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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第四章、追憶

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67/93

67、偽物

 思いがけない強い口調でそう言われて戸惑ってしまう。私は今までの人生、アルベルン伯爵家という狭いコミュニティで育って来た。だから家族以外の人に心配されたことなんて、一度たりともない。こんな時にどういう反応をするのが正解なのだろう。私には、よく分からない。


「…えっと、それはごめん」


「別に謝ってもらいたい訳じゃないよ。アイリスさんってなんだかどこか冷めてるよね。感情の振り幅が少ないっていうか」


「……。」


 それは貴方にだけは言われたくないけどね。ただルーク様の言うことも一理ある。私はかなりの猫被りだし、本音を打ち明けれるような友達なんていない。ソフィアは私の親友だけど、かと言ってなんでも話せるかといえば違う。どう伝えるべきか考えあぐねて口をつぐむ私。


「まあまあそこら辺にしとけって!今はそんなことより生徒たちの安全確保が最優先だ。その話はまた今度ってことで」


 私とルーク様の間に流れる変な沈黙に気づいたのか、カイルが気まずい空気を壊すかのように明るい声で話を遮ってくる。よかった、カイルが来てくれて。ほっとしながらルーク様の方を見ると、彼はもう普段通りの笑顔の笑顔を貼り付けていた。…ほらね、やっぱり。人のことを言う前に自分のことをどうにかして欲しいものだ。


「そうだね、僕も言いすぎた。ごめんね?」


「いえ、こちらこそ…」


 これ以降、私たちは互いに話すことなく休息を取った。半日ほど休んだら、明るかった空が再び暗くなっていく。暗闇の方が身を隠しやすいため、移動には最適だ。出発の前に全員がこの場にいるかどうか確認すると、


「…30、31、32、33、34、35」


 おかしい。人数が合わないのだ。囚われていた生徒は30人のはず。それにプラスして、エリック先輩、ルーク様、ディラン、ソフィア。つまり全員で34人のはずなのに…。何回数え直しても人数は35人で変わらない。


「おかしい…!人数が増えてる。はぐれたりして減ることはあっても増えることはありえない!」


 不安というものは簡単に伝播するもので、その場はあっという間に混沌状態になった。この場にいる生徒たちは全員が知り合い同士というわけではなく、無作為に選ばれた生徒だ。故に誰が偽物の生徒なのか、誰にも判断することは出来ない。


「だ、だれよ!偽物は!!」

「僕じゃない!信じてくれっ!!」

「おい、どうすんだよ!こんなんじゃ町に着くまでにやられちまうぞ!」


 これは相当まずいな。みんな疑心暗鬼になってる。この状態じゃあみんなで町を目指すなんて到底無理だ。その上偽物を炙り出す方法なんてどこにもなく、絶望的な状況に頭を抱えるしかない。このままだと偽物の思う壺だろう。冷静になって考えないと。


 一人で頭をフル回転させていたその時だ。突然腕が熱くなる。反射的にそれを見ると、私の腕から赤い液体がポタポタと垂れているではないか。それを血だと脳が認識した瞬間とんでもない激痛が襲って来た。


「くっ!!!」


「「キャーーー!!!!」」


 それを見た女生徒の悲鳴で皆がこちらを振り返る。その反応はそれぞれで、咄嗟に目を覆い隠す者、怯えて固まる者、恐怖で腰を抜かす者など多種多様だ。

 私は自分が怪我をしているというのに、どこか他人事みたいに自身を襲った犯人を目で捕らえた。その少女は学園生徒の服を着ていたが、私の腕を噛んだ時についたであろう血を口周りにびっしりと纏わせ、荒い息遣いでこちらを睨んでいる。


「みんな!急いでそいつから離れるんだ!!!」


「僕たちの後ろに隠れてっ!!」


「戦えそうな人は前に!それ以外は後ろへ下がれっ!」


 生徒会メンバーを中心にして戦闘態勢を取る私たち。とは言っても戦えるメンバーは数える程しかいない。なぜなら皆魔力がほとんど尽き掛けているからだ。私も戦わなきゃ…その一心で痛みに耐えながらも前に進み出る。


「アイリスさんはダメだ!怪我してるんだから、後ろへ行ってて!」


「いいえ、私も戦います!こんな怪我どうってことないですわ。それによく考え下さい。この中にどれだけ戦える人員がいるんですの?私は人より魔力が多い。だから他の非戦闘員よりは動けますわ!」


 ルーク様はそれでも険しい顔をしていたが、私が折れないことを理解したのか、仕方ないといった表情で頷いた。


「…分かった。じゃああまり無理しないようにサポートにまわってくれ!」


「承知しましたわ!」


 かと言ってこの怪我では上手く魔法を発動出来ないため、魔力を温存しながらも簡易的な治癒魔法を施す。相手がどれ程強いか分からないため、自分に使う魔力は少なく調整した。


("オーバー・ヒール")


 よし、とりあえず傷口を塞いで血を止めた。これならいける!


「攻撃系魔法が使える人は一緒のタイミングで偽物に魔法を放とう。それ以外のメンバーは保護魔法を非戦闘員にかけてあげて。それじゃあいくよ!せーのっ!!」


 エリック先輩の掛け声で皆が一斉に各々の得意魔法を偽物の生徒へぶつけた。流石にこれほど沢山の魔法を使って効かない相手ではなかったようで、偽物は大きな呻き声をあげながら苦しんでいる。


「グワァッッッッ!!!!!」


 すると偽物の少女の顔が真緑色へと変貌し、制服から伸びている手足は太く膨らんでいき、瞬く間に私たちが見慣れてしまったあの人型魔物へと変化した。


「やっぱり、か」


 それにしても知性がある魔物というはとんでもなく厄介だ。まさか人の姿に化けることを覚えているだなんて。だが今はこいつを倒すことに専念しなければ。魔物が先程上げた悲鳴のせいで他の魔獣どもがワラワラと集まって来てしまう。


 これは、絶対絶滅のピンチなのでは?

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