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無差別争覇杯三回戦。
優勝というたった一つの王座を目指し潰し合うチームの数は八。
偶然は二度続かない。幸運に恵まれただけの者など、既に淘汰され残ってはいない。一回戦、二回戦を勝ち抜いた選手達は、武運に恵まれているのは勿論のこと、あるいは不運さえも跳ね除け屈服させる圏外屈指の実力を持ち合わせた猛者。
どの試合であっても一筋縄ではいかない事は誰もが容易に予想できることだが、その中でも一番荒れると下馬評がざわつく試合があった。
スタジアム・A開催の《ウェット・ファイターズ》対《ヴィンセントヴァルキリーズ》の対戦カードである。
共に、大会開催前は戦闘スタイルの物珍しさから一部の好事家からは注目されていたが、ここまで勝ち残るとは誰が予想できたであろうか。一回戦、あるいは二回戦にもなれば、もれなく物言わぬ肉片となって屍を晒すだろうと嘲笑されていた両チームは、並みいる強豪チームの義体化人達を原始的な素手であるいは時代錯誤の刀剣を用いてくず鉄へと変え、堂々と三回戦へと駒を進めていた。
義体化施術を受けていない選手自体が珍しい大会で、対戦する両チームのメンバー全員が生身の肉体のままとなると最早前例がない。
凄まじい身体能力にて最上級の義体をまるで紙屑の様に引き千切るW.F.の破壊者達に対し、卓越した技巧で数々の効率化し先鋭化した近代兵器を物ともしないV.V.の戦乙女達。
いつもは訳知り顔で御高説を垂れ流しにする評論家や批評家達も、この試合に関しては頭を抱えるしかない。試合の流れや勝敗の予想とは、過去の試合記録から算出されるものであり、近似のものすらない異色の組合せでは、事が起こる前に結果を導き出すのは容易ではない。
ただ、両チーム共に定石からは外れた戦闘スタイルであるため、試合は間違いなく荒れると多く観客達は考えていた。下馬評では、4:6でV.V.がやや有利と出ている。W.F.は大会参加までの活動記録がなく、件の傭兵団にはれっきとした戦歴が存在する為、票の一部がV.V.へと流れた結果だ。
試合会場である天井吹き抜け型ドームのスタジアム・Aは、当然ながらキャパシティ限界までの人で溢れかえり満席。三回戦に突入し、一日で行われる試合数が減り観客が集中したこともあるが、それ以上に前例のない異色の対戦を多くの者が見たいと望み会場に押しかけていた。試合の裏で行われたチケットの争奪戦の激しさは、スタジアム・Dで開催される優勝候補筆頭の《グレイブヴァルチャー》の一戦と勝るとも劣らない。
コネか、財力か、単純な運か、チケットを手にすることのできた10万の観客達が待ち焦がれ期待で胸を躍らせる中、会場の照明が落ちる。
暗から明への演出。再点灯された照明が空中の一点に集められることで、観客の注目がその座標へと引き寄せられる。
「フゥゥゥゥゥゥー!待たせたな、会場にお集まりの紳士淑女糞野郎共!サッイコーにイカレ奴らの謝肉祭!無差別争覇杯三回戦の始まりだ!」
炸裂する大音量のBGM。空中をボードで螺旋状に滑走しながら登場したのは、鶏冠状頭髪のヘッドにゴーグルがトレードマーク、口の減らない司会者ロビンソン・ヤマモト。多層構造型観客席の人々は老いも若きも、待ちに待った瞬間の熱狂に酔いしれた。
会場の観客達の放つ上昇気流を敏感に感じ取ったロビンソンは、吹きあがった熱気をそのまま逃さずに煽り、会場の東側を指さした。
「さあ、メインキャスト達の登場だ!」
入場ゲートが開放され、横一列に隊列を組んだ黒鉄の軍団が現れる。
