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数多くの世紀の発見や発明がそうであったように、トランス航行という革新的な技術もまた、失敗の中から偶発的に誕生した。
二十年前、ギルドの後ろ盾の元、予算、設備、権限の三拍子の揃った潤沢な環境にあったヒャクシキは、後に悪魔と呼ばれる船《ラプラス》を開発する。ただし、開発当初目指していた物は宇宙船ではなく異世界に渡るための次元航行船であった。
情報因子化による不干渉領域の越境。
世界の隔たりを超え循環するトランス粒子には、ある種の特定環境下では物質を情報因子として分解・記録し、内部に保存した情報から再構築する性質――身体強化系の越境者が発生させる巨大化や獣化などの肉体変化はこれに起因する――が存在する。自然界でこの現象が起こる事は非常に稀であり、発生したとしても一瞬で分解・再構築のプロセスが終了するため、仮に生物が巻き込まれたとしても、認識さえできずに終わる。
ヒャクシキはこの性質に着目した。トランス粒子が物質の分解・再構築を行うのならば、情報因子として分解・記録された状態で粒子に格納され不干渉領域を超え、移動先の世界で再構築を行うことで異世界へと渡れるのではないかと考えた。
ギルドの権力を使い千人近い越境者達のサンプルデータを採取し、多額の予算を投じて実験を繰り返すことで意図的に情報因子化現象を発生させることに成功したヒャクシキは、トランス粒子を生成する装置、プラズマジェネレーターを搭載した《ラプラス》を建造した。
そしていざ初の異世界越境の実験を行うも、失敗。
当時の最新式プラズマジェネレーターで生成した大量のトランス粒子を用いて《ラプラス》を情報因子として分解・記録させようとしたが、何度越境実験を行っても結果は船体の『質量のみ』が粒子内に格納されるだけで、情報因子化による越境は失敗に終わった。
その結末に激怒したのは、ヒャクシキへ支援を行っていた当時のギルドを統べる五帝の纏め役。あくまでも支援とはヒャクシキの研究が未来の利益を生み出す可能性への投資。時間と予算を湯水の様に浪費し、何も得られなかったでは話にならない。
直近で何かしらの成果物を挙げられなければ支援を打ち切ると通告され、ヒャクシキは発想を切り替えることで実験結果をフィードバックしとある航行法の理論を構築した。
そうした経緯で誕生したのが、トランス航行である。
理論実証のため、細心の注意を払い限定された空間内の実験場にて行われたテスト航行で、《ラプラス》はエーテル濃度がほぼゼロに等しい状況にてエーテル航行に匹敵する速度と別格の運動性を見せつけた。
偶然の産物でありながら、エーテル・ストリームの影響を無視できるその有用性は当時としても破格であり、何も得るものが無かったと落胆したところに降って湧いたトランス航行は正に金の卵を産むガチョウ。燦然と輝く栄光の未来に、五帝の目は眩んだ。
トランス航行は技術としてはまだ未完成であり使用するにはあまりに危険であると制止するヒャクシキを含めた周囲の声を無視し、五帝は圏外中にトランス航行とそれを唯一行うことの出来る船である《ラプラス》を公表し、自身の力を喧伝するための大々的なデモンストレーションを行った。
忌むべき《ラプラス》の歴史は、そこから始まる。
公開デモ中、居住コロニーに超加速状態で激突したことで発生した天文学的な損害、補填する方法など存在しない膨大な数の人命の喪失。
ヒャクシキがギルドを去った後に、残された設計図から粗製乱造される《ラプラス》の複製品・模造品達が引き起こす失敗と事故の連鎖。
そもそもトランス航行自体が、異世界を目指す為に粒子の研究に心血を注ぎその性質を誰よりも理解している天才ヒャクシキだからこそ提唱できた航法であり、後追いの情熱も無く才能に劣る凡百達が幾ら手を加えたところで改悪にしかならい。
