表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/33

第29話「進軍」

 冒険者たちの街より西へ数千里。

 そこには、人が決して立ち入ることのない大森林がある。


 遥か昔、世界が光と闇に分かれて戦っていたころ……

 その森林には、闇の軍勢が現れたという扉があったとされる。


 森は今も魔物が満ち溢れ、危険な領域となっている。

 百戦錬磨の冒険者であっても、そこに近寄ることはなかった。


「おーいみんな、そろそろ休憩しねえかぁ」


 木を切る男たちに、風呂敷を下げた男が声をかけた。

 男たちは振り返り、手を止める。

 切り株の上に腰かけ、弁当を食べ始めた。


 ここはのどかな村。

 開拓当時は闇の勢力との最前線だったこの村も、今は争いの影もない。

 時折村に近づく魔物も、冒険者によって退治されるのみ。

 脅威と呼べるものはないはずであった。


「……ん?」


 木こりの一人が、ふと森へと目を向ける。


「どうしたぁ?」


「いや、なんか、ざわざわ聞こえて……気のせいかなぁ」


 頭を掻きながら、弁当へと目を戻す。

 その瞬間。

 轟音を立てながら、木々が倒れた。


「な、なんだぁ!?」


 全員が一斉に森を見る。

 木々が光を遮り、夜のように暗い森。

 その影の中で、灯篭のように揺らめく無数の赤い光があった。


「あ、あれは……」


 木こりが腰を浮かせ、徐々に顔が青ざめていく。

 すぐに正体は明らかになった。

 筋骨隆々の、獣型の魔物。

 その群れが、木こりたちを見て笑みを浮かべた。


「ま、魔物だあァァ!! 逃げろぉッッ!!」


 弁当を捨て、慌てて駆け出す木こりたち。

 蹂躙が始まった。

 獣の足は、速く鋭い。

 なすすべなく斃れる人々。


 森から闇が広がるように、無数の魔物たちが溢れだした。

 魔物たちの群れ。その殿に、小さな影がゆっくりと歩み出た。

 影は眩しそうに空を見上げる。


「久しぶりのシャバの空気はうめえぜ……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「……っしゃー!! とうとう完成した!!」


 家だった物を見上げ、拳を握りしめる。

 今まさに、看板がつけられ、家は生まれ変わる。


「やりました! ご主人様!」


「ああ! 俺の店だ!」


 とうとう俺の店が完成した。

 王都から営業許可も届き、いよいよ商売を始められる。


 看板には店の名前が書かれている。

 その名も、「激安の殿堂」だ。

 ……え? パクリじゃないかって?

 いやいや、あっちは「驚安の殿堂」だから。第一、この世界に商標権はねえぜ。


 ともあれ、後は商売をはじめ、売って売って売って、儲けて儲けて儲けるだけだ。

 アイツにも報告に行かなきゃな。

 色々あったが、オレも一国一城の主だ。

 今度は、断られないと良いんだが……


 マナと二人でアイツの家に向かう。

 アイツは今頃、家の中に引きこもって青白くなっている頃だろう。

 手土産のクッキーは用意しておいた。

 これで邪険にされることはあるまい。


「……あれ? ご主人様……」


「どうした? マナ」


「なんか、街の雰囲気がちょっと違うような……ざわざわしてるというか」


「そうかあ?」


 何気なく道行く人を見てみる。

 ……確かに、あわただしい人が多いような……

 あれ? 今日、なんかあったっけ? 祭りとか?

