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黎明歴425年9月10日。
銀河の実質的な支配者であった銀河連盟は、その基盤に亀裂を生じさせていた。
ことの始まりは、同年2月に起こった隕石衝突未遂事故。
とある辺境の惑星へ衝突コースをとっていた巨大隕石。設置されていた防衛衛星がこの隕石の接近を観測していたにも関わらず、当惑星政府への通達をせず、更には駐在外交官も早々と逃げ出すという失態を犯した。幸いなことに、気紛れなエーテルストリームが人類の味方をしたことで隕石の勢いが大幅に減衰し、更には落下地点も人口密集地域からは大きく離れた場所に落ちたため、実質的な被害は殆どでなかったと記録されている。
とは言え、連盟が晒した汚点は、辺境惑星の政府が杜撰な対応を正式に糾弾したことで多くの国家や組織が知る事となる。
連盟側の公式発表は、《惑星流》が異常活性していたため計器が誤作動を起こし、通知が遅れたと述べている。また、駐在官の逃走も、緊急事態の報告を本国へ届けることを優先したためしかたのない措置であったと、連盟側に非はなかったという姿勢を崩していない。
後に、連盟の落ち度を裏付けるデータや証言が公開されるも、これもまた連盟は認めず、その証拠自体がでっち上げであると、逆に辺境側の行動を背信行為だと糾弾し始めた。
この騒動は連盟の力を削ごうとしているギルド側の工作だの、巨大な剣が隕石に突き刺さり被害を食い止めただの、ネット上のSNSやニュースサイトでは、陰謀論からオカルトめいた根も葉もない都市伝説まで様々な憶測や推測が日夜飛び交い、サーバーを物理的にも加熱させていた。
連盟の未来を担う多くの学生達が在籍し、連盟本星の首都ブランタイトにある《スクール》もまた、この話題で持ちきりだった。公式非公式を問わず、騒動を題材として多くの討論会や研究会が開催され、銀河中から集ったエリート達がその頭脳を駆使し火花を散らしていた。
そんな世間で蔓延する熱病に罹患することもなく、エマ・フラメルは《スクール》の教務課にて一人、設置式の端末を前に黙々と自らの仕事を処理していった。
長いダークブロンドの髪を後ろで結い上げ、灰色の詰襟制服をキッチリと規則通りに着こなす才媛。それがエマである。中々に端正な顔立ちをしているが、それ以上に彼女の存在を印象付けるのは、意思の力に満ちた瞳だ。半年前の帰郷の際、不運にも件の隕石衝突未遂事故に巻き込まれ、様々な苦難に遭遇するも無事生還。重大な事故に遭遇してもその翠の瞳が陰る事はなく、ここ半年は寧ろ以前よりまして精力的に行動していた。
最終ページの意思を確認するYes or Noの問にYesのボタンを指で押し込み、エマは作業を完了させる。デジタル化された証明書がエマの端末へと送信され、つつがなく一連の手続きは終わった。
「これじゃあ、何の感慨もありませんね」
軽く背伸びをしたエマは、教務課から出ると《スクール》のキャンパス内を歩いていく。
一年通った構内は、どこも清潔感に溢れ最新の円柱型自律掃除機がゴミと言うゴミを駆逐している。
学内の書庫サーバーに保管されているデータ量は連盟屈指であり、最新設備が集められた実験棟では日夜様々な研究や検証が行われている。各界の著名人、第一人者を呼んで定期的開かれる講演会も人気の催しの一つだ。受講できるカリキュラムも豊富で、その授業形態も様々なニーズに応えて柔軟な変更が利く。
おそらく、学ぶという目的に関して、《スクール》以上の施設は銀河中探しても早々見つからないだろう。
新年度が始まったばかりのため、サークル勧誘の広告ARが飛び交い、まとわりついてくるそれらを鬱陶しそうに手で払いながらエマが歩いていると、見知った顔と遭遇した。
「あ!エマちゃ~ん!」
