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闘技場の王者、マッドマックスの義体は生きている。
機構や装甲も含め、機体内部で生成したナノマシンが結合して生まれる素材によって構築されており、義体の核たるマッドマックスの脳を使用したブレイン・コアさえ無事であるならば、生物の新陳代謝の如く新しく機構や装甲を再生することが可能だ。
旧世紀由来であり連盟が秘匿しているナノマシン技術、圏外の過酷な環境故に発祥した義体化技術、この二つの相反する技術の融合により銀河最高峰の義体は生まれ落ちる。
相反する技術の和合を成した者の名前を《人形師》という。
同時に修める事が極めて困難である二つの技術の深淵を知る人物であり、マッドマックスの三十年来の親友。
S級闘士への昇格が掛かった試合の当日、若き日の王者は見知らずの人物を宇宙船の暴走事故から助けるため、栄誉栄達や身命さえも擲ち再起不能の重傷を負った。そのマッドマックスに助けられた人物こそが、《人形師》であった。
彼は、闘技場の医療従事者全員が匙を投げた危篤状態である闘士に語り掛けた。
『君の助けがなくとも、私は無事であった。余計な事をしてくれたものだ』
仮にも助けられた人物が言うにはあまりも非情な言の葉であったが、彼は続けてこう言った。
『しかし、このまま死なれては目覚めが悪い。選べ、マクシミリアン。私は君へ二つの選択肢を用意することができる』
一つは、ナノマシン技術を駆使することで重傷を完全に治癒させ、健常な身体に戻す方法。
一つは、脳以外の全てを《人形師》が開発していた新型の義体に置換する方法。
死に淵にあったマクシミリアンは応えた。
『今日、試合を行えるようになるのはどちらだい?』
闘技場の最高位、S級闘士という地位が惜しい訳ではない。全ては、今日の試合を心待ちにしていた大勢のファンを落胆させない為に。
闘技場は、生まれ持った戦いの才気を持て余し怠惰と退廃に溺れていたマクシミリアンにとって、唯一の生きる場所だった。
肉親が忌避し、多くの犯罪者達が利用しようとした暴力や凶暴性に、観客達は眼を輝かせながら賞賛の声を掛けてくれた。
それが一時の衝動に任せた一過性のものであると分かっていても、認められ受け入れられることは、居場所のなかった彼にとって心の底から嬉しかったのだ。
応援を媒介に伝わる感情だけが、マクシミリアンという獣を人間にしてくれる。
観客達の期待を裏切ることは、自分自身を否定するにも等しい。
負けるなと叫ぶ観客が一人でもいる限り、王者は何度でも立ち上がらねばならない。
「さあ、ここから逆転だ!」
リングに熱で足跡を刻みながら、マッドマックスはケビンに向かって疾走する。
どんな相手にも全力を尽くすのが、王者の戦い。相手が死に体であっても、手加減などしない。
マッドマックスは、ケビンの腹に灼熱の拳を捻じ込んだ。
苦悶の声を血液混じりの唾と共に吐き出し、少年の身体がくの字に折れる。攻撃の起点を潰すべく、下がった左右の肩を目掛けて振り下ろされる二振りの剛腕鉄槌。
枯れ木を纏めて圧し折ったような音が響く中、よろめくケビンに倒れることすら許さずに、マッドマックスは首に腕を掛けそのままリング内を爆走しだした。
先鋒戦のアカギの様に、マッドマックもまた義体の頑強性と高出力で乱立する柱を圧し折りながら縦横無尽に駆け回ることができる。
その暴走列車に強制的に乗車させられた武芸者は悲惨だった。
既に身を守る《気》を生成できぬ程に《仙丹》を酷使しため、内力通も外力通も使えない。不規則に立つ柱との衝突が人体の背面を容赦なく乱打する。最初こそ激しく苦悶と血を吐いていたが、終着駅が近くなるころにはそれさえなくなり、無言で力なく首だけで義体の腕に宙吊りになっていた。
