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第17話「王都への旅路」

「楽しみですねっ、ご主人様!」


「ああ、マナ!」


 マナの弾ける笑顔が目に入る。

 高揚しているのはオレも同様だった。

 彼女と手を繋ぎ、大きな車に乗り込む。


「こ、これが竜車か……!」


 幌から顔を出す。

 外はどこまでも緑の大地が広がっている。日本ではまずお目にかかれない光景だ。

 店を持つための勉強を終え、俺はいよいよ試験を受けることになった。

 目指すは、王都。ここから竜車で三日の場所にある。そこで試験が行われるのだ。


「なにそんなに感動してんだよ……商人のくせに竜車に乗るの、初めてなのか?」


 俺の後ろでセアーラさんが言った。

 今日の彼女は腰に剣を刺している。彼女は付き添い兼、ボディーガードと言うことで一緒に来てもらっている。メイド服に剣を差すなんて、なかなかそそる格好だ。


「まあな。セアーラさんは乗ったことあんの?」


「……オレは王都の出だからな。この街にも竜車で来たよ」


 へえ、そうなのか。

 それは心強いな。着いたら観光案内を頼もうかな。


「私も王都は久しぶりだな。どんなふうに変わっているか、少し楽しみだ」


 俺の隣で魔法使いちゃんが言った。


「ふーん、そうか……つーか、なんでお前までついてくんの?」


「た、たまたま王都に用事があったからな! それに、お前も私がいた方が、直前まで試験の対策が出来ていいだろう。感謝するがいい」


 なんか日に日にこいつと顔を合わせる機会が増えている気がするんだよな。

 こいつはこいつで怪しい魔道具屋をやっているくせに……それとも、もしかして俺たちの仲間に入りたいんだろうか。

 ……こいつがいると何かと便利かもな。今度誘ってみるか……


「ご主人様! 出発するみたいです!」


「おっ!」


 竜車がゆっくりと動き出す。

 そして旅は始まった。


 乗合の竜車は、三日をかけて王都まで向かう。

 三台の竜車が一列となり、合計百名近くを乗せて街道を進む。

 途中、外で二回寝ることになる。食事や衣服、布団なども各自で用意することになっている。

 俺はこの日に備え、ホームセンターで防寒着や暖房器具を買っておいた。日本の利器を使える俺たちは、他の人よりも余裕があると言って良いだろう。


 そんなわけで、俺は安心して外を眺めることが出来た。

 すげえ景色だ。遠くにそびえたつ山々。広大な空を映し出す湖。どこまでいっても尽きない平原。


 商売ばかりに気を取られて、俺は全然この世界を見ていなかった。この空の下には、俺が見た事もない種族や、想像も出来ない魔物が居たりするんだろう。いつか、マナと一緒にこの世界をめぐってみたい。


 だが、それにはまずこの世界で地位を築くことだ。マナが幸せに暮らせる世界を作ることだ。そのために、絶対に試験に受からないとな。


「はい、ご主人様! あーん」


「あーん」


 竜車が平原に停まり、一休みする。

 その間に乗客は思い思いに食事をとる。

 俺達は日当たりの良い所にレジャーシートを広げ、マナの作ってくれた弁当を食べていた。


 うむ。マナの作ってくれる弁当……もう、何も文句が言えない。すごいうまい。


「くっ……! このカラアゲ……悔しいが、美味い……!」


 舌つづみを打つ俺とセアーラさんを尻目に、魔法使いちゃんが悔しそうに唸った。こいつ、マナを料理を食べる時はいつもこんな感じなんだよな。もっとマナの料理を楽しめばいいのに。褒めてるみたいだから、別にいいけど。


「はあ~、食った。御馳走様、マナ。今日も美味かったよ」


「はいっ」


 感想を言うと、マナはとびきりの笑顔を見せた。彼女は料理のことになると、殊更に嬉しそうにする。まあ、わかるけど。俺もマナに料理を食べてもらった時、めちゃくちゃ嬉しかったし。たまには、作ろうかな――


「ん?」


 魔法使いちゃんが俺を見ている。

 なんか、もじもじしてる。

 どうした? こいつ、なんか最近おかしいな。


「どうかしたか?」


「あっ、いや……」


「なんだよ。何かあるなら言えよ。俺とお前の仲だろ」


「……あ、その……食後に、お菓子とかどうかと思って……」


「なにっ!?」


 彼女はおずおずと後ろから何かから取り出した。

 そ、それはまさか……あの時のめっちゃ苦いクッキー……


「あ、いや、別に、無理に食べなくてもいいんだ……そしたら、私のおやつにするから……でも、せっかく作ったし、みんなにも食べてもらおうと……」


「……」


 こいつ、たまにいじらしいんだよな。普段は傍若無人な癖に。

 なんだよ。そんなんじゃ断れねえよ。


「くれ」


「あ、うん……」


 そっとクッキーを一つ受け取る。

 クッキーをじっと睨む。汗が額を伝い落ちる。

 ……ええい、ままよ!!


