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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第二章、学園

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26/68

26、目撃

 次の日の放課後。


 ソフィア様、今日も来てくれるだろうか。昨日と同じ場所、同じ席で一人本を読み始める。しかし普段ソフィア様が訪れるという17時を過ぎた頃になっても、ソフィア様は現れなかった。


 …そうだよね。明確な約束をしたわけでもないし当たり前か。そう簡単に仲良くなれるわけでもないし今日のところは諦めようかな。

 現在の時刻は17時50分。図書館が閉まるのは18時だからもうすぐ帰らないといけない。帰り支度を始めたその時、


「…なんで…」


 今にも消えそうなか細い声が鼓膜を揺らした。これってもしかしなくてもそういうことだよね?


「あら、ソフィア様。ごきげんよう」


 きっと今の私は相当頬が緩んでいたに違いない。だってもう来てくれないと思ったんだもん。そりゃ嬉しくなるに決まってる。


「…どうして…」


「どうしてって…。昨日言ったでしょう?また明日って」


 やっぱり待ってて正解だったな。私がソフィア様が来ないのに耐えきれず帰っていたら、今日は会えなかったってことだし。いや、教室では会ってるけどね。人が大勢いるところで話しかけるのはちょっと…。


 しかしこうしてせっかくソフィア様が来てくれたはいいものの、時間が時間だ。ここに長居はできない。


「今日はもう図書館が閉まってしまいますし、話の続きは今度にしましょう。ではまた明日」


 とりあえずソフィア様とは少しづつ距離を詰めていけばいい。今日来てくれたってことは脈ありってことだもん。大丈夫だ。課外授業の日までまだ時間があるしね。



 それからというもの、私たちは毎日放課後になると図書館で会うようになった。

 常に無表情を貫き通していたソフィア様も本の話になれば、ぎこちないけど笑みをみせてくれる。基本私がいっぱい話しかけて、一言二言相槌を打ってくれるだけなのだが。

 少しは仲良くなれたんじゃないかな。やれば出来るじゃない私。これならソフィア様とお友達になれるのも時間の問題かも。


 ソフィア様と図書館で話すようになってからは放課後が待ち遠しい。話し相手がいるだけでこんなに楽しい気持ちになれるなんて知らなかった。


 ー17時00分ー  まだ来ないかな。

 ー17時10分ー  ちょっと遅いな。

 ー17時30分ー  あれ、どうしたんだろう。

 ー17時50分ー  …さすがにおかしい。


 何かあったのかも。なーんて流石に考えすぎか。急用が出来たのかもしれないし。


 一応閉館時間まで待ってみたもののこの日は結局ソフィア様が現れることはなかった。


 空が暗くなり始めたのを横目に一人とぼとぼと帰路につこうとした時、何やら騒がしい声を耳にする。こんな時間に何をやってるんだか。辺りを見渡すと図書館の裏手にある植物園が目に留まる。あそこから、かな。


 もう遅い時間だし、注意しに行った方がいいかもしれない。いくら寮と学園の距離が近いとは言っても暗くなった帰り道は危ない。それにこの学園は18時半になると警備員さんの手によって施錠されてしまうから、生徒はその時間までに学園を出て寮に帰らないといけない決まりがある。


 そっと植物園に近づくと、3対1の構図で一人の女子生徒が地面に座り込み、その他がそれを取り囲んでいるのが見えた。


 あっ!あれは…ソフィア様?


 その表情を見る限り仲良く談笑、といった雰囲気ではない。穏やかでないのは明らかだが何も知らないのに決めつけるのはいけないだろう。それを判断するためにも誰にも気づかれないようさらに距離を縮め、壁に背をつけ聞き耳を立てた。


「…貴女、人にぶつかっておいてその態度は何なの」

「謝罪の一つもまともにできないだなんて、躾けがなってないんじゃなくて?」

「この間も散々注意して差し上げたのに改善が見られないわね」


 なんという修羅場。これはもしかしなくてもいじめ…というやつか。こんな人目につかない場所で一人を大勢で罵倒するのはいじめ以外の何物でもない。

 すぐにでも止めに行った方がいいのは分かっているが、私が登場することによりいじめがさらに悪化するなんてお決まりの展開になるかもしれないし。どうしたものかなあ。

 余計なことをするのは嫌だし私自身面倒ごとは出来る限り避けたいんだけど。


 ひとまずソフィア様がどんな対応をとるか様子見だな。傍観を選択して再び彼女たちの声に耳を傾ける。


「見目が汚い人間は心まで汚いということかしら」

「ああ嫌だ。視界に入れるだけでこちらまで穢れてしまいそうね」


 なら、見ないようにすればいいのでは?わざわざ難癖つけに行ってる時点で自分から視界に入れてるの分かってらっしゃらないのか。こちらからでは彼女たちの後ろ姿しか見えないが、さぞ醜悪な笑顔を浮かべていることだろう。