《ラプラス》に至っては宇宙船としての機能は五帝が広く公表するため無理矢理に後付けさせたものでしかなく、大元は次元航行船であるため残された設計図を『トランス航行可能な宇宙船』のものとしか認識していない者達には、どう足掻いても完成させることなど出来るはずもない。
未完のトランス航行を完全なものとし、それを実証できる船を作れる者はヒャクシキ・ツハードを於いて他にいない。
無人惑星で一日も休むことなく今日まで続けられたトランス粒子の干渉実験により得られたデータを基礎とし、ヒャクシキによって設計思想の段階から『トランス航行を十全に運用する宇宙船』として図面を引かれた船、それが《ノイマン》である。
理論の提唱より、早二十年。
紆余曲折、様々な人物の欲望や思惑が絡み合いようやく完成し日の目を浴びた船は、コロニー・ナタから飛び出すように出航した。
刻限を同じく、OOE社製の最上位機《火塊赤》もまた真横のドッグから出航を開始する。
悪魔と呼ばれた《ラプラス》の後継は、銀河に漕ぎ出すと同時に自機が有する惑星間航行用の超加速機構を起動させる。即ち、トランス航行システムである。
心臓部にあたるプラズマジェネレーターが稼働率を急上昇させ、大量のトランス粒子を
生成。世界と世界を隔てる不干渉領域へのアクセスが行われることで、船体の『質量のみ』が粒子を受け皿として領域内へ格納され、疑似的な質量0が成立し慣性中立化現象を引き起こす。
宇宙船として一からヒャクシキによって設計・開発された船は、過去に模造品達が多発させた超加速状態に移行した際、低確率で制御不能に陥るという欠陥を完全に克服しており、その挙動はどこまでも安定しエマを乗せ銀河を往く。
慣性の束縛から解き放たれた《ノイマン》は、超加速状態となって光を追い越した。
その軌跡に、《火塊赤》も続く。円錐形の船体は、全面にコーティングされた稀少金属を用いて、惑星間を繋ぐエーテルの《波》を余すことなく受け止め、干渉し、加速する。人類の最盛期、黄金時代を築いた礎とも言ってもよいエーテル航行を行う船もまた、光を超える。
フラメル王国が設定した周回コースを約24時間で一周し、元の港にまで戻ってくるのが耐久テストの内容だ。コロニーに辿り着くまでは、二隻共に無補給で飛び続けなければならない。
長丁場のテスト、スタートダッシュを制したのは、《ノイマン》であった。
流線形型の船体、嘗ては母星の海を高速で自在に泳いでいたイルカやシャチの様な海洋生物の系譜を想起させる形状の《ノイマン》が先を往き、円錐形で馬上槍の穂先のように鋭く伸びた《火塊赤》が貫かんばかりの速度で暗黒の宇宙を追走する。
差がついているのは、それぞれの航法の特性に起因するものだ。
トランス航行は、エーテル航行の完全な上位互換というわけでは決してない。長短両面持ち合わせており、優れている部分もあれば当然劣っている部分もある。
二隻の船の距離は、トランス航行の優っている点が作り出している。
初速。《ノイマン》は、完全な静止状態から加速のための距離を必要としない。
慣性中立化現象を引き起こすトランス航行の特性上、慣性の束縛を受けない船は瞬時に最高速度に至ることが可能だ。
よって静止状態からの加速性能のみであれば、《ノイマン》は《火塊赤》を圧倒する。
操縦席でARのコンソールパネルを用いて船を管理・制御しているエマは、計測器からの映像で後方の《火塊赤》が徐々に距離を詰めてきていることを確認する。
「流石は五帝の肝いりで捻じ込まれた船ですね、もう追いつき始めてる」
《惑星流》の活性化具合や空間内のエーテル濃度にも左右されるが、エーテル航行の最高速度は同じ超加速状態でもトランス航行の上を往く。コロニー・ナタを視認することが不可能な宙域にまで達し、エーテル濃度が上昇したことで《火塊赤》がその本来のスペックを発揮し始めていた。