「ぱくっ。もぐもぐ……ん!?」


「……ど、どうだ!?」


「……驚いた。食えるな。普通に」


「ほ、ほんとか!?」


「ああ。めちゃくちゃうまいって程でもないが……普通にお菓子として食える。お前、大分うまく作れるようになったな」


「よ、良かった……練習したんだ、一杯……」


「え? わざわざ? 俺たちに食べさせてくれるために?」


「……ま、まあな! お前のカラアゲが美味かったからな! 私も見につけようと思ってな!」


「ふーん……いいんじゃないの。お前のそういう努力家なところ、嫌いじゃないぜ」


「なっ!?」


 魔法使いちゃんがクッキーをマナとセアーラさんにも配っていく。二人にも普通に好評なようだった。これは俺もうかうかしてられないな。今度は俺もとっておきのスイーツを作ってやろう。ふふ、俺には現代日本のスイーツ知識があるんだぜ……! ホットケーキ無双すんぞ。


 旅は続く。その日は何事もなく旅程を消化し、外で寝ることとなった。

 俺は日本で購入したテントを手際よく組み立てていく。

 マナ達が興味深そうにそれを眺めている。


「なんだこれは? もしかして……仮設の住居か?」


「そうだぜ。これがあれば、どこでも雨風をしのげる。寒さにも強いんだぜ」


「ほうほう。材質は? 何で出来ているんですかな?」


「骨組みはプラスチック、布は……企業秘密だ」


「ほう……それは残念ですな。ちょっと、中を覗いてもいいですか?」


「別にいいけど……って、爺さん、誰だ!? いつの間に割り込んだ!?」


 俺はてっきり魔法使いちゃんと話していると思っていたが、知らない爺さんだった。爺さんは無遠慮に中を覗き込み、しきりにテントに触れている。


「ふーむ……素晴らしい耐久性。それに軽い。これは驚くべき道具ですな……」


「おい、爺さん! 中を見ていいって言ったのは仲間のことだからな! 爺さんは入ってねえぞ!」


 こいつは今宵の宿だけでなく、今後の商売道具になる可能性もある。おいそれと外部の人間に使わせたくない。


「ほっほっほ……これは、失礼しましたな……では、また。残りの旅程もよろしくお願いします」


 爺さんは離れて行った。

 日が落ち、中に入って休む。


「おい、四人もいるんだからもっと詰めろよ」


「なんだと! マサル、そんなこと言って、寝ている間に触るつもりだろう!」


「触らねーよ!」


「ご主人様、マナの隣に来てください。ボク、ご主人様の近くにいたいです」


「おお、そうかそうか」


「……やっぱり、ちょっとくらいなら近くにいてもいい。だから、私もお前の隣で寝る」


「お前、なんなの!? もうちょっと行動に一貫性持てよ!?」


「まったく、うるせえなぁ。静かに寝ろよ」


 夜はゆっくりと過ぎていった。

 それにしても、女の子三人と一緒に寝るなんて……俺、ものすごい贅沢?



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 二日目。竜車は急峻な坂を上っている。

 周囲は山と森。竜もなかなか大変そうだ。

 しかし、すげえ谷だな……落ちたらと思うと……背筋が寒くなる。


 マナが俺の手を握る。彼女はどうも、高い所が少し苦手らしい。

 よしよし、俺がついてるぞ。俺も怖いけどな。


「マナ、もう少しだ。ここを越えたら、平坦な道のはずだ」


「はい、ご主人様……」


 地図ではそうなっている。ここがこの旅の山場だな。あとは特に問題のある個所はない。もう少しの辛抱……


 その時、竜車が大きく揺れた。

 坂の頂点に差し掛かり、竜車の動きが止まる。


「なんだ!?」


「マサル、外を見ろ!」


 魔法使いちゃんに促され、俺は幌から顔を出した。

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