表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/33

第18話「襲撃」

 幌の外。山々の間の空に何かが見える。

 鳥ではない。あの、巨大な翼は……


「飛竜!?」


 車を曳く地竜は何度も見てきたが……空を飛ぶ個体を見るのは初めてだった。

 目にして思う。この断崖絶壁に、あの巨体と爪や牙……

 恐ろしい以外の感想が浮かんでこない。

 先程の衝撃は、飛竜に遭遇したために竜車を急停止したことによるものか。


「違う! マサル、飛竜の背を見ろ!」


 魔法使いちゃんが叫ぶ。

 飛竜の背……!? 何があるというのか。

 と、それを確かめる前に、何かが飛び降りてくるのが見えた。


「あ、あれは!?」


 飛竜に比べて圧倒的に小さい。

 だが、何かを手にしている。

 あれは、槍、斧、剣……武器!?

 武装した集団が竜車を取り囲み、迫ってきている。


「盗賊だ!! 王都へ向かう旅人を狙って襲ってきたんだ!!」


 盗賊。日本においては、まず遭遇することはあり得ない。

 だが、ここは異世界。冒険者や魔物がいるのなら、盗賊もいるだろう。


 彼らが狙うのは、旅人の持ち物や金品だろう。それらを奪った後……いや、奪うために、旅人はどうなる?

 奴らの形相を見る。目が血走っている。涎を垂らしている。

 ハッキリ言って、常軌を逸している。あんな連中が、武器を持って襲ってきたら……


「こ、殺される!!」


 恐怖した。汗が滝のように吹き出し、心臓が早鐘を打つ。

 マナが俺の手を握る。俺は握り返し、彼女を抱きしめた。

 盗賊たちが迫ってくる。

 もう、すぐそこまで。

 襲われる。殺される――

 そう思った時。


 竜車から、緑色の影が飛び出した。

 風に豪奢な緑の髪が棚引く。

 懐から鋭い光の太刀が閃いた。


「お前ら、本気だな……? じゃあ、オレも本気を出すぜ」


「セ、セアーラさん!!」


 彼女が盗賊たちの前に立ちふさがった。


「ひゃっは――――ッッ!!」


 盗賊たちが雄たけびを上げながら彼女に襲い掛かる。

 剣を持った盗賊たち。それが同時に三人。

 ま、まずい。あんなに一度に来られたら……!!」


「ふん」


 セアーラさんが鼻を鳴らす。

 その瞬間、彼女は俺の視界から消えた。


「ギャアアッ!?」


「グアッ!!」


「ゲェッ……!!」


 盗賊が地面に倒れ伏せる。

 何が起こったのか、と思う。

 セアーラさんが一瞬にして盗賊三人を切り伏せたのか。

 俺がそう思った時には、彼女はすでに別の盗賊に躍りかかっていた。


「らあああああッッ!!」


「ひいいっ!?」


「うわああああっっ!!」


 すごい。彼女の動きは、まさに閃光だった。

 長剣を手にし、盗賊たちの間を風のように舞う。

 時折太陽の光を受けて反射する刀身が、キラキラと俺の目に映る。

 盗賊たちはなすすべなく彼女に切り伏せられていく。


 彼女は盗賊を圧倒している。

 まさか、セアーラさんがあんなに強いとは。これなら、助かるかもしれない――


「マサル、正面からも来るぞ!!」


「え!?」


 俺がホッとしたのも束の間、魔法使いちゃんが叫んだ。

 セアーラさんは竜車の後方に陣取っている。

 その間に、盗賊たちは飛竜から降り、正面から竜車を襲ってきた。

 挟み撃ちだ。

 竜車の中で悲鳴が木霊する。

 まずい、いくらセアーラさんが強くても、両方同時には……!!

