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第28話「帰還」

 妙に体が重かった。

 それも当然かもしれない。

 獣人とあれだけの死闘を繰り広げたうえ、いきなりの裁判だ。


 もう、精魂尽き果てたのだろう。

 今まで俺はよくやった。

 ここで死んでもしょうがない。

 マナ、ごめん。俺は一足先にあの世に行きます――


「……あん?」


 と思ったら、目が開いた。

 あの世に召されるにはいささか早かったようだ。

 いや、そんなことより、この胸にのしかかるような重みは一体……

 布団をどけてみる。

 果たしてそこに、正体はあった。


「んんにゅう……」


「はふう……寒い……」


 大きな子犬と、ブロンドの西洋人形が一体。

 もとい、マナと魔法使いちゃんが俺の胸の上で寝ていた。


「お、お、お、お前ら……」


 体が一気に熱くなる。

 お、俺は……女の子二人と、一つのベッドで寝ていた……?


「お前ら、どけえ~~~~!!」


 布団を蹴飛ばし、二人をベッドからどかした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 着替えを終え、朝食をみんなで食べる。

 滅茶苦茶腹が減っている。しばらくまともに食事をとっていなかった。


「私は寝相が悪いんだ。寝ている間に偶然お前のベッドに入ってしまったようだ」


 魔法使いちゃんが肉を頬張りながら言った。


「それ本当に寝相だと思う!? 事実なら夢遊病っていう病気だよそれ!?」


「そうだな。病気かもしれないな。これからもちょくちょくお前のベッドに入るかもしれない」


「医者に行け!!」


「ご主人様……ごめんなさい……ボクは、ご主人様に会えたのが嬉しくて……我慢できずに、入ってしまいました……」


 マナがシュンとしながら言った。

 耳が気弱気に垂れている。


「そ、そうかそうか……まあ、マナはしようがないな。……こ、今度から、一緒にベッドで寝る……?」


 誘ってみた。

 言った後に、犯罪的なセリフだと思う。

 魔法使いちゃんが椅子から立ち上がった。


「それはけしからんぞ! 不純だ! 不潔だ!」


「病気なら不純じゃないとでも言うつもりか!?」


「ご主人様は汚くありません!!」


 俺とマナも立ち上がる。

 セアーラさんが迷惑そうに俺たちを見た。


「あーもう、うるせえなぁ。静かに食えよ!」


 彼女の一喝で、騒動は収まる。

 食事を終えた後、全員で身支度を整える。

 宿をはらう準備は出来た。


「マサルさん、王都のでの騒ぎ、本当にすみませんでした」


 宿を出ると、セアーラさんの兄のダンさんがいた。

 彼は申し訳なさそうに俺に頭を下げた。


「いや、こちらこそ色々面倒なことになってすみません。お世話になりました」


「妹の事、よろしくお願いします」


「はい。しっかりお預かりします」


「けっ。世話してんのは俺の方だよ……」


 そうだな。彼女の言い分はもっともだ。

 彼女にはこれからもお世話になるだろう。

 その分も含めて、お兄さんには頭を下げておいた。


 王都の市場へと出向く。

 流石に首都ということもあり、俺達の街とはけた違いの規模だった。

 見る物全てが新しい。


 俺達は屋台の食べ物をつまみながら、旅に必要なものをそろえていった。

 帰りも三日かかるからな。食料も武器もしっかりそろえておかないと。


「……あっ。ご主人様、あれ見てください!」


 マナが指さす方を見る。


「なんだありゃ」


 人が集まっている。

 一組のカップルが横に並び、その前に一人の男が立っている。彼らを取り囲むように、人だかりが出来ていた。


「はーい、動かないでくださいね……はいっ。出来ました!」


 男がカップルに紙のような物を手渡す。カップルは非常に嬉しそうだ。


「こ、これは……写真か! この世界にもあったのか!」


「写真? なんですかそれ」


「私も初めて見るな。前に王都にいたときはなかった」


 マナと魔法使いちゃんが不思議そうな顔をする。


「その場所の風景を一瞬で切り取って、絵にすることが出来るんだよ! ……こいつは驚いた」


