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PV4000&ユニーク1400突破!


読んでいただけた方々、誠にありがとうございます。


皆さんのPV数やブックマーク数、評価などは、私の励みになります!

 黎明歴425年9月18日。

 未明と早朝の狭間の刻限、午前三時三十分。

 銀河の不夜城とも謳われるコロニー・ナタであるが、時間帯によっては人口密集率が減少するタイミングは当然ある。それが、午前三時から四時の間。

 24時間営業の店舗も存在するが、それですらオートメーション化された自動販売システムが稼働しているだけであり、客も店側も人間の数は大きく減る。

 コロニー内の環境はシステムにより管理・調整されているため、太陽光が無い故の低気温は発生しないが、薄暗く活気のない街は惑星上での日照による気温変化に慣れた者には寒々しく感じられるかもしれない。

 港区画。通常ならば船の往来も少ない時間帯に、内燃機関を稼働させ今まさに出港しようとしている宇宙船があった。フラメル王国の、引いては圏外全体の未来を左右する可能性を秘めた船、《ノイマン》である。

 全長約30mと宇宙船としてはやや小型の流線型船体には、内と外の両面でフラメル王国の者達が最終調整に(せわ)しなく動き回っていた。コロニー・ナタに来ることが出来た人員の数は交渉役のエマやレイホウ、開発者であるヒャクシキを含めても十名足らず。各員が担当する仕事量は多く、皆が一分一秒を惜しんで奮起していた。

 《ノイマン》の船体中心に位置する円形ブリッジ、操縦席に座り身に纏った装備のフィッティングを行いながら、エマは関節などの駆動や宇宙空間に投げ出された時などの緊急時に使う推進剤の貯蔵を入念にチェックしていく。

 安全性を考慮するならば、万能工作宇宙服のLスーツを用意すべきであったが、ナノマシンが投入された自己形成流体宇宙服は連盟が秘匿しているナノマシン技術の塊のような代物であり、圏内から外への持ち出しは厳しく制限されている。漂着惑星でエマが複数のLスーツを所持・使用できていたのは、連盟の未来を担うであろう《スクール》の学生という立場と、船舶事故と言う特例が重なった結果であり、非加盟国となったフラメル王国の王女であるエマにLスーツを手に入れる術は無かった。

 宇宙空間用の装備としてナノマシン技術のない圏外で主に使用されているのは、多機能防護服(マルチジャケット)だ。

 着用者の全身を肌に密着する耐Gや生命維持装置を兼ねた専用インナーで覆い、その上から基礎となる強化外骨格フレームを装着すことで運用する。Lスーツの様にその場その場の状況に流体変化で対応する事はできず、必要な機能はオプションパーツとして骨格フレームに予め『肉付け』することで追加する。

 専用インナーの基本カラーが黒、骨格フレームが白であるため、オプション無しのノーマル状態での外見を一言で表現するなら機械で作られた骸骨とでも言ったところか。

 無骨で洗練からは程遠いが、その分頑丈。コストパフォーマンスに優れ入手・改造も容易であるため、圏外では官民を問わずに広く普及している。

 元々は戦闘用として開発された訳ではないが、使い易さと頑丈さから圏外が活動域である傭兵や海賊などは、非正規の増設バッテリーを追加して瞬間最大出力を上げる、サードパーティ製の変換アダプタで仕様外の兵装を強引に接続するなどして、各々が独自の改造を施し戦闘防護服(バトルジャケット)などと俗称で呼び愛用している。

 各個人の好みにカスタマイズされ物によっては原形を留めないまで変貌する多機能防護服だが、エマが身に着けている物は、特別なオプションなどは追加しておらず殆どノーマルのままだ。数少ない手を加えられた点と言えば、左肩口にフラメル王家の家紋である太陽と翠の杯のマーキングを施しているのみ。

 性能テスト終了後に、防護服の性能で結果を出したと追及を受けぬよう、王国側が用意した設備や装備は《ノイマン》を除けば、ほぼ一般で流通している品質の物で統一されていた。