リング内を一周し終えたマッドマックスは、拘束を解きケビンを床に放り投げた。受け身も取れず、無様に転がる身体。
毛ほども動かずに地を舐める挑戦者に、王者は言葉を投げかけた。
「今度は、私から君に言おう。立てるだろ、チャレンジャー。試合終了にはまだ早い」
試合前半とは立場を入れ替え、ケビンが無事だった柱に手をつき、ふらつきながら立ち上がった。
「はっ………流石にお見通し、かよ」
ガクガクと痙攣する身体は、糸の切れかかった操り人形のようだ。
爆走により後頭部の髪留めが壊れ、頭髪が乱れに乱れていたが、その隙間から覗かせる瞳には、強き意思の炎が未だ燃えていた。
生存どころか人体が原型を留めないレベルの蹂躙を経ても、ケビンが尚も立ち上がれた要因は二つ。
一つは装備。
ケビンが身に纏う道着、その名を《ようがんグモのぶどうぎ》と言う。
火山地帯の火口に生息する『ようがんグモ』が出糸腺から分泌する糸を、アカギが鍛冶にて一糸一糸丁寧に紡ぎ編み込み作り上げた防具。
溶岩の煮え滾る火口内で巣を作り獲物を捕らえる事のできる糸は、熱や炎に対して絶大な耐性を持ち、その伸縮性から単純な物理防御力に対しても非常に優秀。
百を超える打撃を重ね、長時間超高熱の義体と接触していても全身が燃え尽きる事なく、火傷や炭化のみで済んだのはこの防具の恩恵であり、暴走の蹂躙からも持ち主の身を守り続けていた。
もう一つは、ケビンが逆境や苦境に慣れていたこと。
五年間負けに負けた戦績は伊達ではなく、ボロ屑のようにリングに転がされることなど日常茶飯事。死が眼前に迫った試合など幾らでもある。
瀕死の状態でのダメージコントロール技術に関しては、最下層のE級闘士は闘技場の誰よりも長じる。
敗北に塗れた経験が、殆どの闘士達が心折れ生存を諦めるような状況でも生き残るための道を意識が途切れる最後の瞬間まで模索し足掻き続ける生き汚さを、ケビンに身に着けさせていた。
《気》が枯れようとも、天通眼にて背後の地形を把握し衝突のタイミングを予測、被害を最小限に抑えるべく身体を揺らすことで致命打を逸らし、現状にまで繋ぎ続けていた。
長い戦歴を重ねてきた王者は、立つことすらやっとな九割方死に体の少年を侮らない。
マッドマックスが、数限りなく戦ってきた闘士達。その中でも、最後の最後まで折れずに戦い続けた者達と、ケビンは同じ眼をしている。
経験則から分かる。若き挑戦者は、狙っているのだ。
無策無謀で一発逆転の奇跡を願うのではなく、勝利への布石を血を吐きながら打ち続け、虎視眈々と何かを待っている。
具体的にケビンが何をしようとしているのかまでは、マッドマックスには分からない。だが、唯一残った肉体である脳の第六感が、これ以上の時間を掛けるのは危険だと警告している。
「そろそろ、フィニッシュといこうか!」
敗北するよりも、それによって応援してくれるファン達を落胆させることを、チャンピオンは厭うた。一人の闘士として、挑戦者が何を仕掛けてくるのか興味は当然ある。捻りだされた渾身の一手を受けきり、その上で勝利したいと闘争心も疼いている。
しかし、前大会で《グレイブヴァルチャー》に敗れ優勝を逃したマッドマックスは王者として、同じ悲しみを二度とファンに味わわせるわけにはいかない。
敗北の可能性は、残らず潰す。
マッドマックスは、ほぼ無抵抗のケビンの胴体を両腕でホールドすると上空高く飛び上がった。脚力から生み出される上昇力ですぐさま箱の上面へとたどり着き、そこから天井を破砕させながら身体を真下へと蹴り出し横回転を加えながら高速で落下していく。
ライフリングのジャイロ効果で撃ちだされた弾丸の如く落下する様から、ファンからラスト・ショットの愛称で呼ばれるマッドマックスのフィニッシュホールド。