手を振りながら走ってきたのは、おそらく学内唯一のエマの友人、シュン・レイホウ。
濡れ羽のように艶やかな黒髪に、弓なりのくびれた腰つき。全体的にスレンダーな体型であり、スラリと背も高い。顔つきも、十人中九人は認めるだろう柔和なタイプの美人。
辺境上がりと揶揄されるエマと同じく、彼女もまた少数派に属する人間。
理由は、彼女の眼にあった。
ほぼ無音の状態でなければ聞き取れない程の極々微小の駆動音が、常時彼女の右目からは漏れている。
義眼である。
視神経と接続された眼球の代替品は、単純に性能だけで判断するならば本物の眼球よりも優秀だ。しかし、義眼を含めた義体化技術は、連盟圏内では異端にあたる。
少なくない数の黄金期の技術を保有していた連盟において、肉体の部位欠損などが起こった場合、その主な治療法は再生医療だ。患者の細胞を培養することで、健康な状態の臓器や四肢を作り出し、異常が発生した部位と入れ替え治す医療技術。
対し義体化技術は、再生医療の技術・知識を保有していなかった技術的格差故に圏外圏で発祥した技術であり、連盟圏内の人間には野蛮で原始的ものであるという認識が根強く、いくら優秀であっても進んで義体化を選択する者は少なかった。
また、レイホウの場合、個人の趣味なのか右目の義眼の他にも左目には革製のベルトをそのまま頭部に巻き付けたような独特なデザインの眼帯をしており、義眼の件も相まって、美人ながらエマと同じく《スクール》内では腫物扱いされていた。
ハグレ者同士気があった、と言う訳でないが少なくとも過酷な辺境の生まれで周囲には生き残る為の義体化を選択した人間もいたエマにとって、義眼は大した障害にはならず、レイホウも生まれだけで人間を判断するような浅慮さとは程遠い少女であったため、二人は自然とよく話すようになった。
ただ、エマは少々このレイホウという少女を苦手としている。
「世界征服、する気になってくれましたか~?」
「いや、レイホウ。その話は前も断りましたよね」
「なんだか、今日はエマちゃんの運気が大きく動くような気がして、いけるかな~と思って再アタックしてみました」
「またそれですか」
レイホウ自体は、良き友人なのだが、偶にウンキだのフウスイだのエマには理解できないオカルトに傾倒しており、事あるごとにエマに世界征服の話を持ち掛けてくる。初対面の第一声も「ハオーの天稟を貴方に見ました!一緒に、世界征服しませんか?」だった。
当然ながら、当時は怪しい宗教勧誘の類ではないかと思い一目散に逃げた。ただ、レイホウまるでエマの思考を読み切っているかのように行動を先読みし、逃げこんだ先で何度も待ち構えていた。そうしている内に腐れ縁となり、今に至るのが二人の関係だ。
ただ、その関係も今日限り終わりとなるのと思えばエマの心には寂しさが募った。
「レイホウ、実は貴方を探していました」
「珍しいですね、エマちゃんの方から私を探すなんて」
「はい、この《スクール》でレイホウは唯一と言ってよい友人でした。だから、何も言わずに去るのは、あまりにも義理を欠く行為だと思い、こうして直接伝えに来ました」
「エマ、ちゃん?」
エマは、義眼や眼帯の奥にある友人の心を見つめるように、言葉を告げた。
「レイホウ、私は本日を以って、《スクール》を卒業します」
眼帯の少女は、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに落ち着きを取り戻し納得の表情を浮かべた。
「ああ、運気が回転していたのはそういうことですか~」
学業の成績で言えば、レイホウのそれはエマを超えたことが無い。しかし、レイホウはエマにない視点を持っており、盤上の駒の動きを何十手先まで読み切る指し手のように、僅かなら取っ掛かりから全体図を把握することが可能だった。
眼帯に指を這わせ、レイホウは推測を述べた。
