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20 序章

2章、スタートです。

本日、二回更新を予定しています。

 とある惑星の湖上にて『戦士』は一人、剣を振るう。


 (あさ)(もや)の霧の中、足首までを水中に沈めアカギは素振りを行っていた。

 素振りは、アカギにとって日課の修練ではあるが、同時にその日のコンディションを計るバロメーターでもある。

 一動作終えるまでの速度は、手の内に残った剣の重みは、筋肉の連動は、返ってくる反応の全てが、自身の調子を明確に教えてくれる。人生に於いて、おそらくは『歩く』と同じかそれ以上に繰り返し反復した動作は、僅かな歪みや微かな不調も見逃さない。

 空を、刃が裂く。

 大気が悲鳴を上げ、剣が通過した空間に霧が流れ込み渦を作る。鏡の様だった水面には乱れた波紋が広がり、静寂を揺るがす。

 アカギは、その手応えに違和感を覚えた。

 踏み込みから一閃を見舞う一連の動作は、限界値(カンスト)に達してから二百五十年の自己修練で徹底的に無駄を削ぎ落して洗練させることで完成させた剣の型。不確定要素が多く絡む実戦ならばまだしも、型稽古で風鳴音を発生させ水面を乱すような粗さとは無縁のはず。

 思い当たる節を脳内で探し、アカギはおもむろにステータスウインドを開いた。

熟練度(レベル)が・・・・・・上がっている?」

 『使徒』が持つ《霊核基幹》の成長限界値はクラスに関係なく一律100。

 それ以上は、どれだけ経験値という水を注いでも、枝葉を伸ばすことはできない。

 だが、ステータスウインド上でのアカギの熟練度は101。七項目のステータスも『筋力』を中心に軒並み上昇している。無自覚な能力値の上昇が、太刀筋を乱れさせた原因だった。

《それは、転移により結果的に発生した変化です、アカギ様》

 アカギの心中の疑問に答えるように、霧の中より精霊が現れる。水面を全く波打たせることなく空中に静止するのは、世界(システム)からの使いだった。

《異界という今までになかった土壌へ移され、《霊核基幹》がこれに順応。先のクエストなどで経験値を吸収し、新たなる枝や根を伸ばし始めた。アカギ様は今、変化の兆しを得ているのです》

「ハリオンか・・・・・・半年ぶりだな。待ちくたびれたぞ」

 世界側に対する疑問や憤りは、アカギの内で今尚消えていない。ただし、それらを腹の中で納める事ができる程には、『戦士』は年月を重ねていた。前回の失態は、無遠慮に心のもっとも深い根源たる部分を荒らされたため。基本的に『勇者』さえ絡まなければ、感情を暴発させるのではなく、目的達成のための推進力に昇華する術を、アカギは心得ている。

《お久しぶりです、アカギ様。本日は、クエストの告知に参りました》

 以前と変わらぬ、見事なカーテンシー。水面に浮かぶ姿も相まって、驚く程に幻想的であった。

 ハリオンは手を掲げると、宣誓するかのように告げた。

《クエストを発行します》


クエスト:闘技場の覇者

報酬:《しんぴのせいけん》

内容:闘士ケビンと共に闘技場コロニー・ナタでの無差別争覇杯で勝利する。

成功条件:ケビンが無事な状態で、無差別争覇杯で優勝する。

失敗条件:ケビンの死亡、ないしは大会での敗退。


「これは・・・・・・」

 護衛系クエストの変則型。単純に対象を護ればいいだけでなく、闘技場での優勝が条件に追加されている。『闘士ケビン』なる人物が如何なる者かも重要だが、闘技場という場所は実戦とはまた一風違った技術が求められる場所であり、そこで優勝するとなると一筋縄ではいかないことは大いに有り得る。

