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ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
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祝、500PV&300ユニーク突破!

読んでくださった方々、ありがとうございます!


本日は、二回更新を予定しています。

一章の最終話+エピローグになります。

 第一フェイズ、エーテルの波を越えて、《トウェイン》へ着陸する。

 第二フェイズ、戦力の高さを見せつけることにより精霊の危機感を煽り、核を内部から引きずり出す。

 第三フェイズ、ダメージを与え、戦闘能力を減じた状態で《トウェイン》から精霊を《シルバー・セブン》により引き離す。

 自身の担った役割を果たす為、《シルバー・セブン》内の台座へもたれ掛かる様に、エマは息も荒く膝を付いていた。隕石の精霊の強みの一つは、おそらくは数千年単位で収集・蓄積された膨大なエーテル量。これを全て吸収しきるのは、『カネツグ』の能力でもかなりの時間が掛かる。そして、多くの時間を消費してしまえば隕石のマーズマ本星へと直撃を許す事となる。

 エマの役目は、《シルバー・セブン》を駆り、精霊を隕石から引き離す事。

 24時間のドッグ入りで行われた改修は、アカギ以外の者でも《シルバー・セブン》を操作できるようにした、限定解除モード追加だ。

 船の操縦桿代わりにアカギから貸与された武器、《しっぷうのつるぎ》。片手剣を握り締めた手から、全身へと広がる(ライン)による神経接続。流れ込んでくる情報の異質さは、エマの脳髄を焼いた。

「が……あ、あ、あああっ!」

 限定解除モードは、機体の性能・機能を制限する代わり操縦者への負荷を軽減させた設定になっている。ただ、それでも未熟な《霊核基幹》と並みの溝穴(スロット)しか持たないエマには荷が重かった。

 『使徒』であるアカギならば、『右手』と『左手』の二つを埋めることで船体を自在に操れたが、エマは全身の六つのスロット全て使い負担を分散させてなお、負荷に苦しみ悶え、船を微動ださせる事ことすら出来ていない。

 通常のタッチパネル式の操作方法では、『装備』による接続同調を前提として設計された《シルバー・セブン》を動かすことはできない。白金の大剣を『装備』できることが必須条件だった。

 前面のモニターでは、アカギの身に着けているウェアラブルデバイスを通じて戦闘の光景が流れている。アカギの指示と同時に、エマは動かなければならない。

 もし、エマが《シルバー・セブン》を動かせなければ、全ては水泡に帰す。家族も、故郷も、そしてアカギも、エマは失う。

 何度も何度も意識を失いそうになり、必死になって糸を切らさぬように剣を握り続けるエマ。白濁してくる視界。力なく崩れ落ちていく身体。

 絶望の未来が脳裏に一瞬浮かんだ時、その黒は現れた。

 広がる。少女の心を侵すべく、ゆっくりと広がっていく。空間そのものが黒に飲み込まれ、意思の希薄な極小精霊達を支配していく。

 虚無の沼に呑まれていく感覚にエマは、笑う。

「――――――やっぱり、来ましたね」

 今までの衰弱が嘘の様に、少女は身体を跳ね上げると宙に拡散していた黒を素手で捕獲した。黒に表情などない。しかし、その様子は驚愕しているようでもあった。

「ワンパターンなんですよ、やり口が」

 エマは、ブヨブヨとしたスライムのような黒を怒りのままに床に叩きつけると、鋭く脚で踏みつけた。

「人が弱っている時にだけ、毎回毎回現れては好き勝手に暴れて、平常状態になるとすぐさま逃げる。糞以下の性根ですね、それでも私の才能(いちぶ)ですか!」

 遠慮容赦が微塵もない連続で振り下ろされる脚による蹂躙。

 本来、黒は実体を持たない。殴ろうが蹴ろうが、すり抜けて貫通する。しかし、例外として自身と同一存在であるエマや彼女が身に着けている物、『装備』している物体に対してだけは、物理的に接触が可能だった。

 床下の一部がベコベコになる程に蹴りつけられた黒は、誕生してから初めて味わう物理的打撃の激痛に(もだ)えていた。

 ようやく足を止めたエマは、まるで汚物に触れたかのように不快感に顔を(しか)める。

「靴が汚れました!」

 蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる黒。壁伝いにずり落ち、痙攣しているところで、またもや脚による懲罰を受ける。

