表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/33

第31話「戦闘」

「……きたか」


 地平線の彼方が蠢く。

 黒い影のような揺らめきは、やがて大軍の土煙となって俺の目に届いた。


 立ち上がり、埃をはらう。

 深呼吸し、己を奮い立たせる。


 戦闘だ。

 今から俺は、死線に飛び込む。

 生きて帰れるかは分からない。

 いや、多分死ぬ。


 怖くないとは言わない。

 だが……それを振り切れるだけの覚悟はあるつもりだ。

 胸元で揺れるペンダントを握りしめる。

 彼女がくれたお守り。きっと効果があると信じよう。


 雄たけびが聞こえる。

 獣型の魔物が、群れを成して突っ込んでくる。

 ごくりと唾を飲む。


 彼我の距離はどんどん近くなる。

 だが、俺はまだ行動を起こさない。

 十分に引き付けるのだ。

 そうしてこそ、俺の用意した仕掛けが最大限に効果を発揮する。


 心臓が早鐘を打つ。

 大丈夫、うまくいくはずだ。

 何度も実験したんだ。あのときは、あまりに威力がありすぎて今後使うことはないと思った。

 この時のために必要なものだったのだ。

 魔物との距離、500メートル、400メートル、300メートル……


「……今だッッ!!」


 俺は手元の仕掛けに火を点けた。

 導火線が煙を吹き、内部にある物に着火する。

 その瞬間、凄まじい勢いで火球が飛び出した。


 火球は光を放ちながら空高く飛んで行く。

 魔物たちの足が止まる。

 何事かと、空中に放たれた謎の光を見つめる。


 そして、それが空中で静止したとき。

 閃光が辺りを白く染め上げた。

 一瞬遅れて、轟音が大地を揺るがした。


「ギャアッ!?」


「グワッッ!!」


 地上にいる何体かの魔物は、閃光と轟音でその場に伏せる。

 俺は目と耳を覆っていたのでダメージを受けなかった。

 そして、俺の用意した本当の仕掛けは……ここからだ。


 花火が無数の火球に分かれ、流星のように周囲に降り注いだ。

 地球では地面に落ちる前に燃え尽きてしまうが、この世界では炎は消えない。

 そのまま魔物に当たっても、ダメージを与えることが出来るだろう。

 だが、俺が用意したのは、そんな生易しいものではない。


 地面に撒かれた黒い液体。

 日本で手に入れてきた、ありったけの燃料だ。

 その表面から放たれる可燃性蒸気は、花火によって引火し――

 大爆発を起こした。


「くたばりやがれ」


 地面が沸騰したかのような爆発が無数に巻き起こる。

 爆炎は渦を巻き、魔物を容赦なく飲み込む。

 業火は簡単には燃え尽きない。

 灼熱の嵐は、魔物と街を隔てる壁となった。


 だが、魔物たちは只の動物ではない。

 人間を遥かに超える生命力で、その壁を乗り越える。

 肌を焦がしながら、炎の壁から魔物たちが現れた。


 俺は深呼吸を一つつくと、ガスマスクを付けた。

 地面にドカリと、日本から持ち込んだ中で一際重い道具を置く。

 道具から伸びるロープを引く。

 道具が唸り声をあげ、その身に力を宿す。


 両手で持ち上げ、魔物に向かって構えた後、トリガーを引いた。

 チェーンソーが唸る。

 その先端には、日本の加護によって研ぎ澄まされた無数の刃が並び、オイルエンジンによって回転しながらさらに威力を高めている。

 これが俺が手に入れられる中で、最も威力のあった武器だ。


「さあ、こいよ。コイツは神様だって切れるんだぜ」


 ゲームの中の話だが。

 だが、この世界でだって切れてもおかしくない。包丁が岩を切断するのだから。

 さあ、食らいやがれ――!!


