81、人助け
※後半テオドール視点
薬、薬か…。どこか体の具合が悪いのだろうか?それなら必死に探すことも頷ける。
「なるほど…。じゃあわた、じゃなかった、俺も探すの手伝うよ。どこら辺に落としたのか覚えてる?」
「えっと…確かここで人とぶつかった時に…」
彼女と一緒になって床にしゃがみこんで探すこと数分。私は彼女の様子が少しおかしいことに気づいた。息は切れており、顔色が真っ青になっている様子はただ事ではなく、誰が見ても異常だとわかるだろう。
「ねぇ、君。大丈夫かい?だいぶ体調が良くないみたいだけど」
「いつものことだから大丈夫、です…。お気に、なさらず…」
こちらを心配させまいと気丈に振舞っていた彼女だが、とうとう限界が来たのかその場で倒れ込んでしまう。
「っと!」
間一髪、彼女の頭が地面に着くギリギリで受け止めると既に彼女の意識はなかった。
これは…どうしたら…!とりあえずここに放置することは出来ないので保健室まで運ぶことにした。私の体は今やテオドール先輩の体になっているためか、彼女1人を背負うのは容易くてびっくりした。男の人って体力が全然女子と違うんだな…。
保健室に着くと、そこにいた先生に説明して彼女のことを任せた。
よし、次はその薬とやらを見つけないと。元の場所まで戻って暫く探していると…見つけた。小さいケースの中にカプセル錠が入ってるからこれで間違いないだろう。保健室に薬を届けてから時計を見ると、もう20分も授業に遅刻している。まずい、こんなことは初めてだ。しかし今程先輩の体で良かったと思うことはないだろう。遅刻したのはあくまで私じゃなくて先輩だから。
急いで3年生の教室へと戻ると当たり前に授業は始まっており焦ったが、事情をきちんと話したおかげか特に怒られることもなかったのでセーフといえよう。
時は過ぎて放課後。今日一日先輩として過ごしてきたがこれが本当大変で、よくこんな生活を毎日を過ごせるなと感心させられることが多かった。
その一例として挙げると、一人の時間がほぼないし常に誰かが周りにいるのだ。体育の授業なんて女子からものすごくキャーキャー言われて注目され、やりにくいったらない。引きつった笑顔で女子に手を振り返すのなんて人生で初めての経験だったし。
人にモテるって案外苦労することも多いんだな、という新たな発見を得た。何から何まで私と違う人種であることは分かったが、先輩自身は結局の所どう思っているんだろう。心が休まる場所はあるのだろうか?
いつも通り皆が生徒会室へと集まると、そこへワイアット先生がやって来た。
「皆さん集まっていますね。こちらであの薬品を調べてみたのですが、やはりこれといった情報はなく…。しかし時間経過で元に戻るかもしれないという説を見つけまして、もうこれにかけるしかないかと」
やっぱりそう簡単にはいかないか…。考えてみれば何百年前に存在していて現在に無いものを調べることなんて不可能に近い。
いつ戻れるか分からないため、こうなったら覚悟を決めるしかないと思った時だ。急に私と先輩の体が光り始めたではないか!眩しすぎる光に目を瞑り、再び目を開けた時には先程までとは視界の高さがまるで違う。慣れ親しんだ世界が現れたことに物凄い安堵感を覚えた。
「先輩っ!!!」
「アイリスちゃんっ!!!」
互いに手を取りあって喜びあう私たちの様子を見て皆も察したのだろう。
「もしかして戻れたの!?」
「良かった!!」
皆から口々に祝福の言葉を受けている時、ワイアット先生だけは不思議そうな顔をして考え込んでいた。
「こんなに早く効果が切れるなんて…。有り得るのだろうか。しかし古代の物だから既に効き目が弱くなっていた、ということも考えられる…」
兎にも角にも元に戻れたんだから詳しいことなんて私にとってはもうどうだっていい。
「まあ俺はもうちょっと続いてても良かったけどね〜?」
テオドール先輩と来たら懲りずにまだそんなことを言っているが私はもう二度とごめんだ。良かった良かった!!!
* * * *
〜入れ替わり、テオドール視点〜
俺のうっかりのせいでアイリスちゃんと体が入れ替わってしまった訳だけど。アイリスちゃんには悪いけど、こうなったからには女の子の生活とやらを楽しまなくては損に決まってる!!人生楽しんだもん勝ちの精神で生きてきた俺にとっては、この上なく刺激的な出来事に心が自然と踊っている。
ソフィアちゃんに連れられて女子寮の中へと足を踏み入れると、女の子だらけの空間のせいかどこか良い香りがする、気がする!男子寮の汗臭い感じとは全然違って清潔感が漂う女の園は俺にとっては楽園みたいだ。
アイリスちゃんの部屋まで案内してくれた彼女は、
「いいですか!絶対に!アイリスの体で変なことしないで下さいねっ!!」
と、いつもの気弱な感じは何処へやら、強い口調でそう念押ししてくる。そんな姿を見せられたらついからかいたくなってしまうのが俺の性というやつだ。
「変なことってなーにー?俺何もしてないけど。それとも…あぁ!そういうことか!ソフィアちゃんってばやらし〜!」
「な、何言ってるんですか!?もう!!明日の朝迎えに来ますからそれまで大人しくしていて下さいっ!」
バタンッと大きな音を立てて目の前の扉を閉められた。ソフィアちゃんってばアイリスちゃんのことになると人が変わったみたいに強くなるんだよなぁ…。それほどアイリスちゃんに心酔してるっていうか、さ。気弱な彼女をそこまでにさせるアイリスちゃんってホント何者??生徒会として知り合ってから彼女には少なからずちょっかいをかけてきたけれど、まだ掴めないところがある。
自慢ではないけど俺は正直に言ってモテる。俺に声をかけられた女の子は大体は頬を赤くして目を逸らすというのに彼女は最初から俺に見向きもしなかった。人の心の隙間に入り込むことは俺の十八番でもあるんだけどな…。自分の得意技が通用しなくて少し不満に思ったことを思い出した。
だからこそ興味が沸いた。気になった。オーウェンにも一目置かれているみたいだし、他のみんなも口にはしないが彼女に不思議な魅力を感じているだろう。まあ俺もその一人なんだけど。
今回の事件は彼女のことを知るいい機会かもしれない。
次回からもテオドール視点になります