銀河最高峰の義体から抽出される超高出力で相手を拘束しながら、更に横スピンを加える事で感覚さえも麻痺させ脱出不可能な状態で脳天をリングに叩きつける、数多くの闘士達を沈めてきた大技である。しかも、今回に限っては天井のあるリングでの試合のため、落下速度に蹴り出しの反動が加算されるため、激突時の衝撃はより威力を増す。
『いっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
観客達の大声援の中、放たれた弾丸は唸りをあげてリング下面に大穴を空けた。
落下の衝撃で粉塵が舞い上がり、巨大な亀裂がフィールドを縦断する。衝撃に耐えかねた巨大な箱型リングが、縦に割れる。
観客達が《グランドチャンピオンズ》の勝利を確信する中、彼らは眼にする。
土煙が晴れあがり、衆目に晒されたのは右腕を肩口から破壊された王者の姿であった。拘束されていたはずのケビンは、その落下地点から姿を消していた。
「こ、れ……はっ!」
脳内で義体のステータスチェックを行った歴戦の王者は、自身の身に何が起こったのかを理解した。
破壊された右腕の付け根、そこには白い粉の様な物が付着していた。更に拡大して観察すれば、あるいは手で触れればその正体は容易に分かる。
霜が、降りている。
空気中の水分が冷やされ固体化した氷の結晶。マッドマックスの全身が、雪化粧にて急速に白く染め上げられていく。
「極々低温下に於ける、義体の脆性化!チャレンジャー!君が、狙っていたのはこれか!?」
顔面の半分以上が白く染まったマッドマックスが視線を向けたのは、這いずりながらリングを進み対戦相手に近づいていくケビンであった。
「義体は痛覚すら完全に制御できる兵器染みた身体。それは、逆に言えば恣意的に自己の状態を省みない限り、異変に気付けないという裏返し。なまじ損傷を気にしなくても戦える身体が仇になったな、チャンピオン!」
初手、《木霊》を打ち出した瞬間から死力を振り絞った最後の打撃まで、武芸者は王者の内部に《気》を送り込み続けていた。
外力通により《気》を浸透させただけの、ただの内部破壊ではない。
その一手一手には、ケビンの歩んできた道筋が刻まれている。
《気》への性質付与。
半身となった武器への《気》の伝導と同じく、外力通を長じた先にある技術。熟練の武芸者は、己の《気》を鋼鉄さえ溶かす炎や一瞬で人間を消し炭にする雷などに変化させ自在に操る事ができる。
必要とされるのは、《気》のコントロールよりも変化させる対象を如何に揺るがぬ強固なイメージで構築するか。頭に思い浮かべる程度では《気》は微塵も変化を起こさない。眼を閉じれば瞼の裏に焼き付き、開ければ対象を鮮明に幻視するレベルで深く強烈に心身に刻み込まれたものにしか《気》は変化しない。
どんな天才でも少なくとも一年は掛かるイメージの構築を、ケビンが僅か四日で終える事が出来たのは、既に不動の形が内にあったからである。
白き惑星ヤコウ。
一年を通して気温が氷点下を上回る事はなく、理不尽な冷たき暴風が気紛れに人の命を奪っていく、永久凍土の世界。
人間の事情など歯牙にもかけない惑星の自然環境に、ケビンは両親を奪われ孤児となった。義理の両親に拾われてからも、あらゆるものが一瞬で凍り付く世界は常に身近に存在し、十年以上を掛けて魂には既にそのイメージが構築されていた。
過去の経験よりケビンは、己の《気》に凍てつく冷気の性質を付与することを可能とする。
初手の段階から《木霊》と共に打ち込まれた冷気は、打撃を重ねるごとに義体の内部を浸蝕していき機構をゆっくりと凍結させ全体を脆性化、そしてマッドマックスがフィニッシュホールドを放とうと出力を上げようとした時、ついに骨格フレームが悲鳴を上げ一番最初から《気》の冷気を受け続けていた右腕は自らの力によって自壊したのだ。
脱出不能とされた技からケビンは、抜け出したのでない。右腕が、技をかけている最中に自壊したため、スピンの遠心力で落下しきる前に横方向へ投げ飛ばされただけだ。
