15、帰路
今回文章量多めです。
「どうだい?これで僕らに対する認識を改めてもらえたかな」
「…ええ、そうね…」
改めるなんてもんじゃなかった。
もしかしなくても、彼らがあの部屋で異常なほどにきつい拘束をされていたのってこういうこと?
今の私からみた彼らを一言で言うなら、魔法の扱いに長けた身体能力高すぎ少年と大の大人を一発で倒す怪力少年だ。
そういうことならあの酷い待遇も納得できる。しかし、これだけの実力がありながらなんで捕まっていたのかという疑問は残るけど。
ああ、でも一つ納得した。それは私が魔法を使った時に彼らが左程驚かなかったこと。普通の人は私の常識外れの魔法を見たら絶対驚くし、腰を抜かす人も少なくないのに。それだけの強さを持っていたら別に私の魔法なんてなんでもないのかな。
私が戦闘シーンを見てないのはあと紫髪の少年だけだけど…。この流れからして彼も強いってことなのか?いやでも、この少年、線が細いし見た目的にはあんまり強そうじゃない。実際のところどうなんだろう。
そんな私の眼差しに気づいたのか、少年の冷ややかな目が向けられる。
「…何か?」
「なんでもないわ!!」
こ、こわっ!
絶対零度の瞳に射抜かれた私は慌ててその少年から視線を外した。
彼からは他の二人のような友好的な雰囲気が一切感じられない。でも考えてみたらそれが当たり前の反応か。自覚してるけど今の私は相当怪しい人物だしね。
「あーあ。手ごたえがなくてつまらなかったなぁ。もっとやりがいがある相手だと思ったのに」
「お前とやり合える奴なんてそうそういないだろう?」
残念そうに溜息をつく金髪の少年が、閃いたと言わんばかりの顔をして、
「そうだ!君ってあの不思議な魔法を使える上に精霊術師でもあるんだよね?ぜひお手合わせ願いたい」
と、言い放った。
えっと…何ヲ言ッテイラッシャルンデスカ…?
そもそも私と互角で戦える相手なんて、私はライファ以外に知らない。いくら少年がそこそこ魔法を使えたとしても無理っていうか…。
ここ数年はライファとしか魔法の実技訓練を行っていないから加減が分からないし対人戦は危険すぎる。
それにもし誤って彼に大怪我させようものならとんでもないことになるのは容易く想像できる。なにせ相手はどこぞの貴族の息子。確実に大量の慰謝料を請求されて、爵位剥奪もあり得る…。
「…魅力的なお誘いだけど、今は無理ね。町へ無事帰ることが出来たら考えるわ」
「そうだぞ。こうしている間にも夜がどんどん更けていくだろ?この子供たちを送るのも、早い方がいいい」
銀髪の少年の援護攻撃が聞いたのか、金髪の少年は渋々頷いた。
「それもそうか。じゃあ、今すぐにでもここを出発しよう」
その言葉を合図に、気を取り直して再び御者台へと乗り込む。よーし、今度こそ!!気合いを入れてゴーレムちゃんに魔力を注ぐ。
ギギ、ガガガ、と音がして、土で出来た馬がぶるぶるっと首を振った。うん、成功したみたい。私と同じ御者台に座ることになった銀髪の少年が感嘆の声を漏らす。
「…すごいな」
まあ?私くらいになると、これくらい余裕っていうか?出来て当然だけど?
…はい、調子に乗りましたすみません…。
気持ちを切り替え、ゴーレムちゃんに頭の中で指示を飛ばす。
(真っすぐ進んで)
パカラッパカラッ
小気味の良い音で軽やかに馬(ゴーレム)が走り出す。
ふー…思いがけないハプニングもあったけどこれでようやく屋敷へと帰れるのね。二度とあんな目に会うのはごめんだわ。次にお忍びで下町へ出るときには絶対裏道なんかに入らないようにしないと。
今回の出来事で身をもって知った教訓を胸に、無言で馬を走らせる。
暫くの間そうしていただろうか。急に隣の少年が話しかけてきた。
「少し質問してもいいか」
「何かしら」
「お前は本当にただの平民の娘なのか?一体何者なんだ?」
「さあね。どうだっていいでしょう、そんなこと」
「名前はなんていうんだ?」
「なんで名乗る必要があるのかしら」
「俺が知りたいから」
「じゃあ、私は答えたくないから答えないわ」
どうせこの少年には二度と会うことはないだろうけど、念には念を入れないと。
もし私の素性がバレたら、礼節に厳しい貴族社会のことだ。少年の両親から息子を助けてくれたお礼にと大量の贈り物が届いて、最悪は伯爵令嬢を危険にさらしたお詫びと責任を取って求婚状が送られてくるかもしれない。大袈裟って思うかもだけど、これが貴族というものなのよ、実際。
そんなことになったら好きでもない相手と結婚しなくちゃいけない彼らが可哀そうだし、私も可哀そうでしょ?