 装備の調整を終え、エマが自身を中心に投影されたARのコンソールパネルで機体の各パラメーターをチェックしていると、通信が入った。発信元は、ヒャクシキ・ツハード。彼の担当は船の心臓とも言うべき、ジェネレーター部分。出港直前に何か問題でも発生したのかと、エマは即座に回線を繋げた。

 船のシステムによって空中に投影された、胸から上のタンクトップにジャケットを着た筋肉質な上半身だけの映像のヒャクシキは告げた。

「エマ様、ちょいときな臭くなってきましたよ。こいつを見てください」

 展開されたのは、《ノイマン》の外部カメラが収集した映像。船が停泊している真横のドッグに、真新しい一隻の船が入港していた。

 円錐型の縦に長い赤い船体。世間一般に先日その存在を大々的に公表され、圏外では指折りの大企業のCMにもその鋭角的なフォルムは飾られている。企業が宣伝費用に巨額を投じていることもあり、エマもその名と形状は何度も耳目にしている

「この船は、OOEの《火塊赤(かこんせき)》?」

 エーテル・リフレクション・マテリアルを用いて《惑星流》に干渉してエーテル航行を行うという発想は既存の多くの船と同じだが、《火塊赤》はマテリアルを推進力発生セイルにコーティングするのみならず船全体にまで広げる事でエーテルへの干渉力を高めて、その航行速度を従来のものとは一線を画するものにまで高めている。

 マテリアルを大量に使用し能力を高めるという点ではアカギの《シルバー・セブン》とコンセプトが似ているが、こちらは装甲の全てを希少金属で構成するなどという狂気の産物ではなく、マテリアルの使用をコーテイングのみに留めているため比較してコスト面で優れ、溝穴(スロット)に接続する関係上武器の形に縛られる《シルバー・セブン》よりも船体の形状の自由度が高く、より効率的にエーテルの流れとの接触面積を増やせるよう円錐形の縦長型をしている。

 競技用の特殊仕様、戦うことが前提の軍用艦などを除いた一般流通している個々人が金銭さえあれば購入できる船の中では、おそらく価格・船速共に圏外最高の船。

 製造元メーカーの名は、ワン・オー・エイト。通称OOE。

 五帝内のとある人物の傘下の企業である。隠す気が一切ないのか、《火塊赤》の船体の横腹にはOOEのロゴマークが刻印されており、その周囲を動き回るスタッフ達の作業用のオプションを『肉付け』した多機能防護服の背中にも同じく会社のロゴ。

 船は今すぐにでも出港できる状態にまで仕上げられており、その時を静かに待っていた。

 エマは、この状況を用意した首謀者へと連絡と取ろうとするが、それよりも早く《ノイマン》に対して外部から通信が入る。宛名は、予想通りの名前だった。

 回線を開けば、ヒャクシキの真横に船のシステムがもう一体の幻の胸像を投影した。

「おはようございます、エマ・フラメル第一王女。性能テスト直前にも関わらず、応答していただき、ありがとうございます」

 描画されたのは、笑みが顔に張り付いた男、五帝の纏め役であり若手筆頭にしてOOEの最高経営責任者ザイ・コンウェイである。無断で《ノイマン》のすぐ横のドッグに船を停泊させたことを咎めるエマの視線にも、敢えて気付かぬふりをしつつ胸に手を当て一礼する。

「コンウェイ様、これは一体なんの真似ですか?《ノイマン》の性能テストを行う事は周知済みであり、五帝全員の承認も得ているはずです」

 もしこれが要害工作ならば、他の四人の五帝が黙っていないと言外に告げられるも、コンウェイは落ち着いた態度を崩さない。

「エマ王女、事後承諾の形になったことは謝罪しますが、これは貴方が示そうとしている誠意と覚悟に私なりの善意で応えた形なのです」

 諭すような口調で、言葉が続く。

「新機軸の宇宙船《ノイマン》の性能テストですが、比較対象があった方がより明確にその性能を浮き彫りにできると思いませんか?手前味噌ですが、《火塊赤》は流通している船の中で最高峰の航行能力を持っています。同じ条件下でテストを行い勝れば、これ以上ない信頼性のアピールになります」

 最上位機と次世代機。比較する対象としては筋が通っており、事実《ノイマン》が《火塊赤》に大差を付けて結果を残せれば、王国側としては後々の交渉で俄然有利に事を運べる。

