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ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
7/75

06


 怒涛のうねり、木々や土石が砕かれ押し潰され、爆ぜる音と共に、螺旋が収束する一点へと飲み込まれていく。大地そのものを食らうかの様に、その魔物は、幾多の触腕の奥に蠢く大口で咀嚼する。小は、昆虫。大は地中に大岩。区別なく、粉砕しすり潰し飲み込む。

 それは、巨大な烏賊(いか)だった。

 地中を音もなく泳ぎ、隠れ潜み一気に捕食する、大地の巨獣。

「随分と、大きな魔物だ。『イカだいおう』と同程度か」

 アカギは、捕食の範囲外の大木に《はがねの大剣》を突き刺し、右腕一本で宙吊りの自身と左小脇に抱えたエマの体重を支えていた。

「シ、死ヌカト、思イマシタ」

「地中からの、不意打攻撃(サプライザルアタック)は俺も予想外だった」

 アカギの索敵能力は、低くはないが高くもない。これが『盗賊』なら、空中だろうが水中だろうが、あるいは異次元だろうが、巨大な球形の知覚範囲内の敵を、逃さず捕捉するが、『戦士』のアカギでは、地上4~5メイルが限界である。

「来るぞっ!」

 烏賊の魔物が、水面に沈み込むように地中へと潜行する。直後に、アカギ達を包囲するべく、地中から無数の触腕が飛び出し、獲物を狙う。

「エマ、細かい狙いはつけなくていい、弾幕を厚くしろ!」

「ハ、ハイ!」

 抱えられている不安定な体勢であっても、Lスーツは動作を補正し、理想的な射撃を実現する。エマは、流れるようなクイックモーションで、腰のホルターから《タネガシマ》を抜き放つと、装填弾数を空にする勢いで撃ち続けた。

 エマに、実弾銃を訓練した経験はほぼない。連盟の正式採用装備は、無反動ブラスターなどの携帯性・コスト面で優れるエネルギー兵器であり、訓練カリキュラムもおのずとそれに準じたものになる。ブラスターには存在しない、制動(リコイル)、マズルフラッシュ、エマにとっては未知の挙動が、続出する。それでも、《タネガシマ》は、エマの手によく馴染んだ。グリップを握った時の重みが心地よく、トリガーに掛けた指先が、歓喜している。

 全弾命中。自動再装填(オートリロード)された分も含め、吐き出した60発の弾は、多くの触腕を穿った。傷自体は、浅い。烏賊の常時発動型の《スキル》、《軟体》が物理攻撃を軽減している。

「飛ぶぞ、舌を噛むなよ!」

「…っ!」

 アカギは、大木の幹を蹴ると、身を宙に躍らせる。触腕も、それを追う。アカギ単独ならば、空中で無数の触腕を迎撃することも可能だが、今はエマを抱えている。

 文字通り、手の塞がったアカギに狙いを定めた触腕だが、その動きが一瞬止まる。蔦だ。《タネガシマ》の銃弾を撃ち込まれた箇所から、緑の蔦が生えだし、触腕を拘束し、絡めとっている。追撃に生じた間隙は、僅か。すぐさま触腕は、自ら膨張することで蔦を引きちぎり、自由になる。しかし、その僅かの間が、アカギを無事、地面に辿り着かせた。

 大剣スキル《ストーム・レイジ》。肩に担いだ大剣を、アカギは大気そのものをかき回すように、身体ごと豪快に旋回させる。剣圧によって生み出された局所的な乱気流が、渦巻く真空波を発生させ、放射線状に存在した無数の触腕を全て根から刈り取る。

 それでも、触腕の攻撃は止むことは無かった。すぐさま、第二第三波の触腕が地面から湧き出し、執拗に追跡を続ける。アカギは、死角になっている左方を攻められぬよう、巧みなフットワークにて距離と位置取りを調整。必ず左方に大木や岩などの障害物を挟み込み、襲い来る触腕の攻撃をワンテンポ遅らせることで、的確に攻め手を切り落としていく。空中とは違い、足場のある地上であるなら、アカギという『戦士』の技量を余すことなく発揮できる。一人の人間という荷物を抱えていようとも、剣捌きに澱みはなく、寧ろ苦境こそが卓越した技術を浮き彫りにする。場違いではあったが、間近で見たその冴えに、エマは軽く感動すら覚えた。