「安心しな、チャンピオン。このまま氷のオブジェにして自重で崩壊するまで待つなんて真似はしない。俺も闘士の端くれとして、アンタとはこの手でケリをつける」
動くたびに身体の内側から響く肉と骨の不協和音を無視し、ケビンは最後の力を振り絞り立ち上がった。
幽鬼の様に揺れながらも、歩みを前に、前に進みだす。
五年間闘技場で戦ってきた者の一人として、その頂点に立ち続けた男に敬意を表するために。
「フフ、君の心遣いには感謝するが、私もこのままでは終われんのだよ!」
マッドマックスは義体のまだ稼働する部位を総動員し、ナノマシンを生成。右腕の修復及び全身の凍結解除を試みる。
ブレイン・コアからの命令を忠実に実行し、辛うじてまだ動く内部機関が大量のナノマシンを吐き出した。無数の群体は動き出そうとし、そして停止する。
活動限界温度。排熱による義体全体の赤熱化現象にも耐えうるよう設計されているが、分身運動が停止し物理法則さえ捻じ曲がる極々低温化という極限状態において、ナノマシン達は成すすべなく凍り付いた。
若く未熟なケビンは、武芸者としては発展途上。仮に先鋒戦のランドルフと戦えば距離とスピードで翻弄され掌底を打ち込むことは叶わず、中堅戦のイシドラなら近づく前に質量武器に圧殺されていた。《グランドチャンピオンズ》内で、拳打による近接戦を行い全ての攻撃をその身に受け切り反撃するというファイトスタイルをとるマッドマックスのみが、ケビンの対抗できる相手。
不死鳥の如く再生する完全義体化人は、装備なしで素手の状態ならば『使徒』であるアカギですら手を焼いただろう。それを一方的に封じ込め機能停止させる凍結の《気》の力。
会場の誰が予想していたであろう、最弱と嗤われた少年は、最強の賞賛された王者の正しく天敵であった。
「オートリカバリー機能は停止、コンディションは最悪、あと数分でジェネレーターも沈黙する・・・・・・いいじゃないか、この程度の逆境超えて魅せずして何が王者か!」
不動の王者は、一撃に全てを賭けた。
既に義体は凍結による脆性化で崩壊寸前。少しでも余計な動きをすれば、それは自壊の引き金になりかねない。
故に、一撃。
ケビンの出す攻撃の先手を取り、その瞬撃を以って勝利を掴み取る。
「さあ、来たまえ!ファイナルブローの打ち合いだ!そして、この攻防を制した者が、勝利者だ!」
「応っ!」
とうに限界など超えた身体を酷使し、ケビンは加速した。
互いの拳の間合いに、両者の必殺の領域に、足を踏み入れる。
直後、残りの全ての力を終結させマッドマックスは拳を放った。その一撃の速度と威力は、まるで義体の損傷など微塵も感じさせぬ程に鋭く重い。全身を凍結させられながらも優勝を狙う、ファン達の期待に応えようとする王者の気迫の宿った魂の一撃。
既に疲弊の極致にあるケビンの心身は自然と、基本の型を取っていた。
何もかもを出し尽くす極限状態であるからこそ、最後に見えてくる根底の厚み。
流した血と汗は、無駄にはならない。瀬戸際にあって、幾千幾万幾億と繰り返されてきた動作は、例え死の淵であろうとも陰らず歪まず武芸者の身体を突き動かす。
壁の様に突き出された片手が迫りくる拳の方向を逸らし受け流すことで、ケビンは攻撃の軌道の外側へと身体を差し込んだ。
その光景は、一週間前の焼き回しだった。
アカギと出会い、大会の参加を決めた日。ケビンは、この基本の型でならず者の闘士に挑み、無残に負けた。
心魂の深度、技量の練度、身体の強度、その時とは何もかもが違い、そして妹を救いたいという思いは微塵も変わっていなかった。
ただ一つ、これだけはと決めた覚悟を胸に少年は前に進む。
回避の動作は、続く攻撃の動作へと連動する。
「つっああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!」