 が、五帝とは海千山千の商人達の上に立つ存在であり、善意のみで動くなどという事はまずありえない。決して安くない高性能船舶である《火塊赤》とそれを十全に運用するためのスタッフを用意したのは、それだけのコストを支払っても採算の取れる見積もりをしているからである。

 コンウェイがテストに介入した目的は、端的に言えば値切りである。王国の行ったプレゼンテーションにより公開された《ノイマン》の性能と価値は五帝皆が認めるところではあるが、実機によるテストを行えば新機軸故の粗や欠陥が表面化する可能性もある。《火塊赤》を《ノイマン》に並走させ、不具合を搭載した観測計器で計測し(つまび)らかにすれば、《ノイマン》の『売値』を下げることが出来る。

 更に、前身たる二十年前に事故を起こした《ラプラス》の設計図はコンウェイも所持しており、公開された情報と計測した情報を統合することで、フラメル王国のヒャクシキの協力なしでOOE独自にトランス航行を安全に行える船を建造できる目途が付けば、王国の専売特許でない船の相対的価値はまた下がる。

 《惑星流》の《波》の発生頻度の低い圏外では、《波》の活性化状況に左右されない恒星間航行を行える船の価値は計り知れない。《ノイマン》がトランス航行を自在に運用できるならば、五帝全員がその船を求めて止まないが、そこは商人としてのコンウェイの性であり出来るだけ後々の利益を生み出す為にも『買値』は安くするよう動いていた。

「今から行われるのは、レースではなくテストであることは私も重々承知しています。要害などもっての外であり、万が一の事故の際はOOEが責任を以って救助活動に尽力することをお約束します。如何でしょう、性能テストに我が社の《火塊赤》を参加させていただきませんか?」

 提案に対して返答がなされるより早く、というよりも状況から機を見計らっていたとしか思えないタイミングでまたもや通信が入る。

「おやおや、コンウェイ。一人で先走るなんて、堪え性が無いね」

 投影されたのは、大樽の様な巨体。上半身だけでもブリッジ内の圧迫感を増大させるのは、女怪エリザベスである。彼女に続き、先導されたのか他全員の五帝と通信が繋がり、仮初の幻ではあるが《ノイマン》の船内に五帝が集合する。

「……スチュアート氏」

 テスト開始ギリギリに介入することでなし崩し的に《火塊赤》を参加させ他四人に先んじようとしていたコンウェイは、目論見を潰されたことで表情には出さずとも苦々しい感情を心中で飼い殺すはめになった。

「性能テストのコースや状況設定を含めた試行内容は、五帝全員の総意で決を採ったもの。それに合意も無しに介入するのは、横紙破りが過ぎるんじゃないかい?」

「見解の相違ですね。《火塊赤》はあくまでも比較対象として《ノイマン》に並走して飛ぶだけです。協力も要害も行いませんし、テスト内容に影響を及ぼす要素にはなりません」

 女怪が追及すれば、若手筆頭も弁舌で躱す。互いに取った張った交渉など慣れたもので、並大抵のことでは折れない。意見が平行線のまま長丁場になるかと他の五帝達が考えていると、弾けるような乾いた音がブリッジ内に響いた。

 操縦席がブリッジの中央に設置されている関係上、五帝達の丁度中央に座していたエマは、両の掌を打ち合わせることでその場にいる全員の注目を自身へと集めた。

「エリザベス様、いいではないですか。コンウェイ様の仰る通り、傍を宇宙船が一隻航行していようとも、私達フラメル王国のやる事は変わりません。この《ノイマン》の性能を皆様に示し、信用を勝ち取るだけです」

 その言葉には力があった。仮に劣悪な環境下で行うテストであっても、自分達の用意した船ならば乗り越えられるという自信と自負に満ちていた。

 当事者であるエマ自身が介入を許諾したことで、それ以上の口論は空気を悪くするだけだと判断したエリザベスは肩を竦め矛を収めた。

「ま、お嬢ちゃんがそう言うなら私からは何もないよ。精々、他の船に気を取られて失敗しないように頑張りな」

「はい、御忠告ありがとうございます、エリザベス様。それと、コンウェイ様」

 示された賛意を意外に感じていたコンウェイは、エマに名指しされたことで再び意識を引き締める。

「ご厚意に更に甘えるのは気が引けるのですが、テスト中に《火塊赤》から観測したデータを他の五帝の方にも共有していただけませんか?どうやら、偶然にも(・・・・)御用意いただいた《火塊赤》は観測機器が追加されセンサー類が強化されている御様子。後の交渉のいい判断材料になると思うのですが」