「くっ、数が、多すぎる!エマ、目標地点まで後、何カケメイルだ?」

「ア、エット、残リ5kmデス!」

「なら、この大烏賊は、ここで仕留めるしかないな。下手に残骸まで向かえば、船ごとコイツの腹に収まりかねない」

 烏賊の魔物の捕食行動は、円形状に地上の全てを飲み込む。そんな能力を持つ敵を近づけるのは、危険すぎた。

アカギは、場所を補足され包囲されぬよう、ジグザグの鋭角軌道で走り回る。

「デモ、ドウヤッテ?敵ハ、地中ニイルンデスヨ?」

 仮に、『魔法使い』がいれば、地形ごとまとめて破壊することもできただろうが、『戦士』のアカギには出来ない。烏賊などの軟体系の魔物は、拘束状態にはならず、《蛇絡み》などで掴んで地上まで引っ張り上げることも出来ない。故に、アカギは策を講じる。

「釣り作戦でいく。エマ、パーティープレイだ」

「?」




 エマは、森林内に存在する小高い丘を、全力で駆け上がっていた。過去に地殻変動でもあったのか、大地の階段とでも呼ぶべき急角度の隆起が出来あがっており、北東第一ポイントを目指す際には、難所として設定し、迂回ルートを選ばざるをえなかった。

 そして、今は踏破には困難と判断した丘を、最難関の最短経路を登っていた。戦闘行為による高揚か、生命の危機に瀕した際の底力か、鉛の様に重かった身体が、羽のように軽い。感覚が鋭敏化し、おそらくは錯覚であろうが、靴底に付着した砂粒の数すら、手に取るように分かる気さえしている。脳内麻薬物質でも大量に分泌されているのか、後々の反動に恐怖を感じるも、エマは前だけを見て進む。

 アカギの作戦は、自身を囮として戦闘能力に欠けるエマを逃がすものだった。

 ただ、エマにも役割がある。単純にアカギが犠牲になってエマだけ助かる作戦なら、エマは意地でも首を縦に振っていない。

 鞘付きの剣帯ごと借り、背に負った大型金属ブレード。これを、丘の頂上まで運び空高く投擲することが、エマに与えられた役目だ。理由や意味は、エマには知らされていない。時間が無かったこともあるが、例え懇切丁寧に説明されたとしても、アカギの言う、マホウやセイレイが絡んだ事象なら、エマは本当の意味での納得や理解を得ることができない。エマは、敢えて追及はせずに、歴戦の戦士の作戦に従った。

 前方、進行方向上にて待ち構える、二匹の角の生えた狼の姿をエマは捉えた。風上に立つエマを、狼は嗅覚により既に察知しており、臨戦態勢の構え。戦いは、避けられない。一秒でも時間が惜しい今、エマは前進を止めなかった。

「……立ち塞がるなら、容赦はしません」

 ホルターから、種子島を抜く。移動しながらの射撃は、旧世紀ならフィクションであったが、現代はLスーツの普及により、実現可能な一つの技術になっている。

 発砲。銃口から吐き出された銃弾の軌跡から、エマは近時の未来を予想する。相対速度、重力偏差、ジャイロ効果、様々な要因が作用し合い、弾が狼の眼球を貫通。まだ、これは過程にすぎない。

 コンマ数秒後、先行した初弾の軌跡をなぞるように撃ち出された次弾。数ミリも逸れることなく、穿たれた穴へと侵入し、更に深く内部へ食い込む。蔦が、狼の頭蓋内で繁殖し、狼は頭部を内側から食い破られた。エマが見た、未来と相違なく。

「まずは、一匹」

 同族が殺されたことに怯えたのか、残ったもう一匹の狼が動きを鈍らせる。エマは、急加速で狼の目の前まで移動すると、勢いをそのままに、弧を描きながら一気に獣の頭上へ飛びあがった。Lスーツだけでは、この芸当は実行できない。貸与された星降りのクロークの付与する速度上昇の効果があって、初めて可能となる軽業だ。

 天地逆さまの状態で、発砲。狼の延髄にめり込むも、浅い。強靭な体毛と皮膚が、銃弾の圧力を押し止めていた。エマは、身体が落下しきる前に、更にトリガーを引く。銃口から吐き出された次弾が、めり込んだ初弾を尻から押し潰し、皮膚の一点に更なる加重を掛ける。