 熊のような魔物が、俺に向かって突進してきた。

 俺は無造作にチェーンソーを突き出した。


「らあああああああッッ!!」


 熊はバターのように真っ二つになった。

 飛び散る血しぶき。

 それをはねのけ、次の魔物へと向かう。


「グワアアアアアッッ!!」


 牙を剥きだしにする魔物。

 チェーンソーを真横に一閃する。

 倒した。


 剣のような爪を持つ魔物。

 刀身ごとチェーンソーが切り裂いた。

 倒した。


 次々と、吸い込まれるように魔物たちがやってくる。

 敵の数なんて数えてられない。

 俺は無我夢中でチェーンソーを振るった。


 バッタバッタと倒れていく魔物たち。

 息が切れる。足がもつれて転びそうになる。

 だが、まだだ。まだ倒れるわけにはいかない。


 俺はまだ一撃も受けちゃいない。

 チェーンソーもまだまだ使える。

 魔物はそこにいる。


 切れ。倒せ。

 命が尽きるまで。


「ほお……素晴らしい武器だな。お前はこの街の戦士か?」


「……あ?」


 ふと声をかけられ、我に返る。

 足元には無数の魔物の死体が転がっていた。

 もう何体魔物を倒したのか……


 声のした方を向く。

 炎の壁を物ともせず、人型の魔物が近づいてきていた。


「見たところ、一人しかいないようだが。他に仲間はいないのか?」


 魔物は少女のような姿をしていた。

 一見すると、この場に不釣り合いな見た目だが……こういう奴ほど、敵の中では大物だったりする。俺は油断しない。


「仲間なんていらねえ。お前らクソ雑魚なんて、俺一人で十分だ」


 魔物の少女は笑った。


「へえ、言うねえ。どう見てもお前の方がクソ雑魚なんだけど。面白い。どこまでやれるか、見せてみな」


 少女が手を掲げる。

 すると、耳障りな音を立てながら、蜂のような魔物が空中から襲い掛かってきた。

 この俺に、虫ケラの魔物だと……なめんじゃねえぞ。


 ジャケットから二本の缶を取り出す。

 空中に向け、トリガーを引く。

 スプレーを浴びた途端、虫型の魔物はバタバタと地面に倒れた。


「すごいな! なんだそれ!? じゃあ、こいつはどうだ!?」


 少女が手を叩き、黒い波動が大気に広がる。

 波動が地面に浸透すると、ボコボコと邪悪な者たちが姿を現した。

 あれは、スケルトンにグール……それにリッチとか言う死霊の親玉か。


 ふん……そいつらは、この世界に来て三日で倒しつくしたぜ。

 腰のベルトに下げた懐中電灯を抜き放つ。

 スイッチをオンにした瞬間、闇を切り裂く一条の光線が放たれた。

 死霊たちが溶けるようにくたばっていく。

 それを見て、少女は目を丸くしていた。


「へえ……すごいな。ちょっと舐めてたかもしんない。お前、思ったよりもすごい戦士なんだな」


「戦士じゃねえ。ただの商人……いや、魔技師だ」


「魔技師!? すごい、そんな職業のヤツ初めて見た! ますますお前に興味が湧いてきたよ。そうか、そうか……」


 少女が俺に一歩近づく。

 その瞬間、ぞっとする感覚が背筋を駆け巡った。

 初めて……そいつが俺に殺気を向けたのが分かった。


 汗が一気に噴き出す。

 いよいよ、ボス戦か……

 徐々に死が近づいている気がする。

 ……いや、気のせいだ。俺は死なない。俺は負けない。

 このチェーンソーがあれば、どんな魔物だって……


 それは、偶然だったと思う。

 何気なくチェーンソーに意識が言ったことで、それを持ち上げた。

 その瞬間、火花が視界を舞った。


「あはッ!? やるうッッ!!」


「ぐッッ……!!」


 少女はいつの間にか剣を手にしていた。

 それが、眼前で振るわれた。

 死の刃は、俺に届く寸前だったが――チェーンソーが、それを受け止めた。


「この”崩剣”を防ぐなんて……その武器なに!? 何で出来てるの!?」


「……企業秘密だ!!」


 トリガーをひき、チェーンソーをスタートさせる。

 少女の剣は弾かれるようにチェーンソーを離れた。


「あはははっっ!! 面白ぉぉい!!」


「グッッ……!!」


 こいつ……遊んでやがる!!

 少女は俺の目で追えないぐらい速い。

 その気になれば今すぐにでも切り殺せるはずだ。

 だが、少女は執拗に俺のチェーンソーを狙った。

 まるでそれを壊せるか試すように。


「くそー、なかなか壊せないなぁ」


「くっ、このやろ……!!」


 俺は精一杯の抵抗を試みる。

 だが、まるで当たらない。俺の動きはもとより遅いが、チェーンソーが重いことでさらに動きづらい。

 こ、これじゃどうやったって……

 俺がさらに一撃加えようとした時、チェーンソーの回転が止まった。


「……し、しまったッッ!!」


 燃料が切れてしまった。

 チェーンソーの威力が一気に落ちる。

 次の瞬間、少女の一撃により、俺は紙屑のように弾き飛ばされた。


「ぐあっ……!!」


 歯を食いしばり、立ち上がろうとする。

 だが、震えてなかなか体を起こすことが出来ない。


「……えー、もう終わり?」


 少女が退屈そうに言った。


 ……てめえ、ふざけんじゃねえ。俺はお前らみたいなバケモンとは違うんだ。体力は人並しかないし、魔法だって使えない。それが命をかけて、相手してやってんだぞ……勝手に幻滅するんじゃねえ。


 ふらつく足で、ようやく立ち上がる。

 だが、少女はすでに俺の方を見ていなかった。


「もういいや。ちょっとだけだけど、楽しかったよ。バイバイ」


 少女が手を振ると、背後に待機していた魔物たちが俺に向かって突進してきた。

 俺はチェーンソーを捨て、腰から長い包丁を抜き放った。

 いよいよ、終わりか……ただの包丁では、俺は魔物数匹倒すのが関の山だろう。

 俺が包丁を正眼に構えた時……


「握りが甘い。全身に力が入りすぎている。それでは、切れるものも切れない」


 唐突に、声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