第15話「オレ様」
「では、おかけください。まず、志望した動機を聴かせていただけますか?」
やってきたお手伝いさん候補に対し、俺は聞いた。
この世界に履歴書はない。全て口頭で聞き出す必要がある。
一人目は、さわやかそうな青年だ。
見たところ、体つきは良い。俺よりよっぽど強そうだ。強そうなのは高ポイントだな。
「お給金がよかったので。それに、食事も自分で用意することが前提ですけど、三食ついてるでしょう? なかなかいい条件だと思います」
ほう、お金が良かったと……異世界の若者は正直だな。
俺としては、好感度が高い。
はっきり言って、日本の大企業で求められるような臭い志望動機は、俺は嫌いだ。
「料理の方はどうですか? それなりに作れますか?」
「はい、冒険者のパーティを組んでいた時は、私が主に料理担当でした。結構自信ありますよ」
「ほう……素晴らしいです。ちなみにお聞きしますが、商売の経験はありますか? 店を持っていたとか」
「いえ、そういう経験はありません。市場で武器や防具を売った事が数回……あの、これ、お手伝いさんの募集ですよね? 何か関係があるんですか?」
「ああ、いえ。特に今必要と言うことではないです。なるほど……元冒険者と言うことは、腕もそこそこ立つわけだ」
「魔物が強い北の大地では、全く通用しませんでしたけどね……ここらへんでは、まず負けません」
ふんふん……謙遜もしない。
本当に正直な青年だな。あれ? 結構いいんじゃない? 一人目から当たりひいちゃった感じ? もう終わっていいかな?
「では、何か……質問とかあります?」
最後に聞くお決まりの言葉だ。
日本の企業だと、これに質問を言わないと減点されることがあるようだが、もちろん俺はそんなことは気にしない。
だが、青年は質問を口にした。
「あの、さっきから気になってたんですけど。その子……」
青年は、マナを指さした。
「ああ、この子は商売の相棒のマナです。何か?」
「いえ、奴隷がいるなら、なぜお手伝いさんを雇うのかと……その子にやってもらった方がいいのでは?」
「ああ。この子は奴隷ではないんです。商売柄、常に家にいるわけにもいかなくて。信頼できる人に、彼女と一緒に家を守ってもらいたいんですよ」
そこでなぜか、青年の顔が曇った。
「はあ。その子とですか……ちなみに、料理には彼女の分は含まれますか?」
「うーん……この子は自分で料理が作れます。だから、折半することになると思います。彼女が作ることもあり、あなたが作ることもあり」
「……え? その子が作った料理を、食べるのですか?」
俺は眉をひそめた。
「……そうですが。何か?」
「あ、いえ……特に言うことはないんですけれども……」
その後も青年は、何か言い辛そうだった。
彼には居間でお茶を飲みながら待機してもらうことになった。
すでに二人目は来ている。
面接の間、表で待機してもらっていた。
二人目を面接室に通す。
今度の人は、おばさんだ。
この人は、結構背が高い。俺よりも、さっきの青年よりも大きい。
おお、これは……ビッグ・マザーって感じだな。
「志望動機をお聞かせください」
「私、お掃除とお料理が大好きで。見たところ、このお家は大きいし、キッチンも清潔で整っています。食材も豊富なようですし、やりがいがあるように感じました」
「ほう、なるほど……」
料理好きか。それはいいな。マナに料理を教えてもらえると、彼女が喜ぶかもしれない。この出で立ちを見るに、料理も掃除もかなりできる。ポイントアップだな。
「ちなみに、腕っぷしの方はどうですか? 俺は時々家を空けなければならないので、護っていただけると助かるのですが」
おばさんは腕に力こぶを作った。
「それはもう、この通り! 並みの冒険者には負けませんよ。もちろん、あなたにも」
「ははは……結構です」
うん。やっぱり腕の方は良さそうだな。
「ちなみに、商売の経験があったりしますか?」
「ええ。私、実家がパン屋ですの。いつも父と母の手伝いをしていましたわ。もしかして、将来お店でもおやりになるとか?」
「はい、ええ、まあ。予定です」
「まあ、それは楽しみ! 私にもお手伝いさせていただけるということですよね?」
「助けていただけると幸いです」
おばさんはニッコリ笑った。
うん、やる気十分だ。いいじゃないの……え? もう、合格出しちゃう?
