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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第二章、学園

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21/58

21、いざ学園へ

 ガタゴトと馬車に揺られながら、私は今グレードウォール学園に向かっている。学園に向け出発する際にお父様が泣いちゃったのはさすがにびっくりしたけど、次の週末に戻ってくる約束をするとようやく安堵の表情を浮かべて送り出してくれた。ほんとにいい人達なんだよなあ。私にはもったいないくらい。


 つらつらと屋敷のみんなのことを思い出しながら窓の外の風景を楽しむ。


「お嬢様、もうすぐ到着します!」


 荷解きを手伝うために一緒について来てくれたマリンが弾んだ声で知らせてくる。

 すると間もなく目の前にとても豪華な建物がそびえ立つ。一言(ひとこと)でいうならとても大きい。私の屋敷も相当な広さを誇っているがそれの比ではない。この国のお城並みに大きいんじゃないの、これ。…私はお城を見たことないけどね。


 学園はその周りをぐるりと高い石壁で囲まれているが、学園の建物自体はそれよりも遥かに高い造りになっていて、結構な高さの壁が低く感じる。白を基調としたその木造建築は、手入れが行き届いており、かなり前に建てられたものであろうに古めかしさを一切感じさせない。


 そのお隣に目をやると、こちらは比較的新しい建物が。それは私が三年間住むことになる寮だ。


 馬車を寮の前に止めてそこで下ろしてもらい、案内役が来るのを待つ。


「お待たせいたしました。アイリス・アルベルン様ですね」


 にこやかな笑みを浮かべて挨拶するのは恰幅の良い女性。


「私はこの寮の寮母をしているハンナという者です。これからお部屋に案内させて頂きます。また、寮について分からないことがあったら私まで気軽にお声がけください」


 私はその反応を見て不思議に思った。私は今、変装のための魔法をかけてないのに。誰でも私を初めて見る人はこんな普通の態度を取るのはまずありえない。どういうことなんだろう。


「ハンナさんは私のこと、怖くないんですか?」


 つい本音が聞きたくなって疑問をそのままぶつけてみる。


「長年ここで寮母をしているといろんなお方に出会うんですよ。アイリス様の色味は多少珍しいかもしれませんけど素敵な色だと私は思いますが」


 にっかり笑ったその顔を見れば嘘をついていないことが明らかだ。アルベルン家の人以外でも普通に接してくれる人がいる。それが分かっただけでもこの学園に来る価値はあった。ずっと家に閉じこもっていたら気づけなかったことだ。


 自室に案内されながら今日の日程を聞かされた。入学式は午後1時から約1時間ほどかけて行われ、その後に新入生はクラス分けをするための試験を全員受けるらしい。普通科は筆記試験だけだが、魔法科は実技試験も加わる。なぜそんなことをするかというと、実力が同じくらいの生徒同士でクラスを固めることによりクラス内の競争意識を高めるんだとか。何それ聞いてない…。ようは抜き打ちテストってことじゃない。


 自室に着くとハンナさんにお礼を言って荷解きを始める。一人一部屋与えられたその部屋は我が家の自室よりは狭いものの、一人で使う分には申し分ない広さの部屋だった。マリンが忙しく部屋を整えている横で真新しい制服に袖を通す。


 白のブラウスの上に鳶色(とびいろ)で上品に仕上げられたブレザーを羽織る。左胸にはこの学園のエンブレムがしっかりと入った仕様だ。落ち着いた色合いのため、膝丈よりも長めのふわっとしたワインレッドのスカートによくマッチしている。仕上げに赤のリボンを胸元できゅっと結べば完成だ。


 手伝いのマリンも帰った後、入学式の時刻が近づいていることに気づき、ハンナさんに教えてもらった通りに学園の大広間に向かう。


 会場に向かう途中、すれ違う生徒らしき人達の痛いくらいの視線を体中に感じたけど気にしない気にしない。もうこういうことには慣れっこだもの。


 会場入り口のカウンターで受付を済ませ、そこで教えてもらった席に静かに着席する。それから数分後、入学式が始まった。



「えー、暖かな日差しを受け、桜の花も春の訪れを感じて芽吹き始めた今日……」


 あー、長い…。学園長の挨拶から始まり国歌斉唱に、来賓祝辞…。どれもこれもいっちょ前に長い!!学園長の挨拶はいいとしても、来賓多すぎない?さっきから何人私たちを祝ってるのよ。一人でいいわ一人で!ずっと同じような話を聞かされる私たちの身にもなってくれ。


