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バトルフィールド:『乱立する墓標群』とは、密閉された巨大な箱型のリングだ。
一辺50mの立方体の内部に対戦するチームの選手同士が入り、そこで火花を散らす。床、壁、天井には墓標を模した長短・直径が疎らな合金製の柱が不規則にそびえ立っており、障害物・遮蔽物として地上での直線的機動、遠距離攻撃を阻害する。
逆に、柱には手足を掛けることの出来る取っ掛かりが意図的に作られており、より高所への跳躍台や足場として利用ができる。平面的機動ではなく、三次元的機動を如何に行い地形を制するか、それがバトルフィールド:『乱立する墓標群』の特性だ。
しかし、今この場で行われている試合は、その特性を完全に無視していた。
閃光が、リング上を飛び交う。
柱の間を縫うような軌道で高速移動しながら無数の光を左右の義手から撃ちだし続けているのは《グランドチャンピオンズ》のスピードスター、ランドルフ・ハートフィールド。両手両足を高性能義体に置き換えた闘士であり、オプション装備として空中を自律飛行するミラーコーティング仕様のドローンを多数使用する。
衝撃吸収機能と自在に伸縮を繰り返すアクチュエーターを備えた義足は、柔らかにして剛脚。あらゆる悪路を踏破し、乱立する柱の群れの中であっても、床と壁の区別なく速度を落とさず踏みしめ走りぬく。
空中を絶え間なく動き続けるドローン群は、搭載された回路が反射角計算を行いランドルフの両手から射出された光線を自機に中てることで、軌道の誘導・補正を行い標的が遮蔽物に隠れていようとも届かせる。
相手の射程圏外の遠距離を高速で移動しながら、両手の仕込みブラスターとドローンのコンビネーションで一方的に多面的に敵を追い詰めながら倒すのは、ランドルフの得意とする戦術である。
数多くの闘士達を蜂の巣にしてきた多角的に降り注ぐ光の雨の中、それらを物ともしない嵐が吹き荒れていた。
往く先の柱を無慈悲な災害の様に根こそぎ圧し折り、粉砕し、踏破していくのは《ウェット・ファイターズ》のアカギである。
元より超人的な身体能力を誇る『使徒』の身体を、誕生より三百年以上に渡り鍛えに鍛え続けた結果、超高密度の筋繊維から生み出される出力と強度は最早人型機動要塞である。アカギが全力で走れば、それだけで地形が変わる。
圧し折られた柱や踏み込みの重さでひび割れた床の破片が衝撃で舞い上がり、光線の射線上に入り込むことで即席のデコイとして機能し光の軌跡を届かせない。
距離を開けようとするランドルフ、距離を潰そうとするアカギ。両者は、一定の距離を保ちながら縦横無尽に箱の内部を駆け回り破壊を撒き散らしていく。
「猪突猛進。強引だな、そんなやり方じゃあ女にもてないぜ?」
自身の戦術が効果を発揮できないで状況で、光線を撃ち続けながらランドルフは軽口を叩いた。
「てっきりアンタは大将としてマックスの旦那と戦う気なのかと思ったが、先鋒として早々に出場してしまって良かったのかい?」
「マッドマックスを仕留めるには、俺以上の適任がいる。俺が戦う必要はない」
「へえ、そいつは重畳。俺だけ楽しんでちゃ旦那に悪いからな!」
ランドルフは、眼前の垂直の壁を地上と変わらぬ軽やかな足取りで高速で駆け抜ける。アカギもそれを追うが、足の機能により直接壁を走れる先行者とは違い明らかに速度が落ちていた。
「もっとも、生憎と旦那が戦う事はないだろうがな!」
リングの最高地点にまで登り詰めた闘士は、天井を蹴り出すことで速度と重力を味方にアカギを急襲する。両手の守りを弾き飛ばし硬き剛脚が、『戦士』の腹へと沈んだ。
「まだまだ行くぜ!」
蹴りの反動を利用し、壁から突き出ている柱へ飛び移ると即座にその足場から跳躍し再び蹴りを放つ。上から下、左から右、蹴りの回数を重ねる度にランドルフは加速し、壁際の足場の不安定な状態にあるアカギを滅多打ちにしていく。