「ところで、その子……」
俺が最後の質問をしようとしてたときだ。
おばさんはマナを見た。
「もしかして、一緒にお仕事することになるのかしら?」
「あ、いえ。この子は俺の家族みたいなもんです。どちらかと言うと、お世話していただけると助かります」
「え? その子は奴隷でしょ? 世話をする必要があるのかしら……」
「……奴隷ではないです。家族です。俺と同じくらい、慮っていただきたいです」
「あらあら、まあ……」
二人目のおばさんも、居間に待機してもらうことになった。
俺は、チラリとマナを見た。
……なんともないって顔してるな。どうしよう。今からでも、別の部屋に行ってもらうか……
「マサル。三人目、通すぞ」
魔法使いちゃんがひょっこり顔を出して言った。
おっと、もう来るか……
「ああ。通してくれ」
通されてきたのは、女性だった。
豪奢な長い髪が特徴だ。見た目はスラリとしていて、すごく美人……えっ?
俺は彼女の表情を見てギョッとした。
……すげえ睨んでる。この人、めっちゃ目つき怖い。なになに、なんでそんな怒ってるの……俺、何かした?
「ど、どうぞ」
椅子をすすめると、彼女はフン、と鼻を鳴らして座った。
「え、ええと。志望動機を聞かせてください」
「………………たから」
「え?」
意外と彼女は小さな声で言った。
おかげで何を言ったのかよくわからなかった。
「あの、なんとおっしゃいました?」
そう言うと、なぜか彼女はバツの悪そうな顔をした。
「前の家の主人を、蹴り倒して……それで追い出された。仕事が無くて困ってたんだ」
け、蹴った? 主人を? なんで?
「え、ええと、どうして、前の主人を蹴ったりしたんですか……?」
恐る恐る聞いてみる。
「なんだよ。どうしても、言わなきゃダメなのか……?」
ジロリと凄まれながら返された。
「い、いいええ。言いたくなければ、別に……」
い、良いんですよ。俺を蹴らなければ……蹴らないよね?
あれ、なんか顔赤くない? なんで?
「料理はどうですか? そこそこ作れますか?」
「……いや。料理は、正直言うと、そんなに……一応朝昼晩、三食作ることは出来るけど」
あ、ああ、そうですよね。三食作れるのが重要ですよね。うん。
「腕っぷしの方は、どうですか? 泥棒が入ってきても、怯まないくらいの胆力は欲しいのですが」
彼女は少し顔をほころばせた。
「ああ! 腕の方は自信ある。アニキが剣士だったからな。よく一緒に稽古して、色々教えてもらった」
ほう……腕に覚えはありか。
そこは安心だが……でも、冒険者とかの経験はない訳か。
うーん……他の二人との差別化が難しいな。でも、ま、合格ライン。
「ちなみに、商売の経験はありますか?」
「え? 商売……? ごめん、それはない。覚える必要があれば勉強するけど。そういうのも必要なのか?」
「いえ、必要ということはないです。一緒に考えてくれる人が欲しいというくらいで」
「ふーん……まあ、相談だったら乗るけど」
うーむ……なんというか、微妙だなぁ……
商売の経験があれば、プラスでポイント上げたかったが……
口も悪いし……いや、仕事には関係ないけど。
わざわざ雇うほどかというと……
「……その子」
「え?」
最後の質問をする前に、彼女はマナを見ていった。
またか。また、何か言われるんだろうか……
「体の模様は何だ? なんで痣みたいのがついてる?」
「あ、ああ、これは……この子、市場で少し辛い目にあって……すみません、これ以上は勘弁してください」
「ふーん……」
彼女の目の鋭さが増した。
ひぃっ。なんでそんな、殺気のこもった目で俺を見るの……?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「マサル、どうだった? いい人はいたか?」
面接が終わり、魔法使いちゃんが俺に聞いた。
「うーん……」
俺は、腕組みしながら唸った。
難しい。思ったより悩む。
最初は結構いいかも、とか思ったんだが……
「最初の人とか、次の人は良かったんじゃないか? 外で私と話してるときは良い感じだったぞ」
「ん? うん……」
まあ、基本的に良い人だとは思ってるんだけど。
どうしても気になっていることがある。
そこで俺は、居間で待っている三人に、一つ質問をすることにした。
俺と魔法使いちゃんとマナ、三人で居間に入る。
その瞬間、室内に張り詰めた空気が漂った。
「え~、ごほん。合格発表の前に、あなた達に一つ質問があります」
面接者たちは緊張した視線を俺に向けた。
俺は用意していた問いを彼らにぶつける。
「俺がいないときに……この子、マナにたまに料理を教えてやってくれませんか?」
そう、マナの頭に手を置いて、彼らに聞いた。
「え?」
「まぁ」
「ッ!」
三人の目つきが変わった。
一人目。最初の青年は……
「え? ええ……この子に、教えるんですか……それは、まあ……その分お金をいただけるなら」
なるほど。
二人目のおばさんは……
「……正直言って、教えるのは難しいんじゃないかと思います。その、人とこの子では、どうしても出来が違うというか……」
ふーん。
三人目の女の子は……えっ?