内にあるもの全てを、ケビンは咆哮に乗せて打ち出す。
骨を砕かんばかりの震脚から伝導されたエネルギーの奔流は、右掌底からマッドマックスの横腹で炸裂。義体内部へと浸透した衝撃は、脆性化した機構群を嵐の様に駆け抜け蹂躙した。
何もかもを出し切った両者は、静止画のように動きを止める。
数秒の沈黙の後、王者は顔に笑みを浮かべた。
「――――――――――――ナイス、ファイト!」
不死身の巨体が、崩れていく。
親指を立て歯を見せた笑顔のサムズアップのまま、核であるブレイン・コアのみを残しマッドマックスは氷の粒となって砕け散った。
最後までリングに立っていたケビンは、敗北してなお己の流儀を貫いた偉大な先人へと深々と頭を下げた。
「ありがとう、ございました」
勝負が、決した。
アカギ達以外の誰もが、目の前で起こったことに驚愕の表情を浮かべ硬直する中、いち早く事態を認識したロビンソンは、判定を告げた。
「しょ、勝者!《ウェット・ファイターズ》ケビン!三連勝の勝利条件が満たされたことにより、二回戦第一試合の勝者は、《ウェット・ファイターズ》に決定っだぁ!正に大物食い!無名チームが、まさかまさかの三回戦進出!」
不動の王者《グランドチャンピオンズ》、陥落。
会場の七割以上を占めるファン達が、二度も優勝を逃し敗北したチームに浴びせたのは野次でも罵声でもなく、多くの拍手であった。
誰一人マッドマックスを責める事無く、流儀を貫き戦い抜いた雄姿を賞賛し、者によっては涙さえ流していた。
『すまねぇ、本当にすまねぇ。俺達がもっとチャンピオンの力になってやれれば・・・・・・』
『何度倒れたって、マッドマックスが俺達のヒーローであることは変わりない!また立ち上がるって信じているからな!』
王者を讃える止まぬ声援に、ケビンはほんの僅かに悔し気な、しかし満足そうな表情を浮かべた。
「負けたのに拍手貰うとか……やっぱりアンタはすごい人だよ、チャンピオン。まるで、勝った気が・・・・・・しな・・・・・・」
言い終える事無く、ケビンもその場に力尽きた。
限界をとうに超え重力に引きずられるだけだった身体は、しかし倒れ込む前に分厚い手と繊細な手に力強く支えられ、転倒による痛打を避けた。
「『戦士』の俺が太鼓判を押してやる。胸を張れ、戦いの中で自らの限界を超えてみせたお前は、間違いなく本物だ」
「フン、痴れ者にしては上出来だ。及第点をやろう」
両肩をアカギと『カネツグ』に支えられ、ケビンは最後に勝気な笑みを浮かべて気を失った。客席からの声は、《グランドチャンピオンズ》の健闘と称えるものだけではない。試合の勝者である《ウェット・ファイターズ》を賞賛する声も、確かにあった。
拍手が、両チームへと降り注ぐ。
『いい試合だった!W.F.、これから応援してやるよ!』
『チャンピオンに勝ったんだ、必ず優勝しろよ!』
『ウェットとかネイキッドとか関係ねえよ、やっぱ強い奴は強いんだ!』
大人気の王者を打倒しても不評を買わなかったのは、ケビンが血を吐きながら己の死力を振り絞り奮戦する姿を堂々と見せつけたため。ひた向きに、前へ前へと進み続けるそのファイトスタイルは、ウェットに好意的でない観客達の心にも響いていた。例えアカギがマッドマックスと戦ったとしても、この結果は得られなかったであろう。
若者が引き寄せた結末に応えるべく、アカギは勝利者インタビューに近寄ってきた浮遊マイクに声を発した。
「―――――――この勝利は、強者の証明に至るための一過程に過ぎない。闘技場最強の称号は、確かに俺達《ウェット・ファイターズ》が頂戴した。だが、これで終わりではない」
天を指さすように、アカギは腕を掲げた。
「三回戦、準決勝、決勝。全ての試合でW.Fは完膚なきまでに勝利し、今度は圏外最強の勲を頂く。時代の潮目、歴史的瞬間の目撃者になりたければ、俺達に試合に刮目しろ」