幾度となく質問をぶつけてきた少年も、私が絶対に答えないと分かったからなのか、そのうち口を閉ざした。
馬の蹄の音だけが静かにあたりに響く。そして‟メモリアル・ブック”の風景を参考にとうとう私が目を覚ました地点まで到着した。
『ライファ、これから先の町までの道のり、分かったりする?』
<どうだったかなあ。何せここを通ったのは何日も前だから。あまり覚えてないかも>
ライファも覚えてないのか…。ここまできて町に戻る道が分からないなんて間抜けすぎる。
「お、ここタンバード平原か」
「ここどこかわかるの?」
「ああ、この道は俺の離れた領地に行く際必ず通る道だからな」
「申し訳ないけど道案内を頼める?ここから先の帰り道が分からなくて」
「分かった。引き受けよう」
ひとまずここで迷子になることはなさそうでよかった。少年の案内の元、道を進む。
静かすぎる後ろの荷台に目をやると、子供たちは互いに身を寄せ合って静かに寝息を立てていた。
今日一日でいろんなことがあったものね。さぞ疲れていることだろう。早く家に帰してあげないと。
出発してからどれくらいの時間がたったのだろうか。私たちの目と鼻の先に活気あふれる下町、リコーラの町明かりが見え、喧騒とざわめきが聞こえてきた。が、やけに騒がしい。リコーラは夜も明るい下町だけど、この騒がしさは一味違うものというか…。
いざリコーラに足を踏み入れようとした時、私たちに向かって本格的な武装をした40代ほどの男性が声を張った。
「そこ、ちょっと止まりなさい!!」
言われた通りにその場で馬を停止させる。何かあったんだろうか。
「ちょっと聞きたいことがある。我々は数日前から、姿を消されたあるお方の行方を捜しているんだ。我々の考えでは誘拐の線が高いと踏んでいてね、こうして街へと入るものには全員に声をかけているのだが…」
そう一気にまくし立てた男性は、こちらの様子をまじまじ見るなり驚きの声を上げた。
「君たち、まだ子供だよね…?なんでこんなものに乗っているのかな?親御さんはどこにいるんだい」
こちらが子供であることを知った男性は急に口調を和らげて尋ねてくる。
私はその男性の発言から探し人がこの少年たちかもしれないと何となく悟った。やっぱりいいところの出なのね…こんな大捜索されるほどの。名乗らなくてよかったわ…。
すると、いつ荷馬車を降りたのか、金髪の少年が一人でこちらへ向かってきた。
「すまないね、心配をかけたみたいで。僕はここにいるよ。君、事情は後でゆっくりと話すからロベルトを呼んでくれないか」
堂々とした振る舞いでその騎士らしき人物に慣れた様子で命令する。
「っルーク様!よくご無事で…!!分かりました。今すぐ団長をお呼びしましょう!」
男性はすぐに踵を返して、誰かを呼びに行った。
なんだなんだ?これ以上人が増えたら帰るに帰れなくなりそうな予感…。あの人って騎士団所属の騎士さんでいいのかな。じゃあ荷台にいる子供たちももう安心だね!
ってことで私はここらへんで失礼させてもらいますよー……。
なるべく気配を消しそろりそろりと後ろに後退する。金髪の少年と銀髪の少年は二人で何やら会話してるし、逃げるなら今だっ!!
走り出そうと後ろを振り向いた瞬間、
「何をしているのです?」
いやあああああ、でたああああああ!!!!
驚くほど美しい造形の顔面が超至近距離で私の瞳とかち合う。急に人が現れたことと、あまりにも近い距離に腰を抜かしその勢いで後ろに体が傾く。たっ、倒れる!!
「…っと。お怪我はありませんか?」
冷静にかけられた低音が脳に響いて、反射で瞑った目を開ける。
飛び込んできたのはすっと細められた冷たげの印象を与えるアメジストの双眸。
固い地面へ強打するはずだったお尻の痛みは一向に来ず、代わりに細いながらもしっかりと私を抱きとめた力強い腕を感じる。自分のものではない他人の体温。
固い胸の中に収まった私の頭と腰に回された手から伝わる感触は、男の子と呼ぶより成熟した男性のそれに近い。その体を意識した途端、彼に触れられている部分が急激に熱を持ち始め、心臓が暴れだす。
直後私はその腕の中から逃れるように彼を思いっきり突き飛ばしていた。
作者はチョロい女なのでこのラブハプニングがあった時点で紫髪の少年に惚れてる…。
顔が良いって罪だ…。




