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last flavor

作者: Maria

ほのかに風味漂う。

どうやらその瞬間(とき)が来たみたい。






「ずっと怖かったの。」

だってずっと大切に温めてきたの。

長い長い時間をかけて、やっと…




「涙が溢れてくるよ。」

だってね、こんなに簡単なんだもの。

一つ一つつみ重ねてきたものが、崩れるのなんてたった…




「本当はいつも思ってた。」

いつかはきっと、こんな瞬間(とき)がくるんじゃないかってさ。

きっと私、ずっと怯えてたの。







こんなに時間は経ったのに、見えないこの距離にいっつも不安だった。




近づけば近づくほどに遠い所へと、君は離れていくようで…






「大好きだよ。」

二人の言葉にきっと嘘などなかった。

そうだよね?




それでも…




「私の方が大好きなんだよ、きっと…」

愛に上も下も重いも軽いもないって、君は何度も話してくれたよね。




だけどね、やっぱり私は…




「もっと、君のぜんぶで愛してほしかったの。」

君にいっぱい愛されたかったんだ。







君は私の、私は君の居場所でいたかった。

私のぜんぶで愛すから、

私の全てを受け入れてほしかったんだ。




たった一人の愛しい君だけに…






「嫌だよ。」

風味漂う中、離れたくないって心から思うの。




「別れたくなんてないよ。」

そう口にできたらきっとどんなに楽だったろう。







"ただ好きなだけ"じゃダメなんだ。

好きなだけじゃ越えられないものがあるの。

私はそれを、この冷たい涙とひきかえに知りました。






"ありがとう"

本当はそう伝えたかった。

だけどね、()えなかったの。




たくさんのありがとうの代わりに、私はつないだこの手を何度もにぎりかえした。強く、愛しく、ただ一心に─






「大好きだったよ。」

二人の言葉は、きっときっと真実(ほんもの)だと、信じていいよね。






強くつないだ手と手を放して、二人は最後のキスをした。






形もなくて、見えないけれど、何よりも温かい2つの心にキスをした。







「バイバイ。」







ほのかな風味漂う。

そうしてその瞬間は、優しく終わりを迎えたのです。

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