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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第一章、始まり

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18/62

18、興味

※??視点。

前回の続き。文章量少なめ。

 彼女が作ったゴーレムの荷馬車と本物の荷馬車の荷台に子供たちを次々に乗せていく。

 作りもしっかりしていて、子供たちが乗っても全然大丈夫で安心した。


 ようやく自分の前に並ぶ子供たちを乗せ終わって一息つく。することもなくなったので何気に彼女の方を見る。彼女は一人一人に声をかけながら子供たちを丁寧に抱き上げて荷台に乗せていた。自分はあまり人と話すのが得意な方じゃないから素直に尊敬する。


 その時だった。突然森の木々がユサユサと葉を鳴らす音がして、ゴオーッという風が自分たちに吹きつけてきた。


 それは時間で言えば1秒にも満たないほんの一瞬。先ほどの強風があれだけ必死に姿を隠そうとした彼女を嘲笑い、容赦なく襲い掛かる。彼女はフードを押さえつけようと手をやったが、その甲斐虚しくいとも簡単に風はフードを剥ぎ取った。


 はらり…。


「あ…」


 彼女の声にならない音が空気を揺らす。


 それは花嫁のヴェールが新郎の手によって取られた時の感動とその美しさに誰もが言葉を失うひとときに近くて。


 (あら)わになったのは透き通るほどに白く滑らかな肌、すっと通った美しい鼻筋、薄ピンク色でぷっくりとした小さめの愛らしい唇。確かな毛量で少し上を向いた長いまつ毛に縁どられ、自分たちの真上に広がる夜空を思わせる漆黒の瞳は驚きに大きく見開かれている。その瞳とお揃いの艶やかな黒髪は肩の長さくらいで緩く波打っていた。


 …見惚れる、というのはこういうことを言うのだろうか。


 煌々(こうこう)と輝く満月に照らされて輝く彼女の姿は、まるで月の精が地上に現れたかのようで。


 自分はその姿になぜか既視感を覚えた。妙な懐かしさがこみあげてきてモヤモヤする。彼女と自分は初対面のはずなのだが。


 その場にいた誰もが何も言えず、ただただ彼女に目を奪われる。


 彼女はそのまま固まったように動かなかったが、一早く我に返ってその瞳を悲しそうに伏せた。


 それを見て自分はなぜ彼女があれほど徹底的に姿を隠そうとしていたのかようやく理解した。この国では、黒という色は災いや死を表す不吉な色だから。そんな色を体に宿した彼女はさぞ生きづらかっただろう。


 しかし自分は彼女のことを恐ろしく思うことはなかった。むしろ美しいと、心の底からそう思った。


 …なのに。

 かける言葉が見当たらない。彼女はきっとその姿を見られたことでショックを受け悲しんでいるのだろう。頭では分かっている。だが気の利いた言葉の一つも出てこない。



 沈黙を破ったのは、その姿をいちばん近くで直視しただろう彼女の目の前にいた幼い男の子。


 男の子は屈託ない笑顔で「きれいだね」と笑いかける。それを聞いて顔を上げた彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。


 ああ、そうだ。なんでその一言が言えなかったのか。その男の子の言葉がどれほど彼女を救ったのか、その表情を見ればすぐ分かる。貴族の令嬢にいつも囲まれているのに、目の前の彼女一人にこれほど心を乱すなんて笑えるな。しかも相手は今日会ったばかりの女の子だというのに。


「ありがとう…」


 男の子に返事を返した後で、彼女の頬を伝って涙が一筋こぼれる。その一雫(ひとしずく)すら彼女の美しさを際立たせる装飾にすぎなかった。



 ***



 町に帰ると、町の中を多くの騎士たちが徘徊しているのが見えた。おそらく自分たちがいなくなったことを受け、騎士団に捜索要請が出されているのだろう。


 騎士団長であるロベルトは事情を知ると同時に部下たちへ指示を飛ばし子供たちの保護を開始した。彼女はしばらく自分たちの隣でじっとしていたが、耐えきれなくなったのか逃げ出そうとしてあっさりロベルトに捕まっている。


 彼女にとってはこの場にいるのは不本意で、早く帰りたがっているのが目に見えて分かるけれど、ここで逃がすわけにはいかない。聞きたいことが山ほどあるし、それに話したいことだって。彼女のことをもっと知りたいと素直にそう思ったから。


 自分の予想では、彼女はおそらく平民などではないだろう。平民にしては魔力の制御がしっかりと出来ているし、言葉使いも少々砕けてはいるものの丁寧で美しい。その上汚れのない平民の服装だなんて。これらのことから推測するに貴族の令嬢がお忍びで下町に遊びに来て、自分たちと同じように攫われたと考えた方が矛盾がない。

 もし貴族の娘だったならば、これからもっと会う機会も増えるかもしれない。などという希望を抱いている時点で自分らしくないけど。


 これほど他人に興味を持ったのは初めてだ。それは単に彼女の容姿が美しかっただけでなく、その物怖じしない堂々とした態度も自分にとって珍しかったから。おそらく他の二人もそう感じたと思う。心なしか、彼女と話しているときの二人は社交の場で見せる嘘くさい笑顔の仮面をはがされ自然体に見えた。


 だが、そんな自分の願いも虚しく、彼女はそのお得意の魔法を使って町の喧騒の中に消えていった。

 その逃げ足の速さは野生の猫を思わせる。


 彼女が残してくれたのは、ロベルトが聞き出したあいりという名前と瞼の裏に鮮明に焼き付く容姿だけ。でも手がかりは掴めた。名前と顔さえわかれば、人一人探すのなんてお手のもの。…どうせ自分だけでなく、二人も同じこと考えてるんだろうな。あんなに面白い人間はそういない。この状況で彼女のことをもっと知りたいと思わない人の方が少ないだろう。


 言葉を交わしたのはほんの少しの間なのに、こんなにも彼女のことが頭から離れないなんて。


 どうかしている。…本当に。

次回からは主人公視点に戻ります。

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