速度が乗り切った状態ならば、《ノイマン》は《火塊赤》に追いつけない。
だが、船を評価する基準とは何も速度のみでない。一隻建造するために必要な費用や、実際に運用した際のエネルギー効率に、耐久性、居住性、操作性。
それら様々な項目を試し船の有用性をギルドにアピールする為に、フラメル王国が設定した周回コースには数多くの障害が内包されている。
「見えてきましたね、最初の難所が」
ゴーラ小惑星群帯。
宇宙空間に小惑星や難破した宇宙船の破片などのデブリが密集し船の航行を阻む、などいう事態は実の所滅多になく、小惑星群帯と言えども船一隻が通過する間隙は優にある。余程船の航行システムに異常をきたし、乗組員が無能でもなければ漂流物に接触することはない。
ならば、何故テストコース上に存在するゴーラ小惑星群帯が難所と呼ばれているのか。
それは、この宙域の小惑星やデブリが不規則に、しかも高速で動き回るからだ。
流れるエーテル・ストリームと丁度重なるように広がるゴーラの小惑星の多くは、内部にエーテル・リフレクション・マテリアルを微量ながら含有している。あまりにも少量過ぎ、掘ったとしても採算が取れず誰も採掘に乗り出そうとしなかったため、結果として圏外には魔の宙域が一つ誕生してしまった。
極々微量とはいえ、マテリアルを含有した小惑星はエーテルの《波》に反応する。エーテル・ストリームが活性化すれば、帯を構成する無数の小惑星――直撃すれば小型船舶ならば容易に沈めることのできる岩石群――が、一斉にエーテル航行に匹敵する速度で無軌道に動き踊りだす。
不意打の様に飛来する小惑星群を咄嗟の操舵で回避できたとしても、避けた先に宙域を漂流する巨大デブリやまた別の小惑星が存在している場合も多く、二重三重の天然の罠が構築されている。
過去、この宙域を無傷で通過出来た船は殆どいない。
現代のエーテル航行を主軸とする宇宙船は、マテリアルがコーティングされた推進力発生セイルが必ず搭載されおり、船に大きな破損があればセイルも同じく破損している可能性は高い。セイルが破損すれば、宙域内に微細なマテリアルが撒き散らされることとなる。飛散した粉末状のマテリアルは、漂う破片や岩石群に付着し踊り狂う対象を更に増やす。
星々の舞踏に誘われた船が一隻沈む毎に、あるいは沈まずとも飛来してくる岩石に被弾し装甲や部品が撒き散らされる毎に、宙域にはデブリが増える。年々拡大していくゴーラ小惑星群帯に、ついには五帝達がこの宙域を航行禁止区域に指定し、一切の侵入を禁じた。
ただ、それでも船の往来が無い事を逆に利用して良からぬことを企む犯罪者や海賊、コロニー・ナタへ到着するための最短コースであるゴーラ小惑星群帯へ密かに侵入し益を挙げようとする商人が後を絶たず、今尚その帯は広がり続けている。
危険地帯へ接近したことで、《ノイマン》に追いつきつつあった《火塊赤》が光の帯を纏ったエーテル航行から内燃機関にて推進力を得る通常航行に切り替える事で減速を開始する。
超加速状態で踊る小惑星に衝突した場合、相対速度で大型船舶であっても大破し航行不能に陥る可能性がある。リスクを最小限にするため、速度を犠牲にしてでも《火塊赤》の船員達は安全を優先した。
一方、《ノイマン》はトランス航行を止める事無く、減速さえしなかった。
「さあ、ここからがトランス航行の本領発揮です」
エマは、減速することなく速度を維持したまま、魔の宙域へと侵入する。
待ち構えていたかのように、踊り狂う小惑星の群れ。上から、下から、左右から、船を三度破壊して有り余る質量の波が、《ノイマン》に殺到した。
船の状況を投影されたモニター越しに睥睨しコンソールに指を走らせるエマは、慌てず騒がず冷静に操舵を行う。