 と、その時、俺の隣にいた魔法使いちゃんが立ち上がった。

 竜車の先頭に立ち、杖を構える。


「”氷の刃よ、切り裂け!!”」


 彼女が唱えた。その瞬間、彼女の周囲に白銀の剣が現れる。

 無数の氷の刃が、盗賊たちを貫いた。


「す、すげえ!」


 彼女を見る。横目で、チラリと俺に向かって微笑んで見せる。

 あいつがまともに魔法を使うところを初めて見た。まさかあんなに強いとは。

 すげえ、すげえよ。セアーラさんも、魔法使いちゃんも。

 彼女たちが居てくれて良かった。助かる。彼女たちが居れば、この旅も無事に――


「ご、ご主人様!!」


 マナが竜車の外を指さす。

 その方向を見て、背筋をぞっとする感覚が駆け抜けた。

 見えたのは、巨大な口。

 飛竜が竜車に接近している。

 喉の奥に何か見える。赤い、炎のようなものの揺らめき。

 まさか、まさか――


「や、やべえ!!」


 俺はリュックを漁る。

 咄嗟に手にしたのは、巨大な虫の魔物に襲われたとき用に持ってきた殺虫剤。

 これは本来ならスプレーすることで効果を発揮するが、当然竜の炎には無力だ。

 だが、コイツは別の使い方もできる。

 こういう時のために、密かに実験して確かめておいた。

 その効果は抜群である。

 先端にライターの炎をかざす。


「いくぜ」


 そう俺が口にした瞬間、竜の口から赤々とした炎が解き放たれた。

 同時に俺も殺虫剤のトリガーを引いた。

 爆炎が竜車から放たれる。


「ギアアアアアアアッッ!!」


 飛竜の絶叫が谷に木霊する。

 殺虫スプレーから放たれた炎は、竜の炎を飲み込み、そのまま竜の全身を焼き尽くした。


 殺虫剤は可燃性のガスで出来ている。そこに炎を近づけると、火炎放射器のごとく爆発的な炎を作り出すことが出来る。まして、ここは異世界だ。日本から持ち込んだものは加護により、超常の力を発揮することを確認している。その威力は、竜ですら撃ち落とすほどだ。


「ご、ご主人様!! すごい!!」


 マナが俺の手に抱き着いて言った。

 周囲からもおお、と感嘆の声が漏れてくる。

 俺はマナに微笑みかけながらも、さらにリュックを漁る。

 飛竜は一体だけではない。まだ複数いる。

 奴らを追っ払う。

 手にしたのは、小さな球体。本来ならば、これはただの玩具だ。だが、この世界においては――


「くらええッッ!!」


 竜の集団に向かって投げつける。

 飛竜たちがそれを迎撃しようと炎を吐いた。

 炎が球体に触れた瞬間。


「「「ギャアッッ!?」」」


 爆音と閃光が飛竜を怯ませた。

 癇癪玉はこの世界においては花火ではない。立派な爆弾だ。

 飛竜たちが離れて行く。

 しめた。活路が開けたぞ……!!


「今だ!! 二人とも、戻れ!!」


 セアーラさんと魔法使いちゃんが俺を見た。

 彼女たちが頷き、車内へと乗り込む。

 御者に発車を促すと、竜車は再び動き出した。

 全速力で山を進む。

 追いかけてくるものはいない。窮地は脱した。


「ふう……二人とも、お疲れ」


 俺が脱力してマナにもたれかかると、彼女たちが笑った。


「セアーラさん、すごかったね。まさかあんなに強いとは思わなかったよ」


「オレを見くびるなよ? そんなことより、マサル。お前も結構すごかったぜ。やるじゃねえか」


「全くだ。昔は私に縋りついて泣いてばかりだったのに……成長したな、マサル」


「い、いや、そんな泣いてねえし……」


 多分。あれだよ。マナが熱を出した時と、料理対決の時と、泥棒に入られた時と……結構多いじゃねえか。


 ともかく、みんな無事で何よりだ。

 本当に、彼女たちが居てくれてよかった。魔法使いちゃん。意地悪して悪かったな。やっぱり、彼女は俺に必要な人だ。今度、はっきり伝えようと思う……


「た、大変だ!!」


「ッ!?」


 ホッとしたのも束の間、御者が悲鳴を上げた。

 乗客たちが一斉に彼の叫んだ方向を見る。


「あ、あれは……!?」


 異様なものが立っていた。

 身の丈10メートル以上はありそうな巨人。

 それが前方を塞いでいた。

 巨人はこん棒のようなものを手にし、それを振りかぶり――


「みんな、伏せろおお!!」


 御者が叫ぶ。

 竜車が舵を切る。

 巨人が振りかぶった棒は外れたが、地面を大きく砕き――

 竜車は、谷底へと落ちていった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「う……」


 ゆっくりと目を開ける。

 体中が痛い。幸い、大きなけがはしていないようだが……

 あちこちぶつけてしまった。今日の夜は眠るのが辛いかもしれない。

 しかし……腕の中を見る。


 気を失っている。

 だが、マナは傷一つ負っていなかった。

 良かった、とホッと息をつく。


「……無事か? マサル」


 魔法使いちゃんが俺の手を握った。

 彼女にひかれ、立ち上がる。

 周囲には、俺と同じようにフラフラと立ち上がる者がたくさんいた。

 竜車に乗っていた乗客たちだ。

 見たところ、誰も欠けている様子はない。

 だが……


「ガアアアアアッ……!!」


 悲痛な叫び声が聞こえる。

 竜車を曳いていた竜は、足を怪我していた。

 御者がその様子を見ている。立ち上がるのは難しそうだ。


「起きたか、マサル」


「セアーラさん」


 彼女が木々の間から姿を見せた。


「周囲を探ってきたが、ちょっと不味いかもしれないぜ……盗賊の連中があちこちにいた形跡がある。ここは奴らの縄張りだ」


 彼女は一足先に目覚め、周囲を探ってくれたらしい。


「盗賊は略奪行為に魔物も使うと聞くが……まさか、トロルを手なずけているとはな。ヤツがいる以上、このまま無事に済むとは思えない」


 魔法使いちゃんが腕を組んで唸った。


「ああ。奴ら、諦めてないぜ。俺達が足を止めている間に、どこかで襲ってくるはずだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