なに、なに? 近づいて、俺の胸倉をつかみ……めっちゃ怖い顔が目の前にある。えっ? 俺、殺される?
「ふざけんな!! てめえ!! どういうつもりだ!!」
「え、ええ……俺は、彼女に料理を教えて欲しいと……」
「てめえ、ぶっ殺すぞ!!」
止めて、止めて、殺さないで……
「ええと、殺したりはしませんけど、僕も正直、同じ気持ちです。奴隷に料理を教えるのは、ちょっと……」
「ええ、私も……」
……ダメだな。これは、三人とも不合格だ。
今日は諦めよう。また別の日に募集をかけよう……と思った時。
「なんだと!? さっきから聞いてりゃ、てめえら……この子をなんだと思ってやがる!?」
えっ?
俺は目を丸くした。
先程まで向けられていた矛先は、なぜか……他の二人の面接者に向いていた。
「えっ。だ、だって……奴隷に料理を教えるなんて……嫌じゃないか」
「なんでだよ!! この子は何も悪くないだろ!! 教えてやれよ!!」
「え、ええ……?」
「うーん……でも私、思うんですけど、獣人に料理は……」
「はあ!? この子の手をよく見ろ!! 俺たちと何にも変わんねえだろ!! 料理だって教えりゃ出来るさ!!」
「あ、あのー……」
俺は、怒り心頭の彼女に恐る恐る手を挙げた。
「なんだよ!?」
「あなたは、なんで俺に怒ってるんですか?」
彼女は思いっきり嫌そうな顔をした。
「……見たところ、この子は体中に焼き印をされている……碌な扱いをされてこなかった証拠だ。それに、料理を教えろだと!? 俺達みたいな手伝いがいるのに、料理までさせる気か!! この人でなしめ!!」
彼女は、心底見下したような目を俺に向けた。
俺は……どこかスッキリしていた。
なんだろう。彼女を見てると、妙に胸が空いた気持ちになる。
「こんな仕事、こっちから願い下げだ!! 帰る!!」
俺は彼女の前に立ちふさがった。
蹴られそうになるが、怯まない。彼女を帰すわけにはいかない。
俺は、跪き……彼女に頭を垂れた。
「お願いします……うちでお手伝いをしてください」
「……え?」
俺のその様子に、彼女も毒気を抜かれたようだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
一通りに説明を終える。
目の前には、顔を赤くしながら、居心地悪そうにしている彼女がいた。
「……というわけで、彼女は奴隷じゃありません。俺にとっては、大事な家族です。あなたに、彼女を護ってもらいたいんです。お願いします」
改めて頭を下げる。
しばらく、沈黙が流れた。
「……オ、オレだって、最初からそう言えば……別に怒ったりしなかったんだよ」
そうなのだ。彼女は最初から、マナの事を見ていた。
怒っていたのは、彼女の様子を見かねての事だった。
俺を悪い主人だと思い、他の面接者に食って掛かった彼女を……俺は信頼する。俺の腹は決まった。いくら払ってでも、彼女にいてもらいたい。
「お願いします。うちでお手伝いさんをしていただけませんか?」
「わ、わかったよ! やるから! 頭上げろよ!」
俺は破顔した。
彼女と握手を交わす。そこでようやく、彼女も笑った。
「……セアーラだ。よろしく頼む」
「セアーラさん。マサルです。この子はマナ。よろしくお願いします」
魔法使いちゃんが俺達を見て微笑んだ。
これで一件落着……と言いたいところだが、セアーラさんにはどうしても聞いておきたいことがある。
「ところで、あの……」
「ん?」
「なんで、前の主人を蹴ったりしたんですか?」
「そ、それは……ヤツが、オレの尻を触ってきて……う、ううううるさああい!!」
そして、俺は蹴られた。