 黒を踏み(にじ)りながらエマは、一転して薄ら寒い程の笑顔で、自らの一部に現実を突きつけた。

「確認作業といきましょう。主従で言うなら私が主、お前は従。私はお前無しでも生きていけますが、お前は私無しでは存在する事すらできない」

 事実である。黒は、あくまでエマという《霊核基幹》の枝葉として生まれた意志持つ《スキル》だ。元が無くなれば、黒も消える。逆に黒が消えても、エマは《霊核基幹》の一部を損い能力の成長に障害が残るが、その生命に損失は生じない。

 この生殺与奪権を握られた状況を変えるべく、黒はエマの《霊核基幹》乗っ取ろうと密かに行動してきたが、あろうことかエマに捕捉されてしまった。

 エマと黒の力関係は、少女の心の天秤で決定される。宿主の意識如何で、黒は強くもなれば弱くもなる。だからこそ、宿主の感情が激しく昂り注意散漫になった隙を狙って行動し、黒がもつ支配の力で徐々にその認識・人格を歪め自身の影響力を強くしようと画策していた。その企みは、宿主の心中をかき乱す出来事が多発していたこともあり書き換えは順調だったのだが、植え付けた憎悪や恐怖さえ上回る得体の知れない何かが芽生えたことで、それらは駆逐され一方的に黒は嬲られている。

 万物を支配する力を持つ黒だが、体験という強固な事実で補強された認識はもう変えることはかなわず、エマに対しては無力な黒いスライムでしかない。

「選択肢をあげます。隷属か消滅、好きな方を選んでください」

 少女の手には、指輪が嵌められていた。

 《回帰の指輪》。効果は一日一回、習得した《スキル》全てのリセット。

 自身が《スキル》そのものであるが故に、そのアイテムの効果を悟った黒は、震えあがった。黒は突然変異的に発生した《スキル》だ。再現性は低く、一度リセットされてしまえば、復活できる可能性は無いに等しい。

「選べよ、この小石野郎。下僕として私の為に働き続けるか、この場で消え去るかを、今すぐに」

 その時、支配の力を持つ黒は、二度と逃れえないモノに永劫に支配されることを選択した。

 黒の心が折れる音を、同一存在であるエマは感覚的に感じ取る。そして、その力が完全に自身に統合・掌握され、一体化した事を理解した。

「《黒の王》、起動!」

 エマは、自身の《スキル》を使用する。

 今まではエマを丸ごと飲み込もうとしていた力が、外へと向けられる。床にへばり付いていた黒のスライムが、霧状の(もや)に姿を変えると、《シルバー・セブン》の内部へと染み込んでいく。

 魔王専用スキル《黒の王》。

 その本質は、支配すること。発生させた黒に触れた物を支配する、破格にして埒外の《スキル》。有機物・無機物問わず効果は発揮され、エマは船の全機能を手中に収める。

 アカギは、船と一体化することでそのポテンシャルを発揮させるが、エマは、船を(しもべ)とすることで能力を発揮させていた。

 黒く染めた極小精霊達を労働力として働かせ、隕石内部に無理矢理エーテルの道を作らせる。一体一体は『カネツグ』の様な制御能力も地力もないが、数が増えればそれなりの仕事をこなす。

『エマ、第三フェイズだ』

 通信機からの指示に、エマは号令をかける

「《シルバー・セブン》、貴方の全能力を以って、アカギさんを助けなさい!」

 その声に、白銀の大剣は隕石を切り裂くように内部へ突撃した。




 四肢を失い白銀の大剣に突き上げを喰らい、自身のホームグラウンドから切り離されようとしながらも、精霊は諦めていなかった。

《させるものか!》

 『触覚』二十体を即座に作成し《シルバー・セブン》に取り付かせ船体の破壊を行わせる。

  アカギが、船体を護るべく垂直に傾いた甲板を走った。細かい操作は必要ない。おそらく、『触覚』達は十秒と持たないが、時間を稼ぐことこそ精霊の狙い。

 精霊核の処理能力をフル稼働させ、今この時にも離れつつある隕石から内部にため込んだエーテルを吸い上げ、四肢を再構築していく。

 最初にオリハルコンの身体を作り出した際の既存データがあるため、一度目よりも作成時間は短縮可能だが、供給元である隕石との距離が開きすぎていた。一度目とは別種の限界を超える必要がある。既に、限界領域で無理をさせた精霊核を間隔をとらず短時間内で酷使すれば、根源たる精霊核に深刻な損害を被る可能性もある。

 精霊は、躊躇しなかった。

 隕石表面部、地表から光の粒子となったエーテルがオリハルコンの身体に集まり、失われた四肢を急速に再生していく。

 時間との勝負。不完全な状態で隕石から引き離されれば、精霊はアカギに負ける。

 精霊核の保全を考えれば、結果の不確定な戦闘行為よりも逃走に力を尽くすほうが賢明だ。霊格をより高めるという大局的な目的の為に、逃げることはなんら本能に逆らう事ではない。

