62、その頃の学園は
学園サイド
※ルーク視点
学園中が大きな不安に包まれている頃、僕の耳に再び最悪な知らせが届いた。なんと、カイルに続いて今度はアイリスさんがいなくなったのだ。二人とも僕の大切な友達で、よく知っているから分かる。二人は勝手に学園を抜け出すような生徒ではないし、確実に何者かによる犯行だ。
僕はいてもたってもいられなくなり、自室を飛び出した。現在は生徒会活動は禁止されているのだがじっとしていられるわけがない。僕も捜査に加わって二人を探したいという一心で、聖騎士団長のロベルトの元へ向かった。
「ロベルト、また新たな被害者が出たようだけど、騎士団の捜査は進んでいるのかな?僕の友人が二人もいなくなったんだけど何か弁解することは?」
「これはルーク様。また今日は一段と機嫌が悪いな。申し訳ねぇがこれといって報告出来ることはねぇよ。聖騎士団総出で捜査をしているが、これといった進展はまだない。ご友人方については早く見つけてやりたいとは思うが…」
「そうだよね?聖騎士団はまだ何の手がかりも見つけられていない。それで僕がここに来たことの意味、分かるよね。今日までは危ないからという理由で捜査に参加させてもらえなかったけど、いまからは僕も聖騎士団の捜査に加わることにしたよ。それで構わないね?」
こんな自分の権力を使うようなことはしたくなかったが、今回に限っては仕方ない。友人たちの命の危機が迫っているかもしれないのだ。一刻も早く見つけてあげないと手遅れになってしまうかもしれない。
「…分かったぜルーク様。本来はこの国の第二王子を危険な捜査に巻き込むことは許されないが今回だけ特別に許可しよう。なんせお友達の一大事だからな。心配になる気持ちは理解できるつもりだぜ」
ロベルトがそう許可を出した時、僕たちの元へぞろぞろと生徒会メンバーが乱入して来た。
「ルーク君が捜査に加わるんだったら俺たちも混ぜて欲しーなー?俺たちだって知り合いを何人かやられてるし絶対に犯人を見つけないと気が済まないよ」
「そうだな。私もその意見に賛成だ。今は持ちうる全ての駒を総動員して捜索に当たった方が良いと思う。犯人の目的が分からない以上、早く救出しないと取り返しのつかないことになる」
「私も、アイリスや他の皆さんが心配ですっ!お手伝いさせてください!」
僕の兄を筆頭にして生徒会メンバーが一斉に講義をする。さすがのロベルトも第一王子には逆らえないのだろう。彼は半ば諦めたような顔をして、
「…はいはい。分かった分かった!!本当にお前たちだけだからな!他の生徒をこれ以上巻き込むことは許さねぇ!!」
とやけくそになりながら言った。
こうして聖騎士団の捜査に加わった僕たちは久しぶりに生徒会室へと集まった。しばらく顔を突き合わせていなかったためになんだかこの雰囲気が懐かしくて、それ故に一人欠けた席を見ると心がズキンと痛む。
今回の捜査は、あくまで聖騎士団が主導して行い、僕たちはその協力をするというものだ。ロベルトの指示に従って班分けし、放課後から早速調査をすることになった。
一日の授業が終わった後、再び生徒会室へと集まり担当の騎士団員と一緒にアイリスさんの部屋を確認した。彼女の部屋はとても綺麗に片付いており、物があまり多くないシンプルな部屋だった。しかしところどころに女性らしさを感じさせる小物や、花瓶が飾られている。花瓶の花はとても美しく咲いており手入れが行き届いていたため、彼女がいなくなったのはつい最近だということは間違いない。
ぐるっと室内を一通り見たが、他の失踪者と同じく荒らされた様子はない。しかし僕には一つだけ気になることがあった。僕の契約精霊は普段なら大人しく隠れているのだが、この部屋に入った時から行動が活発になったのだ。こうして部屋を調べ終わると、僕たちは生徒会室に再び集まった。
「ようやく戻って来たか。こちらもカイルの部屋の捜査は終わったぞ。何か不審なところはあったか?」
「いや、特に変わったところはなかったよ、部屋自体はね。でも一つ気になることがあったんだ。実はぼくの契約精霊がアイリスさんの部屋で騒ぎ出してね、今から話を聞こうと思って」
そうして僕はパチンと指を鳴らして精霊を呼び出した。僕の精霊はアイリスさんが契約している大精霊とは違って人の形はしていない。しかしいわゆる精霊と言われるものは僕の精霊みたいな個体を指し、青や赤に光る発行体なのだ。僕の周りに色とりどりの光が集まったことを確認してから口を開いた。
「ねえ君たち。先程の部屋で何か変わったことはなかったかい?」
するとその光が大きくなったり小さくなったりとチカチカしながら次々と話し出した。
〈ルーク、キヅカナカッタノ?〉
〈トテモ、オオキイ、マリョクノアト〉
〈ナニカ、マホウヲ、ツカッタノハ、カクジツ〉
…全く気づかなかった。そんな重大な手がかりがあったなんて。
「そっか。それでその魔力に心当たりはあるかい?」
〈ナイナイ、デモオオキイ〉
〈ナイナイ!〉
いくつかの質問をし終わって、これ以上の話を聞けそうにないと判断した僕は精霊たちにお礼を言い、この話をそのまま他のメンバーに伝えた。
「…なるほどな。今の話から、失踪者たち自らの意思でいなくなった線は極めて低いことが証明された。次はその魔力から犯人を探し出せればいいが…」
時間いっぱい使って話し合いをし、明日からの調査の方向性を決めた僕たちはその場で解散し部屋へと戻ると休息を取った。こんな非常事態でも休むことは大切だ。僕はいつも通りの時間に就寝支度をし、落ち着かない心をなんとかしておさめて眠りについた。
〈もしもーし!聞こえてる?おーい!!〉
どこからか僕を起こす声がして目が覚めた。誰だ?こんな朝早くに。眠い目を擦りながら起き上がると、そこには羽の生えた小さな少年が宙に浮いていた。これは…もしかしなくても大精霊だ。うーん、どこか見覚えがあるような…?
「君は、一体…?」
〈お、ようやく起きた。僕の名前はライファ!アイリスの契約精霊さ!〉