最高速度で前に進んでいた船は、秒と待たず全く同じ速度で後方へと急速に退いた。疑似的な質量0が成立した船には、加速のための距離が不要なのと同じく、減速するための距離もまた不要。瞬間的に静止状態へと至り、間を空けずに最高速度で後方へ下がるなど容易い芸当だ。
《ノイマン》が一秒前までいた空間では、小惑星同士が衝突し砕け散り破片を拡散させる。広がる粉塵を、再度前方へと舵を取った《ノイマン》の船体が突き抜けた。
静止から最大値、最大値から静止。折れ線グラフの最高点と最低点をコンマ数秒で行き来する急激な速度変化を船体に負荷を掛けることなくフレキシブルに行えることこそノイマン・タイプ、引いてはトランス航行の真骨頂である。
エーテル航行の場合、どんなに優秀な制御システムと腕利きの操縦者が死力を尽くしたとしても超加速状態での船の描く軌跡は弓なりの弧状になり、速度の変化は山なりを描く。対し、トランス航行の利点を引きだした船の軌跡は鋭角的であり自在、速度変化に至っては最早直角の近似を取る。
加速・停止を高速で切り替える事により《ノイマン》は、飛来する小惑星を回避し漂流するデブリの間を擦り抜け、抽象化された稲妻の如き鋭角軌道で魔のゴーラ小惑星群帯を切り裂いていく。
障害物や飛来物に接触するかしないかの瀬戸際のコースを苦も無く余裕の挙動で駆け抜ける様は、従来の航法とはまるで別物。
先往く船の速度に煽られ《火塊赤》もエーテル航行に入ろうとするが、超加速状態に移行するには小惑星群帯はあまりに狭く細く、通常航行でさえもまともに行えていない。
詰まっていた二隻間の距離が、また大きく広がっていく。
仮に、これが障害物や不確定要素の一切ない直線をどこまでも進み続けるレースであったなら、《ノイマン》が《火塊赤》に勝つ可能性は無に等しい。距離が延びれば伸びる程に、プラズマジェネレーターを駆動させトランス粒子を生成し続けなければならないトランス航行は、速度とエネルギー効率の面でエーテル航行に劣る。
だが、エーテル・ストリームの活性化状況に左右されず、速度で負けていようとも制動能力に起因する別次元の旋回性能を誇る《ノイマン》は、航路が荒れれば荒れる程にその力を如何なく発揮し輝きを増す。
《火塊赤》が特定環境下で優れた性能を発揮するオンロード仕様のオートモービルならば、《ノイマン》は如何なる悪路をもタフネスとバイタリティと走破するオフロード仕様。マテリアルに代表される稀少な特殊素材を一切使用していないことから、整備性も高く修理も容易。
天才ヒャクシキ・ツハードが夢の実現のための第一歩として作り上げた《ノイマン》とは、ゴーラ小惑星群帯のような過酷な環境が点在する星の海を往くために開発された船なのだ。
それは、まさに圏外の状況にこれ以上ないくらいに噛み合うようデザインされた性能。
魔の宙域を無傷かつ最速で駆け抜けた《ノイマン》は、事前に試算されていたタイムレコードを更新しつつ次の宙域へと舵を取った。
静かで趣のある部屋だった。
柔らかな日差しが空間全体を優しく包み込んでおり、安らぎを与える。
植物由来の清々しい香りの畳を敷き詰めた座敷。調度品は少なく、壁や床に埋め込まれている電子機器の類も無い。静寂を乱すものは極力排除され、響く音といえば縁側を超えた先に広がる庭園の池で泳ぐ魚が時折生じさせる水飛沫くらいだろうか。
床の間、飾られた掛け軸に揮毫された文字は『行住坐臥』。
筆を執ったのは、庵の中央で湯気の立つお茶の熱と深い苦味をゆっくりと味わう枯れ木の様な老人、シュン・ライコウ。普段は五帝として公式の場に出席する際は、紋付羽織袴に袖を通し隙無く身を固めているが、今は質素で気楽な作務衣姿で好々爺然とした雰囲気を漂わせている。
