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異世界転移系少女は友達が欲しい  作者: 夢河花奏
第一章、始まり

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11、襲撃

「おい、まだ出口に着かないのか」


「仕方ないでしょ、あなたたちの捕まってた部屋が一番奥の入り組んだところにあったんだから」


「それにしても、遠すぎるというかなんというか…。道を間違えているのでは?」


「そんなことないわ。それに今向かっているのは出口じゃないもの」


 そう答えながら足を止めることなく走る。先ほどからさらにあの嫌な魔力が近づいて来ているのが分かる。追いつかれるのも時間の問題かもしれない。


 やっぱりもう少しちゃんとした作戦を立てておくべきだったな。扉に魔法がかかっていたことも予想外だったし、鎖を切る方法も考えていなかったし…。

 それもこれも今更言っても仕方ないことだ。次にもし同じような事があったとしたら気を付けよう。…いや、同じことが起こらないに越したことはないんだけど。


「…気のせいかな?出口に向かっていないって聞こえたんだけど」


「気のせいじゃないけど?今向かっているのはあなたたちの他に捕まっている子が収監されている場所よ」


 えーっと、確かここの分かれ道を右で、その次を左…。

 こんなに面倒くさい道を作るなんて、ここを作った人はどうしようもないくらい性格が悪いに決まっている。地図があっても迷ってしまいそうだ。


 しかも彼らが捕まっていた部屋までの道は、あまり人が来ないためなのかとても埃っぽかった。衛生環境最悪すぎ…。まあそれだけ使われることが滅多にない部屋ってことね。あんなところで何日生活していたのか知らないけど、私だったら耐えられない。


「ねえ、まさか君、全員助け出そうとしてる?それがどれだけ難しいことか分かってるのかい。一回外に出てから救助を呼ぶのではだめなのかな」


「俺たちだけでも先に逃げた方がいいんじゃないか?」


 まあ、普通はそう考えるよね。しかし事態はそんなことを言っていられない状態だ。C級の子供たちがここで明日を迎えるようなことになったとしたら…。


「あなたたちの判断は正しいと思うわ。でも、知ってる?ここにいる子のうち明日奴隷として売られていく子が何人いるか」


 答えは10人。それだけの子が明日が来れば絶望に顔を(ゆが)ませることになるだろう。


「私たちが先に外へ逃げて救助を求めても、国の騎士団がここに派遣されてくるまでどれくらいかかる?」


 まず、役所に報告を上げ、役所から騎士団派遣の要請を上に出す。許可されたらようやく騎士団に通知が行って救助のために出発する。早くても二日はかかるだろう。


「そんなんじゃ間に合わないの。今ここで助けに向かわないとその子たちの将来が取り返しのつかないことになるのよ」


 そんなのあんまりだ。これから先の長い人生、まだまだ経験したことないような楽しいこと、辛いこと、さまざまな出来事が待ち構えているはず。そんなあの子たちの平凡でいて幸せな人生がこんなところで闇に葬り去られてしまうなんて。


 今この瞬間、あの子たちを助けられる存在は私たちしかいないんだとしたら。私は迷わず手を差し伸べる選択をする。


「逃げたければあなたたちだけで逃げればいい。道は私が覚えているから教えてあげる。私は一人でも他の子の元に向かう。あなたたちは先に出ていていいわ。弱い人を先に逃がすことは当然のことだものね」


 …そうだ、そうだった。元から私は誰かに頼るような柄じゃなかったわ。今までだって自分のことは全部一人でやってきた。彼らがあまりにも私に普通に接してくれるから、初対面なのについ気を許して仲間意識が芽生えてしまっていた。軽く頭を振ってそんな淡い幻想を自ら打ち壊す。


「っ、お前な!ルークはそんなつもりで言ったんじゃ、」


「僕は大丈夫だから、落ち着いて。分かった、ここは彼女にならって僕たちも救助を手伝うよ」


「しかし、よろしいのですか。ルーク様」


「よろしいも何も、僕たちが弱いって思われていることは心外だからね。その誤解を解くまでは素直に帰れないかな」


「これだから負けず嫌いは…私も協力いたします」




 なんだかんだで協力してくれることになった三人をつれて他の子供たちが捕まっている場所を目指す。少しこのアジトの構造に迷いながらもなんとかそこへたどり着いた。


 私の魔法でドアを破壊したり、檻の柵を捻じ曲げたり、ロープを燃やしたりと、やや強引な方法で次々と捕まっている子供たちを助け出していく。

 助け出された子供たちの反応は様々だった。私たちを見るなり安心して泣き出す子や、驚きつつもほっとした表情を見せる子。その子たちにお礼を言われるたびに私の決断は間違っていなかったのだと思う。


 それに彼らについてきて貰って正解だったかもそれない。助けた子供たちの中にはもう立てない程に衰弱している子が数名いて、彼らは快くその数名を担いで走ることを買って出てくれたからだ。