漆黒のロングスカートに純白のエプロンドレス。即ちメイド服で身も心も武装した戦乙女達、《ヴィンセントヴァルキリーズ》である。武芸者が自戒として定める規律・規範を下地に敷かれた統率力は、傭兵団という括りにあって軍隊以上の清廉さと強靭さを誇る。
一見ふざけているように見えるメイド服だが、その素材はリボンやフリルなどの小物の装飾品に至るまで最上級の特殊繊維を編み込み作られた可変式外套。各個人の動きの癖や身体能力ごとに微調整され惜しみなく投じられた衣は、鋼鉄をバターのように裂く高周波刃もブラスター・ガトリングの斉射にも耐えうる黒き戦装束だ。
隊列が、変化を見せる。一糸乱れぬ協調で列が中央を起点にくの字に折れ、折り畳まれるように間隔が狭まっていくと、そこに出来たのは両脇を人垣で固めた道。
先行きはリングにまで一直線に続いており、その中央に入場ゲートの奥から三回戦を戦う団員が歩み出る。
白髪氷瞳の少女、アマギ・ハクア。速度を重視する軽量化したメイド服に、『V.V.No.3』の腕章。左右の腰には刀を佩き、戦意を秘めながらも黙して先を見つめるその静かなる佇まいは雪の化生のようであった。
「古よりの業を受け継ぐ伝承者!女だ生身だと侮り戦死者に選定された義体化人、越境者は数知れず!生まれた時から人が持ちうる力のみで、人は何処まで強くなれるのかを追い求める求道者達は、果たして優勝の頂に届きうるのか!?チーム、《ヴィンセントヴァルキリーズ》!」
日常的に《気》の循環を行っている武芸者達は、肌艶に張りがあり血色も良い。健康であるということは、それは一種の美。大会に参加した団員が全て女である事も手伝い、一回戦二回戦とV.V.は入場を行うたびに下世話な野次や嘲笑を浴びてきた。
そして、二度の洗礼を潜り抜けたチームを迎えたのは、歓声だった。
『きゃああ!ハクア様、今日もお美しいですわぁ!』
『なんて鋭く危険な視線!あの瞳で見られたら、私もう!』
試合に於ける、凛とした立ち居振る舞い。武術の完成された動作や型は、芸能事の舞踊にも通じる。全身の至る所をゴテゴテと不格好に義体化した男の選手達にはない華やかさと洗練さを見せつけてきたV.V.は、一部に熱狂的なファンを生み出していた。
下手、対戦前の下馬評で下位であるチームが入場する西ゲートも続いて開放される。入場してくる選手をいち早く見ようと視線を集中させる観客達であったが、五秒、十秒と時間が経過しても選手が姿を現さない。
何かのトラブルかと誰もが訝しむ中、その停滞を突き破りゲート奥から巨大な金属の塊が飛び出した。空を裂きリング手前に突き刺さることで鉄塊の運動エネルギーが殺され、その形状が衆目に晒される。
それは、無骨で酷く原始的な大型金属ブレードだった。凡そ戦闘で扱うには不向きな程に幅広の肉厚であり、義体化していない人間が振るうにはあまりに重い。
手入れこそされているが、古傷も多く武芸者が使用する刀剣類と違い観賞用のアンティークにもならないガラクタ。多くの者の眼にはそう映る。
リングを挟んで対岸にいるハクアの瞳は、内部を透視することでその剣が歴戦の古強者であると一目で看破する。重ねてきた年月ならば《沙羅双樹》の方が古い。しかし、啜ってきた鮮血、喰らってきた骨肉、奪ってきた命の重みがまるで違う。
一体いくつ屍山血河を築けば、こんな見るだけで眼球の奥が疼き、身体の芯から慄き震える外見だけ剣の装いで偽った化物が出来上がるのか。
見ているだけ血に酔い、ともすれば呑まれそうになる。
「妖刀だの魔剣だのの曰くつきの武器なら幾つか見たことがあるけど、純度や濃密さがまるで違う………本当に、妖でも棲んでそうだ」
思わず息を呑み神経を尖らせるハクアは、ゲート奥から響いてきたその声をスタジアムという音の洪水の中から捉えた。
