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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第一章、始まり

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8/58

08、二日目

<…きて、…きてってば!起きて、アイリス!>


 うるさいなぁ、そんなに大声で言われなくても分かってるって。起きればいいんでしょ、起きれば…

 ふわあ、…眠い…

 後10分だけ、いや5分でもいいから寝かせて…


<もう知ーらない!僕はちゃんと起こしたからね。後で文句言わないでよ>

「……」


 微かに耳に入ってくる声を無視して寝返りを打つ。うう、ベッドが固い…いつから我が家はこんな固いベッドになったのか…

 うん?待てよ。ここって…


「はっ!やばい、今何時!?」


<あ、やっと起きたー。遅いってば>


 ガバッと布団を跳ね飛ばして体を起こし、一番に目に移りこんだのは不満げなライファの顔。次に私の目が石造りの簡素な部屋を視界に捉えると、今まで起こった出来事が頭の中でフラッシュバックした。


<何さ、キョロキョロしちゃて。そんなことよりさっさとやるべきことがあるんじゃない?>


「…やるべきこと、って?」


<だーかーらー、それ、その見た目。元の姿に戻ってること忘れちゃったの>


「そうだった!!」


 確か昨日は魔力切れで魔法が解けたんだったか。早くかけ直さないと。


(‟トリック・フォーム”)


 一瞬で私の髪と瞳の色が変化した、はず。鏡がないから確認出来ないけど多分大丈夫だろう。魔法をかけ直しほっとしたのも束の間、直後ドアの方からガチャガチャとうるさい音がする。誰かが来たみたいだ。

 大きな音を立ててドアを開けたのはまたしても昨日の熊男だった。


「おい、ガキー。起きてるかーって、もう起きてるのかよ。早えな。おら、朝飯だ」


 見ると昨夜食べたものと同じパンと水が入ったトレーを持っている。

 うげ、またあのパサパサのパンを食べないといけないのか…


 昨夜の食事を思い出すだけで口が心なしか乾いてくる。この調子でいくと、捕まっている限り永遠に同じ食事なのだろう。美味しいごはんにありつくためにも、早くここを出ないと。


 決意を固めた私は少しでも脱出の手がかりとなる情報を集めるべく、熊男に質問を投げかけた。


「あの…」


「なんだ」


「今は何時でしょうか?」


「あ?時間?んなもん知って何になるよ」


「私、睡眠時間を人より多めに取らないと体調を崩してしまうんです。昔から体が弱いので…お医者様に言われた時間は休まないと体が動かなくて…ゴホッゴホッ」


 わざと盛大にせき込んで熊男の様子をうかがう。


「おいおい!大丈夫かよ?ちなみに今は7時だぜ」


 すると、昨日の威勢はどこへやら、私の想像以上に慌てた様子の熊男が心配そうに背中をさすってくれる。


「ったく、体が弱いなら先に言えよな」


「ありがとうございます…十分な睡眠時間が取れてたようで安心しました」


 何とか笑みを作ってお礼の言葉を述べた。きっと(はた)から見れば今の私の笑顔は相当ぎこちなかったに違いない。


 うん、ちょっと一旦整理しよう。嘘、だよね…え、神様どうか嘘だと言ってください。こんな簡単に人を信じちゃう悪党がいるんですけどー!!そんな病気絶対嘘に決まってるじゃん!

 なんか嘘をつくのが心苦しくなってきた。


「あの、お願いがあります。私がここで過ごす間、この部屋に時計を置いてくれませんか?ちゃんと決まった時間休めてるか不安で」


 そう、時計。ここにいる熊男含め誰が何時に何してるか把握できないと脱出は難しい。いつ見回りに来るのかとか、いつ外出してるのか、とかね。その目安となる時間を調べるためにも時計は必須アイテムなのだ。


 それにさっきの体調云々(うんぬん)もあながち間違いじゃない。時間間隔が狂うと生活リズムの崩れから体に支障をきたすかもだし。私嘘ついてないもーん。


「ったく、手のかかるガキだなあ。ま、そういうことなら特別にお前の部屋にだけつけてやる。ちょっと待ってな」


 そう言いながら熊男は私の部屋から出て行った。


 …あの人絶対悪党向いてないな。


 熊男が出て行った瞬間、


<ッハハ!アハハ!ハハハハ!>


 ライファの笑い声が部屋中を満たした。


<ねえ、アイリス。人より多く睡眠をとらないと体調が悪くなる病気ってなんなのさ。聞いたことないんだけど?ふざけるのもたいがいにしてよ>


「そんなの、私にもわからないわ。咄嗟(とっさ)に出た嘘があれだったんだもの」


<はあ、笑いすぎてお腹が痛い…あいつが頭悪くてよかったね>


「もう、ライファったら。そんなに笑ったら失礼よ」


 なんていうやり取りをしていると、熊男が時計を手に持って戻ってきた。


「ほらよ。もう用は済んだ。お前もまたしばらく大人しくしてな」


 そういい捨て、去って行こうとする熊男を引き留め、


「あ、待ってください。私ずっと一人でお話相手がいなくて寂しいんです…いつも歳の離れた妹たちとたくさんおしゃべりしていましたから。少しでもいいので私のお話相手になってくださいませんか?」


 妹なんかいたかって?いませんけど、何か問題でも?



