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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第一章、始まり

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04、不穏な音

「アイリス様は集中力がなさすぎます。来年はグレードウォール学園に入られるのですから、もっとしっかりしていただかなければ。他の貴族のご子息、ご令嬢たちに馬鹿にされてしまいますよ。だいたいアイリス様は…」


(あーあ、長いなあこのお説教。早く終わんないかなあ…)


 ウォーレンさんのお説教が延々と続く。ここは口答えせずに聞き流すのがベストだ。


 そもそも学園に入っても私と積極的に関わろうとする人はまずいないだろうし世間体を気にする貴族であればより顕著(けんちょ)にその傾向が表れる。


 それは私の見た目に関係している。肩にかかるくらいの長さで少しくせ毛の漆黒の髪と、まるで闇夜を溶かしたような黒い瞳を持つ私は、多くの人に恐れられてしまう。


 なぜかというと、黒という色が問題なのだ。私が元いた日本では、黒髪黒目はスタンダードな色だった。しかし、このセンシア王国では違う。この国ではそれはもう色とりどりの髪色や瞳の色をしている人で溢れているけれど、黒髪黒目はまずいない。


 黒色は死や災いを表す不吉な色だとされているため、黒髪黒目の私と仲良くなろうとする人はいないし、気味悪がられるのはいつものことだ。


 しかしアルベルン家の人たちは違った。誰一人として偏見の目で私を見ることはなかったし、普通に接してくれた。


 だから昔は自分の見た目の異質さに気づくことがなかったけど、大きくなるにつれ、屋敷に来るお客様が私を見たときの反応から私が普通ではないことを知ったのだった。


 人から恐れられるとき、私はアルベルン伯爵家に来られて幸運だったとつくづく思う。私を怖がるのが普通の反応なら、幼い時の私はその視線や向けられる感情に耐えられなかったかもしれない。だから、普通の子と何も変わらない対応をしてくれたこの屋敷の人にはとても感謝している。


 …けれど、私には今人生最大の悩みがある。


 それは自身の容姿のこともあってかこの世界に来てから一人も友達と呼べる人がいないことだ。


 アルベルン家の人々は友達じゃなくて家族のようなものだし、同年代の知り合いが一人もいないなんて…これでは一生孤独ルートが目に見えている。だから何とか学園でお友達を作りたいところではあるけど。


(よし!学園に入ったら絶対友達作るぞー!!)


 なんて関係ないことを頭に思い描きながらウォーレンさんのありがたいお話に耳を傾けようとしたところ…


「…アイリス様、もしやと思いますが、私の話を聞いていらっしゃられなかった、とは言いませんよね?」

「え?あぁ、も、もちろん聞いていましたよ?あは、あはは…」


 ウォーレンさんが悪魔のほほ笑みを浮かべ私を見下ろしている。


(聞いてなかったの、完全にばれてるな…)


 さらに話が長引いたことは言うまでもない。





 ウォーレンさんが帰った後、一人自室のベッドに沈みながらさっきの考え事の続きをしていた。


(そろそろ本格的にお友達作りを考えないとなぁ、貴族の世界は人脈が全てっていうし)


 そうなのだ。私は実質養子とはいえアルベルン家の一人娘。将来的には家を継ぐことだってありえる。人脈がないといざというときに困るし、味方は多い方がいいに決まっている。


(でも、どうしたもんかなぁ。そもそも話しかけても逃げられちゃいそうなんだよね。社交性はそれなりにあると思うんだけど。少し話すこともままならないなんて)



 溜息ばかりつく私を心配してか、突然目の前に愛らしい少年姿の精霊、ライファが現れた。



<アイリス、元気ないね。どうしたの?考え事?>


「うーん…どうやったら友達ができるのかなって」


<君には僕がいるじゃないか。僕じゃ不満なの?>


「不満はないんだけど。ライファは人じゃないからなー。できれば人間のお友達も欲しいなと思って。ほら、私ってこの家の人たち以外とお話ししたことすらないじゃない?」


<そういうことか。確かにアイリスの友達って僕くらいだしね。アイリスがそう言うんなら友達作り?ってやつ、手伝ってあげるよ!早速僕にいい案があるんだけどー、試す?>


 (絶対何か企んでるな…)


