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 黎明歴425年9月30日、午前12時05分36秒。

「ド畜生!死ぬかと思いましたよ!あの陰険スーツ、またハメてくれましたね!」

 超音速で地上スレスレを滑走するボードの上、荷重移動で速度をコントロールしながらエマ・フラメルは口汚くザイ・コンウェイを罵った。

 決勝戦の細かいレギュレーション設定は、五帝会談によって決められた。

 『無差別戦』という全ての武装・兵器が解禁されたなんでもあり『札束で殴り合う戦争』だからこそ、厳密に何処でどのように開戦するのかは重要になる。

 圏外に絶大な影響力を持つ五帝の席並びに今後の経済効果の計り知れない新機軸宇宙船など破格の報酬が用意された勝負、どの陣営も惜しみなく戦艦や空母などの大型兵器を投入するのは容易に予想できる。仮にこれらがコロニー・ナタで使用された場合、何千万人という人命が一瞬で宇宙の塵と化す。

 その為、いくら無茶をしても問題が無いよう決勝の場はほぼ破棄されたに等しい無人惑星を使用するのはどうかと提案したのはザイ・コンウェイであった。

「なーにが、『試合がすぐ終わってしまっては興ざめで顧客も納得しないでしょうから、最初は距離をとって始めましょう』だ!最初(はな)っから、秒でこっちを潰すつもり満々じゃないですか!」

 理路整然と正当性の高い理屈を積み上げながら自身に有利な要望(ルール)をさりげなく二重三重に通してくる手腕は流石であり、この種の手練手管はエマには無い技術であった。

「いいですよ、そっちがその気なら千年以上枯れた惑星にへばり付いて生きてきた王家(ウチ)のしぶとさを嫌と言う程に味合わせてあげますよ……」

 何か良からぬことを企む悪人面で笑うエマ横で、ハクアもまた笑っていた。

「昔から(いくさ)は先手必勝、兵は()(どう)なりって言うけど、あっさり実現してくるあたり五帝の名は伊達ではないね。算盤(そろばん)弾くのが上手いだけの商人じゃこうはいかないよ。身銭の切り方をよく心得ている――――はは、楽しくなってきた」

 闘志を昂らせる二人に、近くを並走していたケビンから声が飛ぶ。

「おい!また砲撃が来るぞ!」

 再び降り注ぐ、光の暴風雨。雲より高い成層圏、果ての見えぬ地平線の先から絡み合った糸の如く折れ曲がりながら殺到する光の線の波。

 上下左右四方八方滅多打ち。圧倒的な兵器の物量で敵を圧殺する飽和攻撃。

 一秒も猶予の無い時間の中で、既にエマ達の周囲には漆黒の闇が展開していた。

 防護服の装甲から、紺色のボディースーツから、黒の羽織から噴き出した夜を塗り固めたかのような濃霧が、それぞれの使用者を包み込み作り出す球形の防護膜。

 漆黒の球体が、直撃するはずだった降り注ぐ光を音も無く呑み込んだ。

 異様な光景だった。

 大量の光学兵器による砲撃で何もかもが消し飛んでいく光の裁きの中で、暗闇に一筋の光が走るのとは逆に、数多(あまた)照らされた光しかない空間に三つの闇が軌跡を描いて地上を疾走している。

 やがて一旦砲撃が止むと防護膜も解除され、中からは傷一つない三人の姿が現れた。

 光の雨が降り注いだ後の地表は酷いもので、周囲の殆どは地形が変貌し溶解地獄と化していた。

 装備の反応が僅かでも遅ければ塵も遺さず蒸発していた状況に、ケビンは冷や汗を拭う。

「ったく………防げるのは分かっていても、やっぱこれ心臓に悪いな」

「ですが、これでアカギさんの用意してくれた装備の有用性が改めて証明されました」

 対コンウェイ陣営への基本方針その一、光学兵器の封殺。

 現代兵器の代表(かお)は何かと問われれば、誰もが口をそろえてこう言うだろう。

 それは、光学兵器の無反動ブラスターであると。

 旧来の実体弾を射出する実弾兵器と比較して、エネルギーパックを一つ用意すれば嵩張り重い弾薬を持ち運ぶ必要も無く、出力を上下させることで威力も非殺傷から対物破壊まで自在。

