70、解決?
今回の事件は魔物による誘拐事件だったということは既に判明している。しかし調査を進めていくと不可解な事が分かった。
私たちが通うグレードウォール学園は、もしもの時のために学園全体にとても強力な保護魔法がかけられている。通常はその魔法のおかげで不審な者は侵入出来ないし、一般人も、生徒の関係者であっても正式な手続きを踏まないとこの敷地に足を踏み入れることは出来ない。だというのに、魔物による召喚魔法が成功して生徒たちは連れ去られた。不審に思った聖騎士団が調べると、何者かが保護魔法に細工をした痕跡があった。
魔法というのは強い魔力を有している方が弱い魔法を屈服させる特徴を持っており、学園の保護魔法より、あの人型魔物の魔力が上回ったことで召喚魔法が通ってしまったらしい。プラスアルファでこの事件の被害者は学園生徒のみに限っていることもあり、この学園にいる誰かが魔物を手引きしたのではないかという推測が立てられたとか。
ちなみにあの脱出の後、魔物たちのアジトは聖騎士団の手によって制圧され壊滅したらしい。
なんてこった…。学園関係者が魔物に味方してる可能性があるって?それが事実だとするとそいつは何者だ?そんな強力な魔法に細工することが出来る実力があるってことか?
記憶喪失の件でさえ頭を悩ませる1つだというのに、事件の全貌が明らかになっていないなんて、この事実が他の生徒たちに知られればまた騒ぎになること間違いない。
「この話は他の生徒にはしないようにね。一応機密事項だからさ」
「そんな重要なこと、私たちに知らせてしまってよかったの?」
「まあ、君たちなら口外しないだろうと思って。それにあえて知らせずにいて、勝手に調べられても困るからね」
確かに、ルークに言われなかったら自分たちで不可解な点を調べ始めていたかもしれない。それを思えば正しい判断だと言えるだろう。
一通り話し終わり、軽く世間話をした後みんなは帰っていった。私は目覚めたばかりですぐには退院出来ず、精密検査を受けねばならないらしいのでもう少し病院に留まることになった。
…色々あったけど、とりあえず公には事件は解決したと発表されているらしいし、これ以上首を突っ込むべきではない。
となると考えるべきは私たちの記憶喪失についてだ。私はこれまでで何回か記憶を失ったことがあるのだが、今回の記憶喪失もこれに関係しているのだろうか?
〈やーっといなくなった!僕とアイリスの二人きりの時間を邪魔してくれちゃってさぁ!〉
一人になった病室に、いつの間にいなくなっていたライファが再び戻ってくる。精霊は人前にあまり姿を見せない習性があるが、ライファはその筆頭で、私が他の人間と一緒にいる時は基本どこかにいなくなることが多い。実家にいた頃はそうでもなかったけど、学園に来てからは特にだ。
「そう言わないでよ。みんな私を心配して来てくれたんだし」
あ、そういえば。私たちが忘れてた誘拐事件、あの時は確かライファも一緒にいたよね?彼の力なしではあそこから逃げ出せなかったし。精霊が記憶喪失をするのかは聞いた事ないけれど、事件が確かにあったことを確認するためにも聞いておいていいだろう。
「ねえ、ライファ。聞きたいことがあるんだけど」
〈なーにー?〉
無邪気に笑う彼の顔を真剣に見つめながら、私はこう尋ねた。
「あのさ、私って昔、誘拐事件に巻き込まれたことがあったよね?」
〈そうだったっけ?〉
「そうだよ、あの時人攫いに捕まって監禁されたじゃない!それから二人で協力して捕まってた子供たちを助け出したの。本当に覚えてない?」
〈思い出した!!あれだよね、確かアイリスが初めて彼らに出会った日か〉
ライファが言ってることは間違ってない。ただあの事件の大枠は誘拐事件だ。確かにルークたちに出会った日であるが、あれを出会いの日として普通は捉えるだろうか?
それに、私が魔物の洞窟で似たような質問をした時は覚えてないと言っていたんじゃ無かったっけ。今だって、初めの質問にはとぼけて返事をし、次の返答は話を合わせるように思い出したと言った。初めから知っているならとぼける理由はないし、知らないなら最後まで知らないを貫き通すのが普通だろう。
…もう、やめよう。疑心暗鬼になりすぎている。ライファが私に嘘をつく理由も分からないし、言動が少し不自然に感じたのも私が必要以上に敏感になっていただけかもしれない。
「そうだね、覚えているならいいんだ。実はつい最近までそのことを忘れてて」
〈ええー?そうなんだ!アイリスは若いんだからボケるにはまだ早いよー〉
「だね!ちょっと疲れてるのかも」
少し休ませて、と一言告げると私はそのままベッドに横たわりを目を瞑る。今日は考えることがいっぱいで沢山頭を使ったからか、ものの数秒で眠りについた。
少女のベッドの傍らで、小さな少年はその少女を見下ろしていた。空は気づけば真っ暗になって部屋は静寂に包まれている。少しだけあいた窓から入り込む風でカーテンがヒラヒラと舞う。
〈おかしいな?なんで記憶が戻ってるんだろ?〉
天使のように愛くるしい姿からは想像出来ない冷たい声で、悩む様子を見せる少年。
〈ま、いっか!あれくらいは問題ないでしょ〉
切り替えるようにパッと顔を明るくすると、少年はひらひらと飛びながら、ベッドで眠る少女の顔の近くへと降り立つ。
〈僕のアイリス。心配しなくても大丈夫だよ。僕が守ってあげるからね〉
そしてとても愛しいと言わんばかりの表情で少女の頬をそっと撫でた。それがくすぐったかったのか、少女が少し身じろぎをし寝返りを打つと、そこにはもう少年の姿はなかった。