 ライファの案に乗るのはとても怖い気がするが、仕方ない。自分で思いつかないし。


「ありがとう、ライファ。そのいい案っていうのを教えてくれる?」


<もちろんだよ!じゃ、そうと決まればすぐに着替えて、日が暮れる前にレッツゴー!!>




 ーそんなやり取りの数十分後ー



 私たちは多くの人々で(にぎ)わう町に来ていた。町ゆく人は皆、忙しそうに歩いている。人通りが多いため、何度もすれ違う人々とぶつかりそうになりながら、なんとか人気(ひとけ)のないところまでたどり着いた。そして肩の上のライファに説明を求めるため視線を投げる。


「えっと、ここは?」


<何言ってるのさ。アイリスも来た事あるだろ。下町だよ!し・た・ま・ち!>


「そんなことは見たらわかるわよ!でもこうして自分の足で町を歩くのは初めてかも。いつも馬車で通るくらいだし」


 下町というのは簡単に言うと平民の町だ。そのなかでもここ、リコーラは一番大規模な下町で様々な店があり、貴族御用達のお店が何店もあるくらい有名な場所である。


 私もお父様やお母様の付き添いで来たことはあるけれど、馬車から降りたことはない。私が店までついていったら店員さんを怖がらせちゃうからね。


 しかしそうなるとライファの意図が全くつかめない。今日の私たちの目的はお買い物ではないはず。


「そうじゃなくて、どうして私をここに連れてきたのかってこと!」


 なにせ伯爵家のみんなには誰にも知らせずに変装して来ているのだ。いくら大規模な下町で治安は比較的良い方とはいっても、私の身になにかあればみんなに迷惑をかけてしまう。


 ちなみに今の私の姿は魔法のおかげで、チョコレートを思わせる茶色の髪にお母様の瞳と同じ淡いエメラルドグリーンの色をしている。おまけに平民の町娘の恰好をしているから、私が貴族であることは誰にも分からないだろう。


<友達作りの練習だよ!今のアイリスの姿ならみんな怖がらないし、同年代の子に片っ端から声をかけていこー。貴族より平民の子の方が気が楽でしょ?友達ができないのも案外見た目のせい以外に問題があるのかもしれないよ>


 ライファの言うことも分からないでもない。貴族社会はとても礼儀に厳しく、マナーがたくさんあって面倒臭いが、平民ならそのような堅苦しいもの抜きで対等に話ができるだろう。


 今まで友達がいないのもすべて自分の容姿のせいだと決めつけていたけど、そもそも同年代の子と話したことすらないんだもの。


「でも、どうやって話しかけるの?急に声をかけても不自然でしょ」


<えー、そんなの知らないよ。僕の役目はアイリスをここまで連れてくることだもん。そこはアイリスの頑張りどころってことで!>


「連れてくるだけ連れてきといて私に丸投げ!?もう、どうして私はライファについてきたんだろう…」


 ブツブツと愚痴をこぼしながらひたすらに道を歩き続ける。やっぱりライファに相談した私が馬鹿だったわ。


「というか、ここほんとどこだろ?何も考えずに歩いてきちゃったけど、やけに人通りがすくないような…?」


 その時、背後から人が近づいてくる足音がした。妙だな、かすかだけど魔力を感じる。こんな路地裏みたいなところで魔法を使う必要があるとは思えない。


 それにしてもこの足音、ずっと私についてきているような…


 しまった、まさか私は大通りからそれてしまったのだろうか。こうした狭い路地裏には危ない輩がうじゃうじゃいる、と聞いたことがある。


 背後の気配はこの状況から察するに強盗ではないっぽい。今の私は平民の恰好をしているから、強盗が狙うようなお金持ちの人間に見えないはずだし。だったら、なんだ?なんて、冷静に考えていたら急に手足に力が入らなくなった。


 あ、これ、本格的にまずいやつだ、と思った瞬間甘い香りがしてぷつりと私の意識が途絶えた。




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