 * * *





 そうして私は今、熊男から聞き出した情報を整理しているわけだけど…



<あいつ、相当な馬鹿だね。相手が子供だからって油断してあんなに沢山の情報を漏らすなんて。あんなんでよく悪党が務まってきたよね>


 若干の呆れを含んだ声でライファが言う。まあその指摘はもっともである。

 あの熊男はこちらが驚くくらい沢山のことを話してくれた。話し相手がいなくて寂しかったのはあの人の方なんじゃないの、というくらいには。


 そしてその話を簡潔にまとめるとこういうことになる。


 ・子供たちは商品の価値順に階級付けされており、S級が一番高い。

 ・それに応じて高い階級ほど高く売れる。

 ・食事の時間は決まっており、7時、12時、18時の三回。

 ・このアジトは三人で管理しており、ここで寝泊まり兼見張りをしている。

 ・次の商品の出荷はC級の子供たちで三日後。


 こんな重要なことをペラペラ話してしまうだなんて。ほんと大丈夫かなあの人…いや、ここは私が情報を聞き出すのが上手かったということにしておこう。


 次はこのアジトがどんな構造になっているか探索をしないとだ。脱出経路の確認は基本中の基本だからね。


「ライファ、頼める?」


<オッケーだよ。じゃあ、今日もサクッと行ってくるねー>


「あ、待って。今日は私も一緒に探索するわ」


<え、大丈夫なの。アイリス、パンと水しか食べてないじゃない。魔力が十分に回復してないんじゃ?>


「ライファったら。私を誰だと思ってるのよ。一日休めばこれくらいなんてことないし」


 脳裏に昨日の子供たちの顔が浮かぶ。

 あの子たちのタイムリミットまであと三日。少しくらい無理をすれば今ならまだ十分に間に合う。


<そう、アイリスがいいならいけどさ。分かった、僕の目を貸してあげる。その代わりちゃーんと調べてよね。時間は有効に使わないと>


「ありがとう、ライファ。お礼は必ず」


(‟マッチ・ザ・ワールド”)


 視野が高くなったことで術の成功を確かめる。この感覚、毎度ながらなかなか慣れないなあ。

 いつもより体調が万全ではない分、私の体への負荷がより強くかかるはずだ。術を解いた後のことを思うと今から怖い。


「ライファ、行きましょう」


<そうだね、時間がもったいないし早速レッツゴー!>




 * * *



 ライファの視野を借りてこのアジトの全体の構造を確認する。


『うーん、ここ複雑に入り組んだ形をしているわね。‟メモリアル・ブック”を使っても覚えきるのは難しそう』


<そうだねー。タイムリミットも近いしそれまでに覚えるのは厳しいか…じゃあ、地図を作ったら?>


『それこそ、時間がかかって大変よ。そうだ、熊男たちの部屋はどこだろう。きっと彼らも最初にここへ来た時は迷ったはず。地図か何かを持っていてもおかしくないわ』


<了解、あいつらの部屋ね。確かこっち側に…あった、ここだよ>


 ライファに案内された場所には等間隔で同じスタイルの木の扉が三つ並んでいる。なるほど、彼らは一人一部屋あてがわれているようだ。

 まず、一番地図とかの管理を任されていそうなヒョロヒョロのっぽの部屋を調べた方がよさそう。


『ライファ、どれが誰の部屋か把握できてる?』


<もちろん!右から老人、ヒョロヒョロのっぽ、熊男の順だよ>


『それじゃ、真ん中の部屋に入ってもらってもいい?』


 ライファが真ん中の部屋に入ると、そこには誰もいなかった。どこかへ出かけているのだろうか。見渡すと、綺麗に整理整頓された本棚とデスク、椅子に加え私の部屋に置いてあるようなベッドが一つ置いてあるだけだ。


<ラッキー♪調べ放題じゃん>

『そうね、まずはあの机の中を調べましょう』



 ー探索すること数分ー

 お目当てのものはすぐに見つかった。やはりこの男が地図を管理していたらしい。その地図を‟メモリアル・ブック”できちんと記憶として私の頭の中に残す。

 いやあー、この魔法は我ながらほんと便利だな…後は自室に戻って脱出の手立てを考えてっと。それとライファが言ってた貴族のご子息様たちについての情報も欲しい。ちょっと気になるしね。


 あともう少し、頑張るぞー!!




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