 こういう時男の子って体力があって羨ましいな。私もそれくらい力があったらいいんだけど。


 外に出ることは滅多にない引きこもりみたいな生活をしていたためか、少し走っただけで息が上がって苦しく感じる。我ながら情けないな…ハハ…。


「よしっ!ここの子供たちで最後だからみんな頑張ってね」


「やっとか…。多かったな」


「そうだね…。正直驚いた。でもようやく家に帰れると思うと嬉しいよ」


「ですが、帰った後が怖いですね。どんなお叱りを受けるか」


(そうだよね、その気持ちわかるよ…)


 私も家に帰った後、お父様とお母様になんて言われるか今から怖くて仕方がない。心の中で深く同情して最後の一人を檻から出してあげる。その子は私がここ来て最初に見かけた泣いていた男の子だった。


「ぐすっ、ぐすっ。おねえちゃん、ありがとう。ぼくたちお母さんに会える?」


「会えるよ。ここを出たらお母さんのところへ一緒に行こうか」


 男の子を安心させるように屈みこんでその子と同じ高さに目線を合わせ、できる限り優しい表情をして見せる。きっととても怖い思いをして過ごしてきたのだろう。男の子の肩が小さく震えていることに気づく。私は思わず男の子の体を抱きしめる。本当に良かった…この子たちの将来を守ることが出来て。


 そう思ったのも束の間、背後からいきなり風を切り裂くような音がする。


「危ないっ!!」


 誰かの悲鳴に近い声と聞こえた音から何者かに襲撃されたのだと少し遅れて理解する。

 魔法の発動が間に合わないことを悟った私の行動は早かった。

 私は衝動的に子供たちの前に飛び出す。両手を広げ、来るであろう衝撃を予期し、目を瞑る。大丈夫よ。私が傷ついても、さっきみたいに治癒魔法を使えばいい。多少痛いかもしれないけど、それくらいどうだってことない。


 ……私は痛いことや辛いことに()()()()()()()()()……。


「‟プロテクト・エリア”!!」


 あ、あれ、痛みが来な、い…?

 恐る恐る目を開けると、金髪の少年が子供たちを庇う体勢の私のさらに前に立っていることに気づく。…もしかしなくてもこの少年が守ってくれたの?


 そんなことより!!私は自分のことは後回しにし、急いで後ろの子供たちの無事を確かめる。


「みんな、大丈夫っ!?」


「う、うん!」


 それにしても私があの魔力に接近に気づかないなんて。やはりここ最近、魔法を使いすぎて体にすごい負荷がかかっていたのだろう。さっきまで検知できていた魔力が検知できなくなるくらいに。


 普通なら栄養のある食事と休息をとることで一日もあれば自然に魔力の回復ができる。しかし、ここで出される食事はパンと水のみだったから、魔力を十分に回復することも出来なかった。こんな時にその影響が出てくるとは。


「人の心配してる場合?君は大丈夫だったの」


 その言葉で私は後回しにした自分の体に異変がないか確かめ始める。うん、私も大丈夫そう。


 っていうか!この少年、今魔法使った!?驚きと感心を込めて私より少し背の高い少年を正面から見る。魔力持ちは貴族に多いといっても、その数は年々減ってきていると聞く。まさか彼も私と同じように魔力持ちだったなんて。


「ありがとう、助かったわ」


「どういたしまして。でも気を抜くのはまだ早いんじゃないかい?」


 そう言って彼は後ろを振り向き険しい顔をした。つられて私もその方向を見ると、


「何してくれちゃってるんですかね。誰なんですか、こんなことをする悪い子は」


 想像通りあのヒョロヒョロのっぽがこちらに向かってゆっくり歩いてくる。まだアジトを脱出していないのに追いつかれるなんて。ここは何とか足止めして他の子を全員外へ出すだけの時間を稼ぎたいところだ。



「逃げられると困っちゃうんですよ。上から怒られるので。特にその三人。君たちだけは絶対逃がしませんよ」


 あの男の本命は私が最初に助けた三人の男子たちらしい。ほんとに何者なの。正体を知りたいような知りたくないような……。いや、これは知ってはいけないパターンだ。

 自称本の虫の私から言わせれば、禁断の秘密を知ったことで口封じに命を狙われたり、どこかへ幽閉されたりしちゃうやつだ。よし、私は何も知らないし聞いていないぞ!!


 とにかく私が足止めしている間にほかの子たちには地上へ出ていてもらおう。見られていると、思いっきり魔法が使えない。



「みんな、先に行って!私が足止めするから。この道を真っすぐに進めば外へ出れる。私も後から行くわ」


「でも、お姉ちゃんは…?」


「私は大丈夫よ。お姉ちゃん、こう見えても結構強いんだ。だから安心して、ね?」


 私にしがみついてきた女の子に優しく言い聞かせる。納得する様子のない女の子に困った私は金髪の少年に声をかけた。


「ねえ、この子たちをお願い。安全な場所まで連れて行ってあげて欲しいんだけど」


「何を言ってるんだ。君一人で戦うなんて危険すぎる。僕だって残るよ。僕が魔法を使えるの見てただろう?」


「いや、ここは俺が残る。ルーク達はみんなを連れて先に外へ出てろ」


「でも、」


「でもじゃない。お前の身に何かあったらどうするんだ。俺に任せてくれ」


「…わかった。上で待ってる」


「ああ」






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