遠距離戦法が有用であるため披露する機会こそ少ないが、ランドルフの近接格闘能力は闘技場の数多の闘士達の中でも五本の指に入る。そもそも、義体や兵装の性能に頼っているだけの男が勝ち抜けるほど、闘技場は甘い場所ではない。
「こいつで、仕舞だ!」
加速していく闘士は、両手のブラスターを冷却機能の限界を超えて撃ちだす。余剰分の熱が身を焼く事を代償に、箱内部を埋め尽くさんばかりの光線が放たれた。その光は、空中の多数のドローンを経由することで折り重なる軌跡を描き出す。
それは、標的の現在地を中心に作られた光の檻だ。脱出不可能、何処に逃げようとも鋭角的に動く光が囚人を捉える。例え壁や柱を壊しデコイを作れたとしても、この密度の攻撃であれば防御を貫く。
アカギは、両足を壁に突き刺し身体を固定すると、腕を突き出した。防御するためではない、反撃するためである。
片手格闘スキル《亀甲不壊》。光の矢に向かって展開されるのは、六角形の光の壁。拳に広がる力を以って、アカギは光線の包囲を丸ごと殴り飛ばした。一点への収束から逆に、広範囲へと拡散する光の大群。ある軌跡はリングに穴を穿ち、ある軌跡は元の発射位置へ戻ろうとしていた。
「くっ!」
腕を交差させ、ランドルフは咄嗟に身を守った。止めのつもりで放った過剰出力攻撃の影響で動作が僅かに鈍くなっていた腕が、光線に貫かれたことで完全に沈黙する。
主力武器を失うも、それで気力を萎えさせる闘士ではない。
口角を釣り上げるランドルフの眼は、死んでいない。柱を破壊せんばかりに蹴り出し弾丸のように跳躍することで、残された剛脚にて全力の蹴撃を繰り出す。滅多打ちにされた連続攻撃よりも鋭き一刺しに対し、アカギは膝を曲げ上体を大きく逸らした。
その身で受け肌で覚えた動き、更には足場が確かなものであれば、『戦士』にとって蹴りの軌道を見切る事は難しい話ではない。直前までアカギの上半身があった位置を、高速で通過していくランドルフ。交差際、『戦士』の五指が鋼の剛脚を《蛇絡み》にて牙の如く穿ち拘束する。
回転。両足を壁から引き抜いたアカギは、ランドルフの身体を捩じり、盛大に回転させながら空中へと跳躍する。拘束状態の縛りが、回転の遠心力が、闘士から自由を奪い僅かな身動ぎさえも許さない。
両手格闘スキル《天空颪・颯》
物理法則を超え、たった数十メートルの重力加速ではありえない速度で、落下。全身の筋肉の伸縮によりアカギは、床を粉砕しながらランドルフを叩きつけた。リングが人型に陥没し、八方に亀裂が走る。激突の衝撃で、鋼の四肢が砕け散った。
《グランドチャンピオンズ》の先鋒、ランドルフ・ハートフィールドはリングに身を埋めたまま動かない。これ以上戦うことは不可能と判断し、ロビンソンは試合の裁定を告げた。
「勝者!《ウェット・ファイターズ》アカギ!」
歓声を背中で浴び、アカギは無言で拳を突き上げた。
小気味良い音が響く。
少々手荒いハイタッチの賞賛で、ケビンはリングから降りてきたアカギを出迎えた。
「まずは一勝!やったな、アカギさん!」
「なんとかな。ボロが出なくて良かった」
衝撃で僅かに痺れた手をひらひらとさせながら、アカギは苦笑した。
運営委員会からの圧力に対抗するため、《ウェット・ファイターズ》は観客の注目を集め続ける必要がある。試合に勝つことは必要最低条件。優勝を目指すなら、勝ち方、魅せ方にも一貫した方向性をもって戦わなければ、観衆に灯った熱はあっと言う間に冷める。
意図したものではないだろうが、《グランドチャンピオンズ》の出場枠二席の破棄は、W.F.のイメージ戦略にとって致命打になりかねない一手であった。
前提として、マッドマックスはこれまでの戦歴の傾向的に必ず試合には大将として参戦する。