 携帯性、整備性、応用性、様々な方面で優位性を持つ無反動ブラスターは、圏の内外を問わず多くの軍・企業での標準装備となっており、その実用化は旧来の銃火器類を過去の物とした。

 戦艦などの大型兵器も、多くは無反動ブラスターの技術が応用された兵装が搭載される。つまりは、コンウェイ陣営が用意してくる大量の光学兵器群を如何にして防ぐかが決勝を戦う上での要訣となる。

 現代兵器の代表だけあって、その対抗技術も多く生み出されている。大型宇宙船に搭載され大会の会場にも設置されている光線軌道を曲げて逸らす偏向シールド、表層面に特殊な加工を施す事で光線を拡散させる耐光性表面処理(ビームコーティング)

 だがどの既存技術も、地表を丸ごと焼く光の雨を防ぐには圧倒的に力不足。

 そこで、エマ達が注目したのは物理法則とは別の体系を基盤とする工芸品、アカギが所有する異界由来のアイテム群だ。

 なんとか光の雨を防げそうなものは何かないかと、無理難題を告げられたアカギは一つの装備の名を挙げた。

 《エクリプス・コート》。

 太陽(ほし)食いの獣の毛皮を素材に作られた、珠玉の防具。羽のような軽さに(シルク)にも勝る手触りと絶大な防御力もさることながら、特筆すべき性質は光や熱に関する攻撃に対しての絶対的な隔絶性。

 展開される防御膜は、装備者のMPと引き換えに戦艦主砲クラスの大出力光線も貪欲に頬張り呑み込んでしまう。

 ただ、数々のアイテムが格納されている《オロチぶくろ》であっても《エクリプス・コート》は、ただ一着のみしかない稀少な品。

 しかも、その力をエマ達三人に行き渡らせるには、唯一武器防具系のアイテム作成に関しての知識・技術を持つアカギ自身の手で《エクリプス・コート》を解体、素材化し別の防具を新たに作成する必要があった。

 アカギが何よりも『勇者』や嘗ての仲間達を大切に思っている事は、腹を割って話し合った陣営内では誰もが知っている。

 消耗品の指輪や薬液(ポーション)と違い、適切に保管していれば手元に残り続ける防具を、忘れ形見にも等しい《エクリプス・コート》を自らの手で壊させる行為に躊躇していたエマ達に、アカギはいつものように苦笑した。

『はは、そんな顔をするな………袋の肥やしにするよりは、君達に使ってもらうほうが有意義だ。それに、一番大切なモノはいつだって(ここ)にしまってある』

 今エマ達が身に着けている装備には、アカギの手によって解体された《エクリプス・コート》が素材として使用されており、その性質を継承している。

 三度目の砲撃。飛び散る光を闇の顎にて食い破り、エマは空を睨みつけた。

「攻撃が、正確過ぎます」

 開始位置が定まっている試合開始直後ならまだしも、エマ達は超音速で移動し続けておりその位置も一秒でも違えば1km以上のズレが生じる。

 それを三度が三度ともコンウェイ陣営は、正確に標的を攻撃の中心に捉えて撃ってきている。

 明らかに異常な精度。

 試合開始前に自陣エリア以外への侵入や機器の設置が禁止である以上、エリアA内に他チームの観測機の類が試合開始十分程度でエマ達の正確な位置を割り出せるほど大量に入り込んでいるとも考えづらい。

「後厄介なのは、頻度だね」

 ハクアが、ARで計測した時間を表示させる。

「攻撃の間隔は、約六分。しかも、一射目から二射目よりも、二射目から三射目の方が間隔が短くなってる」

 それは、攻撃の度にエマ達の位置情報を正確に修正しその精度を高め続けていることを意味する。

「あれだけ大規模な飽和攻撃をしたら、普通は放熱と再充填で結構な間が空くはずだけど、殆どタイムラグがない。多分、向こうさんローテーションを組めるくらいの呆れるほどの物量を用意してるんだと思う」