「…続きまして新入生代表挨拶です。新入生代表、ルーク・センシア様よろしくお願いいたします」


 司会者に呼ばれて壇上に上がったのは誰もが見惚れるくらい美しい顔立ちの男子だ。照明に照らされて煌めく繊細なブロンドの髪と燃えるように赤い深紅の瞳。


 彼の登場に合わせ会場全体が静まり返る。一瞬で全員の視線を集めた彼が静かに口を開いた。


「本日はわたくしたち新入生のためにこのような素晴らしい会を開いて頂き、誠に嬉しく思います。…」


 みんなが彼の言葉に静かに聞き入っている時、私の頭の中には大きな疑問符が浮かんでいた。


 うーん…なんだかなあ。初めて見た顔のはずなんだけど見覚えがあるような、ないような。

 私はそもそも貴族の社交場に顔を出さないから、この学園に知り合いなんて一人もいない。いないはずなのに妙に引っかかるのよね…。


 彼の言葉はいつの間にか終わっていたらしい。彼が一礼をして顔を上げた時、その赤い瞳が私の方を捕らえたかのように感じた。

 ……?不思議に思ったのも束の間、一瞬交わった視線はすぐに私から外される。


「今見た?ルーク様が私の方を見ていらっしゃったわ!」

「何言ってるのよ、私を見たに決まっているじゃないっ!」


 やはり、目が合ったように感じたのは気のせいか。当たり前よね、あの壇上の彼と私の距離はとても離れているし、わざわざ私を見るなんてことあるわけない。私があまりにも彼の顔をガン見しすぎて、ふと彼が視線を下に向けた時に目が合ったように感じただけなのだ。


 そんなこんなで入学式は滞りなく進められ、無事に終了した。


 次に私たちに待ち受けているものは、そう。クラス分けのための試験だ。


 えーっと、私の試験番号は40番だから、ここか。辿り着いた教室に入ると、試験官らしき先生が私に席に着くように促す。どこに座ろうかな。教室をざっと見渡すと、窓際で空いている席を一つ見つける。


 ラッキー!なんて思いながらその席に向かって歩き出すと、面白いことに私の歩みに合わせて窓際から人が蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。


 おいおい…いくらなんでもそれはあからさますぎやしないかい?私だってそんな態度とられたら傷つくんだからな!


 人気のなくなったその席にゆっくりと腰を下ろす。ついでに言っておくと、窓際から人がいなくなっただけでなく教室も静まり返りました、ええ、ハイ。


 そんな静けさを打ち壊すがごとく、今度は穏やかに談笑する男子生徒のグループが入ってくる。


 あ、あれは!さっきの!


 彼らが入ってきた途端に教室が色めきだつ。主に女子生徒たちによって。なにこれ、私とすごい差ではないか…。


 彼らは迷うことなく教室の後方の席を陣取った。すると女子生徒たちがその男子生徒たちを取り囲むように教室後方の席へ大移動を始める。入学早々大人気なことで。


 羨ましいとかこれっぽっちも思っていませんけど?いやほんとに。私はふいと彼らから目を外す。冷静に分析するなら、あの手のタイプの人間とは関わらない方が吉だ。もし万が一、絶対ありえないけど仲良くなろうものなら、女子たちに目を付けられるに違いない。そんな心配はせずとも、どうせこの試験さえ終わればその姿を目にすることもないだろうからいいけど。


 試験開始時間になったのか、試験官の先生からテスト用紙を配られる。よーし、ここはそれなりの点数を取ってそれなりのクラスに入れるように頑張るぞー!目立つのダメ、絶対!


 気合い十分に問題を解いていく。すらすらと答えを書き込む手を止めることなく集中する。あれ、思っていたよりも簡単かも。こんなの基礎中の基礎じゃない。なーんだ、実力を測るっていうからもっと難しい問題が出てくると思ったんだけど。


 案外このクラス分けのための試験は建前だけのものなのかもしれない。ならわざと間違えることもないか。


 そうして約1時間の筆記試験が終わった。



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