 どうせ機体性能を覗き見されるならば、それを利用する方向へエマは思考を切り替えた。

 第三者視点で観測された情報は、当事者から提出されるものよりも主観性が排除されるという点で優れている。

 より秘蔵の情報を見せる代わりに、その情報を開示し信頼性を担保しろとエマはコンウェイに取引を言外に持ち掛けたのだ。

 善意による行為と言う建前上、他の五帝の前ということもあり、表面上は笑顔で内心ほぞ噛みながらもコンウェイは首を縦に振った。

「ええ、勿論です。寧ろエマ王女からの申し出がなくとも、他の皆様全員には情報を共有するつもりでしたよ」

「それはよかったです。テストコース上にも私達が設置した計測器がありますから、試行終了後は、数値の照合を行いましょう。お互い、計測結果に大きな差異があってはいけませんから」




 午前三時五十分。

 五帝達のARが消え、人口密度の減少したブリッジにはヒャクシキの映像だけが残り続け投影されていた。

「エマ様、全項目の最終チェックが完了しました。ジェネレーター、内燃機関、粒子残量、全て問題なしです」

 表示された《ノイマン》の簡略全体図のステータスは全てが正常値。フラメル王国の少ない人員と予算・設備で新機軸の船を半年未満という短期間で開発し、ここまで完璧な状態にまで仕上げたのはヒャクシキの技術者としての手腕の証左であり、情熱の発露だ。

 本当に頭の下がる思いで、エマは礼を述べる。

「ありがとうございます、ヒャクシキさん。貴方の勤勉で卓越した仕事振りには、感嘆するばかりです」

「よしてくだせぇ、エマ様。俺はちょいと頭が良かっただけの、世間から爪弾きにされた与太者です。アンタが拾ってくれなきゃ、夢を抱いたまま腐り果てる屑で終わってました」

「それでも、です。フラメル王国がギルドを相手取って交渉できているのは、貴方の存在が大きい。・・・・・・・・・《ノイマン》の先、《ラプラス》の完成させたその先にあるヒャクシキさんの夢、共に叶えましょう」

「はい、どこまでもお供します」

 二十年間隠棲していたヒャクシキ・ツハードの元を訪ねてきたのは、何もエマ・フラメルだけではない。足跡が組織立って隠蔽されている訳でもなく、エマが行ったように根気よく探していけば彼の元に辿り着く事自体は可能だった。個人が、企業が、国家が、一度は銀河中に名を馳せたヒャクシキの脳髄を求めて何度も来訪した。

 事故を繰り返す宇宙船《ラプラス》の改良を求め、安全にトランス航行を行う為のノウハウを求め、あるいは宇宙船やジェネレーターの開発とは全くのジャンルでその才覚を必要とされた。雇用条件や待遇は破格なものが多く、最たるは星一つを研究用のラボとして譲渡するものなどもあり、薄給であるフラメル王国とは雲泥の差。

 だが、その全てをヒャクシキは断った。

 誰もがその天才的な頭脳を求めてはいたが、彼の語る夢や思想を本当の意味で認め理解する者は一人もいなかった。目先の利益に目が眩み未完成の《ラプラス》を勝手に使用し大事故を起こした五帝の元で働いていた経験から、そんな者達のところで研究を重ねたところで(しがらみ)が増えるだけで時間の無駄だと判断し彼は切って捨てた。

 要求が受け入れられないとなると、武力行為に訴えてくる過激派テロリストや新興武装宗教団体も存在し、隠れ住んでいた無人島自体を要塞化し自身も武器を手に研究の傍ら戦いを繰り返していると、色白の痩身だったヒャクシキの体躯は筋肉を纏い皮膚の色合いを濃くしていくことで次第にタフネスさ身に着けを、科学者や技術者といった単語からは乖離した凄味のある風貌へと変貌していった。

