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祝、1000PV突破!


読んでくださった方々、誠にありがとうございます!

 300秒。

 長年の活動経験や綿密な情報収集の結果、連盟の支配地域から外れた圏外を活動域とする宇宙海賊ニコラス・レイランドはその数字を導き出した。

 「仕事」を行う際の、セーフティーライン。それが、300秒だ。

 圏外圏は、連盟の支配地域とは違い統一政府を持たず、監視の役割を果たす防衛衛星も存在しない。犯罪の温床となる要素を多く孕んでおり、昔から宇宙海賊が星の海から絶えたことが無い。

 ニコラスも公的機関の目が届かないのをいい事に、物資を運ぶ商船から略奪を行う宇宙海賊の一人だ。

 ただ、彼が他の海賊と毛色が違うのは、逃げ切り、生き延びる事をなによりも最重要視し、労力を惜しまない点だ。

 ギルドの護衛艦隊や雇われ傭兵など叩き潰してやると豪語し、星屑になった同業者をニコラスは腐る程見てきた。海賊は所詮海賊、入手できる船や武装には限度がある。設計の段階から対艦戦闘を目的として建造された船に、最新式の光学兵器で武装した護衛艦隊に戦いを挑んでも勝てるわけがない。

 ならば、戦わなければいいというのが、ニコラスの結論だ。

 襲撃が察知され、救難信号が発信されてから300秒以内なら、各所に配備されている護衛艦隊の船の速力・数を加味した上で、海賊が主に使う小~中型の民間船を改造した海賊船でも護衛艦隊から逃げ切れる。

 故に、ニコラスは300秒の時間を遵守するよう、十数名の部下達全員に厳命している。これを破ったものは例えどんな理由があろうとも、必ず処分した。

 実入りが少なく結果赤字になろうが、腰抜けと嗤われようが、この300秒を厳守してきたからこそ、宇宙海賊ニコラス・レイランドは長年生き延びてきた。

 圏外最速の海賊。皮肉を込めて、彼は同業者からそう呼ばれる。

「船長、トランス粒子を観測しました。波形パターン・出力量から中型の商船一隻、小型護衛艦二隻の船団のようです」

 寝そべっていたキャプテンシートから身を起こし、ニコラスは前面モニターに映った三隻の船を見据える。

「獲物が網に掛ったか」

 圏内圏外を問わず大多数の船が標準搭載しているプラズマジェネレーターは、稼働の際にある種の粒子を生成する。このトランス粒子の波形を観測することにより、その船がどの程度の規模なのか、どの位置に存在しているかを割り出すことができる。

「こちらも船を稼働させろ、最大船速で一気に肉薄して獲物を掻っ攫う」

 船長の指示が、ブリッジクルーに飛ぶ。床で賭け事に興じていた者や音楽を楽しんでいた者たちが一斉に定位置に着き、全員の顔つきが緩から急へ変わる。

 エーテル・ストリームが途切れる宙域近くの小惑星群の影に潜んでいたニコラス達の海賊船が、動き出す。自身の波形を察知されぬよう、最低限の生命維持機能のみを稼働させ獲物が来るまで息を潜め、海賊達はその時が来るのを待っていた。

 銀河を気ままに吹くエーテル・ストリームの《波》は、人間の都合になど合わせてはくれない。よって、星系を跨ぐような長距離は目的地近くまではエーテル・ストリームに乗るが、《波》が途切れる、別方向へと流れが変わる地点まで到着すると、通常航行に切り替えるのが定石。

 海賊が船を襲うのは、主にエーテル航行を終了した直後の商船だ。航行方式を切り替える際に、船の航行システムには僅かながらのタイムラグが生じる。この間隙の時間が、システムによる警戒の緩む絶好の奇襲のタイミングなのだ。

 後は、交易の起点となるコロニーや惑星近くにあるエーテル・ストリームの途切れる座標近くの小惑星群や廃棄された中継ステーションなどで待ち受けていれば、労せずして獲物が無防備な姿を晒して近づいてくる寸法だ。

 ブラックマーケットに横流しされた連盟軍の型落ち廃棄戦艦をベースに、複数の船のパーツをより合わせニコラス独自の改造を加えた黒蜥蜴号(くろとかげごう)が、ジェネレーターが生み出すエネルギーにより内燃機関を稼働させる。

