60、再会
文字量多め!
聞き覚えのある声に反射的に振り返る。暗がりでよく顔が見えないけどこの声は間違いない。
「カイル…?なの?」
「その声は!!アイリスか!!無事なのか!?」
「私は大丈夫だよ!それよりカイルは?」
「俺も問題ない!本当に良かった!!」
と、二人して手を取り合って喜びあった。しばらくそうしていると、彼の手からその熱い体温を感じてふと我に帰った。カイルが無事であることに安堵して喜びのあまり手を繋いでしまったが、一度それに気づくと互いに気まずい空気が流れる。私は顔を赤らめたままそっぽを向いた。ここが暗くて本当によかった。ただ私と同じような表情をしているであろう彼の顔を見れないのは少し残念だけど。
繋いだ手を離して落ち着きを取り戻した私はすぐさま思考を切り替える。私の前にいなくなったカイルがここにいる、ということは他の生徒もこの場所に連れて来られた可能性がとても高い。不可解な事件の糸口が少し見えてきた気がする。とにもかくにも情報交換が最優先。私はカイルへと質問を投げかけた。
「カイルはここに来る前のことって覚えてる?その後何が起こったの?」
「ああ覚えてるよ。順を追って話そう」
こうしてカイルから聞いた情報に私は口をあんぐりと開けるしかなかった。
初めに、カイルが失踪した日の夜のこと。いつも通り就寝支度をしてベッドに潜り込んだカイルはそのまま寝たはずだった。ところが突然強い魔力を感じて飛び起きた。ここまでは私と一緒だ。辺りを見渡してみても異変が何もなかったため、彼は二度寝をしたらしい。
次に目が覚めた時には既にこの檻の中にいたのだとか。何をされるかも分からなかったため、とりあえず大人しく待つことにしたカイルを迎えに来たのは、なんと人型で二足歩行の魔物だった。その魔物は「ツイテ、コイ」と一言発してカイルを檻から連れ出した。
魔物の後ろをついて少し歩くと、そこには作りかけの集落?のような場所があり、カイルの他にも学園生徒らしき人物がその集落を作る労働力として働かされていた。
こうして一日働いた後はまた檻の中に戻され、水と食料が配られた、はいいのだが、なんの肉かも分からない生肉は食べることは出来ず、実質食べられるのは水と木の実や果物のみ。この日から決まった時間になるとその魔物がやってきて仕事をさせられ、決まった時間に食事を与えられるという毎日に過ごしてきたのだとか。
これは…耳を疑うしかない。カイルが言うのだからそうなんだろうけど、本当にそんなことがあるのだろうか?荒唐無稽すぎて笑えてくる。
この世界の共通認識として、第一に魔物は悍ましい見た目と凶暴性を併せ持ち、群れを成さないのだ。加えて人型?言葉を喋る?冗談だろう?
言葉は人間にのみ許された意思疎通のためのコミュニケーションツールであり、その言葉を扱うということはその魔物たちには知性が備わっているということに違いない。
あまりの情報量の多さに頭が痛くなってきたが、一旦それは後回し。次はこちらから学園がどうなっているのかを軽くカイルに説明してあげる。
「言いたいことは色々あるけどとりあえずいいや。学園の方も被害者が出続けて大騒ぎだよ。特にカイルがいなくなってからは聖騎士団が出てきてね。学園の警備がすごいことになってるの」
「それはなんとなく想像できる。父さんは俺に厳しいように見えて意外と甘いところがあるし。今頃フレディクト家は大変なことになってるだろうな」
さて、情報交換が終わったところで今後の動きについて考えねば。ひとまずは大人しくして周りの様子を観察する方が良さそう。脱出するにしても助けを待つにしても、1に情報、2に情報。情報さえあれば不足の事態に陥った時に冷静に対処できるからだ。
「とりあえず今は魔物に大人しく従おうか。そのうちライファがこの場所を見つけてくれるはずだからね。しばらくは待機ってことで」
「ライファって、前に俺が怪我した時に治してくれたやつか!すごいやつなのは知ってたけど、そんなことまで出来るのか?」
「まあ、これはある程度の精霊なら誰でも出来るよ。魔力探知ってやつ、授業でもやってたと思うけど聞いたことない?」
「…あるような、ないような?ほら、俺って精霊術師じゃないし使わない知識だからな!」
なるほどね、カイルは授業を真面目に聞かないタイプっと…。ってそんなことはどうでもいい。二人でギャーギャー騒いで怪しまれるのは良くないし、今日は一旦就寝することにした。
しかし年頃の男女が檻の中とはいえ一緒に寝るのってどうなんだろう?カイルとお喋りして気が緩むともうそれしか考えられなくなって余計に目が冴えてしまう。
そんな私とは裏腹にカイルなんて既に寝息を立てているんだから女の子としてみられていないんじゃないか?という気持ちになってくる。
いや、別にいいんだけどねそれで。そもそも女の子としてみられたいって思ってるってこと?いいや、それはないね。
固い床に身を預けて目を閉じていると、不意に頭が痛くなって砂嵐の中にぼやけた映像が浮かんできた。
……ーザザー、ザ、ザー……
そこには暗い部屋でその端にある質素なベッドに横たわる女の子の姿が。…あれは、私?どうしてあんなところにいるんだろう。映像の中の私は起き上がると、ライファを呼び出して何かを話している。
「…ライファ…ぉねがい…情報を…」
〈…わかった…アイリス…ここに…〉
何を話しているんだろう。上手く聞こえない。もっとよく聞こうと聞き耳を立てるがその瞬間映像が乱れてプツンと消えた。
映像が終わった後に襲ってきたのはひどい頭痛だ。殴られたかのように痛むそれに思わず顔を顰める。その痛さに耐えられなくなった私は、そのまま意識を手放した。




