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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第四章、追憶

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57、事件の始まり

 こうして忙しく過ごしている中、その事件は唐突に起こった。それは一つの小さな噂から始まった。最近学園で不登校気味の生徒が増えたらしいと。生徒の不登校なんてよくある話で最初は誰も気に留めていなかった。しかし学園の規則では生徒が欠席する場合、学園の担任に一報を入れないといかない。その不登校の生徒からの連絡がないことを不思議に思った担任が生徒の部屋を訪ねると、荷物等はそのままに生徒だけがいなくなっていたのだとか。別日に尋ねてもその姿はなく、ある日を境目にその生徒を見たという目撃情報がなくなったというのだ。

 この事件を皮切りにそうして一人、また二人といなくなる不登校者たち。





 これは何かおかしい、とみんながそう思い始めた頃、生徒会から緊急会議の呼び出しがあった。議題はもちろん例の事件についてだ。


「流石にこう何人も続くと、ただの偶然じゃ済まなくなってきたね」


「ああ、これは絶対何かある。だが原因がわからない以上私たちに出来ることはほぼないと言えるだろう」


「余計なことをして生徒の不安を煽るのもよくないしねー。今のところ現状維持が一番いいんじゃない?」


 先輩たちの意見は一理ある。でも生徒間の不安は日に日に増しており、事件に巻き込まれるんじゃないかと危惧して自室に籠ったり、休暇申請をだして実家へと戻る生徒が複数名出始めているのだ。負の感情程伝播するのは早いとはよく言ったもので、このまま何もしなかったら登校する生徒はいなくなるのは簡単に想像できる。


「しかし何もしなくても結局同じことです。このままでは安心安全な学園生活を送ることは出来ません。不登校生徒が増えるだけですよ」


 ディランの冷静な一言にみんなが口を閉ざしてしまう。問題はそこなのだ。何もしなくても悪い方向に進むのなら、せめてそちらへこれ以上進ませない何かが必要になる。それに生徒会が何か策を講じている姿を見せれば、皆も少しは希望が持てるというもの。どうすれば安心させられるのか。


「とりあえず生徒を落ち着かせるためにも登校時や放課後に見回りを行うというのはどうでしょうか?そうすれば何か不審な動きがあった時に気づきやすいと思うのですが」


 時間いっぱい話し合いを続けたものの特段いい対策が出なかったため、とりあえずルーク様の見回り案が採用された。これはその名の通り決められた時間に学園の見回りを行い、終わり次第その報告を行うというものだ。一人で見回りをするのは危険だろうということで私たちは二つにグループに別れた。

 私のグループはヘンリー先輩、テオドール先輩、エリック先輩である。なかなか珍しい組み合わせで上手くやっていけるかどうか不安しかない。特にテオドール先輩とエリック先輩は…。





 翌日の朝。いつものようにソフィアと早めの朝食を取った後、彼女とは別れて私たちのグループの待ち合わせ場所に向かった。先輩を待たせるわけはいかないので早めに向かったはずなのだが、柱の陰から誰かの後ろ姿が見える。その柱からちょこっと覗くふわふわの髪の毛からそれはヘンリー先輩だと分かった。


「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」


 小走りに駆け寄って声をかけると先輩は人懐っこい笑顔をうかべて、


「アイリスちゃんおはよー!ボクが早めにきただけだから大丈夫だよ。アイリスちゃんこそ早いんだねえ、大丈夫?無理してない?」


 と、こちらを気遣う素振りを見せる。


 …やっぱりヘンリー先輩は他の生徒会メンバーとは少し違うみたい。表現するのが難しいけど、彼がいるだけで周りの空気が柔らかくなるというか。個々の我が強い生徒会の潤滑油的な存在なのだろう。現に私の緊張感を軽く解いてしまったのだから、すごいとしか言いようがない。


「ええ、早起きは毎日の習慣でしたから」


「そうなんだ、アイリスちゃんはえらいね。ボクなんて久しぶりに早起きなんかしたから、今も眠くて眠くて」


 ふわあっと大きな欠伸をしながら先輩は眠たげな目をこすった。初対面の時も思ったけど、本当に熊さんみたいな人だ。こうしてヘンリー先輩と他愛もない会話をしていると、集合時間ピッタリにエリック先輩が到着した。


「おはようございます、僕が最後ですか?」


「いいやー?まだテオが来てないから焦らなくても大丈夫だよ」


 今度は三人でテオドール先輩を待つことになった。しかしいくら待てども先輩は来なかった。まさかとは思うが忘れている、なんてことがあるのか。それとも寝坊?…あの先輩のことだからあり得なくもない。というかそうに決まっている。


 そのまま30分程度が過ぎた頃、エリック先輩がとうとう爆発してしまった。


「何やってるんだあの人は!!もしかしてサボり!?見回り初日から無断欠勤だなんていい度胸してるよね!!」


「先輩落ち着いてください!まだそうと決まったわけじゃないですし、もう少し待ちましょう?」


「そうだよ、もしかしたら体調不良かもしれないしね。ボクが部屋まで様子を見に行ってこようか?」


 はあ…絶対こうなると思った!!可愛らしい顔を真っ赤にしながらプリプリと怒るエリック先輩を二人係でなだめること数分。


 遅刻した本人であるテオドール先輩が飄々とした様子で登場した。


「みんなお待たせー!それじゃいこっか!」


 全く悪びれる様子がない先輩に呆れてものが言えなくなる私たち。その姿は火に油を注ぐ様なものでやっぱりというべきかエリック先輩の怒りのパラメータが最高潮になる。


「は?なんであんたが仕切ってるわけ?そもそも僕たちをこんだけ待たせておいて謝罪も何もないなんて人としてどうなの?ありえないんだけど!今まで何してたのさ!!僕たちに理解できるように一から説明してくれる!!」


「そんなに怒らなくてもいいじゃない!ホントーにごめんね?俺だってちゃんと来ようとは思ったんだよ?でも起きられなくてさー。いつも通りシャワーを浴びてからきたからこの時間になっちゃったんだよね」


「はああ!?寝坊した上にシャワーまで浴びてくるなんて馬鹿なんじゃないの?」


 …これはまずい。絶対に話が長くなるやつだ。ヒートアップしていく会話をどうすることも出来ずに傍観する私。この喧嘩?の問題点はエリック先輩に怒られている当人が反省の態度を示していないことだ。


 しかしこのやり取りに口を挟むなんて私に出来るはずもなく。


 私同様に二人のやり取りを横から見ていたヘンリー先輩が遂に動きを見せた。先輩は笑顔のまま二人に近づくと、その大きな手をグーにして、二人の頭頂部めがけて思いっきり振り下ろしたのだ。


 …え?私は信じられないものを見るような目で先輩を見た。


 ゴツンという低く鈍い音がして言い争っていた二人の会話が止まる。あんな音がしたくらいだ、相当痛いに違いない。

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