元々の三対五の構図での勝利なら、数的不利を覆したチームという事実が先行、大将のマッドマックスは出場枠の関係で最初から戦わない事が確定していたため、チャンピオンの戦う雄姿を見たい観客の不満も最小限ですむはずであった。
しかし、三対三での戦いにとなると、先に二勝すれば最強の闘士との戦いを避ける事ができるが、試合後に観衆がW.F.に持つ印象は、『チャンピオンと戦わなかったから勝てた』などマイナスのイメージを持たれる可能性があり、一度はマッドマックスの戦う雄姿を見れるかもしれないという期待を抱き裏切られた観衆が不満から、その負の印象を加速させる恐れもある。
わざと一度負け、二勝一敗で試合を終わらせるもの、悪手。傲岸不遜な革新者としての姿勢を貫く以上、一度でも黒星が付くのは避けなければならない。時間があれば観衆に刻まれた敗北の記憶も拭えるだろうが、そもそもアカギ達にはその時間がない。
総括的に、あのままG.C.の提案を鵜呑みにすれば、どう転んでもW.F.のイメージは瓦解していく恐れがあった。その可能性を払拭できるのなら、一億クレジット(約十億円)も三連勝の勝利条件も、高くない対価だとアカギは判断する。
「あと少しで、リングの交換が終わるようだな」
内部からランドルフが医務室へと搬送された箱型リングは、コロシアムの床下へとその身を殆ど沈めていた。先鋒戦の戦いがあまりにも大きな破壊跡を残しすぎた為、新しい箱型リングへと交換がなされていた。一回戦の『朽ちた摩天楼』のような別の施設を再利用している物は別だが、運営委員会が設計・管理している試合用のリングは替えが利くように幾つもの同型が用意されている。
傷一つない真新しい箱型リングが床下からコロシアム内に完全にせり上がると、空中ではロビンソンが試合を進行させる。
「準備も整ったところで、お次は二回戦第一試合中堅戦!選手は、リングイーンだ!」
アカギは、静かに黙しているW.F.の中堅、フードの人物に声と飛ばした。
「出番だ、行ってこい」
頷くとフードの人物は、リングに向かって跳躍する。一足飛びで試合開始位置、箱型リング横に併設されている台座の上に着地すると、その身に纏っていた外套を脱ぎ捨てた。
試合開始前の選手を追尾していた撮影用ドローンのカメラにその姿が映り込み会場中からどよめきが起こった。
造形美の極致を体現する、艶やかな黒髪の少女がそこにはいた。
整った鼻梁や慎ましくも品のある口元、細い眉の曲線は優美で瞳は夜空の様に深い。顔を構成する部位のどれもが繊細かつ美麗。僅かでもサイズが狂えば容易く全体のバランスが崩れてしまいそうな儚さが、奇跡とも言える符合で成立している。
創世期の一部地域で使われていたという民族衣装、和服を身に着け髪を簪で結った佇まいは、凛とした空気を纏っており彼女の周囲だけ喧騒が飛び交うコロシアムにあって無音の静寂であるかのような錯覚を受ける。
女を見れば卑猥な言葉を浴びせるのが仕事と豪語するような下半身で物を考えている荒くれ者達でさえ、少女の余りの絶世ぶりに感嘆の溜息しか口から出せていなかった。
「許す、好きに暴れてこい『カネツグ』。お前は、それが一番強い」
「心得ました。担い手様の僕の戦い、どうか御照覧ください」
少女、鋼の精霊『カネツグ』は主の命に応えるべく試合に挑む。
リング両側の台座が箱内部へとスライドしていき、二人の選手を完全に箱が飲み込むと搬送口が閉口しリングが密閉される。次の口が開くのは、勝敗が決した時のみ。
『カネグツ』は、対戦相手を観察した。
鋼の精霊の至上命題は、担い手と共にあり続けその背中を護り支える事。少しでも生き方が不器用な主の力と成るべく、常に情報収集は怠らない。
リングの端と端で『カネツグ』と対峙しているのはシンプルで長い金属棒を持った女闘士。身体を義体化し重武装化の傾向が強い選手の中、戦闘衣のみの肌の露出の多い軽装。
