79、慣れない体
本当にこの人は…。妹さんと赤の他人とじゃ裸の意味が全然違うでしょうに!!これが価値観の違いってやつか…。とにかくこういったことはソフィアに全力で阻止して貰わないと。私はソフィアにそっと近づくと、彼女の耳元で念押しをした。
「ソフィア、ごめんだけどテオドール先輩のこと、ちゃんと見張っててね。出来れば寝る時以外は付いていてくれると助かる」
するとなぜだがソフィアは肩をビクッとさせて、
「あ、うん!もちろんだよ!…うぅぅ、いくら中身がアイリスと言えどその姿で言われると緊張するね…」
私から一歩距離を取った。ガーン……。ソフィアに悪気がないのは分かってる。だけど唯一の女の子の友達にそんな態度を取られてショックを受けない人は私も含めていないだろう。
「じゃあとりあえず寮に戻りましょうか。アイリスさん、こっちだよ」
ルークが私の手を取って部屋から出ようとしたが、そこで会長のストップがかかる。
「ちょっと待て、テオは三年だし私たちといた方が自然だ。それにルークはテオの部屋を知ってるのか?」
そんな訳でテオドール先輩はソフィアに連れられ、私は会長とヘンリー先輩に連れられて各自部屋へと戻った。男性の身体で過ごすのはやはりいつもとだいぶ勝手が違うから慣れない。背が高くて頭を色々な場所にぶつけてたんこぶを作ったのはここだけの内緒だ。
テオドール先輩の部屋は意外にも物があまり多くなく、綺麗に片付けられていた。部屋中に先輩の香りが漂っていてなんだか落ち着かない。かと言ってあちこち調べるのもなぁ…。罪悪感が湧いた私は先輩のプライバシーを守るためにも今日はそのまま寝ることにした。
さてここで、みんなも気になっているかもしれないがトイレはどうしたのかって?もちろんしたよ!生理現象だし仕方ない。漏らす訳にはいかないからね…。でも女性と違って男性のアレはどう頑張っても目をつぶって用を足すことは出来ない。ええ、ええ!!見ましたよ!ハッキリと!!…はぁ、ほんと最悪…。
色んなことが起きて疲れていたのかベッドに入った瞬間深い眠りに落ちた私が目を覚ますと既に朝だった。時計を見るといつもと同じ時間帯である。体内時計って体が変わっても正常に働くんだな、なんてくだらないことを考えた。
顔を洗うために洗面台へと向かうと、テオドール先輩の綺麗な顔と目が合って、やっぱり夢じゃなかったと自覚する。洗顔後はいつもなら髪の毛を整えるのだが、男の人の身支度って何をすれば…。
ふと先輩の少し長めの髪の毛を試しに触ってみると、サラサラでとても扱いやすそう。そうだ、せっかくなら…!
ちょうど支度が終わった時ドアがノックされる音が聞こえた。おそらく会長たちだろう。朝食を取るため迎えに来てくれたのだ。
「おはようアイリスちゃん!起きてる?」
ヘンリー先輩のほんわかした声を聞きながらドアを開けると想像通り二人の姿が。
「おはようございます先輩たち。今日から暫くよろしくお願いします」
「いや、こちらこそあいつのせいでこんな事になってすまなかった。アイリスのサポートは全力でさせてくれ」
心底申し訳なさそうにする会長を見て心が痛くなった。会長のせいでこうなったわけではないのに。そんな空気を変えるかのように、
「あれ?髪の毛いじったんだね!テオにとってもよく似合ってるよ!アイリスちゃんって手先が器用なんだねぇ〜」
ヘンリー先輩が私の髪の毛を触りながら目を丸くしている。
良くぞ気づいてくれました!私はテオドール先輩の髪の毛をサイドで軽く編み込んで後ろへと流し、ヘアアレンジをしていたのだ。男の人の髪の毛を触ったことがなかったけど案外楽しいものだね。
「お気づきですか?せっかく綺麗な髪の毛なんですしちょっと手を加えて見ました!」
「確かに雰囲気もテオらしくていいな。ところでヘンリー、今から食堂に向かうのだからアイリスと呼んでは駄目だぞ。それにアイリスも。敬語で話すテオなんてテオじゃない不自然だから直すように」
会長に注意を受けてから早速みんなで食堂へと向かった。私たちが歩いていると、人波がさーっと割れるようになる光景は私が私の体でいた時と左程変わらないみたい。よく考えればそれもそうか。会長はこの国の王子様だもんね。気安く話しかける人はあまりいないってことだろう。
朝食ミッションは無事にクリアしたが、今度は教室へと向かわないといけない。食堂と違ってクラスメイトがいるのだから、社交的な先輩には絶対誰かが話しかけてくるに違いない。不安を覚えながらも先輩方の案内でクラスの中へと入ると、
「おはよう!テオ!!」
早速女子から声をかけられた。やっぱりね!!
「お、おはよ〜!」
普段のテオドール先輩の言動を思い出しながら笑顔を作ってそれに応えると、
「おはよっ!テオっ!!あれ?髪型変えた?めっちゃ似合ってる!!」
「え?どれどれ?ホントだ〜いい感じだね!」
「やるじゃん!毎日それにしなよっ!」
「え、えっと…」
ワラワラと女子が集まってくる。びっくりして固まっていると完全に周りを女子で囲まれてしまった。これは、どうするのが正解なんだ!?それに少し羨ましいとさえ思ってしまった。こんな沢山の女子に話しかけられることなんて人生で一度もなかったから。くそぅ、これだからモテる男は…!!
そんな私に助け舟を出すように会長がこう言った。
「すまないがみんな、テオは昨日生徒会の仕事が長引いて徹夜明けなんだ。疲れてるだろうからそっとしておいてあげてくれ」
「えー?そうなんだ?」
「確かにいつもより元気ないかも?」
「ごめんね〜気づかなくて」
会長の一言でようやく女子から解放された私は内心ほーっと大きなため息をついた。毎朝こんな調子なのかな、テオドール先輩は。だとしたら相当疲れそうなものだけど。