 《エクリプス・コート》から継承された防御膜も際限なく使用できる訳ではない。防ぐ度に代償がいる。エマ達のMPが底をついた時、光の雨は直撃するのだ。

 ハクアが、三度の攻撃から得られたデータを自身の端末に入力しその結果を告げた。

「概算だけど、このペースのままだと会敵(エンゲージ)するまでMPが尽きて全員蒸発コースだね」

「ヤバいじゃねえか!どうする、作戦を変更して分散(バラ)けるか!?」

 三人が別々に行動すれば、それぞれを攻撃するためにコンウェイ陣営も火力を分散させる可能性もある。

 だが、その意見にハクアは首を横に振った。

「それは悪手だよ、ケビン君。敵戦力の上限が見えてない現状、最悪各個撃破されて試合がそのまま決しかねないよ」

「じゃあ、どうするんだよ……このままじゃ、ジリ貧だぞ!」

 静かに、エマは二人へ告げた。

「作戦は、続行します。それに、こちらの正確な位置を捉える敵側の手品の種はもう見当が付いています」

 エマが展開して表示させたのは、何枚かの画像データ。映り込んでいたのは、空中を飛ぶ小型の機体であった。

「前提条件で絞っていけば答えを出すのはそう難しくありません。私達の動きを常に捕捉し位置情報を光学兵器送り続け、尚且つ如何なるチームの管理下にない観測機。それは、大会運営委員会が管理している撮影用ドローンです」

 無人惑星には、無数のドローンが全域に展開している。

 公式の発表されている表向きの理由としては、より臨場感のある現場の映像を会場に届けるためであり、当然その数千数万の『目』は戦う選手達、エマ達に向けられている。

「通信プロトコルの設定が弄られているのでしょう。ドローンから得られた情報が、コンウェイ陣営にも共有され、それが光学兵器の正確無比な砲撃の要になっている」

 意図的に運営員会が管理するドローンを破壊することは禁止事項とされており、仮に何らかの手段で間接的に無力化する方法があったとしても、あまりに数が多すぎてエマ達では対処しきれない。

 孤立無援。言わば大会そのものが《ウェットファイターズ》の敵であった。

 既に分かりきっていた事だが、コンウェイ陣営と大会運営委員会の蜜月ぶりに、ケビンは憤らずにはいられなかった。

「何もかもクソだらけじゃねえか………汚え真似しやがって」

「いいえ、寧ろ私は真っ当だと思います」

「どこがだよ!?」

 年長者として、語気荒くなっている少年を落ち着かせる意味でもエマは冷静に告げていく。

「そもそも無差別争覇杯の性質からして、如何にして自陣営に有利な条件を揃えるかが肝の大会。運営委員会を丸ごと抱き込めるなら、それ以上の最善手はありません」

 それに、と付け加えられる。

「体裁や私の後ろに同格の五帝のライコウさん達がいる事もあるのでしょうが、コンウェイさんは、あくまでも『試合』で決着を付けようとしています」

 W.F.が宿泊しているホテルの爆破。参加選手への闇討ち、暗殺。

 エマ達の身内や友人を人質にしての脅迫や恫喝。

 絶大な権力とコネクションを持つ五帝ならば、悪意ある『第三者』を用意し自身とは『無関係な事件』を『偶然』に起こす事など容易だろう。

 だが、決勝戦までの間エマ達の身辺は無神経に敷居を跨ごうとする報道関係者を除けば静かなもので、警備・警戒にあたっていた《ヴィンセントヴァルキリーズ》の面々が肩透かしを食らっていた。

