第14話「決意と面接」
「大変だ!! マサル、お前の家が!!」
「え」
なんだ。何があったって言うんだ。
全身から血の気が引いていくのが分かる。
魔法使いの返答を待たず、家へと駆けこんだ。
「うっ!?」
滅茶苦茶だった。
窓が割られ、家具が散乱している。
こ、これは……泥棒!?
山と積まれていたダンボールが無い。
し、商品が……いや!! そんなことはどうでもいい!!
「……マナ!!」
彼女はどこだ。見当たらない。
まさか、まさか……
嫌な想像が脳裏をかすめる。
不安を必死で押しのけながら、家の部屋を探し回っていく。
いない。いない……そんな……マナ……
「う……う……」
「ッ!?」
微かに、うめき声のようなものを聞いた。
これは、風呂場……? マナ? そこにいるのか!?
「マナ!!」
見つけた。
彼女は浴槽の中で、膝を抱え込むようにして震えていた。
俺はすぐさま飛び込み、彼女を抱き上げた。
冷たい。完全に血の気が失せている。
怖かったんだろうな……
でも、でも……生きていてよかった……
もう、大丈夫だぞ。俺がいる。
俺はマナをあやすように、頭を撫でた。
「う……う……ご、ごめんなさい……ご主人様……」
だが、マナは突然涙を流し出した。
どうしたというんだ。
彼女の顔を真正面から見る。
「ごめんなさい、ボク、ボク……商品を守れなくて……家を守れなくて……ごめんなさい……」
「……マ、マナ」
そうか。彼女は、家を守れなかったことを悔いているのか。
いいんだよ、そんなこと。お前が無事なら、それだけで……
「お、お願いご主人様!! ボ、ボクを捨てないで!! お願いします……ボクを……捨てないで……」
「お、お前……」
違った。
彼女は、俺に捨てられることを不安に思っていたのだ。
無理もない。彼女は、直前に奴隷商に売られる奴隷を見ている。
自分もそうなるんじゃないかと、それで泣いているのか。
心の中を激情が埋め尽くしていく。
俺は、俺は、どうして……こんなときに、彼女の傍に居なかったのだ……
バイトのことなど、どうでもいい。
何をおいても、彼女の傍にいるべきではなかったのか!?
俺は、力いっぱい……マナを抱きしめた。
「いいんだ!! 商品のことなんでどうでもいい!! 俺は、お前が無事だったら、それだけでいいんだ!! 俺の方こそ、ごめん。そばにいてやらなくて……!!」
マナは一瞬呆けたような表情をした。
だが、すぐにくしゃりと顔が歪み、
「ご、ご主人さまああああああああ」
マナは、俺の胸でずっと泣いていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「マサル……君は悪くない。そんなに自分を責めるな」
魔法使いが俺の傍で言った。
俺は部屋の一点をずっと睨みつけている。
「……無理な相談だな」
腕の中には、先ほどまで泣いていたマナがいる。今は、泣き疲れたのか、寝ていた。
彼女の痛ましい姿は、俺が招いた失態だ。
奴隷商なんかと話をしたから……
俺が彼女を一人にしたから……
俺に金がなかったから……
「なあ……この世界では、マナみたいな子は一杯いるのかなぁ」
「……実際、珍しい話ではない。帝国は獣人を安い労働力として使い、魔導院は実験台として地位の低い獣人を使う……彼女も、何人もの仲間を見送ってきたんだろう。それで君に捨てられることをひどく恐れていたんだ」
「全部、ひっくるめて……救ってやることはできないのかなぁ」
「難しい話だな。帝国も魔導院も恐ろしい力を持っている。直接打倒するのは勇者や魔王でも難しい。ましてや、ただの魔法使いの私や、冒険者ですらない君では……」
頭の中では、様々な考えが渦巻いている。
俺は冷静ではないのかもしれない。
怒りに任せ、無謀な戦いに挑もうとしているのかもしれない。
……だが、腹は決まった。
「……決めたぜ」
マナを抱え、ゆっくりと立ち上がる。
魔法使いが訝しんで俺を見る。
