63、進展
「アイリスさんの契約精霊…」
確かにアイリスさんには契約している大精霊がいたはず。目の前に浮かぶ可愛らしい少年を見ていると、初めて彼女と出会った日のことを思い出した。そういえばあの日も、彼女の肩に座る小さな少年に驚かされたっけ。しかしその精霊が僕に何の用だろうか?
〈とりあえずさー、僕はアイリスに言われてここまで来たんだよね!伝えたいことがあるからみんなを集めてくれる?〉
「…分かった。朝の捜査の前に生徒会室に全員集まるはずだからその時に話を聞こう。ところで君がここに来たってことはアイリスさんは無事なんだね?」
契約精霊というものは、契約者が亡くなった時に一緒に消滅するとされている。つまりこの精霊がここにいるということは、アイリスさんはまだ死んでないってこと。
〈そりゃあもちろん!うちのアイリスがあの程度で死ぬわけないしねぇ、今のところは大丈夫だよ!〉
こうしてライファと名乗った精霊を連れて生徒会室へ向かうとみんなの反応は様々で、大精霊の姿を見て驚いたり、興味津々に眺めたり、彼女の無事を知ってホッとしたりしていた。大精霊なんてそう簡単にお目にかかれるものじゃないし、みんなの気持ちはわからないでもないが、このままだと話が進まないと思った僕は話を本題に戻した。
「余談はこのくらいにして、アイリスさんからの伝言を皆で聞きましょうか?」
〈そうそう、そうだったそうだった!実はね…〉
僕たちがライファから聞いた内容はにわかには信じ難いことばかりだった。しかしそれが全て本当のことだとしたら大幅に捜査が進展したことに変わりない。それに今までの捜査で手がかりを見つけられなかったことにも頷ける。
行方不明者を助けられるかもしれないという希望が見えてきた僕たちとは反対に、聖騎士団長のロベルトは難しい顔をして考え込んでしまった。
「…大体のことは理解したが、こりゃ大変なことになったな。ただの誘拐事件じゃすまなくなった。その情報一つで国を揺るがすことになる。国王様に報告するのは大前提として…」
「考えないといけないことは沢山あるけどさ、まずは人命救助が先じゃな〜い?魔物を倒すとか以前に普通に生徒が危ないでしょ」
「それもそうだな。じゃあまずは聖騎士団を動かせるように上から許可を貰って、」
「そんなことをしてたら動くのは何日後になるのかな?彼女たちがそんな危険な場所にいるのだとしたら一刻を争う事態なのに」
「とはいってもなぁ…俺たちは許可がないと勝手に動くことは出来ないんだ。ルーク様もそれは分かるだろう?」
駄々っ子をなだめる様な視線を向けられて腹が立ったが、ロベルトの言う通りなので何も言えなかった。これだから大人は…自分の意志だけで行動することが出来ないなんてなんて窮屈なんだろうか。そこに助け舟を出すように兄さんが口を挟んだ。
「なら私たちが先行して救出に向かおう。何、私たちなら勝手に動いても問題ない。後で父上に怒られるだけで済むからな」
「そんなことしたら俺が国王様に怒られるだろ?というか危なすぎて許可出来ねえな」
ロベルトは聖騎士団長を任されているくらいの男だから、仲間を危険にさらすようなことはしないし、こう見えて意外と慎重派だ。この男を説得するのにはなかなか骨が折れる。仕方ない、ここは妥協策で手を打つしかないか。
「なら、僕たちが先行してその現場に向かい、調査をはじめよう。魔物のアジトに突入するのは騎士団の到着を待ってから、というのはどうだい?騎士団の方も何の情報もなく突入は出来ないだろうし、ロベルトが到着してから調査を始めるんじゃあ救出に時間がかかるだろう?」
「うーん…それはそうなんだが」
「大丈夫ですよ、ボクたちもついてるし無茶なことはしないって約束しますから!」
ヘンリー先輩の援護射撃が聞いたのか、ロベルトは渋々という感じで溜息をつきながら言った。
「それなら…まあいいか。でも絶対に危険な事はしないように!あと、救出作戦が成功した暁にはちゃんと国王様に、俺がお前たちを止めてたってことをちゃんと説明してくれよな!」
この話し合いが終わった直後、僕たちはすぐ荷馬車を手配してカイルやアイリスさんが囚われているというタルアメリの森に向けて出発の準備をした。なんせその森までは近場の村に着くまで丸々5日間はかかるし、森の中に入ってしまえば、大きな馬車は通ることは出来ないだろう。そう考えると先行した僕たちでさえ目的地に着くまでかなりの時間がかかることは想像に難くない。
先生や父上に何も言わずに出てきたことは罪悪感がないでもないが、緊急事態のため仕方がないことだと心に言い聞かせる。
〈それじゃあ僕は一旦アイリスのところまで戻るね!なにかあったらまた来るから!〉
「ちょっと待って!ライファがいなくなったら僕たちはどうやって彼女たちの元まで行けばいいんだい?」
〈あーそうだったね。ちょっと君の精霊を貸して〉
ライファが心底面倒くさそうにそう言ったが、これだけは仕方ない。道案内役がいなくてどうやって彼女たちの元へ辿り着けるというのだろうか。
言われるがままに僕の精霊を呼び出すと、ライファがなにやら魔法をかけたみたいで僕の精霊の光がいつもより大きく眩しくなった。
〈はい、これで大丈夫。僕の魔力を分けておいたからこの子に魔力追跡をさせれば僕の居場所がわかる。これでいいでしょ?アイリスのことが気になるから先に行くよ。じゃあねー!〉
言いたい事だけそういうと、僕たちの返事もまたずに小さな少年の姿はその場からきれいさっぱりいなくなってしまった。
精霊という存在は本当に…。自分の心に従って動くから羨ましい。僕もそうなれたら…なんて無理な願いだな。胸に抱いた願望を無視しながら、僕たちは手配した荷馬車に乗り込んだ。