「『カネツグ』、手を握れ」
跳躍というよりも飛翔。不可視の引力にて引き寄せられる様に、ゲート奥から赤毛の男が足を地に付けることなく飛び出した。
引力の発生地点である金属ブレードにまで到達した男は、勢いのままに突き刺さった大剣を抜き放った。そして、身体をその場で回転させる。
刃の切っ先にて床に描かれたのは熱を孕む円。金属同士の擦過により火花を散らせながら、男はその場に着地した。
袖や裾などに赤の指し色の入ったアッシュグレーのロングコート。V.V.のメイド服と同じく可変式外套を加工したものであると思わせる装備は、右手で保持されている大型ブレードを除けばよくいる傭兵の風体に近かった。
観客達は、最初その男が誰なのか分からなかった。代名詞や象徴でもであった裸一貫形態を男が放棄したことにより、印象の乖離が激しく初見では判別がつかなった。
やがて、空中の巨大多面型ARボードに映し出された特徴的な赤毛や余裕綽々の太々しい表情が過去の記憶と結びつき、観客の一人がその名前を口にした。
『あれ、《ウェット・ファイターズ》のアカギじゃないか?』
その回答は、瞬く間に会場中に伝播する。
そして生じたのは、落胆や失望。
不遜な物言いや上から目線の態度でも、少数派ながらW.F.を支持する客層が常にあったのは、口先だけでなくそのストイックなまでに強者たる姿勢を行動を以って示してきたから。こと三回戦に至って、日和ったかのように武器や防具を持ち出したことに、支持層の観客達は落胆を禁じ得なかった。
元々W.F.に好意的ではなかった層に関してはここぞとばかりに責め立てる。
『なんだよ、結局命惜しさに裸一貫を止めて金に物を言わせた重装備かよ、この腰抜け野郎!』
『そんな為体で、勝ちを譲ってくれたチャンピオンに恥ずかしいと思わないのか!』
空中から常に会場の様子をモニタリングしているロビンソン・ヤマモトは、客の反応を正確に読み取っていた。メインイベント前にケチが付き、試合が白けるのは司会者として避けなければならない。
得意のトークや会場の演出で湧いて出た疑問や不審を煽る事で助長させW.F.を悪役、V.V.を善玉として扱い場の空気を制御する。あるいは早々にプログラムを進める事で不和の感情を掻き消し有耶無耶にするべきかと考える中、ロビンソンはリングの前に立つアカギの視線が空中の自分に向いていることに気付いた。
司会者としての勘と経験から意図を読み取ったロビンソンは、複数台の浮遊型マイクロフォンをアカギへと飛ばした。
針の筵の状況で、マイクに向かって赤毛の『戦士』は堂々と声を放った。
「騒ぐな、これは防具ではなく枷だ」
合金製の留め具を外したアカギは、無造作に外套を脱ぎ捨てる。
空気を孕み宙に浮かんだロングコート、されどその滞空時間はあまりに短く、即座に重低音を響かせ床に亀裂を走らせながら沈み込んだ。
「ワッツ!?」
観客達の気持ちを代弁したロビンソンは、口から大きな疑問符を吐いた。すぐさま真相を確かめるべく解説や実況補助のためのスキャン機能を実装している撮影用ドローンを用いて投げ出された外套を解析する。
自身の端末を兼ねているゴーグルでデータを参照した司会者は口笛を吹いた。
「……こいつは、狂気的・・・・・・いや、この場合寧ろ古典的か?」
同期している空中の巨大ARボードにも同じ情報が映し出される。
構成素材、構造機構、細やかな数字の羅列。
言うならば、その外套は拘束具。本来ならば衝撃を吸収し動作を補助する可変式外套の機能を全て内側に反転させる事で、全身を圧迫し自由を奪い使用者の筋肉を押し潰し骨格を粉々にしかねない処刑器具でもある。
その推定負荷重量は、約三トン。