「商売や約束事に関するある種の真摯さを感じます。ケビン君、相手が持ちうる力の限りで真正面からこちらの顔面を殴ってきたら、卑怯だと罵るのが武芸者ですか?」

 問われ、ケビンは一瞬瞑目すると声を吐いた。

「――――違う」

「ならば、貴方はどう応じますか?」

「相手の顔面に、一撃叩き返す!」




『話は聞いての通りです、アカギさん』

 その声は、真空の宇宙空間でも確かに届いていた。

 無人惑星、衛星軌道上。

 周回軌道コースに乗ったデブリに、『カネツグ』を突き刺す事で身体を固定している『戦士』の姿があった。

 『カネツグ』七変化が五、《リバース・ケーパー》。

 鋼の精霊が担い手に与える二つの加護の内のひとつ、剣の纏衣(てんい)の顕現。世界を貫く大樹に住まい、情報を弄び真実を歪める栗鼠(りす)を核とする、反り返った刀身が特徴の片刃の曲刀。

 その能力は、限定的な空間跳躍。

 《リバース・ケーパー》は切りつけた箇所を『足跡』として三ヵ所まで記憶する。そして『足跡』として刻まれた場所へ距離と時間を飛び越え一瞬で到達することが可能な形態だ。

 開始位置が光に飲み込まれる寸前、アカギは事前に『足跡』を刻んでおいたデブリの一つに空間跳躍することで難を逃れていた。

 転移に『一度訪れた事のある町』という制限ある《キマイラのつばさ》と違い、《リバース・ケーパー》は『足跡』さえ刻めれば何処へでも移動することが出来る。

 ただし、跳躍出来るのは『カネツグ』の使用者のみであり、跳躍距離に比例したMPを消費していくため、あまりに長距離を跳躍すると途中でMPが尽き何処とも知れない場所で投げ出されてしまう。

 現に地上から衛星軌道上に跳躍しただけで既にアカギのMPは殆ど空になってしまい、MPポーションによる回復が必要だった。燃費が悪く、全クラス中最もMPの最大値の低い『戦士』にとって使い勝手はあまりよくはない。

 星から星へ跳躍するような移動した場合、まず間違いなく途中の宇宙空間に投げ出されるだろう。

 多機能防護服を纏ったアカギは、エマの声と共にヘルメット内に表示されたデータ群に目を走らせる。

「これは………」

《ふむ、どうやら小娘達が集中砲火を浴びせられた際の地上からの観測データの様ですね》

 アカギの身に着けている電子機器類を全て管理している『カネツグ』も、同時にデータ群を覗き見る。

『ご推察の通りです。《シルバー・セブン》を自在に制御可能な『カネツグ』さんの高速演算能力で、データから逆算して攻撃衛星群、出来れば地上の攻撃施設からの光線を誘導・補正している中継衛星の座標と軌道も割り出す事は可能ですか?』

 基本的に光学兵器の攻撃は何の干渉もなければ直線状に進む。エリアB、エリアDの地表からエリアAの中央部に立っていたエマ達を狙うには、境界線上から砲撃を行ったとしても明らかに射線が通らない。偏向シールドなどを搭載した中継役の複数の衛星で、一度射線を曲げ補正している可能性が高い。