 半年程前のある日、数々の対人兵器や攻性トラップで厳重に敷かれた囲いを無力化し、エマ・フラメルは無人島の研究室に現れた。ヒャクシキが嘗て籍を置いていた《スクール》の後輩であり、フラメル王国からの交渉役であると名乗った少女は、笑顔で勧誘を行った。

『ヒャクシキさん、ウチで異世界に行ける船を作りませんか?』

 口にすればその多くの者が妄言と嗤い失笑を買う事柄、幼き日に垣間見た異世界に行く事こそヒャクシキの夢であった。

 学生時代に書いた論文の『群像劇型世界群の実在性とその有効活用法』も、高出力のプラズマジェネレーターも、エーテル航行に匹敵する革新的な航法であるトランス航行でさえ、目指す場所へ進む過程で得た副産物でしかない。

『帰りな、お嬢ちゃん。俺の論文を読んで感化されたなら気の毒だが、アレは若気の至りで書いた世迷言だ。異世界なんて、あるわけないだろ』

 表面上だけはヒャクシキの夢に同調して見せる輩は過去にも呆れる程おり、エマの勧誘もその類だと考え世捨て人の天才は勧誘を断る腹積もりであった。あるいは、二十年以上研究を続けたにもかかわらず、殆ど成果を出せない自分自身に見切りをつけ、心の何処かで異世界などただの幻想だったのではないかと、諦めかけていたのかもしれない。

 だからこそ、その言葉は鮮烈に耳朶を震わせた。

『異世界は、確実に存在します。つい先日、私はそこから来られた方に自身の命と故郷を助けてもらいました』

 エマの口から語られた内容は、荒唐無稽な上に出鱈目で、しかし刺激に満ち溢れていた。停滞気味であった銀河有数の脳がフル稼働し、得られた情報を高速で処理し精査し、解析する。気づけば、ヒャクシキは子供の様に眼を輝かせ前のめりで話に聞き入っていた。

 物証として異世界からの来訪者に貰ったという指輪まで存在し、測定器でスキャンしたところ一部が解析不能な未知の物質で構成されており、最早エマの話を疑う余地は無く天才は歓喜の声を上げた。

『私達フラメル王国は、将来的に異世界との繋がりを持ちたいと考えています。そのためには、異世界の存在を認識しアプローチの手段を模索・研究しているヒャクシキさんの様な方のお力添えが必要不可欠です』

 天才の前に差し出されたのは、手だ。

 こことは違う場所へ誘おうとする、(しるべ)

『一緒に、異世界など存在しないと(のたま)った自称有識者の鼻を明かしてやりませんか?』

 お給料はあまり出せませんがと、エマは苦笑して付け加える。

 差し出された手を、日に焼けた褐色の手が力強く握り返す。

 目指す場所を同じくし、異世界の存在を肯定する組織。それは、ヒャクシキが長年求めていた理想の環境だった。待遇の良さや設備の充実など関係ない。彼が真に必要としたのは、夢を共有できる仲間であった。

『俺の人生を、そっくりそのまま全て賭ける。今日からアンタが俺のボスだ』

 以来、ヒャクシキ・ツハードは今現在に至るまでその天才的な頭脳と卓越した開発力を駆使し、極々短期間でギルドが注目せざるを得ない《ノイマン》を設備も人員も碌にない状況下で作り出した。

 性能は高水準、コストは現行機以下でしかも製造も容易というエマが出した無茶な要求にも応えられたのはヒャクシキ元来の高い能力もあるが、それ以上に寝食の時間さえ惜しんだ不断の努力の結果。コネ作りや能力の訓練、人材のスカウトとここ半年は殺人的なスケジュールであったエマだが、その臣下たるヒャクシキも負けず劣らず過酷な過密度であった。

 午前三時五十九分。

 出港までのカウントが開始される。船を固定していたロックが解除され、船体でエネルギーと言う名の血が循環する。

 夢と欲望と可能性を載せた船、ヒャクシキの努力の結晶である《ノイマン》が、コロニー・ナタを飛び出した。

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