 本命の、三発目。

 初弾と次弾が圧し押し広げた極小さな道を、最後の一発が通り抜ける。皮膚下の内の脳と身体の各機関を連結する神経バイパスを、繁殖を開始した蔦が絡めとる。

 エマが、着地をした時には、狼が穴という穴から血を噴き出してこと切れた。

 殺傷行為による喜悦も、悲哀も、勝利の達成感もない。ただ、必死だった。道を進むのに邪魔な障害物をどかした程度の認識しか持てない自分を、エマは受け入れる。

 アカギは、エマを守るために、何度も敵を殺している。自分一人だけ被害者面をするのは、何よりも許せないことだった。

 エマは、任された役割を果たす為、先を急いだ。




 それは、異様な光景だった。

 四方八方、地面が生えた無数の触腕が、絡まりあって人の形を作っている。より正確に言えば、その人型には触腕が巻き付く芯が存在し、芯とはすなわち、アカギであった。

 アカギは、エマがマップから見つけ出した木の少ない開けた空間に辿りつくも、その場で全身を触腕に絡めとられてしまっていた。腕、脚は言うに及ばず、腰、胴、首、頭。もはや、体表の全てが烏賊の腕によって埋め尽くされ、アカギの身体が殆ど見えなくなっている。

 烏賊の魔物の捕食に使用される器官は、ただ獲物を捕まえるのではなく、対象を削り取る機能を持っている。吸盤の内側には、円形の歯を備えており、これが高速で回転することで、さながら削岩機の様に、捕食対象を削り、烏賊が食べやすいレベルにまで、ぐずぐず(・・・・)にするのである。擦過音が止むことは無く、触腕がアカギを様々な角度から掘削していく。

 烏賊の魔物は、この広大な森の生態系の中でも、頂点に位置する種族だ。《地中潜行》の《スキル》により、同族以外は入り込めない安全圏の地中へ退避。《攻撃器官》、《遠隔操作》、《器官再生》の三つの能力で、切られようが潰されようがHPに影響を与えず、時間経過で復活する無数の触腕を、遠距離から操り、獲物を絡めとる。しかも、触腕は攻撃を成功させた相手を拘束状態にする副次効果も持ち合わせており、一撃でも直撃を当てれてば、連鎖的に次々と攻撃を命中させることができる。

 音も届かぬ地中深くを静かに移動し、一気に浮上すると同時に飲み込む。また、それが失敗しても、今度は安全圏から触腕での一方的な攻撃を加え、弱らせたところで狩る、二段構えの狩猟。長く生き、多くの獲物を捕食してきた魔物は、狩りを工夫する人間並み知性を持つ。

 烏賊の魔物が、アカギを狙ったのは、その身に内包しているであろう極上の《霊核基幹》を求めてだ。より質の高い霊核を喰らい、自らの《霊核基幹》に吸収すれば、更なる成長を望むこともできる。触腕越しにも分かる、漏れ出た高濃度の霊子。習得できる《スキル》の如何によっては、同族内での頂点すら夢ではない。烏賊の魔物は、掌中に収めた栄光の未来へ導く原石を、至極丁寧に削っていく。

 響き続ける擦過音。その音は、烏賊の魔物にとって福音のはずだった。しかし、止まらぬ音に、地中の潜行者は、違和感を覚えた。

 長すぎる。いつもの狩りならば、全身を触腕に巻き取れた獲物のなど、瞬く間に皮膚や肉がこそげ落ち、原形を留めずに崩れていくものを、この獲物は未だ形を保持したままなどころか、血液の一滴すら漏れ出ていない。触腕に全身を拘束された瞬間と、まったく同じ、直立不動の体勢のまま、そこにあり続けている。骨を砕くように締め上げても、歯を最大速度で回転させ掘削しても、身じろぎ一つない。正しく、不動であった。

 それでも、捕食者にして狩人たる烏賊は、焦らなかった。質の高い《霊核基幹》を持つ対象は、多く場合強力な《スキル》や肉体強度を誇る。その点を考慮すれば、自らの触腕が有効打にならないのも理解できる話だ。ならば、烏賊の魔物はひたすらに待てばいいのだ。姿を隠してからの奇襲ならばともかく、敵として認識されている今、地上まで浮上するのは愚行。