《小娘よ、我を侮るな。その程度、造作も無き事》

 正確かつ丁寧な手際で、数秒を待たず無人惑星の簡易3Dモデル、そしてその周囲を周回する無数の点が投影される。

「この動いている点は、全て攻撃衛星や中継衛星か。たった十日程で、よくここまで用意したものだ」

 簡易モデルの周囲を動き回っている点の数は優に千を超えている。その全てが地上のエマ達を今この瞬間も狙い続けていた。

「成程、つまり俺はこの鬱陶しい衛星群を全て叩き切ればいいんだな?」

『はい、コンウェイさん達が懸命に積み上げた成果を、一瞬で鉄屑に変えてやってください。後は、当初の予定通りにお願いします』

「了解だ」

 左手の流れるような仕草による、アイテムウインド操作。《オロチぶくろ》から《シルバー・セブン》が位置指定により取り出され、搭乗者を包み込むように展開。

 一瞬の光が収まった時、アカギは剣を差し込むスリットの存在する黒い台座の正面、大剣の如きシルエットを持つ《シルバー・セブン》内部の操縦席に立っていた。

 操縦桿でもある『カネツグ』を台座に差し込んだ瞬間、溝穴(スロット)を介して『戦士』の《霊核基幹》と《シルバー・セブン》が接続される。

 《霊核基幹》を内包する者がアイテムの核と繋がり『装備』した時、それは単に身に着けているという次元を超え、完全なる掌握となる。

 ましてや、『装備』出来る種別を制限しより特化させた『使徒』が、己の適合するアイテムと接続されたとなれば、最早それは自身の骨肉。

 基礎フレームは骨格、配線は血管、センサー類は五感。

 今、接続糸(ライン)を肉体各部へ繋げ接続領域を全身に広げたアカギは、ただ思うだけで《シルバー・セブン》の全てを自由自在に操る事が出来る。

「さあ、お前の力を見せてやれ、『カネツグ』」

《担い手様の御心のままに!》

 『カネツグ』七変化が一、《らいめいのてっつい》。刀身から放出された電撃が、船内へと循環し血潮として《シルバー・セブン》に駆け巡る。

 冷たい宇宙に向けられた白銀の切っ先、船先端の斬撃衝角に雷光が迸る。

 約半年に難破船の残骸を使って建造された《シルバー・セブン》。隕石の精霊事件解決後、船は『カネツグ』陣頭指揮の元フラメル王国にて内部機構の大幅な改修を受け、精霊の力をより強く顕現させる機能をもつ精霊船へと生まれ変わっていた。

《エーテル、収束開始。刀身固定―――――外殻、展開!》

 斬撃衝角を(よろ)う様に空間内に存在したエーテルが集結し、密度を増す。

 光に(かたど)られたのは、暗黒の宇宙にて燦然と輝く恒星の刃。

 それ即ち、《シルバー・セブン》:外殻霊刃(オーバーエッジ)モードである。

「往くぞ!」

 瞬間、エーテル・ストリームの《波》に乗った白銀の彗星が宇宙を駆け抜けた。

 音も光も追い越して、振るわれるのは異なる世界同士の結びつきにより誕生した剣。

 無人惑星の地表にいた者達は、真昼の空を埋め尽くす流星群を見た。

 それは、白銀の刃により切り撃墜(おと)され落下してく衛星達の残骸。殆どは重力に引きずり込まれ大気圏内で燃え尽きるが、幾つか地表に到達し小規模な陥没を作った。

 コンウェイ陣営が金と権力に飽かせて集めに集めた兵器群。圏内でも使用されている最新機、接近してきた敵機を撃ち落とす迎撃機能、偏向シールドを張り攻撃を防ぐ防衛機能など当然の様に完備。一機で対応できなければ複数機で連携して事にあたる鉄壁の布陣。

 だが、遅すぎた。

 センサーが敵機を捕捉した時にはもう、本体の衛星はエーテルの刃で両断され宇宙に散って星となっていく。

《敵機との接触により通信ログの開示に成功。最短周回ルート、修正します》

「応っ!」

 『カネツグ』は器物より生じた精霊である。確固たる自我を持つ鋼の精霊にとって、干渉能力の範囲内に捉えてしまえば特定の決まり事で動いているだけの演算装置など砂上の楼閣。

 接触時に抜き取った各衛星間の通信記録により、エマから提供された観測データだけでは算出しきれなかった機体の位置を特定。

 ヘルメット内のスクリーンに新たに表示された進路に従い、アカギは即座に舵を切る。

 超光速航行の精霊船が、無人惑星を一周するのに一秒は長すぎる。

 瞬く間に次々と閃光を放ち破壊され墜落していく衛星群。

 そもそもからして、近代兵器は宇宙船が自ら超光速航行で激突してくる特攻紛いの状況を想定していない。

 超光速航行に必須のエーテル・リフレクション・マテリアルが非常に稀少であり、その流通量に関しては銀河連盟が厳格な管理体制を敷いている。そのどんな宝石や貴金属よりも価値のあるマテリアルを使い捨てにするような真似、金を湯水の如く消費し贅沢に耽る連盟評議会議員ですら出来ない。