「……どうした?」
俺は宣言する。
「全部、買い取ってやる。この街の奴隷も、魔導院の実験体も、帝国の労働力も……全部俺が手に入れる」
「……なに?」
マナに誓う。魔法使いに誓う。俺に誓う。
「俺は、金の力で、奴隷を全部買い取ってやる!! マナが、こいつらが幸せに暮らせる世界を作るために……全部手に入れてやる!!」
魔法使いが俺を見る。
「……し、正気か!? た、確かに、資本的に買い取ってしまえば、帝国や魔導院も文句は言えまい……なんら違法性が無く、損もしないのだからな。だ、だが、可能なのか……?」
「できる。俺には力がある。そのために……」
俺は、滅茶苦茶になった部屋を見た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここに店を開く?」
「ああ。これまでのやり方では限界がある。品物はあっという間に底をつくし、呼べる客も少ない」
だが、この俺とマナが住むにはちょっと大きすぎる家なら……改造すれば、十分店として機能する。
そして、売り物は……武器を売れば、世界一の武器屋になり、魔道具を売れば、世界一の魔道具屋になるだろう。大量に仕入れ、大量に売れば……いずれ店は大きくなり、帝国をも飲み込める会社となる。俺は冒険者ではない。商人だ。資本で戦うのだ。
「ふむ、ふむ……確かに、お前の店で売っているものは質がいい。戦士やニンジャの評判を聞くに、世界と戦える力はあるかもしれない」
「だろ? 今はまだ、決まった場所がないただの露店だが……店を持てば、たくさんの人に覚えてもらえる。評判が人を呼べば、さらに店は大きくできるはずだ」
「そうか……最初は気が狂ったのかと思ったが、思ったよりは現実的な話だったな。私としては、お前が武器を持って奴隷商に特攻でもかけるのかと思っていたが」
「そんなことじゃマナ達は救えねえ。せいぜい俺と奴隷商の死体が増えるだけだ」
「わかっている。だが、お前のさっきの目は……やりかねないように見えたぞ。まったく、冷や冷やさせてくれる……」
「ん? もしかして、心配してくれた?」
「い、いや、私も、お前の品物を買っているわけだから……それが無くなると、困るな、と」
「……お前って、本当に素直じゃないな。そんで、本当に優しいな」
「……ッ!! バカか!! ふざけるなら、私はもう帰るぞ!!」
ははは、悪い悪い。
だが、ようやく調子が戻ってきた気がする。俺にシリアスなのは似合わねえよ。こうやって魔法使いちゃんとふざけあっているのがお似合いだ。
だから、ずっとそうやっていられるために……
「まずは、決めなきゃいけないことがある」
翌日は、部屋の片づけに終始した。
そしてあらかた片付き、マナの様子も落ち着いたころ……
俺は、街に一つの募集を出した。
「お手伝いさん? 住み込み?」
張り紙を見た魔法使いちゃんが言った。
「ああ。お手伝いさんって言うか、コレは将来の副社長的なものも含めてるんだけど……どうしても俺がいない間、この家を見ていてくれる人が必要になる。できれば、泥棒が撃退できるくらい強い人が望ましいな」
「ふむ。それで『強い人』歓迎……な訳か。家事が出来て、経営的なことも出来て、強くもあると……そんな都合のいい人物、そうそういるか?」
「いや、経営的なのは、そのうちでいいよ。俺だって何にもわかんないし。ただ、一緒に悩んでくれる人が欲しい。強くて家事が出来る人は、いるんじゃないか? この街、冒険者も多いみたいだし」
「そ、そうだな。例えば、私とかも、魔法が使えてそこそこ強い訳で……家事は全然ダメだけれども」
「だよな。だからお前に頼むのは止めた。それに、お前だって魔法の研究忙しいだろ?」
「そ、それは、折を見てこちらの仕事をするくらいは……別に……構わないんだけども……ごにょごにょ」
「あっ、ほら! 早速一人目が来たぞ!」
面接会場は我が家だ。
早速張り紙を持って訪れる人がいた。