 そんな感じじゃないな……


 不審に思いながらも、俺達は魔法使いちゃんの家についた。


「おーい、クッキーもってきたぞー。家に入れろー」


 やがて、ガタゴトという音と共に、魔法使いちゃんが姿を現した。


「……なんだ。君か」


 今日の魔法使いちゃんは、なんというか……妙にやつれていた。髪がボサボサで、目に隈が出来ている。


「おい、なんだその髪は。目は。もしかして、今まで寝てたのか?」


 魔法使いちゃんは気だるげに俺を見た。


「……ああ。ちょっと、混沌の夢を見ていた」


「あん? 混沌の夢?」


 彼女の家に入る。

 相変わらず陰気な家だ。

 彼女は熱いお茶を三杯入れ、テーブルに置いた。


「私達魔法使いは、魔導の力を引き出すために、魂が闇に近い所に位置しているのだ。そのせいで、時々悪夢や予知夢を見ることがある」


「へえ。どんな夢?」


 彼女はお茶を飲みながら、ジトッと俺を見た。


「……言いたくない」


「さいですか。よっぽど嫌な夢だったんだな」


「……いや、夢の内容はさして問題じゃない。問題は夢を見たということだ。こういう場合、大抵は……」


 言いながら、彼女は部屋の端にあるごみを漁りだした。いや、乱雑においてあるから俺にはゴミに見えるだけで、違うのかもしれないが。


「よいしょっと」


 ごとりと、机の上に綺麗な球体が置かれる。

 俺とマナは、まじまじとそれを見つめた。


「なにこれ。水晶?」


「ああ。ちょっと黙って見てろ」


 彼女は水晶に手をかざし、ブツブツと唱え始める。

 おお、すげえ。本当に魔法使いみたいだ。


「こ、これは……!!」


 彼女が戦慄を顔に滲ませながら呻いた。

 手元の水晶は、黒く濁った闇に満ちている。


「なになに? 何が見えたの?」


 爪を噛む彼女に、問いかける。

 その表情から、ただならぬ事態が起きているのは予測できたが……


「マサルッッ!! いるかッッ!?」


 突如、家の扉が開け放たれた。

 セアーラさんが息を切らせながら立っていた。


「ど、どうしたの?」


「大変なことになってるぞ……!!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 街は騒然としていた。

 荷物を大量に抱え、急いで竜車に乗り込む者。それに文句をつける先乗客たち。

 通りは竜車に乗り切れない人で溢れていた。


「こ、これは一体……」


「闇の勢力だ」


 魔法使いちゃんが深刻そうな顔で言った。


「闇の勢力?」


「ああ。遥か昔、人々を脅かした魔物の軍勢がこの街に迫っている。魔王か、それに準ずる強力な存在が目覚めたか……」


「ま、魔王? それでなんでみんな、こんなに慌ててる訳?」


 戦えばいいんじゃないの。

 冒険者のみんなは強いし、いっつも魔物を倒してるでしょ。追い払えばいいんじゃない?


「西の街から逃げてきた住民によると、魔物たちは破竹の勢いで途中の街を滅ぼし、こちらに向かってきているらしい。今の所、止める手立てはないようだ」


 セアーラさんが言った。


「え? 戦えないの? 忍者のおっさんとか、セアーラさんとか。ドラゴンとか倒してるじゃん。魔物の軍勢だって……」


 セアーラさんは首を振った。


「マサル。強い人間が一人二人いたからって、どうなる相手じゃないぜ。遥か昔の戦いでは、人間達は防戦一方だったんだ」


「で、でも、こうして街は残ってるじゃん。世界は魔王の物になってないじゃん。勝てたんだろ?」


「それは魔王との戦いの最中、勇者が出現したからだ。勇者は圧倒的な力で魔物を滅ぼした。だが、今はその勇者はいない。まだ現れていない」


「え……」


 ……なんで、そんな、悲観的なの。

 セアーラさん、すごい強いじゃん。

 え、魔法使いちゃんも……なんでそんな、暗い顔してるの……


「マサル、はっきり言うぞ。逃げた方がいい。今度は人間相手の戦いじゃない。間違いなく殺される。せっかく店が出来たところ気の毒だが……こればっかりはどうしようもない」


 魔法使いちゃんが俺に言った。

 彼女も、セアーラさんも、マナも……一様に不安そうな顔で俺を見ている。

 ……そうなのか? もう、諦めるしかないのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