 黒光りする胴長の船体が点在するデブリなどの障害物を見事な操舵で避け、商船へと迫っていく。

 その行く手を塞いだのは、随伴していた二隻の傭兵達の護衛艦だ。連携することで、速射に優れる副砲によるレーザーを間隙なく撃ち続け、黒蜥蜴号をその場に釘付けにしようとする。傭兵達は、黒蜥蜴号を撃墜する必要はないのだ。時間は彼ら味方であり、時間さえ経過すれば、ギルド直下の護衛艦隊から増援が来る。

「野郎共、海賊のやり方を教えてやれ」

 正面からやり合っても負けはしないが、時間が掛かる。ニコラスは部下達に無駄を省くよう指示した。

 船のシールドの耐久値を急速に減らしてくレーザーの横殴りの雨の中を、黒蜥蜴号は最低限の回避軌道で突き進む。臆病者、腰抜けと揶揄されるニコラスだが、自身の定めた300秒以内に戦果を挙げるという目的の為なら、必要なリスクは飲み込める。

 余剰光が炸裂する中、黒蜥蜴号は護衛艦に肉薄した。

 胴長の船体の右側面から、突如内部に折り畳まれ格納されていた巨大な腕が出現する。元々は船舶解体に使われる工業用マニュピレーターをニコラスが改造し、戦闘用のグラップルアームに仕上げられた隠し腕が、護衛艦の一隻を強固に捕獲。殆ど船同士を接触させる近距離ではシールドを張る事もできず、強力な砲塔も近すぎて意味を成さない。

 為す術なく拘束される護衛艦の装甲を、追加で出現した二本の腕が解体用レーザートーチで溶断し刻む。的確な早業で艦の心臓に相当するジェネレーターを抉り出し、強奪。こうなってしまえば、後に残るのは宇宙を漂流するしか出来ない高価な棺桶。用済みとばかりに、黒蜥蜴号は動かなくなった護衛艦を捨てる。

 同様の手順で、残る一隻も行動不能にし、ニコラスはカウントを確認する。

 残り、235秒。

 まだ余裕がある。弛緩しかけた空気を引き締める意味で、再度船長は激を飛ばす。

「野郎共、いつも通り「仕事」は手早く迅速にだ。くだらねえ欲を出した奴は、無人惑星に裸で捨てていくから覚悟しろ!」

「合点です、船長!」

 内燃機関の出力をあげ逃げようとする商船の進行方向に先回りし隠し腕で捕獲すると、貨物ブロックをレーザートーチで切り出してく。ニコラスは、圏外で使用されている船舶の詳細なスペックデータを大枚をはたき大量に情報屋から買い付けている。そのデータは、艦隊から逃げる際にも、こういった作業を効率化するのにも役立っている。一々船体にスキャンによる精査を行っていては、300秒などあっと言う間過ぎ去ってしまう。

 情報の価値を知り、常に「仕事」の効率化を怠らず、分を弁えリスク管理をこなす。ニコラス・レイランドは間違いなく有能な男であり、海賊に身をやつしていなければ、正当に能力を評価される場さえあれば、栄誉栄達は間違いなかったであろう。

「船長、少々よろしいでしょうか?」

「何だ、手短に話せ」

 獲物を狩り取っている真っ最中、本丸を目前にしても、部下からの報告を後回しにするという愚を、ニコラスは犯さなかった。

「偶然かもしれないのですが、周囲のエーテル濃度が急速に上昇しています」

 部下の一人が投影させたARのグラフは短時間で、この宙域の濃度が右肩上がりに上昇していることを示していた。

「確かに妙だ」

 エーテル・ストリームは非常に気紛れだ。凪の状態から唐突に《嵐》にまで発展することもある。現在発生している濃度の急激な上昇も、そんなエーテルの無秩序な癇癪と考えても問題ないはずなのだが、ニコラスの脳髄の奥で理性とは別種の感覚が、この場所は危険だと警告音と鳴らし続けていた。

 進退の判断に迷った一瞬、最速の海賊は空間を切り裂いていった白銀の閃光を見た。

 多数のエラー表示と共に、商船を拘束していた三本の隠し腕が全て切断される。

「呆けるな、敵襲だ!」

 あまりにもその「攻撃」が速く常識外れすぎたせいで状況を認識できていない部下達に、ニコラスは怒声もって喝を入れる。

 前面モニターに表示された弧を描き旋回する船は、異形であった。

 様々な船のデータが脳内に蓄積され、黒蜥蜴号を自身の手で改造しているニコラスはその船の歪さがこの場にいる誰より分かった。最先端は細く平たく非常に鋭利、最後方は逆に丸みを帯びた柱の形状。衝撃緩和の為に流線形の形に設計される一般的な宇宙船と大きく相違するそれは、船と言うよりも剣と呼称するに相応しいシルエットをしていた。