イシドラ・エスカミール。闘技場での格付けはA級。
「随分と綺麗なお嬢ちゃんだね。これから挨拶代わりに一発かますけど、その顔がぐちゃぐちゃに潰れても恨まないでおくれよ」
端を持ち円を描くように一周し横に振るわれる金属棒。長物を障害物が乱立する地形で振るえば、当然突起に引っ掛かり自在に振るうことなど出来ないのが自明の理。よってそれを容易に成したイシドラは理外の法則を行使しいていた。
《金属変成》。自身の身体の一部、あるいは一部であると認識できるまでに使い込んだ器物を介して触れることにより、金属を分解・再構築し望む形へと作り変える越境能力。
回転の周回上に立っていた何本もの固い合金製の柱が、溶けかけた飴細工のように半ば融解した状態で金属棒に付着していた。時を置かずして柱達は形を放棄。溶け出し、混ざりあい新しい形へと成型される。
箱の天井寸前までに巨大な銀の鎚。平の直径が軽く20mを超えており、直撃すれば質量エネルギーで人間など原型を留めぬまでに潰される。
真下で銀の鎚を保持するイシドラの装備も変わっていた。合金製の柱から成型した、動作を補助・拡張する機能を持つ外骨格鎧、言わば『着る義体』を装着している。
「本日の、一発目!」
最高品質の義体に匹敵する膂力を以って、イシドラは銀の鎚を振り下ろす。
鎚の頭が巨大すぎるため傍目にはゆっくりと動いているように見えるが、実際の速度は並みではない。瞬く間に、『カネツグ』は円形の影に飲み込まれた。
響く打撃音。周囲にあった柱などもまとめて鎚は押し潰した。
追走するのは、金属の破砕音。
亀裂の走った銀の鎚が砕け散り、その下には無傷の『カネツグ』が立っていた。何かの防御を用いたわけではない、単純な物理的強度を比べ合った結果、精霊の身体が鎚を上回っただけの話だ。
「敵、越境能力の発動を確認。自機を使用した検証の結果、作成可能な武装の強度はウーツ鋼と同程度と判断」
デミ・オリハルコン。それが、現在の『カネツグ』の身体を構成している物質の名前だ。
半年前の隕石衝突事件の折、『戦士』と鋼の精霊は隕石の精霊から宝石、後天発生型精霊が誕生してから消滅するまでの活動記録を余さず刻み込んでいる情報集積結晶体である精霊石を託された。精霊石に刻まれているのは活動記録のみならず、その精霊の記憶、感情、知識、技術、魂を形作るもの全てが内包されている。
当然ながら、そこにはアカギ達を苦しめた幻想物質、オリハルコンの精製のノウハウさえも記録されている。
異世界を旅する主の助けとするため『カネツグ』は、嘗ての敵より託された精霊石を解析した。四千年を超える情報量は伊達ではなく、半年かかってもその記録情報の全容を完全に把握することはできなかった。それでも拾い上げる事ができた断片的な情報から分かったのは、『カネツグ』ではオリハルコンを精製することが不可能であること。
根本的な問題として、鋼の精霊にはエーテルの蓄積が足りなかった。精霊核に内包するエーテルが膨大とは言ってもそれはあくまでも中精霊としてであり、四千年の年月を経た極大精霊の隕石の精霊とは雲泥の差。『カネツグ』には、オリハルコン精製に必要な最低限の量すら賄うことができない。
試行錯誤の末、『カネツグ』はその精製法に手を加える事を選択する。万物を再現するその多様性の幅を狭め強度を落とす代わりに、精製時に必要なエーテル量を下げるトレードオフ。
そうして出来上がったのが今の『カネツグ』の身体、デミ・オリハルコンボディである。形状的に人間を模しているのは隕石の精霊の戦闘モーションデータをそのまま流用できる点と人間社会での活動のしやすさを鑑みた為。それが功を奏し《ウェット・ファイターズ》の三人目の選手として試合に参加することができていた。
「白兵戦モード、起動。続いて至近距離にて、敵能力の観測を開始する」
