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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第三章、生徒会のお仕事

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35、広がる縁

 グレードウォール学園の体育祭には、二日間にかけて行われ、主に二つの催しがある。一つ目は全学園生徒参加必須の各クラスごとに対決する一般的な運動会。


 もう一つは腕に自信を持つ生徒のみが参加する剣技大会だ。さらにいうと運動会の方が生徒間のみで行われる内向きのものに対して、剣技大会は、生徒の親はもちろん各業界から要人の方々が見にくるほどの外部向けの大体的なイベントらしい。だから参加する生徒は自分の実力を各所にアピールする良い機会であるのだ。


 それほど大きなイベントなら伯爵令嬢である私が知っていてもおかしくないくらいなのだが、学園に来る前の私は超のつくほどの引きこもりだったことを思い出して肩を落とした。





 なぜ今そんな説明をしたのかというと、その剣技大会運営のための場所を押さえる必要があるからだ。

 年々参加者が多くなる剣技大会では、学園の持つ施設だけではキャパ数が足りない。今日の生徒会会議では、そこで大きな会場の所有権を持つある人物に相談しようという流れになった。


 そこで本日の私の仕事は、ルーク様と一緒にその人物と交渉すること。学園に併設されている運動場で待ち合わせになっているのだが…。


「そういえばルーク様、自ら交渉役に立候補されていましたけれど、その方とはお知り合いですの?」


「知り合いといえば知り合いだね。というか、アイリスさんも知っていると思うけど。ほら、来たよ」


 そうして待ち合わせ場所に現れたのは、


「よう!!改まって話したいことってなんだよ?」


 α(アルファ)クラスの中でもとりわけ目立っている三人のうちの一人、カイル・フレディクトだった。


 ああ、もう本当に私って悪運が強いんだな…。これでクラス内関わりたくないランキングトップ3をコンプリートしてしまったではないか。新クラスになって初めての自己紹介の際、女子が色めき立っていたのを思い返してげんなりしてしまう。


「今日は生徒会の仕事で来たんだよ。ほら、もうすぐ体育祭があるだろう?その剣技大会の会場として君の家が所有している闘技場をかしてもらいたいんだ。」


「なるほどな、確かに年々盛り上がりを見せている剣技大会だ。学園の施設じゃあ足りないってわけか。」


 二人が喋っている間、ルーク様に交渉役を全投げした私は壁の花となって存在感を消すことに努めた。そもそも知り合いなら最初から一人で行って欲しかった。私の出る幕がないじゃないか。少しの不満を心内に漏らしながら黙ったいるとようやく声をかけられた。


「で、そこのお前は何しに来たわけ?黙ってそこに立ってるつもりなら、邪魔だから帰れば?」


「まあまあカイル、そんなこと言わないでよ。僕がお願いしてついてきてもらったんだからさ」


「いるんだよなぁ、こういうルークの権力に擦り寄ってくるやつがさ。おい、ルーク、人付き合いはもっと考えた方が、」


 そこまで聞いて完全に堪忍袋の尾が切れた私は、彼の言葉を遮ってこう続けた。


「お言葉ですが、お話したこともないほとんど初対面の相手に対してその態度は失礼ではなくて?それともそれが貴方のお(うち)の礼儀作法なのかしら?存じ上げなくて申し訳ないわ。

()()()!!私の名前はアイリス・アルベルンですの。()()なんていう名前はついていませんので、どなたのことを申し上げているのか分かりませんわね。それではご機嫌よう!!」


「あ、ちょっと待って!」



 口から出まかせにそう言い放ち、ルーク様の言葉を聞こえないふりをして私はその場を後にした。

 そりゃあ確かに会話は全てルーク様に任せてしまっていて自分でもなんでついてきたんだろ、って思ったよ!?思ったけど、言って良いこととと悪いことがあるだろう。誰だって明らかな敵意を向けられたら良い気はしない筈だ。





 プンスカしながら気の向くまま歩いていたら、気づいた時には見ず知らずの場所に辿り着いた。

 あれ、ここなんだろう…?

 この学園はとても広いため、私もまだ足を踏み入れたことのない場所が沢山あるのだ。そして現在進行形で迷子になってしまったのだが…。




 ほんと何をやってるんだろうな、私は。あんな些細なことでイライラするなんて相当なストレスが溜まっていたのだろうか。

 一人になったことで気が抜けたのか、人目を気にせずその場に腰をおろした。そもそも人の気配が全くないその場所で周りの目を気にする必要などないのだが。



 その場でぼーっとしていると、思いもしないところから声が降ってきた。



「あっれ〜?こんなところでサボってるなんて、アイリスちゃんって案外ワルイ子なんだね?」


「ッ!!!???」


 驚いて辺りを見渡すが誰の姿も目視出来ない。駄目だ、幻聴まで聞こえてくるなんてひどく疲れが溜まっているんだろう。


「違う違うそこじゃない。上だよ、上。ちょっと待って、すぐそっちへ行くから」


 ガサガサっという大胆な音がしたかと思うと目の前の大木から人が降ってきた。その人物は、確か…。


「…オーネット、先輩?」


 そう。それは私の中で強烈な第一印象を植え付けた生徒会副会長であるテオドール・オーネットで間違いない。そもそも今日の生徒会会議では姿を現していなかったが、こんなところにいたなんて。


「あっ!もう名前を覚えてくれたんだねぇ。嬉しいなぁ!でも少し惜しい!!テオセンパイでいいって言ったよね?」


「いえ、そういうわけにはいきませんわ。ところで先輩はなぜこちらに?」


「なぜって言われてもね。俺は俺のやるべきことをし終わったから、ここで休憩してたんだよ。ここは人通りがほぼないし俺のお気に入りスポットなんだよね。っていうかそっちこそ、今日は生徒会の仕事がないのかなぁ?」 


「…そ、それは」


 痛いところをつかれて言葉に詰まる。もしサボっていたことが生徒会長にバレたら、私は生徒会に入れてもらえないかもしれない。どう言い訳をしたものか考えあぐねていたのだが、


「それとも何か困り事かい?もし良ければ俺が相談に乗ってあげようか?それに、」


 柑橘系の爽やかさと深みのある紅茶が合わさったような大人っぽい香りが鼻腔をくすぐり、目の前に影が落ちて暗くなる。先輩は軽く身を屈ませて距離を縮めると、ウィスパーボイスでこう囁いた。


「正直に話してくれたら、会長にはこのこと、黙っておいてあげるよ」


 そんな悪魔的な誘いを断れるわけもなく仕方なく先程の出来事を(つまび)やかに彼に明かすことになってしまった。


「なるほどねぇ。アイリスちゃんの気持ちは分かるけど、俺はカイル君の気持ちも分かるかな。だってほら、俺も会長と仲良いし、実際そういう連中は虫の数ほどいる。カイル君はただ単にルーク君のことを心配してただけなんだよ。だからあまり怒らないでやってほしいな」



 それから暫くその場で先輩とお喋りした後、先輩に知っている道まで案内してもらった。チャラチャラして不誠実そうに見えるけど、案外良い人なのかもしれない。


「送り届けて下さってありがとうございました」


「いいえー全然、全然!!その代わりアイリスちゃんも僕がサボってたこと、会長に内緒にしててね⭐︎」


 そう言って綺麗なウインクをかまして先輩は去っていった。


 やっぱり前言撤回!!なんてちゃっかりしている人だろう。私の相談に乗ったのも、最初からそのつもりだったんじゃ…??




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