観客達が顔面を驚愕の相に歪める中、超重量の後遺症もなく涼しい表情のアカギは言葉を吐いた。
「真の強者にとって、この世の多くは取るに足らない些事でしかない。だが、無下にしてはならぬこともある」
『戦士』の指先がリングを挟んだ対岸、ハクアを指し示した。
「試合前、V.V.は本気でぶつかり合う一対一の決闘試合を俺に申し込んできた」
観客達に視線が、今度はハクアを中心とした武芸者達にも注がれだす。選手枠を五つ全て埋める事のV.V.と最大でも三つしか埋める事の出来ないW.F.が戦った場合、二戦分の不戦勝が確定するV.V.はたった一度勝つだけで三回戦を突破できるのだ。しかし、V.V.が一対一の試合を望むということは、チームの持つアドバンテージを捨てることを意味していた。
何故そんな愚行をと疑問に思う観客達に答えるように、アカギは声を出す。
「惰弱な勝利を唾棄し継承してきた武術を極めんが為、より熾烈な戦いを求めていく。どうやら武芸者という人種は俺が思っていた以上に業が深く、そして頑固なようだ。だが、自らを不利に追い込んででも信念を貫くその誇りに、俺は敬意を表する」
敵を讃えるその声は、不遜ではあるが明朗であり強敵との戦いを心待ちにしている響きがあった。歓喜、破壊者が大衆の前で見せた初めての喜びの相だった。
「誇りにはこちらも矜持で以って相対するが礼儀。よって、今回は本気を出す為に身体を時間ギリギリまで絞り磨き上げ、我が矜持そのものである愛剣を用意した」
右手によって鉄塊の如き大剣が高く掲げられることで、鈍く光る刀身がその威容を示す。星間航行さえ可能な程に科学技術の進んだ現代に於いて、武器の強度や性能を飛躍的に向上させる手段など無数にあり、威力を増すために質量を増やし肥大化した武器など無用の長物。
多くの大衆にとってはガラクタ以外の何物でもない役に立たない骨董品の大剣が、掲げれた瞬間から不可視の圧力を放ちだした。越境能力を持たずとも、感性の鋭い者ならば発せられる重みを鋭敏に感じ取り、それがただの金属の塊ではないことを理解できたであろう。
「一、二回程度の戦で俺の力量を推し量った気になっている他チームの有象無象共、そしてこの会場にいる全ての者達はV.V.に感謝するといい。何せ、決勝まで晒す気のなかった俺の真の力の一端が見れるのだからな!」
これまでの公式戦全てで、アカギは一切苦戦することなく余裕の体で勝ち抜いてきた。
誰も彼もが名のある実力者達をと戦い、傷らしい傷も負わず、有効打が一撃でも入れば即粉砕にて決着。
圧倒的とも言っていい戦闘記録だが、それですらまだ序の口。
W.F.のアカギの本当の実力は未だ開示されておらず、大剣を扱う戦闘スタイルこそ本領。
その事に気付いた観客達は、驚きながらも沸きあがる衝動を抑えきれなかった。
エーテルネットワークが張り巡らされ、誤差0.数秒のライブ中継が珍しくない環境下で、態々高額のチケットを購入し闘技場に足を運ぶ観客達の多くは、試合の熱狂に酔いしれる事が何よりの快楽である中毒者。
そして、得てしてその手の人間は、劇的であり未体験の刺激をより好む。前歴なく突如出現し、下馬評を覆し続けてきたダークホースのW.F.。そのリーダーであり、チーム内最強と目されるアカギの真の実力が開示されるともなれば、否が応でも期待感は高まり興奮が沸き上がる。
最早、会場の空気の流れは裸一貫を崩した事を責めるよりも、新たに公開される『戦士』の力に注目する方向へシフトしていった。流れが変わった事を感じ取ったロビンソンはここぞとばかりに、声を大にしてその空気を更に煽り立てる。