 こんなに一方的に言いがかりをつけられているというのに、ソフィア様は言い返すことなく俯いている。


「……」


「っ…!何とか言ったらどうなのよっ!」


 どんなに棘のある言葉を吐いても反応がないソフィア様の態度にイラついたのか、ヒステリックになった女子生徒が怒りに任せて手を振りかぶった。


(‟プロテクト・エリア”)


 彼女の頬めがけて思いっきり振り下ろした手は、ソフィア様に触れることなく空中で止まる。


「な、なんなのよこれ!」


 何が起こったか分からないだろう女子生徒が憤慨する声が聞こえた。


 貴族のお嬢様が手を上げるなんて、どんな教育を受けてきたんだほんと。あーあ。首を突っ込む予定はなかったのになあ…。反射で魔法を発動させちゃったから、出て行かない訳にはいかなくなってしまった。


「皆さま、ごきげんよう。随分と楽しそうなことをなさっているのですね」


 私の登場により、分かりやすく慌てる彼女たち。見られて困ることなら初めからしなければいいのに。


「ア、アイリス様。私たちは何も…」


「あら?私の名前を知って下さっていたのね。でもごめんなさい。私はあなたたちのことを存じ上げていなくて」


 分かりやすく強張った表情を浮かべる彼女たちをちらりと一瞥する。


 私は素早く脳内辞書もとい‟メモリアル・ブック”で彼女たちのことをサーチした。入学後すぐに同学年の子の顔と名前を一致させておいて正解だった。


 とても便利なこの魔法にも実は欠点がある。それは記憶と記録は違うからわざわざ魔法を使わないと情報を引き出せないこと。だからぱっと見ただけで彼女たちのことが分からなかった。いざというときすぐ思い出せないと困るしズルしないでちゃんと覚えとこーっと。


 ふむふむ、彼女たちは…三人とも子爵家のご令嬢か。

 子爵家という身分を考えると、準男爵家のソフィア様よりも上。ソフィア様が言い返さなかったのはそういうこと?私にはそれだけじゃないように見えたけど。


 ついでにいうと私は伯爵令嬢だから私の方が格上。つまり彼女たちは私に対して強く出ることは出来ない。


「それより」と続け、再び私は彼女たちに問いかける。


「これはどういう状況なのかしら?」


「…そ、それは。ソフィア様が無礼だったので注意して差しあげようと、」


「へーえ、そうなの。貴女の家では人を注意するときに手を上げるのね。知らなかったわ」


「…ですが、アイリス様。その者は、!」


「その者は何?ソフィア様のことを批判なさるのならご自身が今やろうとしていたことを振り返ってみてはいかが。どちらが悪いのか、私には一目瞭然でしてよ」


 軽く睨むと彼女たちの顔色がさっと青くなる。


「今回のことを先生に報告してもいいのだけれど。あなたたちの行為は未遂に終わっているから見逃してあげましょう。でも次に同じような事をしたら、分かっているわよね?」


「ひっ!」


 小さな悲鳴を上げてドタバタと去って行く彼女たち。

 その後ろ姿が見えなくなるのを見届けてから、ソフィア様の方に向き直って迷わず手を差し出す。地べたにペタンと座り込むソフィア様の顔は驚くほど虚無でどんな感情をも映していない。光が差さない瞳はどこか遠くをぼーっと見ている。


 初めから無表情な子だと思っていた。私はそのことを感情表現が苦手なんだろうと思い込んでいたけどそれは間違いだ。きっと今までも私が気づかなかっただけで、こういったいじめを陰で受けてきたんだろう。


 …ああ、そっか。彼女の心はとっくに限界を超えて壊れているんだ。だから抵抗をしないのだ。

 人の慣れとは恐ろしい。慣れてしまえば痛みなど感じない。痛いはずなのに痛くない。それはまるで心を宿すことのない人形のようで。


 …嫌だな…。とてもよく似ている。()()


 黒い靄が頭にかかって、頭が痛くなる。


 …あれ、私、一瞬意識飛んでた?いじめの現場を見て具合が悪くなったのかもしれない。


 時間をかけて遠慮がちに重ねられた手をしっかりと握ってソフィア様を引っ張り上げた。


「ソフィア様。ケガはない?」


「…ええ」


「なら一緒に帰りましょうか」


 有無を言わさずソフィア様の手を握り、私たちは寮への道を急いだ。


*作者の執筆事情*

書きたいことが山ほどあるのに上手くまとまらないという現象に陥ってます。投稿頻度少し落ちるかもです。

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