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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第四章、追憶

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64、タイムリミット

※主人公視点

 ライファを送り出してからの私たちは、特に出来ることもないので大人しく労働に励んだ。同じ時刻に起床して魔物の指示に従って作業をする。


 作業をしていて分かったことは、二つある。一つ目は魔物たちは人間を下に見ているということ。


 長くここで働かされている生徒は、十分な休息が取れていないのだろう。明らかに他の生徒よりも作業が遅れており、それを監督する魔物が鞭を使って生徒の体を叩いている。その光景を見ていられず思わず目をそらしてしまった。こんな劣悪な環境では、いくら休息があるいえど十分に魔力が回復しないままに働き続けているのだろう。それでは魔力切れも起こすし動きも鈍くなるはずだ。


 二つ目は魔物たちはおそらく少数精鋭だということ。個体数は生徒の数よりも少ないが、各魔物の魔力量はおそらく人並み以上はある。それが分かる理由としては、彼らは一つ一つの動作にたいしてなんの躊躇いもなく魔法を使用するからだ。

 魔力量が少ないのなら魔力を温存するのが定石だが、彼らは物を取るためだけにわざわざ魔法で対象を浮かせて運んだり、移動のために飛行魔法を使ったりする。魔法が使える人間でもそこまで魔法に頼った暮らしはしていない。その振る舞いはまるでこちらにその魔力量の差を見せつけているようだ。




 それにしても…生徒たちの体力を鑑みても早く助けてあげないと危ない状態だ。特に初めの方に失踪した生徒はそろそろ限界を迎えるだろう。ライファが戻り次第生徒を救出するためにも、今出来ることをしなければ。




 まずは現状の整理から始めよう。


 ここに囚われている生徒は30人。そのうち私とカイルだけ、魔物のアジトの奥にある檻にとらわれている。その理由は恐らくだが、魔力量が関係しているものと考える。

 私やカイルは常人より多い魔力を持っているため、作業ペースが他の生徒と比べて速いことが目に見えて分かる。それに応じてか私たちと他の生徒で明らかに待遇が違う。昼休憩時に配られる食べ物が他よりも量が多かったり、労働時間が他より短かったり。明白な差別に心が痛くなるが今の私たちにはどうすることも出来ない。


 魔物のアジトは森の天然洞窟を利用しているみたい。私たちがいる檻は自らの手を加えたような精巧さはまるでなく、壁はゴツゴツとしており足場も悪い。ランプなんてもちろんないから松明で照らさなければ中がよく見えない。加えて檻の中はベッドや毛布もないのだから生活水準はすこぶる悪い。

 グレードウォール学園に通う生徒の大半はお貴族様か裕福な商人の家庭の子である。そんな生徒がこんな場所に何日も閉じ込められていたら精神的にも辛いだろうな。


 このように本日の作業を終えた私が頭の中をせっせと整理していると、


 〈アイリスー!おっ待たせーっ!〉


 この場に不釣り合いな明るすぎる声がした。


「ライファ!待ってたよ!」

「ようやく戻ったか!」


 ルーク様たちのところへ情報を伝えに行っていたライファが姿を現した。


「それで、どうだった?みんなにはちゃんと伝えてくれたかな?」


 〈もちろんだよ!向こうは早速この森に向けて出発したよ。先行してルークたちが向かってる。聖騎士団の到着は少し遅れてその後になりそう〉


「よかった…それならひとまず安心だな。しかしルークたちはともかく聖騎士団の到着までは生徒たちの体力が持ちそうにない。先行隊が当着した時点で救出しないとまずいことになる」


「私もそう思うよ。ねえライファ。ルーク様たちが辿り着くのはどれくらいになりそう?」


 〈うーんそうだな。近くの村まで5日間かかって、そこから森に入るとなると、おそらく一週間後には来ると思うけど〉


 一週間後、か。それならやはり聖騎士団を待っている余裕はないに等しい。彼らが到着した段階で救出作戦を開始しないと。


「分かった。じゃあ残り一週間しかないなら早く行動をしないとだね。早速このアジトのマップを把握したいからライファ、頼めるかな?」


 〈オッケー!じゃあ行こっか!〉


 ライファはそれだけの会話で私が何をしようとしているか理解してくれるから話が早くて助かる。


("マッチ・ザ・ワールド")


「おい、行くってどこにいくんだよ!」


 隣にいるカイルが質問をしたのが聞こえたがもう遅い。私は既に魔法を発動してライファと視界を共有しているからだ。


 〈じゃあ僕たちは行くから、カイルはアイリスの本体をしっかりと見ててね!〉


「ほ、本体…?」


 疑問符が浮かんでいるであろうカイルを無視してライファはその場から飛び立っていく。ごめんね、カイル。後でちゃーんと説明するからっ!




 さてライファの視界を借りてまず初めに調べることは、この洞窟の全体像だ。どこに何人の生徒が囚われているのか、魔物が使用している部屋はどこで距離はどのくらい離れているか、檻の鍵はどこに仕舞われているのか。知りたいことは山のようにある。


 焦る気持ちを抑えながら、一つ一つの部屋を細かくチェックしていく。同時に私の魔法"メモリアル・ブック"で正確な地図を作り上げていった。



 なんだか懐かしいな。前にもこうしてライファと二人で危ない場所を探索したことがあったような…うん?そんなことあっただろうか、いいやないはず。なのに何で懐かしいなんて思ったんだろう。


 一度そう思うと無性に気になって来て、ライファに念を飛ばして確認を取った。


(ねえ、ライファ。私たちって前にも同じようなことを経験しなかった?)


 〈同じようなことって?〉


(えっとね…上手く言えないんだけど、こうして捕まって脱出を試みること、かな?)


 〈そんなことあるわけないじゃない!もしそんな経験があったなら忘れたくても忘れられないよ〉


(そっか。そりゃあそうだよね。ごめん今の忘れて)


 確かにこんな強烈な事件が自分の身に起こったのなら忘れるわけない、か。だというのに妙に胸騒ぎがしてならない。頭にモヤがかかっているみたいで落ち着かないが、今は後回しにしよう。


 こうして私はライファと共に、地図の完成を目指して部屋の情報を記憶し続けたのであった。

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