「因果の始まりは、半年前の隕石衝突未遂事故・・・・・・いえ、衝突未遂事件からですね」
「そうです。あの事件から私達マーズマの人間は、連盟へ大きな不信感を持ちました。賠償要求を一切無視し、謝罪すらない。挙句、私達を侮辱し尊厳さえ踏みにじる連盟。このままでは使い潰されるだけだと判断し、国民投票を行いました」
フラメル王国が行った連盟から脱退するか否かの投票は、一応報道もされた。ニュースサイトなどで取り上げられるメインの報道のついでに一言二言で処理される箸にも棒にも掛からぬ、些末な話題として。
視聴者を稼ぎたいメディアは、それが重要か否かよりも、多くの連盟の人間が興味を惹かれる記事を報道する。つまり、隕石の落下については話題性があり熱をあげても、辺境のフラメル王国の進退は、連盟の多くの人間にとっては対岸の火事、至極どうでもよいことであると認識されてる証左であった。
「投票率98%超。大多数の賛成で脱退が可決、でしたか」
「よく・・・・・・知っていましたね」
「エマちゃんの事ですから~。それに、今の時代情報収集と分析は欠かせませんので」
レイホウの言通り、票は殆どが脱退へと投じられていた。
ただ、国家間の条約や約束事となると、即座に脱退、とはならない。この半年間で、何度かフラメル王国と連盟間で会談の場が設けられ、折衝が行われていた。
そして、本日開会する調印式を経て脱退が正式に決まる。
《スクール》はあくまでも加盟国の人間に対してのみ門戸を広げている教育機関であり、フラメル王国が脱退した場合、その国の王女は在籍資格を失う。
エマは、せっかく入学できた《スクール》という環境を十全に活用すべく、残された半年の時間を使って学生に与えられた権利を使い尽くした。貴重な資料の閲覧から始まり、各方面への顔つなぎ、施設の利用など、出来ることは全て行った。
卒業資格も、半年前に三年過程の一般コースから一年過程の促成コースへ変更することで獲得している。《スクール》には、エマ以外にも世襲により統治者を代替わりさせる政治体制の王族や貴族なども通っており、王や当主の突然の死などにより早々にその位を継承をしなければならなくなった学生のために、短期の促成コースも用意されている。事情は違えども、エマもこの制度を利用し先程教務課で卒業証書を受理してきた。
尚、卒業後の五年間の軍役の義務に関しては、連盟新任士官の五年分の働き相当の資金を《スクール》に納めることで義務からは免除される制度があり、これを利用した。以前の貧乏学生でしかなった少女には到底払えない金額だが、今のエマは王国での役割を背負った政府関係者の一人であり、王国の国家予算内の外交費から正式に承認を受けた資金で《スクール》に献金している。
ただ、そのしわ寄せとして、この半年間のエマのスケジュールは熾烈を極めた殺人的なものになったのは言うまでもない。レベルアップ現象で身体が強化され耐久力も増していなければ、事を起こす前に過労で衰弱していたかもしれない。
「もう、行くんですか?」
問いかけるレイホウに、エマは別れを惜しみつつ答える。
「はい、今の私の立場は既に学生ではなく、フラメル王国の政府関係者です。この後も、調印式に出席予定です」
レイホウはエマの覚悟を秘めた表情から悟る。彼女は、戦いに行くつもりであると。友人の決意を鈍らせぬよう、眼帯の少女は手を差し出した。
「ご武運をお祈りします。また、会いましょう」
エマも、その手を握り返す。
「ええ、情勢が落ち着いたら、折を見て連絡します。でも、何時になるかは・・・・・・」
「大丈夫ですよ、きっとそんなに時間は掛かりませんから」
確信めいた言に、エマは微笑む。
「レイホウがそう言うのなら、そうなのかもしれません。貴方の勘は、よく当たりますから。まあ、期待しないで待っていてください」
