22、実技試験
次の試験は魔法科だけが行う実技試験だ。ちなみにこの実技試験、誰でも見に来ることが可能で、入学式の後にやることがない上級生たちが自分のサークルに人を勧誘するために見学に来ることがあるんだとか。
それにしてもこの学園にはサークルなんてものがあるんだ。知らなかったなあ。今のところサークルに入る気はないから関係ないんだけど。
試験官の先生の引率で、私が試験を受けた教室にいた40名程度が移動する。
先生に連れられてやってきたのは、巨大な闘技場みたいなところ。ここは通称訓練場と言われており、魔法の実技授業は常にここで行われるらしい。
いかにも戦闘訓練を行いますっていう雰囲気がでてて、このフィールドを囲むように観客席が設置されている。
観客席にはすでに結構多くの人影が。その大半は学生服に身を包む上級生であることが見て取れる。
上級生に見られながら試験するとか、公開処刑にもほどがある…。
「今から皆さんには実技試験を行ってもらいます。最初の試験はあれになります。十数メートル離れた場所にあるあちらの的をめがけて自分の得意な魔法を放ってください。中央に近ければ近いほど高得点となります。では私に試験番号を呼ばれた順に前に出てきなさい」
先生の視線の先には弓道で使う的のようなものが。なるほど、あれに当てればいいのか。
番号を呼ばれた生徒が前に出て魔法を放っていく。その傾向を見る限り、水属性の魔法と火属性の魔法が多そうだ。ということは私も水属性か火属性の魔法を使えばいい。そうすれば変に注目を集めることなく試験を乗り切ることが出来る。
「39番、前へ」
ある男子生徒が前へ出るとまたもや黄色い歓声が。って、またお前かい!どんだけ注目を集めれば気が済むのよ…。優雅に前へ進み出た彼は、真剣な顔付きをして的をめがけて魔法を放つ。
「‟アイス・クリスタル”」
へえ、氷魔法か。彼の指先から美しい氷が現れ、一直線にぶれることなく的に突き刺さる。それは見事に的の中心を射抜き、鋭い先端が的を貫通した。周囲でわっと歓声が起こるも、彼は何でもない顔をしてもとの場所に戻っていく。
意外…といっては何だけど、顔だけじゃなくちゃんと魔法の実力もあるのね。当たり前か。何せ新入生代表の挨拶をしていた生徒だ。優秀じゃないはずがない。
一人静かに感心していると、
「40番、前へ」
唐突に私の番号が呼ばれた。
やば。どうしよう。どの魔法使うのか考えてなかった!水属性か火属性で誰にでもできそうな簡単な魔法は…。そもそも簡単な魔法ってなんだ?必死に頭をフル回転させるもなかなか思いつかない。
「40番!早く前に来なさい」
先生の声のトーンが低くなるのを感じ慌てて前に出る。
まだどの魔法使うか決まってないんだけど…。こうなったら初級魔法は諦めて中級魔法に変えた方がいいかもしれない。込める魔力を出来るだけ落として使えば初級魔法同等の威力になってくれるはず。
何もしない私の後ろでひそひそと話す声がする。
「あの魔法を見た後じゃやりづらいよな」
「可哀そうに」
「固まって動けなくなってるぞ」
いや、待てよ。私がいくら込める魔力を落としたとしても、私の魔力は馬鹿にならないほど多い。それに私は魔力量のコントロールが壊滅的に下手くそだ。即座に最悪の想像が頭を駆け巡る。ここで一番最悪なのはうっかり私の馬鹿力であの的を壊してしまうこと。…さすがの私もそこまでもヘマはしないか。しない、よね?
「あの…」
「何ですか」
「あの的ってどれくらいの強度なんでしょうか?」
「心配せずとも新入生が扱う魔法で壊れることがないくらいには丈夫です」
言ったな!その言葉信じるよ…!先生もこう言っているし的には何かしらの強化魔法が施されている可能性が高い。なら私の魔法もきっと受け止めてくれるだろう。大丈夫、私がちゃんと魔力を落として魔法を発動させればいいだけの話だ。
そう考えると少し余裕が出てきた。よし、私が目指すはクラスの平均値。低すぎず高すぎずの位置がベスト。
使う魔法は…中級魔法ならもうなんでもいいか。決めた!さっきの男子生徒同様、氷魔法にしよーっと。氷魔法は水属性の魔法の一種だし問題ないよね。
(‟アイス・アロー”)
弓に矢をつがえるかのように構える私。そこに氷の弓と矢が瞬時に現れる。ギイィと、弓を軋ませて的に狙いを定める。指先に意識を集中させ、魔力量をギリギリまで外に逃がす。
よし、ここだっ!