「古きを破壊せんとするは新時代の解放者!闘技場王者を下したその実力は、正しく本物!道なき道、前人未到の荒野を進むその旅路はどこまで続く!?栄光か、破滅か、我々はその最後を見届けずにはいられない!チーム、《ウェット・ファイターズ》!」
歓声が、会場を震わせる。
アカギが下準備を行い、ロビンソンが煽ったことで燎原に火を放つが如く熱気が伝播し会場中を白熱させる。試合前の盛り上がりとしては、ほぼ最高潮。
登場を終えリングの傍へ集った選手達、そして観客達に向けてロビンソンは言葉を発する。
「さあ、それでは古きと新しきがせめぎ合う試合のルール発表だ!」
激しく自転する巨大な多面型ARボード。回転が止まるとそこには両チームの落札結果、購入した権利などが反映されたルールが表示されていた。
三回戦第一試合
試合形式:勝ち抜き戦
出場枠
《ヴィンセントヴァルキリーズ》:一名
《ウェット・ファイターズ》:一名
バトルフィールド:風巻く尖塔
オプション:なし
両チーム共に出場枠を一つのみ埋めた、初戦の勝敗が試合の勝敗に直結する決闘試合。W.F.は近接武器の使用権のみを購入し、V.V.は武器・防具両方の使用権を購入している。
自身のメイド服を摘まみながら、ハクアはアカギの大剣と見比べる。
「ま、一撃受けて原型が残ってれば御の字か。ねえ、そこの君」
V.V.の成している隊列、リングに一番近い位置に立っていた団員は声を掛けられた事にビクリと背筋を震わせ、応答する。
「な、なんでしょうか、第三席」
アマギ・ハクアの傭兵団内での評価は、自由奔放にして勝手気儘な狂人。純粋な個人の実力だけならば第二席のホウセン・ミツル以上であるが、協調性の無さと他者の事情を慮ることを殆どしない為、指揮能力や育成能力を必要とされる第二席以上の地位に就く事はまずないと評価されている。
出来るならば極力関りたくはない人物だが、傭兵団や武門という組織体系は能力主義のタテ社会の気風が強く、席次の上位者の命令は余程の事でない限り従わなければならない。
話しかけられた席次が下位の団員は、試合前の昂りを治めるために試し切りをさせろなどの無茶な要求をされるのではないかと顔を青くした。
「君、ちょっとこっちに来て両手を前に出して」
腕を、切られるのか。胴を割られるよりは幾分かましかもしれないと諦めの境地にて震えながら団員が両手を突き出すと、思わぬ訂正が入る。
「あー、違う違う。拳じゃなくて、こう、水を掬い上げるみたいに両手をくっ付けて、掌を上にして………そう、その形で保持しておいて」
訳の分からない団員だったが、一瞬鍔鳴り音が響いたかと思うと、両手の平にぱさりと軽い感触の物が落ちてきた。
透き通るように艶やで瑞々しさを持つそれは、たった今切り落とされたハクアの白髪の一房だった。
「もしボクが生きて戻らなかったら、それをみっちゃんに渡しておいて」
団員は理解した。
自身の掌に載っているそれは、場合によっては遺髪となるのだと。
「アカギさんの身体能力で振るわれるあの剣で切られたら、多分原型とか残らない。でもみっちゃんは、お堅いようで優しくて甘いから、肉片になったボクの死体を全部集め切るまできっと止めない」
死んでからも迷惑かけるって流石に気が引けるんだよねと、ハクアは漏らす。
「だからさ、その髪を死体の代わりにしてお葬式とかの面倒な手続きをするようにみっちゃんに言っておいて。あ、これ一応遺言になるかもだからちゃんと伝えてね」
それだけ言い残し、気軽に、本当に気軽に死地に赴いてゆく上位者の背中を、団員は自分でも分からない感情で顔を歪めながら見送った。
掛ける言葉が見つからない。武運を祈るとも、死なないでくださいとも口から言の葉を紡ぐことが出来なかった。
団員は、自身の無力さを奥歯で噛みしめた。