『カネツグ』は、リングの上を滑るように高速で鋭角的に移動する。
両足は前後に大きく動かすのではなく軽く横に開く程度。草履の裏をエーテルに干渉可能なミスリルに変化させ、空気中のエーテルを足元に集中させることで極小のエーテルストリームを発生させる、超短距離超短時間のエーテル航行を行う隕石の精霊のエーテルガンを応用した『カネツグ』の移動法、エーテルダッシュである。
身体、衣服、装飾品、全てはデミ・オリハルコンで再現されたものにすぎない。『カネツグ』の意思ひとつで生成時に設定した計十三パターンの性質のどれにでも変化可能。
疾走する精霊を串刺しにせんと、展開されたのは槍衾。イシドラの能力を以って作られた箱の一辺と同等の長大な壁。横への迂回は出来ない。
『カネツグ』は障害物を飛び越えるべく空中へ跳躍する。
「そうくると思ったよ!」
壁の後ろからイシドラは宙の精霊へ攻撃を仕掛ける。越境者の思念に反応し、両手で触れられた床が隆起。先端を錐の如く尖らせた二つの塔が唸りをあげ精霊へと伸びた。
「能力発動から現象を発生させるまでの平均タイム、0.5秒。自機にて対応可能範囲」
エーテルダッシュに、足場は必要ない。『カネツグ』は、意図的に発生させたエーテルストリームに乗り空中制動を行う。弾かれたような軌道で尖塔を紙一重で回避すると、その上に優雅に舞い降りる。
滑走、塔の側面を滑り降り『カネツグ』はイシドラを射程範囲内に捉えた。懐に入られようとも動揺は見せず、女闘士は金属で覆い槍となった金属棒を精霊目掛けて突き出した。
「技を借りるぞ、隕石の」
手刀一閃。迎撃にと繰り出された武器ごと、精霊はイシドラの鎧を切り裂き出血を強いた。
「反応速度、ダメージ進度から種族:人間としての熟練度50前後と推定。戦力的総合評価、C」
冷静に集めた情報を精査していく精霊に、自らの傷に指を這わせながらイシドラは告げた。
「そのすまし顔が、何時までもつか見物だね!今、切られて分かった。アンタのその身体、生身じゃないね!」
能力の性質上、金属の扱い長けるイシドラは接触により精霊の身体が通常の肉体でないことを見抜いた。彼女に精霊に対する知識はない。しかし、完全義体人や何かしらの越境能力で全身を金属に置き換えることが可能な人間がいることを知っておりその類であると考察する。
「それがどうしたのか」
「私が、アンタの天敵ってことさ!」
イシドラの闘技場での渾名は、壊し屋。巨大な武器を作り出し敵を粉砕する豪快な戦いぶりもそうだが、《金属変成》を使用し分解・再構築のプロセスを途中で停止させることで敵の義体を破壊していく様からその名が付いた。
指一本でも触れる事ができれば、《金属変成》で『カネツグ』の身体を破壊することができる。二つに断たれた棒を二振りのナイフに変成しなおし、闘士は猛然と前に出た。
イシドラに読み違いがあったとすれば、それは鋼の精霊が戦闘開始から今の今までそのリソースの多くを情報収集に割いていたということ。
「敵能力の分析を終了し、これより制圧行動に移る」
攻撃モーションの基礎となった動きは、元々隕石の精霊が用いたもの。初撃から得られた稼働データにより、『カネツグ』は繰り出し続ける動作に補正を加え自身の身体で運用するに相応しいモーションへと修正していく。
粗削りであった動作の無駄を削ぎ落し、最短、最速、最適な一撃へと。一閃を重ね武器を、防具を切るごとに、斬撃動作の鋭さと速さ、そして美しさが増した。
『カネツグ』が、イシドラの背後へ走り抜ける。
細切れになったナイフと鎧が崩れ落ち、全身を刻まれたイシドラは膝を折りその場に倒れ伏した。
「敵戦力の無力化を確認。状況終了」
一滴の返り血さえ浴びず、『カネツグ』は静かに告げた。
「相性の上で、そちらに軍配が上がる事は認めよう。だが、それだけだ。その程度の逆境、我は担い手様と共に既に幾つも踏み越えている」




