65、決行日
地図を完成させるのに思ったよりも時間がかかり、丸三日を要した。それもそのはず、朝起きてから夕方までは通常通りの労働があるから、私たちが自由になる時間はかなり少ないからだ。
次にやることは脳内で完成させた地図を今度は物体に書き起こす作業だ。しかし檻の中に紙なんてあるはずもなく、私がここに来る前に着ていた寝間着の裾を少し破り、それに炎系の魔法を使って布を燃やしながら線を引いていく。この地図はルーク様たちが洞窟へ突入するにあたって絶対に必要になる代物だから丁寧に書かないといけない。
それが終わるとお次はカイルと二人で知恵を絞って作戦会議だ。
「檻の鍵はあの一際体が大きい個体が肌身離さず持ってるんだよね。どうやって奪おう?」
「どうもこうも、正面からぶつかって倒すしかないんじゃないか?」
「それだと流石に目立ちすぎない?増援を呼ばれたら厄介だよ」
「それもそうだな…。じゃあそいつが寝てる間にこっそり拝借するしかないか」
「ってことは、ルーク様たちが突入するタイミングは夜が良さそうだね」
二人で話し合った結果、以下の流れで救出作戦を行うことにした。
・決行日の夜、ルーク様たち先行隊が洞窟に忍び込み、魔物から鍵を奪う。
・続いてルーク様たちは3チームに分かれて檻の鍵を開けて生徒を救出。1チームは私たちがいる洞窟の最奥の檻を。残り2チームはそれぞれ東側と西側を。
・全員洞窟から脱出したら、魔物を引き付けておく囮チームと、村までの護衛兼案内役チームに分かれて村を目指す。
・囮チームは様子を見ながら退却。
うん、我ながらいい作戦である。今回は魔物を倒す、というより生徒の安全が優先事項であるから、戦闘はほどほどで良い。これなら私たちだけでも何とか遂行することが可能だろう。
書き上げた地図と共にこの作戦を伝えてもらうべく、ライファを再びルーク様の元へと送り返した。
次の日からの私たちは、魔物に与えられている食糧を少しづつ貯めて脱出に備えたり、魔物の巡回時間を調べたり、限界を迎えている生徒たちを励まし続けたりした。そうしているうちにあっという間に1週間が経ってしまう。
さあ、そろそろルーク様たちがこの洞窟の付近に辿り着いているはず。そわそわした状態で過ごしていると、ようやくライファからの連絡で、彼らが配置についたことを知った。ルーク様たちとはライファを通じて細かに連絡を取っていたから、思いがけないアクシデントさえなければ作戦に支障はない。
私とカイルは作業後に普段通りに檻の中へと戻ってから、巡回の魔物が部屋に帰る姿を目視してしばらく待ち続けた。およそ1時間くらい経った頃、魔物が寝静まったことをライファが確認したようで、いよいよ作戦が決行される。
〈それじゃ今からルークのところへ行って合図してくるね。二人は大人しく待ってて〉
「わかった。手筈通りにお願い」
「頼んだぞ」
口々にそう言うと、なんだか今からやるとんでもない事を実感してきて急に緊張してきた。本当に上手くいくのだろうか?
…大丈夫、この作戦は私一人でやるんじゃない。みんながいるんだ。不安になる自分にそう言い聞かせながら、作戦の成功を祈った。
「…なあ、ルークたちってもう中へ入ってるんだよな?少し遅くないか?」
「そのはずだけど、どうしたんだろう…」
いくら待てどもルーク様たちがこの檻に到着する様子はない。流石に遅すぎる。ということは何かあったんじゃないか?不安が胸の内を覆い隠した時、どこか遠くで騒がしい音が聞こえてきた。
「なんだ!?今の音はっ!」
「もしかしなくてもルーク様たち!?この感じ、戦闘が始まってるかも!」
この作戦の要はいかに時間のロスをなくしてこの場から立ち去れるかだ。時間をかければかけるほど寝ている魔物が起きてきて、戦わなくてはならない魔物が増える。そうなれば簡単にはここから逃げられないだろう。だというのに、今の音から考えて絶対に最初の一歩を踏み違えている…。
よし、こうなったらやるしかない!出来るだけこんなところで魔法を使いたくなかったが緊急事態のため致し方ない。
("アース・マグマ")
私の手から放たれた光が檻の鉄柵へと飛んでいき、それをドロドロに溶かしてしまう。
「おい!何やってんだよ!ていうかそれが出来るなら鍵とかいらなかったんじゃね?」
「だって魔力を温存しときたかったんだもん。でもそうは言ってられない!とりあえず早くルーク様たちと合流しよう!」
溶けた鉄塊を踏まないようにしながら二人で音がする方へと全力で駆け出した。現場へと着くと、そこには鍵を持っているはずの魔物と交戦する先行隊の姿が見えた。
…これは、やっぱり作戦失敗!!!!
「ルーク様!?何やってるんですか!!」
「あれ、なんで二人がここにいるの?檻の中って話じゃなかったっけ?」
「そんなことはどうでもいいんだよ!!とにかくこうなったら急いで逃げるぞ!!」