私が矢を放つ一瞬だけ手に力がこもる。それでもヒュンっと風を切って氷の矢は真っすぐに飛んでいく。だがその瞬間驚くべきことが起こった。私の射った矢が的の中央にとんでもないスピードで突き刺さったと思いきや的が爆発音を立てて粉々に砕け散ったのだ。後に残ったのは私が作り上げた氷の矢だけ。爆発に巻き込まれたにも関わらず原型を留めて地面に転がっている。
あ、あれ…おかしいな。…こんなつもりじゃなかったのに。恐る恐る後ろを振り返ると皆驚きに目を丸くして固まり、水を打ったように会場が静まりかえった。
ようやく私は事の重大さに気づく。的を壊すなんてしないとかいいながら思いっ切り的を破壊してフラグ回収した自分をぶん殴りたい…。
頭の中で器物損壊と弁償の2つのワードが浮かぶ。
「…これで全員この試験を受け終わりましたね。次の試験の内容を説明します」
何事もなかったように淡々と次の説明を始める先生。器物損壊で入学早々職員室に飛び出される覚悟をしたがそれは杞憂に終わったようだ。よかったあ…。
私は次の試験に向けすぐさま気持ちを切り替えた。今度こそ上手くやらないと!
…結果は言わずもがな散々だった。二つ目の試験は先生が作り出して操るゴーレムと戦う戦闘試験。これは私の魔法で先生のゴーレムが砂と化し、戦闘どころではなかった。し、仕方ないもん。いきなりゴーレムが襲ってきたから反射でつい。
三つ目は、障害物レース。この訓練場のトラック一週分に様々な罠が張られているのでそれを自分の魔法を駆使して対処しながらゴールを目指し、そのタイムが速ければ速いほど高得点となる。そして一人がゴールする都度魔法をかけ直すという徹底っぷり。全員同じだと前の人のを見て攻略できるからだろうけど。
罠の種類は様々で地面に仕込まれている見えない魔方陣を踏むと発動するようになっているっぽい。落とし穴に落とされたり、目の前に行く手を阻むかのように岩の壁が現れたり、突風が起こってなかなか前に進めなかったり。
ここまで聞けばこの試験で何もやらかすことはないって思うでしょう?踏んだ罠を自分の魔法でなんとかする、それだけの話なのに。
私はあろうことかその魔方陣を一回も踏まなかった。だって魔方陣は見えないようになっていても分かるんだもん…魔力感知で。意識を研ぎ澄ませば魔力が濃い部分があるのが何となく見えるし。
いや、目立ちたくないならわざとそれを踏めばいいことは分かるよ?分かるけど…。どんな魔法が発動するかもわからないのにわざと踏みに行くなんて無理に決まっている。
だから魔方陣を踏まないようにゴールした。ただそれだけなんだけど。これ余計に目立ってないか?もちろんこの中で最速でゴールすることになってしまった。もうやだ帰りたい。
最後は魔力量を測って終わりだ。目の前の台座に置かれた大きくて透明度の高い水晶に手を置くだけで魔力を測れる優れものらしい。魔力量か…。伯爵家では私が魔法を習いたての時に一回測ったっきりでしばらく測っていない。私の魔力量って今どれくらいなんだろ。
番号を呼ばれたので前に進み出て、手を水晶の上に置いた。すると水晶が光りだし、熱を持つ。
って熱い熱いっ!!こんなに熱くなるものなの!?これっ!
水晶が思わず目を背けてしまうほどの輝きを放って、ボンッという音とともに砕け散った。
あわわわわ…まーた器物損壊だ…。あの水晶すごく高価そうなものだったし、私に弁償出来るかな…。
「40番、魔力量測定不可…」
信じられないという表情で先生は手に持っていた記録用紙に書き込んでいく。
待って待ってそれが私の記録になるの?た、たまたまかもしれないじゃない、水晶が壊れたのも。
そんな私の心の中の叫びが通じるはずもなく、こうしてクラス分けのための試験が終わった。
私はその後一人とぼとぼと寮へ帰った。なんだかどっと疲れる一日だった。まあその原因の大半は私にあるんだけど。
あーもう止め止め!考えることを放棄しベッドに体を投げだす。それに明日は今日の結果をもとにしたクラス発表が行われる。もうクラスなんてどうでもいい。要はそこで友達が作れるかどうかが重要なんだから。
とにかく、明日から頑張るぞー!おー!!




