78、入れ替わり!?
「えっと、、何が起こったの??」
この場にいる全員の気持ちを代表するようにヘンリー先輩が口を開いた。
そうだ、これは当事者以外の口から説明することは不可能だろう。そして私は確認するかのように自分の身体を見下ろす。高くなった視線、低くなった声、男物の制服を着用している私。手も大きくてゴツゴツしてるし髪の毛を触ってみてもいつもの長さじゃない。それに私の目の前に私の姿がある。認めたくない事実に目を背けたくなった。
「もしかして俺たち、入れ替わってる!!??」
「「「「ええぇぇぇ!!???」」」
生徒会メンバーの驚きの声が綺麗にハモって狭い倉庫に響き渡った。驚くのは無理もない、というか驚く以外の反応は出来ないだろう。私自身も未だに信じられないのだ。
「まさかそれは本当なのか?」
いち早く冷静さを取り戻した会長が私の方を見て尋ねてきた。
「どうやらそうみたい、ですね…」
「うえぇ!テオがオーウェンに敬語を使ってる…!」
ヘンリー先輩は珍しいものをみたかのような視線を送ってくるし、会長もなんというか苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「つまり、テオ先輩がアイリスでアイリスがテオ先輩ってこと?なにそれ気持ち悪い…」
エリック先輩の言葉を肯定するように私(中身はテオドール先輩)が大袈裟な反応をする。
「エリーちゃんったら酷〜い!俺たちはこんな大変な事になってるのにさー。慰めてくれたって良くない?」
「エリーちゃんって言うなっ!!!…でもその呼び方や雰囲気は確かにテオ先輩そのものだね、どうやら嘘じゃないみたい」
「もう!皆さん!真剣に考えてください!一番の被害者は私ですよ!?どうにかして元に戻る方法を探さないと」
私たちの大きな声に気づいたのか、様子を見に来たらしいワイアット先生が現れた。
「皆さんうるさいですよ!何かあったのですか?」
良かった、先生なら何か知ってるかもしれない!!希望を胸に抱いたのも束の間、それは一瞬で砕け散ることになる。私たちは先生に今さっき起きた出来事を一部始終事細かに伝えたのだが、先生は話を聞くと眉をひそめて考え込んでしまった。
「…それは、おそらくですが幻虹の浜で取れた砂でしょうね。とても珍しい魔法薬品の一種です。まさかこの部屋にそんなものまで保管されていたなんて。効能は皆さんもうお分かりでしょうが、二人が同じタイミングで砂を被ることによって互いの中身が入れ替わるのです」
さすがグレードウォール学園に務める教師だけあって薬品に詳しい。この不思議な虹色の砂の正体はこれで判明した。だが問題はこのあと、どうやって身体を戻すのかだ。
「先生、それで私たちは何をすれば元に戻れるんですか?」
先生は私の質問にそれはそれは答えにくそうにしながらこう告げた。
「…分かりません」
「へ?」
私の聞き間違いか?というかそうであってくれ!!一生このままなんて絶対嫌だ!!!
「それが分からないんですよ。これは古代薬品の一種でもあるのですが、この砂が取れる幻虹の浜はもう存在しないんです。つまりこの砂は2度と採取することは出来ない。しかもその浜が無くなったのはもう何百年も前のことで、研究すらされていない未知の物体という訳です。これを使ったことがある先駆者がいれば話を聞けたのですが、こんなはるか昔の薬品を使ったことがある人物なんて、この世界に存在するのか否か…」
お、終わった…。それじゃあ私は一生テオドール先輩として生きていかなくちゃいけないってこと…?悲観する私とは対照的にテオドール先輩はなんて事ないように朗らかに笑っている。
「まあまあアイリスちゃん、そんなに落ち込まないでよ。こんな経験は滅多に出来ることじゃないよ?せっかくなら楽しまないと!」
「楽しめるわけないでしょう!?このまま戻らなかっらどうするんですか!」
「とりあえず二人の中身が入れ替わってしまったことは隠さないといけませんね…。暫くはそのまま生活してもらうことになります。時間も時間ですし、今日はもう掃除は結構です。そしてアイリスさんはテオドール君の部屋に、テオドール君はアイリスさんの部屋に戻らなければなりません。うちの寮は男女で別れていて互いの寮へ入ることは出来ませんからね。それに明日からの授業も互いの教室で受けるように。幸い皆さん同じクラスの仲間同士ですしサポートしてあげてください。私はとりあえずこの薬品について詳しいことを調べてみます」
先生はテキパキとした指示を出したかと思うと、足早にこの倉庫から去ってしまった。きっと調べ物をするために教員室へと戻ったのだろうが、淡々としすぎていて少し冷たく感じた。でもワイアット先生はいつもあんな感じではあるか…。
とりあえず先生に言われた通りに私は会長とヘンリー先輩と一緒にテオドール先輩の部屋へ、テオドール先輩はソフィアに連れられて私の部屋へと向かうことになった。
「大変なことになったね〜」
「誰のせいでこんなことになったと思ってるんですか…」
テオドール先輩は悲しむというよりむしろこの状況を面白おかしく思ってるんだろうけど、私にとっては笑えない冗談すぎる。
「アイリスちゃん、大丈夫だよ。きっと先生が元に戻る方法を調べてくれるはずだから」
私を安心させるように、ヘンリー先輩が優しく私の肩をたたいた。うぅ〜…。先輩の優しさが身に染みる…。ほんと、どこかの誰かさんとは大違いだ!
「アイリス、テオドール先輩のことは私に任せて」
ソフィアのその言葉が何よりも頼もしく感じる。きっと彼女ならテオドール先輩の奇行を全力で止めてくれるに違いない。このテオドール先輩のことだ、どうせ入れ替わったのだからといって私の身体で過ごす生活を全力で満喫するに決まってる。私の身体で何か変なことをされたらたまったもんじゃない。
「そういえばさー、この身体でお風呂ってどうす、る」
「「絶対辞めて下さいっ!!!!」」
「「「「「絶対にやめろっ!!!」」」」」
悲鳴に近い声が高音と低音で重なった。確かに私はお風呂が好きだし毎日欠かすことなく入っているがこんなことで私の裸を見られるなんて最悪過ぎる!!百歩譲ってトイレはいいとしてお風呂はダメだ!!
「…お前、デリカシーが無さすぎるぞ」
会長に咎められても当の本人はケロッとしてるもんだから余計に腹が立つ。
「えぇ〜?少し聞いただけなのに。それに女の子の裸なんて妹をお風呂に入れてあげてたこともあるし気にしないけど」
「私が!!気にしますので止めてください!!」