 獲物がどれだけ強靭な霊核を内包していようとも、生物という枠組みからは外れることはできない。飲まず食わずでは、生物はいずれ死ぬ。動けぬように、触腕で相手を固く拘束し、獲物が干上がるまで待てばいいのだ。烏賊の魔物自身は、別の触腕で地上の他の弱い生物を捕食し、エネルギーを得ることができる。

 腰を据えて待つ姿勢に入る、狩人。擦過音が響く中、魔物は別種の音を聞いた。光の指さない地中では視力よりも聴力がモノを言う。烏賊の魔物の聴覚も鋭敏に進化しており、触腕の届く浅い層に潜んでいることもあって、地上で発生した、普段は聞かない音を拾い上げる。

その音の正体を確かめるべく触腕を伸ばそうとした時、凄まじい力で、魔物は己の独壇場から引き揚げられた。




 『戦士』の鷹の目は、触腕の僅かな隙間から、丘の頂上で発射された信号弾を捉えた。続いて、大空高く投射された、自らの愛剣の煌めきも。

 全身を拘束された状態ながら、アカギはエマの奮闘に笑みを浮かべる。

「『カネツグ』、手を握れ」

 アカギは、愛剣の真の名前を呼んだ。

 『戦士』の相棒たる《はがねの大剣》は、単なる初期装備ではない。幾多の死線、数多の決戦を担い手と共に踏み越えてきた、歴戦の古強者(ふるつわもの)だ。

 元は、ただの大剣カテゴリーの武器の一つ。特殊な製法で鍛造されたわけでもなく、素材も至って凡庸。限界は低く、度重なる戦闘の負荷と損傷で、『カネツグ』は何度も刃欠け、()し折れた。しかし、その度に『カネツグ』以外の剣を背負うことを是としなかったアカギの手によって鍛え直され、戦場へと舞い戻った。

 魔物を切り、神を切り、敵対者の悉くを切り伏せ、その血河を飲み干し刃を研ぎ澄ます。希少な鉱石、伝説に名を連ねる武具達を素材として食い尽くし昇華した姿は、もはや一介の武器などではなく、精霊化現象さえ引き起こし、一個の人格と力を宿している。

 精霊とは、この世の始まりから世界に遍在する、物質的な肉体を持たない精神と霊力のみで構成された存在だ。小は、空気中に漂う自我の希薄な微生物の様なものから、大は恒星クラスの巨大さと深い知性、人格、そしてなにより、絶大な力を誇る。

稀に、他の精霊の霊力を浴びた大岩や、膨大な数の人の感情に晒された器物が、昇華し精霊として後発的に発生する場合があり、これを精霊化と呼ぶ。本来なら、いずれにしても長い年月の積み重ねが必要なのだが、『カネツグ』の場合、精霊の影響を受けた鉱石や、神魔の力を血を介して吸収することで、五十年という驚異的な短さで精霊化を達成している。

 短期間で己を確立し、膨大な霊力を宿す為、暴食の鉄華『カネツグ』は非常に気位が高く、その上に短気である。多くの精霊が力を貸す、『勇者』にさえ従わない。ただ、『戦士』アカギの意思のみに従順に、忠実に、愛溢れんばかりに、(はべ)り寄り添い、付き従う。

 エマによって、丘の頂上まで運搬され、Lスーツのパワーアシスト全開の膂力で大空高くまで投擲された『カネツグ』は、己の力を以って、担い手の言葉を実行する。

 アカギは、精霊と化した剣より幾つかの加護を受けている。その一つが、加護:鋼の握手。効果は、『手から離れた、『カネツグ』を再び握らせる』というものだ。敵の要害などで、武器を取り落とした時、遠くにいる敵に『カネツグ』を投擲した時などに使用すると、一瞬で手に飛んで戻ってくる。派手さはないが、有用であり使い勝手のいい加護だ。

 アカギが、行ったのは、その応用。この加護:鋼の握手は、あくまで『『カネツグ』をアカギの手に握らせる』加護であり、基点となる対象を指定されてない。

 つまり、『カネツグ』が上空の高い位置にある今現在、武器を基点に設定しアカギが加護を使用すると、彼を拘束する烏賊の魔物ごと、天の愛剣に目掛けて高く飛ぶことになるのだ。

