31、生徒会
こうしてソフィア様改めソフィアと無事お友達になることが出来た私は、生まれて初めて友達と食堂に向かっている。もともと同じ時間帯に食堂で居合わせていたこともあって、私と彼女の生活ルーティーンはさほど変わらないことは分かっていた。そうだよね、私たちみたいに目立つ奴は人がいないタイミングで行動するよね。その気持ち、すごく分かるよ。
そんなこんなで食事を二人で取っていると、ソフィアからこんなことを言われた。
「そういえばアイリス。アイリスはもうどのサークルに入るか決めた?」
「いや?特に決めてないよ」
「私も決めてないんだけど、そろそろ決めないとだよね…。はあ…、私を受け入れてくれそうなところがあるといいんだけど」
「っていうことはソフィアはサークルに入ろうと思ってるんだ?私はパスで」
私はそういうの興味ないしな。そういうのに入ると面倒ごとが増えるだけだもん。ソフィアは偉いな~、自らサークルに入ろうとするなんて。なんて思っていたらソフィアからとんでもない爆弾発言をされた。
「もう、アイリスはなんでそんな他人事なの?サークルに入ることはこの学園の生徒の義務でしょ?特別な理由がない限りは入らないといけないのに」
「へ?」
呆けた顔をした私を見たソフィアは何かを察したのか、一から丁寧に説明をしてくれた。
この学園は生徒間の交流を推奨しているため、サークルに加入することは義務付けられている。サークルによってはその活動を表彰されたり、特別な褒章を頂けることもあるらしい。また、その活動が卒業後の就職活動にも役立つことがあるのだとか。確かに、貴族たちにとっては人脈を広げるいい機会だし、平民の子にとっても、貴族とのパイプをつなげたり、就活にいかせたりと良いことばかりだ。
「でも、そんな話いつしてったけ?」
「入学式の後の学園施設案内の時にワイアット先生がしてたけど?」
軽く睨むような視線を向けられ、思わず苦笑いした。それにしてもソフィアは大分表情豊かになったなぁ、以前とはくらべものにならないくらいだ。何て余計な事を考えていると、
「アイリスってしっかりしているように見えて意外と抜けてるよね」
と言われてしまった。
とにもかくにも入学してから一か月以内にサークルに入らなければいけないという事実が判明したため、今日の放課後はサークル見学に繰り出すことにした。もちろんソフィアも一緒に。まあそもそも入るつもりがなく、この学園にどんなサークルが存在しているのか全く分からなかったため、ソフィアが気になっているサークルをついて回るという、金魚の糞状態の私だ。気になるものがないと言ったら嘘になるが、どこに行っても私たちが顔をのぞかせるだけで皆顔が引きつってサークル活動どころじゃなくなる。
例えば、乗馬サークルでは先輩方が驚いて馬から落ち、手芸サークルでは人が手に針を刺す瞬間を目撃し、魔法薬学研究サークルではフラスコを手から落とし薬品が散らばる、などなど。どこに行ってもこの調子で、もし私たちが加入届を持ってきた暁には、誰かが倒れてしまうのではないかと思う。
うーん………。サークルに加入することがどれだけ厳しいことなのか今日一日で身をもって理解した。私たちはサークルに入るべきじゃない絶対。となると、特別な理由とやらを作って、サークルを回避するしかないけど、どんな理由があれば入らなくていいのか見当もつかない。
「ねえ、ソフィア。今日で分かったでしょ?私たちはサークルに向いていないって」
「そうだね…、こんなに厳しいなんて思わなかったよ…」
「でしょう?ところでソフィアはサークルに入らなくてもいい特別な理由を何か知っていたりしない?」
「知っているけど、絶対無理だよ!」
「初めから無理と決めつけるのはよくないでしょ、一旦私に話してみてよ」
期待の眼差しを込めて真っ直ぐにソフィアの目を見ると、渋々といった調子でソフィアが口を開いた。
「だって生徒会に入らないといけないんだよ?しかも生徒会はなりたくてなれるものじゃない。現生徒会メンバーからのスカウトがないと」
生徒会かぁ…。生徒会ねぇ…。ん?生徒会???そういえば少し前に仰々しい手紙をもらったような気が…。あれ、あの手紙ってどこにやったっけ…?
そんなことを思いながら、ブレザーのポケットを漁ること数秒。ヨレヨレになった綺麗な便箋を発見した。あの時は怖くて見なかったことにしたそれを、恐る恐るソフィアに見せる。
「ソフィア、もしかしたらこれって…」
「え!?グレードウォール学園の紋章入りのお手紙!?誰から!?」
「えっと…オーウェン・センシア様から…」
「生徒会長から!?アイリス、どこでそんな人と知り合ったの……」
知り合ったも何も勝手に知られていたというか。私自身は面識がないから、どんな方なのかわからない。
「そういうことなら、生徒会に入れるかもしれないね!早速、生徒会室を訪ねてみたら?」
「まぁ、サークルに入れないんじゃそうなるよね…。一人じゃ心細いからソフィアも一緒に来てよ」
「えぇっ!?だってそれはアイリスが貰ったものだし…私がついて行くのはちょっと…」
愚図るソフィアを半ば無理やり引きずるような形で生徒会室の前まで辿り着いた。連行する途中もソフィアはぐちぐち文句を言っていたが仕方ない。だって私もソフィアもサークルに入れそうにないんだもの。ソフィアを助けるためだと言い聞かせていざ扉をノックしようとした時、
「うわぁ!!!びっくりしたっ!!!そんなとこで何やってるの!?」
ギイッと重い音がしていきなり目の前に可愛らしい顔が現れた。長いまつ毛に縁取られた瞳は丸く大きく見開かれ、柔らかそうな髪が風に揺れる。女の子と見間違うかのように愛らしい顔つきだが、角張った筋の見える首もとや、骨格からかろうじて男子だと判別出来た。
どのくらいそうしていたのだろうか、ほんの数秒の出来事がスローモーションのように感じ、あと少しで唇が触れそうな距離に顔面が熱くなる。
「すみませんっ!!!」
咄嗟に飛び退いて謝罪したが、まだ心臓がバクバクしていた。驚きと恥ずかしさからその声の主の顔を見れない。あんな至近距離に男の人の、しかも美形の顔があったら私じゃなくてもドキドキすると思う。
「あれ?アイリスさん?どうしてここに?」
そんな私に冷水をかけるかのごとく、なんだか聞き覚えのある声が鼓膜を揺らして冷静さを取り戻させた。長テーブルとソファが置かれた居心地の良さそうな空間に、私が一番関わり合いたくない彼がそこにいた。
「ルーク様!?そちらこそなぜこんなところに?」




