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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
間章、深まる絆

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55/65

55、隠れた努力家

 テオドール先輩の一言で、話題は中間試験の話に変わった。


「そういえばそうだったな。副会長としてちゃんと上位を取るんだぞ」


「俺勉強って嫌いなんだよねぇ。やる意味を感じられないというかさ」


 その会話の傍ではソフィアも若干肩を落として小さくなっていた。


「…試験だけは良い点数取らないと、お父様に叱られちゃう…」


「それなら私が勉強教えてあげようか?勉強はまあまあ得意なんだよね。…そうだなぁ。じゃあ頑張ったらご褒美をあげる!」


 すると途端にソフィアの顔がパッと明るくなる。


「え!本当に!?じゃあ二人でお出掛けとかしたいな。アイリスが教えてくれるなら百人力だよ」


 すると横からルーク様が、


「え、いいなぁ!じゃあ僕もお願いしようかな」


 なんて冗談混じりでそう言った。


「なんでルーク様まで教えなきゃいけないんですか。そもそも貴方は一人でも充分いい点数が取れるでしょう?」


「それはそうなんだけどね。でも僕、入試でアイリスさんに負けちゃってるからなぁ。じゃあこういうのはどう?もし僕が次のテストで一位になれたら僕のお願い一つだけ叶えてくれない?」


「いやいや、だからなんで私がそんなことしないといけないんですか?私になんのメリットもありませんわよね?」


「じゃあ僕が負けたら君の言うことをなんでも一つ聞いてあげるよ。そうした方がお互いやる気がでるでしょ?」


「…別に結構ですけど」


「あれ?アイリスさんもしかして僕に負けると思ってる?ソフィアさんにはあんなこと言ってたのに自信がないんだ?」


「……。そこまで言うなら受けて立ちましょう!負けても文句を言わないで下さいね!」


 ルーク様の煽りに完全にプチンときた私は、売り言葉に買い言葉でトントン拍子で話が決まってしまう。


 家に帰ってから私は盛大にため息をついた。あーあ、なんであんなこと言っちゃったんだろう…。しかし今更後悔してももう遅い。これはもう絶対1位をとるしかない!!






 体育祭の振替休日が終わり、私たちは再び学園生活に戻った。いつも通りに授業を受けた後、生徒会の仕事がない日は図書館に篭り、ソフィアと試験勉強をすることになった。

 ソフィアは勉強に自信がないと言っていたが、飲み込みが早いタイプである。私が教えたことを綺麗に吸収していくから、この調子なら大丈夫そうかな。ソフィアよりも自分の心配をしなくては。万が一負けるようなことはあってはならない。



 そうして今日は待ちに待った休日。今日こそは私の勉強の時間だ。流石に勉強しないで勝てる程度の相手じゃないし、全教科満点を取る勢いじゃないと不安だ。そう言う訳で一人で図書館を訪れた。


 いつもの定位置の席へ向かうとそこには意外な先客がいた。そう、それはディラン・キャンベルだ。ルーク様の右腕として常に側にいるイメージだったが、一人でいることもあるんだな。


 ディランはとても集中しているみたいで、ものすごい勢いでノートにペンを走らせており、まるで私の姿に気づいていない。そんなに真面目に何の勉強をしているのだろう。気になった私は背後からそーっと近づいてノートを覗き見た。


「そこ、問い4間違ってますわ。答えは3番」


「……っ!!!!」


 急に声をかけられたことに驚いたのか、ディランは一瞬肩をビクッとさせて振り返った。私の姿を目に捉えた彼は開いていた教材をすぐさまパタンと閉じてしまう。


「…いきなりなんですか。背後から話しかけるなんて非常識ですよ」


 そう言ってそそくさと図書館から出ていこうと支度をする彼を必死で止めた。


「ごめんなさい!勉強の邪魔をするつもりはなかったんです。ただディラン様が一人で勉強している姿を初めてみたので」


「一人で勉強することに何か問題でも?」


 …あー言えばこー言う人だなホント。でも私は一瞬チラッと見たノートで分かってしまった。彼はなんでもないことのように言ったけど、使い込まれた教材、文字で埋め尽くされて真っ黒になったノート、塗装が剥げたペン。これらは全て彼のしてきた努力の証だ。


「何も問題ございませんわ。それにディラン様って思いの外努力型なのですね。そんなに努力が出来るのは並大抵のことじゃないです。尊敬しますわ」


 そう思うと彼が発する刺々しい言葉も、精一杯の強がりだと分かり思わず笑ってしまう。なんだ、こう見えて可愛いところがあるじゃないか。


「…そうですか。じゃあ私はこれで」


 逃げられた…。彼がいなくなった図書館で私はそのまま勉強を続ける。その帰り支度をしている時、ふと自分のものではないペンが置かれているのを見つけた。これ、絶対ディランのだよね。男子寮まで届けに行く気力は流石にない。まあ、また会った時に渡せばいいか。



 翌日、私は再び図書館を訪れた。勉強するためでもあるが、もしかしたらディランがいるのではないかと思ったのだ。昨日と同じ時間帯に向かうと、…やっぱりいた。休日の図書館で一人静かに勉強するディランが。


 ふーん、やっぱり彼は真面目というか、何でもそつなくこなすように見せることが上手い人だ。そう言う意味ではルーク様とよく似ているかも。


「お隣、失礼しますわ。こちらディラン様のでしょうか?」


 隣の席に腰をかけながら昨日のペンを渡す。


「はぁ…また貴女ですか。冷やかしならお断りですよ。休日に図書館に来るなんて物好きですね」


「それを言うなら貴方もでしょう?それに、そこ、また間違えてますわ。問い6の答えは1番でしてよ」


「……。」


 私に指摘をされたことが気に障ったのか、ディランは私を無視してそのまま勉強を再開した。


 あちゃー、これは相当嫌われているな。生徒会でどうしたって関わりがあるから、どうせなら仲良くなろうと思ったんだけど。

 気を取り直して私もその場で勉強を始める。休日の図書館はあまりにも静かで、私たちのペンの音と紙をめくる音しか聞こえない。


 どのくらいそうしていたのだろうか。いつまでも続く沈黙をディランが破った。


「…どうして私に構うんですか?私は今まで貴方に対して友好的な態度を取ったことは一度でもありませんが」


 私はペンを走らせながら、


「そうですわね。でもせっかく生徒会のメンバーになったことですし、ディラン様のことをちゃんと知りたいと思ったのです。それに昨日と今日で大体わかりましたわ。ディラン様のことを勘違いしていたみたいですし」


 そう淡々と告げると、彼は理解出来ないというような表情を浮かべる。


「…そうですか。私も貴女のことを勘違いしていたみたいです。人に興味がないように見えて相当なお節介だということに」

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