 宇宙空間にはあまりにも場違いな、白銀に輝く剣。

 正体不明の敵艦は、交差際に刃の如き先端衝角で黒蜥蜴号の腕を切り落としたのだ。

「観測員は何をしていた、近場の船が出す粒子の波形を見逃すなと何時も言っているだろうが!」

「ですがっ」

 言い淀みながらも、船員は計器に表示された数字を目で追う。

「今現時点も含めて、あの敵艦から粒子反応は一切検出されていません」

「なんだと」

 プラズマジェネレーターの稼働率を上げれば上げる程に、トランス粒子が大量に発生する。あれだけの速度を出しておいて、低稼働モードはありえない。

「あの野郎・・・・・・この至近距離でエーテル航行をしてやがる。イカレてるぞ」

 辿り着いたその答えに、ニコラスは寒気を憶えた。

 エーテル・ストリームの外であっても、エーテル濃度が一定値以上あればリフレクション・マテリアルの干渉による航行自体は可能だ。

 ただ、それは細く曲がりくねった公道を競技仕様のモンスターマシンで爆走するような、命知らずの蛮行。超加速状態で僅かでも操舵を誤れば、宇宙の藻屑だ。

 そもそも、一時的に濃度が一定値以上になっているからといって、その状態が維持される保証もない。エーテル航行から通常航行への切り替えにタイムラグが存在する以上、突然濃度が低下でもすれば船は数秒間の航行不能状態に陥り、超加速状態の船体は地獄への直行便と化す。

 正気の沙汰ではない。操舵に絶対に自信を持ち、それ以上に《波》に愛されているという傲慢にも似た確信が無ければ、とても出来ない芸当だ。

 ニコラスの胸中に恐怖心を直接刺し込むように、白銀の船が先端衝角を煌めかせ黒蜥蜴号目掛けて高速で飛翔する。

「糞がっ!」

 船を両断されるまでの数秒間に、最速の海賊は生存の道を模索する。

 思い出したのは、ならず者達のコミュニティサイトで流れていた噂。ここ半年の間、圏外圏では海賊が次々に狩られるという事態が発生していた。それを行ったのはたった一隻の奇妙な形をした白銀色の船だったと、サイト内の匿名海賊は語った。奇妙な船が轟沈しかけた商船の救助活動をしていたおかげで、辛くも襲撃から生き延びたのだと言う。

 銀河の海には真偽の定まらない噂話が多く漂っている。これもよくある与太話の一つとニコラスは判断していたが、記憶力のいい男はサイト内に列挙されたその奇妙な船の特徴を律儀に憶えていた。

「野郎共、全砲門斉射!砲塔が自壊しても構わねえ、ありったけぶち込め!」

 その奇妙な船に、光学兵器などの射撃兵装は一切なかったと匿名の海賊は述べていた。攻撃手段は、先端衝角による突撃のみだと。そのか細い活路に生存を掛け、ニコラスは攻撃に踏み切った。ここで逃走を選択すれば速度で圧倒さている以上、両断されるのが正面から背後に変わるだけ。ならば、射程で長じる間に全力攻撃を敢行し、逃げ出す隙を作りだすことを選択した。

 黒蜥蜴号に設置された計10門の砲塔が船のエネルギーを大量に貪り、一斉に赤い閃光を吐き出す。まともに直撃すれば軍用艦とて轟沈させる十条の光の矢は、しかし白銀の船が纏う光の波のフィールドによって弾け飛ぶ。

 高濃度のエーテル帯を超加速状態の船が航行する際、前面部のエーテルが船体によって圧迫され船を覆うフォース・フィールドと呼ばれる力場を形成する。光学兵器や実弾兵器などを退ける光波の壁は、本来はエーテル・ストリーム内でしか発生しないが、白銀の船は周囲のエーテルを自身の進行方向に収束させることで通常空間でも同様の現象を引き起こしていた。

 頼みの綱が引き千切れ刃の切っ先が目前に迫った時、ニコラスは使いたくはなかった船の搭載機構を起動させた。

「死んでたまるか!」

 艦内の心臓部、プラズマジェネレーターを意図的に暴走させた黒蜥蜴号は、切断されるよりも先に派手に爆散した。目標を失った白銀の船は、勢いのままに船が存在していた空間を通過する。