 視認するも困難な速度で、地中に潜む狩人が、不可視の竿に釣り上げられるように大地から飛び出す。咄嗟の抵抗として、アカギの拘束状態を解除し、逃れようとするも、時既に遅し。瞬間的な加速で一気に最高速度に達し、勝手知る狩場ではなく、未知の大空へと烏賊の魔物は土煙を上げながら引き釣り出された。

 アカギは、格闘スキルの拘束系の《スキル》を戦術に組み込んでいるが故、拘束状態の長所と短所を理解している。拘束系は、相手を固定し移動を封じているかのように見えるが、実は例外がある。それは、拘束状態にある相手が、自らの移動する能力以外で位置を動かした場合だ。

 例えば、拘束状態にある対象が、ノックバック効果などで強制的に吹き飛んだ場合、拘束系の《スキル》を仕掛けている側も、一緒に移動してしまう。アカギはこの性質を利用し、機動力に難のある『戦士』の能力を補助するように運用するが、烏賊の魔物は、逆に足を引っ張られてた。

 それは、戦闘(・・)経験値の差であった。地中の狩人は、安全圏から一方的に獲物を追い詰める狩猟の経験は豊富であったが、互いに命を刈り取れる術を持った敵との殺し合いの経験が、圧倒的に不足していた。

 大空で、上昇するアカギと、最高点を通過し落下軌道を描く『カネツグ』は交差する。

『戦士』の相棒は、担い手を縛る触腕を刃で切り裂き、しっかりとその右手へと収まった。

「さあ、締めだ。『カネツグ』、纏え!」

 加護:剣の纏衣(てんい)。刃金の精霊のもう一つの加護。その効果は、過去に喰らった武具、敵の能力・形状を七種まで、精霊の力を加算した上で武装として変換すること。

 『カネツグ』七変化が一、《らいめいのてっつい》。巨人殺しの逸話を持つ大槌を大剣に変換。霊力によって形成された無骨な籠手が『戦士』に両手に装着され、刀身や柄に雷を(かたど)る宝石を装填した『カネツグ』が巨大な雷の刃で刀身を武装し、唸りをあげる。

 大剣スキル《ヴァーティカル・フォール》。

 全自重と筋肉の(しな)りを乗算させた、大上段から繰り出される超重落下の豪剣。万雷響く刃が、八重垣の如く防御陣形を形成していく触腕を切り裂く。防御の反応より疾く、防御の強固さよりも剛く、立ち塞がる悉くを切り捨て、刃の閃きが刹那の間に烏賊の魔物を両断した。

 閃光より遅れて雷鳴が轟くように、二つに分かたれた魔物の身体が、電撃で蹂躙される。地上へ激突するころには、既に消し炭にまで炭化し、落下の衝撃で砕け散った。




 精霊が《らいめいのてっつい》の力で発生させた電磁浮遊の効果で軽やかに、無傷で着地を決めたアカギは、完全に敵を仕留めたことを確認すると、『カネツグ』を地面に突き刺し、その剣の腹に背を預けた。

「流石に、少し疲れたな」

 疲労はあるが、それは、どちらかと言えば充実感が勝る気分の良いものだった。久方ぶりのパーティープレイは、苦労もあったが、それ以上に得たものが多い時間だった。

「後で、ちゃんとエマを労わないとな」

 一瞬、背中の愛剣が震えるのをアカギは感じた。おそらくは、錯覚。

『魔力』系統の適正が低いアカギは、『カネツグ』を視認できない。何となく朧気にしか、その場にいることを認識できず、MPを付与して実体を与えてやることも不可能だ。仮に、この精霊が『魔力』の値が高い『魔法使い』と力を合わせれば、今以上のパフォーマンスを発揮し、自由に行動できるようになることは想像に難くない。

 苦労を掛けているとアカギは思うが、罪悪感や、不甲斐なさは、微塵もない。そんな時期はとうの昔に過ぎ去った。自分に出来ることは、共に全力で歩んでいくことだけと、答えは見出している。

 唯々(ただただ)、アカギは己の相棒たる剣に感謝を告げた。

「ありがとう、『カネツグ』。また、世話になった」

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