 更に言えば、衛星軌道上つまりは惑星すれすれ、僅かでも判断を誤れば超光速状態で大気の壁に突入して燃え尽きてしまう状況下で、自らエーテル・ストリームの《波》に乗ろうとする狂人染みた命知らずもまた皆無。

 船を己の一部として扱えるアカギ、繊細かつ巧妙なエーテル干渉力を持つ『カネツグ』、両者の能力を発揮するに十分な土台がある《シルバー・セブン》。

 この三要素が組み合わさって初めて可能なハイリスク過ぎて誰もやろうとしない常軌を逸した戦術が、鉄壁の布陣を寸断したのだ。

 計、十二秒。

 一分未満の時間で、アカギ達は無人惑星の周囲を取り囲んでいた兵器を一掃した。

 《シルバー・セブン》が超光速航行を解除し、あえて攻撃をしなかった衛星の傍で停止する。

「『カネツグ』、これが例の送信衛星か」

《はい、ログからの通信経路を見る限り、この衛星が起点となって各衛星に情報が共有されています》

 対コンウェイ陣営への基本方針その二、敵チーム選手の位置の割り出し。

 元々数で劣る《ウェットファイターズ》を三つに分け、アカギが成層圏にまでやってきたのは、今《シルバー・セブン》のモニターに映し出されている衛星、大会運営委員会管理の各ドローンが収集した情報を吸い上げコロニー・ナタにまで届ける送信衛星を見つけるためだ。

 W.F.は誰か一人でも倒れれば、一気に苦境に立たされる。

 試合終了時に戦闘続行可能な選手の数が最も多いチームが優勝するルール上、三チームを擁するコンウェイ陣営はW.F.の誰か一人でも倒せれば、後は二チームでW.F.を抑え込み残りの一チームは逃げ徹し選手数を担保するという戦術が取れる。

 月とほぼ同サイズであっても、人間と比べれば無人惑星は果てしなく広い。捨て身の全力で向かってくる十人の猛者を打ち倒し、本気で逃げ隠れする相手を見つけ出し時間内に全員を倒すのは至難の業だ。

 時間は敵であり、W.F.に守りの戦いは許されない。常に果断に攻め続け、三チームを全滅させるつもりで戦わなければ勝機は無い。

 そして、敵を確実に倒すにはコンウェイ陣営もそうだったように、敵の正確な位置情報が必須。

 送信衛星はドローン全機が得た観測情報の終着点であり、コロニー・ナタに現地の映像を送る出発点でもある。

 この衛星の通信プロトコル設定が変更されているため、コンウェイ陣営にW.F.の位置が筒抜けになっている。

「さて、それでは乗っ取らせてもらう。―――『カネツグ』」

《はっ》

 コンウェイ陣営の動向に関わらず、最初からアカギの目的はこの送信衛星。『カネツグ』の強制侵入能力ならば、証拠も残さず事を成す事が出来る。

 卑怯卑劣と罵られようとも、ありとあらゆる手段を講じて勝利を掴みに行くのが『戦士』の流儀。躊躇は無い。

 送信衛星への乗っ取りが始まる。通信プロトコルに手が加えられ、W.F.の端末に敵三チームの位置情報が転送されるよう、再設定されていく。

 目標を無事達成した事をエマ達に連絡しようとした時、アカギは見た。

 モニターに映り込む、人影を。

「っ!」

 防護服を纏った小柄な人間。

 《シルバー・セブン》を『装備』している今のアカギは、船のセンサー類全てと同調しており、生身以上に鋭敏に索敵を行う事が出来る。

 それでも、ほんの一秒前まで人影はありとあらゆるセンサーに捕捉されることがなかった。

 まるで、突然そこに現れたかのように。

 数百年ぶりに覚えた背筋の寒くなる感覚に、アカギは迷う事無く操縦桿の柄を握りその場から逃走を計ろうとする。

 だが、時すでに遅し。

 得体の知れない何かが、全てを呑み込んだ。

 アカギも、『カネツグ』も、《シルバー・セブン》も、突然現れた人影さえもその場から消失した。

 後には、送信衛星だけが宇宙を漂っていた。

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