 最速の海賊は、生きていた。

 黒蜥蜴号は、元々複数の船をパッチワークのように繋ぎ合わせて形にした海賊船。ブリッジ自体が小型艇であり、航行機能も残っている。爆発の勢いに乗じる形で、白銀の突撃から逃げ延びていた。蜥蜴の尻尾切りならぬ胴体切りで、頭のみを生存させる形で。

 ただ、こうなってしまえば武装はほぼ無く、長距離の航行もできない。

「気合入れろ野郎共、ここが正念場だ!」

「合点承知!」

 首だけの黒蜥蜴号は、残り少ないエネルギーをかき集め、宇宙空間に閃光を放った。

 オープンチャンネルによる、最大出力のエーテル通信。

 その内容は。

『靴の裏でもなんでも舐めるので、どうか命だけは勘弁してください!』

 宇宙海賊ニコラス・レイランド。

 彼は、生き延びる事をなによりも最重要視する男だった。




 黎明歴425年9月10日。

 隕石の精霊との戦いから約半年、アカギは主に圏外圏にて活動していた。

 目的は、言うまでもなく『勇者』探しである。世界(システム)はクエストの報酬に再会を約束したが、それのみを頼りにするのは、あまりにも危険だった。そもそも、世界側の思惑が読めない現状、自身で再会の手段を模索するのは、当然の帰結だ。

 『勇者』とは平穏よりも波瀾万丈を好む、好奇心の塊のような人物だった。明日の栄光よりも、今日の刺激を求めて行動する傾向がある。よって、もし『勇者』がいるとすれば治安が安定し秩序立った連盟圏内よりも、不安定であるが故に刺激に溢れた圏外圏にいる可能性が高い。

 再会への手掛かりを掴む為、アカギは積極的に人助けを行い、殊更派手に動いた。幸か不幸か、宇宙海賊が蔓延る圏外圏は武力がものを言う場面が多く、『戦士』の戦闘能力を必要とする者は比例して多い。そんな人々に力を貸す事で恩を売り、繋がりを作っていく。

 一つ一つは小さく拙いが、社会とは人と人の結びつきで構築されている以上、その繋がりを紡いでいけば、人間社会により大きな基盤を構築することができる。

 冒険時代に、よくやった手法だ。寿命のない『勇者』や『使徒』の特性を生かし、時間を掛け着実に支援者や味方を増やし、有形無形の支援を取り付けていく。

 また派手に行動することで注目を集め、アカギの存在を『勇者』に対して伝わり易くする狙いもある。

 《惑星流(ストリーム)》の異常活性によりライフラインの断絶した星があれば大量の物資を運搬し、宇宙海賊に悩まされている地域があれば無法者達を狩り取り安全な航路を確保する。

 エマ達フラメル王国協力の元、内部機構の大幅な改修を経た《シルバーセブン》は『カネツグ』のみでの運用が可能になり、居住スペースなども作られたこともあり、銀河最高峰の航行速度を有する移動式の家として機能し『戦士』の活躍の場を大幅に広げていた。

 クエスト受注後の航海も、遭遇した宇宙海賊をエーテル・ストリーム外でもエーテル航行を行えるというアドバンテージを活かすことで封殺し、危なげなくアカギ達を目的地まで運んだ。

「本当にありがとうございました、アカギさんは命の恩人です!」

「気にしなくていい、行き掛けの駄賃のようなものだ」

 行き先が同じだったこともあり、アカギは海賊に襲われていた商船に同行した。航行不能状態に陥った護衛艦の代わりに随伴し、無事に闘技場コロニー・ナタまで商船を無事送り届けることに成功する。

 今回の護衛対象と早速接触するため、アカギは助けてもらったお礼を是非ともしたいと申し出る商人の申し出を丁重に断り、代わりに連絡用のIDを交換し拘束した海賊達の後始末を任せた。

 海賊達に賞金が掛かっていた場合、アカウント口座に必ず金を振り込むと確約する商人と別れ、『戦士』はコロニー内の商業区画を歩いていた。

 その服装は、半年前とは大きく変わっていた。

 エマと初めて出会った際、少女の警戒心を大いに刺激したことからも分かるように、《ドラゴンのよろい》からなるアカギの所持するアイテムは、この世界では奇異であり異質だ。あまりにも悪目立ち過ぎるので、アカギは装備を更新した。