 おそらく、動作原理などは地球の物とは違うだろうが……多分魔法とかで出来てるんだろう。そうか、写真か……それなら、俺の店でも扱えるな……


「ご主人様! ボク、あれやってみたいです!」


「私も気になる」


「……おお? そうか。じゃあ、せっかくだし。みんなで撮ってもらおうか。ほら、セアーラさんも」


「ん? ああ」


 列に並びながら、俺達もしばし順番を待つ。

 俺達の番が来て、四人で一列に並んだ。


「はい、笑ってくださーい」


 俺はぎこちない笑みを浮かべ、マナは花が咲いたような笑みを浮かべた。

 魔法使いちゃんは小さく微笑み、セアーラさんはぶすっとしたままだった。


「はい、出来ましたよー」


「わあ!? すごいです、ご主人様!」


「おお、よく撮れてる……地球の写真と違って荒っぽいけど、逆に味があっていいな……」


「ほほう……こんな魔道具があるのか」


 しかし、こう並んでみると……俺は浮くなぁ。

 マナも魔法使いちゃんもセアーラさんも、みんな綺麗だからなぁ。

 俺だけ猿みたいだよ。とほほ。


「へえ……マサル。初めて会った時はちょっと頼りなかったけど……結構様になって来たな」


 セアーラさんが写真に写った俺を見て言った。

 え? そう……?

 自分で思ったより、周りの人はかっこいいと思ってるのかなぁ。

 そんならまあ、この写真も大事にしとくか……


「発車しまーす」


 御者の気の抜けた合図で、竜車は進んだ。

 行きでは盗賊に遭遇したので、帰りも油断はしない。


 旅は順調だった。

 盗賊にも魔物にも遭遇することはなかった。


 そして、三日後……


「帰ってきたあぁ~~!!」


 竜車から降り、思い切り伸びをする。


「早くお家で休みたいです……」


「ああ、そうだな」


 俺も疲れた。

 今日は帰ってすぐに休みたい。


「待ってろ。すぐに飯を作ってやるからな。そしたらぐっすり寝よう」


 セアーラさんとマナが家へと入っていく。

 俺もそれに続こうと思い、扉に手を掛けるが……

 ふと、思い出したことあり、立ち止まった。

 後ろを振り向く。


「……なんだ?」


 魔法使いちゃんがいた。

 彼女は俺達が家路につくのを見届けてから帰るつもりだったようだ。


「あ、あのよ……」


 ……いざ、想いを口に出そうとすると、戸惑う。

 だが、俺には必要なことなのだ。


「旅でも、王都でも……お前には助けられたよ。なんか、ほんと、世話になりっぱなしでさ……」


「なんだ? 何が言いたい?」


「あ、いや、ええと……」


 彼女は首を傾げる。

 わずかに微笑んでいる。

 もしかすると、彼女は俺がこれから言う事をわかっているのかもしれない。

 わかっていて、俺が口にするのを待っているんだ。

 ……それなら、躊躇する理由はない。


「あの、俺と」


「待った」


 彼女は俺の口に指をあて、遮った。


「お前が何を言いたいかは分かる。だが、それはなしだ」


「え? な、なんで……」


 彼女はニヤリと笑った。


「お前があんまり情けない顔をするからな。その気がなくなってしまった」


「ええ? なんだよそれ。じゃあ、もう手伝ってくれないのかよ」


「そう急くな。今は、だ……お前がもう少しマシな顔が出来るようになったら、その時はこちらから出向こう。それまでは、もうしばらく足掻いてみろ」


「なんだよ……俺、まだ苦労しなきゃいけないの? もう十分頑張ったと思うんだけど」


「まだスタートラインにも立ってないくせに情けないことを言うな。それに、私もやりたいことが出来てしまった。私はしばらく家に籠ろうと思う」


「また引きこもりになるのか?」


「研究に没頭するだけだ。まあ、たまにお菓子を食べにくるよ」


「太るぞ、お前」


「むっ。女性に向かって失礼な……」


 彼女は手をひらひらさせながら去っていった。

 俺達は食事をした後、泥のように眠った。


 月日は流れる。

 家の改装、バイト、市場での商売……

 魔法使いちゃんは予告通り、ちょくちょく俺の家に現れた。全然引きこもってねえ。


 そして、俺に営業許可試験の合格証が届くころ……

 店は完成した。

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