
「もう先輩ったら!人に注意する前に自分がしっかりしてください!」
口々に注意されて俺は少し反省した。いつもの癖でつい、ね。アイリスちゃんなら確かにあんな元気に登場することはないだろう。というか想像出来ない。
「分かったってば。今度から気をつけるよ」
4人でコソコソと話している時、こちらに近づく人物があった。
「おはよう、みんな。それにアイリスも」
その人物とはカイル・フレディクトだった。彼と俺は少しだけ顔見知りであるが、二人の関係性はどうだろうか。推測するに仲はかなり良好だろう。先程の挨拶でクラスメイトが無反応だったことに対して彼はこうして話しかけてきてるのも理由の一つだ。
剣技大会で試合を一緒に観戦した時や、体育祭の打ち上げの時にも感じたけどアイリスちゃんは彼に少なからずの好意を持っている。おそらく彼もだ。
それに俺は知ってる。カイル君がアイリスちゃんに向ける好意は友達としてのそれだけじゃないってことを。俺はよく女の子からモテるから、昔から人の好意には敏感だった。それ故に気づいたのだ。カイル君の好意の本当の意味、それは…。
「おはよう、カイル」
「ああ、おはよう。アイリス、今日はどうしたんだ?朝からご機嫌みたいだけど」
横から三人分の圧の強い視線を感じながら俺はテキトーに誤魔化した。
「ちょっと面白いことがあってね。そのせいかも」
「面白いことって?」
「それは内緒ー!それよりも!実は私、今日の授業の宿題を忘れて来ちゃったんだ…。良かったらカイル、ノート見せてくれる?」
もちろんこれは嘘じゃない。昨日の今日で宿題とか正直手につくわけないし、宿題の範囲も三年生の俺が知るわけがないのだ。その辺アイリスちゃんはどうしてるのかなと心配になったが、彼女の周りにはオーウェンもヘンリーもいるし大丈夫だろう。
上目遣いで頼み込むと効果は的面のようで彼の頬がぽっと赤くなったかと思うと、小さな声で了承の返事が聞こえてくる。
「…珍しいこともあるんだな。俺ので良ければノート貸すよ」
「ありがとうカイル!!」
俺は満面の笑みを浮かべると嬉しさ余ってつい、という風を装ってカイル君の両手を取ってギュッと握った。するとどういう訳か今度は羨望と嫉妬が交じったような視線を向けられたのだ。チラッと横を盗み見ると隣の男子二人の表情が曇っている。ルーク君は口元は笑ってるけど目が笑ってないし、ディラン君は若干眉間に皺が寄っている。
おやおや、これはこれは…。アイリスちゃんも隅に置けないねぇ!でも二人共これくらいで反応しちゃうなんてまだ未熟というか…。そんなんで隠せてると思ってるの?俺からしたらバレバレだよ。
それにしてもアイリスちゃんってば、こんな優良物件の男達に囲まれているのに、本人は我関せずといった態度を取っているなんて魔性の女すぎて笑えてくる。選り取りみどり、選びたい放題。言い方は色々あるけれど、人生は一度きりなんだから遊ばないと勿体ない。
よし、男子共に夢を見せてあげるついでだ。アイリスちゃんの代わりに俺が遊んどいてあげよーっと。元の体に戻った時、彼女がどんな反応をするのか今から楽しみだ。