《アカギ様の御意思に留意し、クエストを達成した結果、無知なる誰かを傷つける、殺害するといった目的のクエストでないことは、確約いたします》

「《勇者の剣》を持ち出し動揺を誘い、『勇者』というある種の人質をチラつかせながらも、俺の意見はある程度は呑む」

 『戦士』は、ここ半年間で考えていたことを告げた。

「推測だが、この世界にはそもそもクエストを受信できる『使徒』のような存在は数が少ない、あるいはクエスト達成が困難な程に能力が低い。違うか?」

 世界側は行動の端々から、アカギを何として動かそうとする意志が垣間見えている。

 この世界で、アカギは異邦人だ。態々(わざわざ)、言う事を聞かない余所者を使うよりも、自由に動かせる手駒を指した方が、より安全で確実だ。

 それをしないのは、何かしらの理由が存在するはずだった。

《その質問には、お答えできません》

 世界の側に立つ精霊は否定を、しなかった。

 どちらともとれる曖昧な返答に、アカギは肩を竦めた。

「まあ、いい。『勇者』に繋がる手掛かりが無い以上、クエストには従う。だがな……」

 剣の切っ先が、鋭く射貫くような眼光と共に精霊へと向けられる。

「世界が言の葉を(たが)え、今度も俺に同じことをさせようとするのなら、完全にお前達とは手を切る」

《その場合、『勇者』への(よすが)を失う事になりますが、よろしいのですか?》

「構うものか。俺は、胸を張って『勇者』に会いに行くつもりだ。もしも、エマの様な少女を犠牲にした上でしか再会出来ないと言うのなら、二度と『勇者』に会えなくていい」

 『勇者』との再会は、アカギの悲願だ。

 万難を排してでも、再び会いたいと渇望している。

 それでも、その願いのために無辜の誰かを犠牲してはエマや仲間達に合わせる顔が無い。

《・・・・・・分かりました。世界の秩序を守る精霊の一人として、改めて確約したことは違えないと誓いましょう》

 俯き指を組む祈りの仕草で誓約を述べるハリオンの姿は、どこまでも真摯だ。

 色白の細い(うなじ)を差し出すその(さま)は、気に入らなければこのまま首を断たれても構わないと宣言しているようでもあった。

 少なくとも、アカギは精霊の姿に虚飾を見出すことはできない。

 『戦士』は、切っ先を下した。

「分かった。世界ではなくお前の言葉を信じる、ハリオン」

《感謝します、アカギ様》

 霧が、精霊を包み込んでいく。あるいは、精霊が霧に紛れるようにその姿を消しているのか。ご武運を祈念しますとの言葉を残し、ハリオンはその場を去った。

「聞いていたな、『カネツグ』」

《無論です》

 修練中のアカギの立っていた場所が、大量の水飛沫を立ててせり上がる。周囲を覆っていた霧を吹き飛ばし、湖を割って姿を現したのは、白銀の大剣《シルバー・セブン》。水中に沈んでいた船体が浮上し、エーテル航行により空中へと舞い上がった。

 アカギは、アイテムウインドを操作し、《シルバー・セブン》を『装備』する。

 瞬間的に身体が主操縦席である台座前へと移動し、『戦士』は『カネツグ』の柄を握りこむ。

《闘技場コロニー・ナタ、エーテル通信ネットワークで検索を掛けてみましたが、どうやら圏外圏に存在するギルド運営のコロニーを丸ごと使った興行施設のようです》

 資料映像として、巨大な筒のような形状をしたコロニー・ナタの全体図や、リング内で戦い合う武装した闘士達の姿がARモニターに表示される。

「ここからどれぐらいかかる?」

《二日もあれば、十分かと》

「現地では、『闘士ケビン』を探す必要もある。時間的な余裕は多めに取っておきたい」

《心得ました。では途中宇宙海賊に遭遇する可能性もありますが、より短い距離を進む航路に変更しましょう》

「ああ、それで頼む」

 進路を、コロニー・ナタへ。

 空気中のエーテルを収束させ、白銀の大剣は天へと刃を突き立てた。



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