エマは、一礼することで一年間所属した《スクール》に別れを告げ、友とは再会の約束を交わした。彼女は、もう振り返らない。進むべき道は決まった。後は、どんな困難が立ち塞がろうとも、突破していくだけだ。
進撃するその背中に、眼帯に指を這わせるレイホウは、熱に充てられたように艶然とした表情を浮かべた。
「やっと、やっと動き出しました、銀河に覇を唱える星の王が。きっと、エマちゃんは全部を壊して滅茶苦茶にしてくれる、今の停滞し澱み腐りきった世界を粉砕してくれる。嗚呼!眼底が疼きます!」
エマは、連盟側が用意した王国使節団が滞在している首都ブランタイトでも指折りの高層ホテルで、フラメル王国の一団と合流した。
既に、調印式はホテル内の最上階で開始している。ホテルの外では警備兵によりシャットアウトされた報道陣が群を成し、二重三重の人垣を作っていた。式は、非公開状態で進行し、開会式の挨拶から始まり脱退に関する内容の最終確認などが行われている。
フラメル王国王女のエマの役割は、他にもあるが主には国の代表者の一人として調印の場に立ち会うことであり、出番は最後も最後だ。
事前に衣装を運び込んでおいた一室で五点星徽章が縫い付けられた詰襟制服を脱ぎ捨て、身体の線が出るパンツルックのノースリーブスーツに着替える。その上に、式典用のフラメル王家の家紋、太陽と翠の杯が刺繍された外套を羽織り、王位継承権保有者であることを示す王冠に見立てた小さな髪飾り髪に刺せば、装いは整う。
部屋を出たエマを廊下で待っていたのは、使節団を率いる兄のジェレミーだった。
彼もまた、式典用の儀礼服の上から家紋入りの外套を羽織っていた。服に着られている状態のエマと違い、細部に渡るまで隙無く服を従え着こなしている。
「最高学府の《スクール》卒業おめでとう、エマ。とでも言うべきか」
「やめてくださいよ、兄上。大学を正規のカリキュラムを履修して優秀な成績で卒業した兄上と、短縮に短縮を重ねてギリギリ卒業した私とでは、ものの意味が違います」
「何、それでも卒業は卒業だ。後で、記念に豪華な夕食でも奢ってやるさ」
軽口を叩き合いながらも、兄と妹に間には弛緩した空気は僅かもない。既に、ここが敵地であると認識しているからだ。
「式典の進行状況はどうなっていますか?」
「今のところつつがなく、といったところか。何か仕掛けてくるかと思ったが、平穏そのものだ」
連盟側からすれば、フラメル王国の脱退は避けたいところだろう。
マーズマ星系はあくまで資源に乏しい辺境の一地域であり、小国一つ抜けたところで、連盟の力は大して減りはしない。
問題になるのは、例え一国であろうとも盤石であるとされてきた連盟の基盤から脱退国を出したという事実。
連盟から脱退した国家はフラメル王国が初めてではないが、経済的な問題や、規約に関して不服があるなど、その理由は脱退国側にあり、さして重要ではない些事であると多くの者に認識され大事にはならなかった。
ただ今回の場合、隕石衝突未遂による話題性、連盟の明らかな失態、と注目を集めるには申し分ない看板があり、ここでフラメル王国という蟻の一穴が生じれば世論が傾き、多くの脱退国を出す契機となりかねない。
「牛歩戦術も懐柔策もなし、ここまで何もないと、怖いくらいだな」
「油断なくいきましょう、相手は連盟。腐っても銀河の統治機構です。何を仕掛けてくるか、分かったものではありません」
「あたりまえだ。あの畜生共は、自分の利益の為なら平気で他者を貶め利用する連中だ。油断など、微塵もするものか」
調印式は、その後も何の問題もなく進行した。
エマを含めた王国使節団の団員は全員が気を張っていたが、連盟側からの反応はなかった。
そして、式典の最後。ホテル最上階に設けられた長机を挟み込み、互いの代表、フラメル王国側からはジェレミー、連盟からは政治官僚の一人が席に着いていた。