コロニーの管理・運行を行うナタ運行管理局ビル最上階。ワンフロアの壁を全て取り払いビル内に自分専用の庭園と庵をライコウは作っている。庭木や池の手入れから部屋の掃除まで全てライコウ自身の手で行っており、言わば金と手間に物を言わせた巨大な盆栽だ。
極々私的な空間であるため、他の五帝と言えどもライコウの許可が無ければこのフロア内に立ち入ることは出来ないが、今現在縁側で猫の様に横になって寝そべりくつろいでいる少女は顔パスで入れる数少ない人物だった。
片目眼帯片目義眼の越境者にしてライコウの孫娘、シュン・レイホウである。
「あ~、人工的に再現された太陽光でも、ポカポカしていて気持ちがいいですね~」
座布団を枕替わりにし、横には海苔の巻かれた煎餅にお茶。完全に緩み切った状態のレイホウは世間話でもするように自らの祖父に問いかける。
「《ノイマン》の性能テスト、御爺様はご覧にならないのですか?」
「必要あるまい」
他組織に協力しある意味でギルドを裏切っている孫へ、ライコウも同じく何の気負いも思惑も無く平静に返す。
「《ノイマン》を開発したヒャクシキの小僧の事なら、よく知っておる」
ヒャクシキがギルドに籍を置いていた二十年前、ライコウはその当時から既に五帝の一人であった。荒唐無稽な夢を掲げながらも、決して口先だけの夢想家にならず行動と結果でギルドからの信頼を勝ち取っていった少年の姿は、今尚鮮やかに思い出すことができる。
柔軟な発想や優れた頭脳は天性のものであり、そこに情熱と言う名の行動力が加わった様は正に火の玉。忘れる方が難しい。
《ラプラス》の惨劇の際、世間からの痛烈なバッシングは回避できながったが、ヒャクシキに法的な咎が及ばなかったのは、ライコウが事件の詳細を調べ上げ手を打った働きが大きい。
「二十年程度の空白期間など奴に取っては無いも同じ。奴が出来ると言った以上、《ノイマン》の性能を疑う余地はない」
茶の湯を半分まで飲み切ると、今度はライコウから話を振った。
「敢えて言えば、懸念材料はお前が身命の全て、未来さえも賭けたというエマのお嬢ちゃんの事じゃ。儂は、お嬢ちゃんの気質や性格を知り得ているわけではない」
当然のことながら、ライコウも自身の持つ情報ネットワークでフラメル王国第一王女エマ・フラメルについては調べ上げている。出生から始まる来歴から、血縁や人間関係に思考や行動パターン。
交渉前に相手の立場や性格などの情報を調べるのは商人として基礎中の基礎であり、それが出来なくなるほどライコウは耄碌していない。
調査結果で分かったのは、エマ・フラメルがとても優秀な人物であるということ。
辺境の惑星マーズマのフラメル王国の生まれ。
決して恵まれたとは言えない赤貧状態から苦学し、圏内最高学府の《スクール》に合格。そのまま進めば栄誉栄達も望めたであろうが、苦境に立たされた故郷を救うためのその道を捨て、外交官兼王権代行者として銀河のあちこちを飛び回りフラメル王国を存続させようと行動している。
国家消滅の窮地にも心折れることなく思考を回転させ続け、最善を目指すその姿勢をライコウは高く評価している。自身の直属の部下とし、ゆくゆくはギルドの運営に関わらせようと思う程に。
だが、逆に言えばその程度。エマ以上に優秀な人間を五帝であるライコウは何人も見てきており、それは占いで多くの業界の大物達と接触する機会のあるレイホウも同様だろう。
何故人を見る眼に於いては空前絶後の才気を持つ孫が、エマという少女を見初めたのか、ライコウには理解できなかった。
「レイホウ、お前は何故あのお嬢ちゃんを選んだ?」
ライコウの問いかけに、レイホウは手を天井から降り注ぐ照明の光に翳した。
「御爺様、覇王ってどんな人だと思いますか?」
答えになっていない返答に疑問符を浮かべる祖父を見ながら、義眼の少女は語り出した。
「私の右目を潰した人、それがエマちゃんです」