 《せんきのコート》。

 圏外の傭兵が主に使う戦闘防護服(バトルジャケット)可変式外套(ヴァリアブルコート)などをデザインモデルとし、アカギの手持ちとこの世界の素材を鍛冶により結合させ生み出されたアイテム。

 アッシュグレーの長裾、差し色として少年の頭髪色と同じ赤が袖などの随所に施され、防御力に関しては新しい環境や素材に刺激を受けアカギの鍛冶師としての腕が向上したこともあり《ドラゴンのよろい》以上を誇る他、特殊効果も付属している。

 多くの戦いを生業(なりわい)とする者達に愛用される頑丈で武器の保管に使用される携帯式兵装保管ホルスター、通称棺桶(コフィン)に『カネツグ』を収納し背負えば、その風体は若い傭兵と言った印象を与える。

「資料で大きさは分かっていたつもりだが、ここまでとはな・・・・・・」

 アカギは、周囲を見渡しながら感嘆の声を漏らした。比較対象物の少ない宇宙空間でよりも、内部から観察したほうがそのサイズを実感しやすい。

 コロニー・ナタは、二つの円筒型コロニーを上下に結合することで建造された超巨大複合施設である。収容可能人数五千万人という、通常サイズのコロニーの三倍以上のキャパシティを誇る事からも、その大きさが分かる。

 宇宙船が停泊する宇宙港区画、闘技場目当てに観戦に来た客を対象としたホテルや商店が立ち並ぶ商業区画などがあるナタ壱号。闘技場は勿論のことムービーシアターやカジノなどあらゆる娯楽施設が集合するナタ弐号。この二つのコロニーを併せ持つのがナタの特徴だ。

 アカギの歩いている商業区画は、一言で評すれば雑多だった。

 多くの観光客で賑わうメインストリートの脇に大小様々な店舗が無秩序に軒を連ね、威勢のいい声で店員達が自前の商品を道行く客達に売り込んでいく。出処の怪しい中古品のパーツが一籠(ひとかご)いくらかで売られ、どこの星の生物か見当のつかない動物が乾燥された干物になって店先で吊るされている。

 また、道行く通行人もレパートリーに富んでいた。おそらくは傭兵か闘士であろう大柄な体格の男達が義体の駆動を響かせながら歩いていれば、その横を趣味なのか職場の制服なのかメイド服を着た女達が通り過ぎていく。

 ARの巨大ビジョンで投影される企業の宣伝広告に混じって報道されたニュースを見て、アカギは口元を緩めた。

 内容としては、辺境の国家がまた一つ連盟から脱退し連盟の弱体化が加速しているという内容だった。番組の資本元がギルド系列なせいか、連盟の杜撰な対応や、式典の場で辺境国家側に銃を向けたという蛮行がピックアップされ、痛烈に批判されていた。

「負けてられないな」

 アカギは、首元のウェアラブルデバイスに手を当てた。

「『カネツグ』、ケビンの情報は見つかったか?」

《はい、どうやらクエスト内で闘士と冠されていた通り、闘技場に登録している職業闘士のようです》

 アカギの眼前に、闘技場を運営する主催者が発表している身長や体重などの公式プロフィールが投影される。

 ケビン・リー。性別:男。年齢:18歳。

 ファイトスタイル:素手による打撃(ストライカー)系。

《勝率は約1割。運営委員会によるランク付けは最低のEランク。実際に実力を確認するまで断言はできませんが、戦力としては期待しないほうが賢明かと》

 今回のクエストは、単に対象を守り切ればいいだけでなく、ケビンと共に大会で優勝することも成功条件に含まれている。

 先行きを危惧する『カネツグ』を尻目に、アカギはケビンの戦歴データを確認すると納得したように何度か軽く頷いた。

「なに、そう捨てたモノでは無いかもしれないぞ?まあ、まずは本人と会ってからだな」

《ならば、ナタ弐号の闘技場区画まで行ってみましょう。直通便が近くの駅に・・・・・・》

 『カネツグ』が端末から発信した合成音声が、街の喧騒によって掻き消される。

 飛び交うヤジ。断続的な破砕音。人波の一部が停滞し、輪となって人垣を作る。

 その輪の中心にいたのは、三人の人間だ。

 内二人は、余裕綽々の(てい)で腰に手を当て相手を見下している、肉体の一部を義体化した男達。

 残りの一人は、膝を突き男達を睨みつける髪の逆立った少年だった。

「てめら、ぶっ殺してやる!」

 アカギはその少年の頭上に、護衛対象であること示すイエローマーカーを見た。

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