最上階は会場フロアのみあり、唯一の出入り口である高速エレベーターを含め厳重な警備体制が敷かれ何人ものTactical-Lスーツを装備した護衛兵が会場を警護している。
採光による明るく開放的な空間を演出する為に、最上のフロアには幾つもの天窓や巨大な横窓が設計図の段階で組み込まれ、イベント時などなら首都を一望できる360度の絶景タワービューが堪能できたであろうが、今は機密保持のために全て隔壁が降ろされ、その機能を制限されていた。
外光は一切差し込まず、人工の照明のみがフロアを照らす灯だ。
その場には、フラメル王国使節団全員が揃っていた。エマや護衛役も含めた総勢20人が代表者であるジェレミーの後ろに一糸乱れずに整列している。
対し、連盟政府側からは、油ぎった顔の担当官僚一人。珍しい事ではない。基本的に、他の惑星国家を下に見ている連盟政府は、国家間交渉の場には末端の官僚しか寄こさない。
ただ、フラメル王国の脱退を契機に始まる事態を避けたいであろう連盟側の事情を鑑みれば、奇妙だった。端末が高性能小型化しエーテルによる通信網が張り巡らされた現代、手続きや処理を行うためだけなら交渉の場に10人も20人も人間を連れていく意味合いは薄い。
人数を揃えるのは、相手側に本気の度合いを見せる示威行為のためだ。政治に限らず、服装や態度などで、先制して無言で自らの意思を宣言する術は、交渉に於いて重要な要素になる。つまり、フラメル王国側が態々、人を揃え全員が王国式正装で身を固めているのは、断固たる決意を以って、この場に臨んでいると内外へ喧伝する意味を持っている。
連盟側の代表は、一人のみ。この際、非を認めるかどうかとは無関係に、見せかけだけのポーズでも良いので連盟は交渉の場に人員を割くべきなのだ。普段から一人しか交渉の場に出さない連盟が追加で交渉役を出せば、それだけで『寛大な対応で臨むも王国側が脱退を撤回しなかった』と内外への言い分を作ることができる。
どれだけ強硬な姿勢を貫こうと、連盟が失態を犯したのは事実であり、圏内・圏外圏を問わず広く周知されている。遅延戦術で交渉を引き延ばし、餌をチラつかせるなど懐柔策を講じ王国側を丸め込もうとするならまだしも、それをせずに交渉役の増員も惜しみ、通常通り一人のみを交渉の場に送るのは明らかに悪手。
これでは、後に発生するであろう加盟国の大量脱退による連盟弱体化を寧ろ加速させることになる。その程度の頭も回らないに程に、連盟は腐敗しているのか。
エマは、己の内の疑念を飼い殺しにしながら、調印式に意識を集中する。
代表者同士が電子書類に指を這わせ、記名が完了した。この瞬間から、正式にフラメル王国の連盟からの脱退が受理される。使節団の多くの者が安堵の息を吐くと、それを見た官僚は嗜虐的な笑みを浮かべた。
連盟からの交渉役が片手を挙げると、それを合図に護衛兵達が無反動ブラスターの銃口を使節団へと向けた。出入り口である高速エレベーターも電子ロックで施錠された上に兵士が封鎖し、逃げ道を塞ぐ。
「これは、一体どういう事でしょうか?」
少なくとも表面上は笑顔を崩さず、ジェレミーが対面の官僚へと詰問する。
「ん~、つい先程まで同盟国であった君達にこんな真似をするのは、私としても非常に心苦しいのだが、君達をそのまま帰国させるのは、銀河の統治者である連盟の一人として認可する訳にはいかないのだよ」
「我がフラメル王国は、銀河連盟から離脱したに過ぎません。非加盟国の全てを敵だと仰りたいのですか?」
「そこまでは私も言うつもりはないよ、ただ未開の蛮族は、連盟の統治下にあってこそ文明人たれるとは思ってはいるがね」
官僚の発言は、連盟に従わない者は全て猿だと言ってるにも等しい。
この手の発言を嬉々として記事にするメディアはこの場にはおらず、その発言が外に漏れない確信でもあるのか、交渉役は傲慢さを隠そうともしない。
