34、失った記憶、2度目まして
時系列少し遡るのでややこしいかも
※ルーク視点
今日は入学式当日。これから3年間お世話になるグレードウォール学園の門をくぐりながら、新たな生活に胸を躍らせた。柄にもなくワクワクしていることを感じて思わず苦笑してしまう。
学園に入学する前にも、一応自身の立場上、様々なパーティーに呼ばれたり、逆にパーティーを開いたりと社交の場に数多く出席はしてきたが、僕に媚びへつらって取り入ろうとする輩が多くて敵わない。
また、貴族同士のドス黒い感情が渦巻く社交会に身を置けば、あっという間に心をへし折られ人間不信にもなる。
そんな特殊な環境で育った僕には心の底から信頼出来る人物は数少なく、この学園生活で良い人材を見つけ出すことは僕に課せられたミッションでもあるのだ。
話は変わるが、僕は本日の入学式で新入生代表のスピーチをすることになっていた。本当はこんな面倒なこと、他の誰かに丸投げしたかったけど、僕の血筋がそれを許してくれない。暗記したはずのスピーチをぶつぶつと呟きながら、荷物を搬入したばかりの部屋の整理を続けた。
そうこうしているとあっという間に時間が過ぎ、入学式の開始時刻となった。会場である大広間は全校生徒とそのご両親が集うために人で溢れかえっている。
そうして滞りなく式は進行し、遂に僕の名前が呼ばれた。
「続いて新入生代表挨拶、ルーク・センシア」
おっと、もう僕の出番が来たのか。来賓の祝辞をぼーっとしながら聞いていたので気づかなかった。スイッチを入れるためにも軽く笑みを浮かべ、堂々とした足取りで壇上へと赴く。
全校生徒の視線が集まるのを感じるが、そんなことで緊張などしない。今まで幾度となくこういった場をこなしてきたからだ。
「この度は、私たちのために盛大な式を開いていただいたこと、大変嬉しく思います。そして…」
あーあ、我ながら長い文章だ。もう少し短くすればよかった、などとどうでもいいことを考えながらも口は勝手にセリフを発している。これこそ長年の経験の賜物といえるだろう。
「…以上で私の言葉を締めくくらせていただきます。新入生代表、ルーク・センシア」
最後までスピーチを読み切り、後は一礼して下がるだけ。
マイクの電源を切りながら壇上から辺りを見渡すと、僕の視界が漆黒の闇を捉えた。
そこにいたのは真新しい制服に身を包んだ一人の少女。リボンの色からして同じ新入生であることが分かった。夜をそのまま溶かした髪に鴉色の瞳を持つそのビジュアルは、一度見たら決して忘れることがないだろう。
少女もまたこちらを見て、ほんの一瞬視線が交わったかのように思われたが、それは僕の勘違いだろうか。
わずかコンマ1秒ほどの時間にもかかわらず、彼女の存在が僕の心をとらえて離さない。妙な胸騒ぎがする。なぜだか初対面の気がしないのだ、どこかで彼女の姿を見たような、はたまた言葉を交わしたことがあるような、そんな感覚。
壇上から降りた後も彼女の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。
その夜、こんがらがった思考を整理するために一人男子寮の庭園に出た。夜風に当たりながら星空を見上げる。そうか、今日は満月なのか。あの時と同じだ。
…あの時?あの時って、いつだ?
突然激しい頭痛に襲われて、思わず頭を押さえた。
ザザ…ザザザッ…ザーーーーー…
頭の中の砂嵐が大きくなり、痛みに耐えられなくなった時、霧が晴れたかのようにとある記憶を鮮明に思い出した。
そう、それはこの学園に入る少し前、僕たちが人攫いに攫われた事件のこと。何日もの間囚われており、脱出する希望を失いかけていた時その少女は現れた。颯爽と現れ、沢山の魔法を駆使して助けてくれた。あの時の少女も特徴的な黒髪黒目であった。
どうにかして無事に町まで辿り着いて騎士団に保護された時、隙をついて彼女は僕たちの前から姿を消した。それでも見つけられる自信はあった。何せ、僕はこの国の第二王子であり、国の情報という情報が集まる王宮で暮らしているからだ。
もう一度会いたい、話したいという一心で幼馴染二人と一緒に年頃の少女の行方を隅々まで探した。平民から貴族までありとあらゆる家庭を探したが、彼女に関する情報はおかしいくらい一つも出てこなかった。
そしておかしなことはそれだけではない。それほど熱心に探していたのに、初めに抱いた激しい情熱は一ヶ月もすると急激に冷え切り、彼女と関わったこと全てが曖昧になっていった。
どうしてそこまで夢中になっていたことを忘れていたのだろう。なぜ今になって突然記憶を取り戻したのかは定かではないが、あの少女こそ、僕たちが探していた人物に違いない。
「ようやく、見つけた…」
どうしようもない高揚感と二人より先に見つけたという優越感で無意識に口角があがり慌てて口元を押さえた。
さて、これからどうしようか。彼女は僕のことを覚えてくれているだろうか。それとも…。
新しいクラスに足を踏み入れた時、窓際の後ろの席にその姿があった。僕は本当に運が良い。
まずは彼女自身が僕のことを覚えているか確かめるために自己紹介をして話しかけた。だが彼女の反応はとても薄い。この様子からして、以前の僕同様に記憶がないのだろう。
まあ、いいさ。時間はまだまだたっぷりとあるんだから。
それからというもの、何かとつけて隣の席の彼女に話しかけることが僕の日課となった。
「アイリスさん、今度王宮で作物の豊作を祝うためのパーティーが開かれるんだけど、もしよければ一緒に参加してくれないかな?あいにくまだパートナーが決まっていなくてね」
「お断りいたしますわ。貴方ほどの方でしたら、立候補したいご令嬢が山ほどいるのではなくて?」
人好きのする笑顔と当たり障りない言葉で懐に潜り込もうとしてもそっけなく返されてしまい戸惑う。今までの人生でこの偽りの姿で接して親しくなれなかった相手などいないというのに、彼女だけは一味違った反応を見せてくる。
まさか今の姿が本来の僕じゃないってことを、見透かしているのか?
いや、そんなわけはない。ありえない。きっと僕の考え過ぎだ。
でもそんな彼女だからこそ興味を抱くしおもしろい。
さて、僕と君、どちらが先に音を上げるか。根気比べといこうじゃないか。
次回からはまた主人公視点に戻ります。