「蛮族共は、自身の要求が通らなければ短絡的で暴力的なテロリズムに走る。銀河の平和を維持している連盟として、その場合は遺憾ながらこちらも武力に物を言わせた対応をせざるを得ないのだよ」
それが、連盟の描いた筋書きだった。
調印式に訪れた使節団側を、隕石落下の責任を認めない連盟に業を煮やしたフラメル王国が送り込んだテロリストへと仕立て上げる。このホテル自体が連盟の掌の上、証拠はいくらでも『用意』できる。
希代のテロ国家の汚名をフラメル王国へ被せることで、その信用を最底辺にまで落とす。そうなってしまえば、王国側が発信してきた発言や証拠データの信憑性は一気に崩壊、大義名分を得た連盟は大手を振って、自前の大艦隊をマーズマ星系へ差し向け、オーギュスト王を含めた政府の要人を逮捕できる。
テロを目論むような危険な犯罪国家であったが故、連盟へ反発し脱退した。この図式をメディアを通じ銀河中に流布すれば、連盟への反抗心を燻らせている国家群に対しても大きな牽制になる。もしも、脱退を口にしようものなら、テロ国家であるとの疑いを掛けられることになるからだ。
連盟は、その組織を維持・存続させるために、フラメル王国を生贄にすることを選択した。
使節団の人間は、半分以上は殺されるだろう。物言わぬ死体の方が何かと都合がよく、色々と『処理』しやすい。ジェレミーやエマなどの王族は、オーギュスト王を始末した後の傀儡の指導者として利用される。今までの従属など生ぬるい程の隷属化を強制し、人としての最低限の尊厳さえ奪われ犯され、奴隷国家としてのマーズマを連盟は成立させようとしている。
「成程、予想の斜め下できましたか」
隷属化されようとしている王国の王女、エマ・フラメルが漏らした感情は、冷たい失笑。
連盟の選択は、余りにも低俗で、短慮で、愚かだった。思わず笑ってしまう程に。あの官僚は、政治家よりもコメディアンにでも転職したほうがいいのではと、少女は無体もないことを考えてしまう。
目配せで臣下の者達へと合図をし、エマは参列の並びから外れジェレミーの隣に立った。
「兄上、どうやらこれは連盟式の歓待の御様子。こちらも応じてみせなければ、田舎者と笑われてしまいますよ?」
「―――――分かった。では、ここから先はお前に任せるとしよう」
軽やかに気負いなく、世間話でもするように話しかける、エマ。妹の意図を悟ったジェレミーは、離席しその場を譲った。その姿を、連盟の官僚が見咎める。
「軽率な行動は慎んで頂きたい。何を企んでいるかは知らないが、無駄な努力はしない方が賢明だ、エマ・フラメル王女。この部屋での君達の通信は既に遮断され、武装した兵士がここ以外にも多く待機している。逃げ場など、何処にもない」
「まあ、そんなに手厚く歓待していただけるなんて、身に余る光栄です」
微笑を以って返答する辺境王国の少女に、官僚は手を振り下ろし射殺を命じた。傀儡は一人いれば十分。死体は工作を施し、証拠品として交渉材料に使う。
そんな算段を官僚は脳内で立てるも、何時まで経っても無反動ブラスターを使用した際に起こる余剰光が発生せず、エマを光線が貫く事もない。
「どうした、早くしろ!」
「・・・・・・そ、それが」
兵士達の顔は、青褪め引きつっていた。
指が、手が、腕が、首から下の身体が微塵も動かず、感覚も無い。
まるで首以外を、本人さえ気づかぬまま人形に挿げ替えられたかのような未知の恐怖に、連盟の兵士達は戦慄した。
半径100mの球。それが、エマの支配領域だ。
魔王専用スキル《黒の王》。
その黒い糸に絡めとられたモノは、自由を奪われ全てを支配される。
連盟の者達は気づいていなかった。傀儡になるのは、自分達自身であることに。
「次はどういった趣向が見られるのでしょう、楽しみです」
その『魔王』は、朗らかに笑った。