 誕生してから今まで、4177年間は少なくともそうしてきた。

 だが、アカギと鎬を削りあう1秒は、約1318億秒の中のどの1秒よりも熱く、激しくそれでいて彩鮮やかだった。

 未だ解析できないその感覚の答えを、精霊はアカギとの激突との先に見出そうとしていた。そして、それを得ることは本能に従うよりも価値があると、精霊は判断する。

《うおおおおおおおお!》

 総計、8秒フラット。四肢、完全再生。限界突破。

 全長50m程の小惑星群の一つに叩きつけられる寸前で、精霊は表層面に足を半分以上埋めながら、《シルバー・セブン》の巨大な切っ先を両の手で挟み込んで止める。

《こんなもの!》

 オリハルコンの身体を駆動させ、膂力のみで白銀の大剣の先端、ミスリル製の装甲を破壊する。砕けた破片が低重力下を漂う中、高速の蹴り上げが40mの船体を吹き飛ばす。

 船の影に潜み、必殺の一撃を狙い飛び出した敵の姿を確認したとき、精霊は歓喜した。

《そこにいたか!》

「はぁっ!」

 剣と拳がぶつかり、空気のない真空に、無音の金属の雄叫びが響く。精霊同士が行う思念通信により、アカギは『カネツグ』を中継することで、精霊は自らの解析能力で、お互いの音なき声を捉える。戦場が、隕石から低重力の荒涼とした小惑星上へと移り変わる。

 静かで壮絶な、命の削り合い。

 肩甲骨に振り下ろされた刃の腹を左拳で弾くと、精霊はアカギの左脇腹を足刀により割る。臓物が飛び出しそうになるのを筋肉の膨張で防ぎ、痛みを解さぬかのような壮絶な笑みを浮かべた『戦士』は、めり込んだオリハルコンの足を格闘スキルの《蛇絡み》で拘束状態へと持ち込んだ。

 全十種の近距離武器カテゴリーの中で、素手は攻撃力に於いては最弱。速度の領分でも短剣に先行される。しかし、素手には他の武器にはない性質がある。

 防御力無視・ダメージ軽減不可という両輪。

 片方だけなら他カテゴリーにも存在するが、両方を備えているのは素手のみ。

 徒手空拳であるが故、空白のスロットは物体として観測した際の敵の身体の核と接続できる。核に繋がれた素手は、物体を掌握。内浸透による、防御不可能な振動伝播を引き起こす。

 片手格闘スキル《大蛇蜷局(おろちとぐろ)》。肉と骨を犠牲に、巻き付いた左腕にてアカギは精霊の足を押し潰し、粉砕した。

 既に、隕石より距離を放されているため、エーテルの補填による再生は行えない。精霊は、他の部位が『薄くなる』のを覚悟で、エーテルの配分量を均一化させ、足を復活させる。防御が脆くなるよりも、全ての攻撃の土台となる足を喪失することを、精霊は忌避した。

「器用な真似をっ」

《お前に、勝つためだ!》

 最短最速で状況に最適化された拳が連続で繰り出される。パワー、タフネス、スピード、主な戦闘能力の数値は、《聖戦号令》の上昇分を加味したとしても精霊が上。その差を埋めているのは、アカギが歩んできた戦いの歴史と磨き練られた技術。

「真っすぐ全速力で飛んでくるお前の拳は、嫌いじゃない。だが、お前では俺達に勝てない」

 普段の剛剣とは打って変わったその太刀筋は、流水のように柔らかで自在だった。右手で届かなければ、左手へ持ち替える。順手で足りなければ逆手へ握りを変える。あるいは、その逆。弾くのではなく切っ先で触れいなすことでベクトルの方向を操作し、逃げ場のない面の攻撃に対し、自然と空白地帯を生じさせ一歩も位置を変えることなく回避する、河川の清流が巌を包み込むが如き変化と応用。

 剛柔諸共極めてこその『戦士』。武の果てに辿り着いたからこそ、偉業を成し得た。

 円弧の軌跡を描く『カネツグ』が、輝く拳を受け流していく。精霊の攻撃や動作が直線的なものが多いのに対し、アカギは曲線的なものが多い。人体のパーツは直線よりも曲線が多く、関節などの可動範囲も多くは弧状になっている。円弧、即ち螺旋の動きは、人体運用に於いて理にかなっていた。

「俺達生物は、幾千万もパターン分けされ状況に即した身体を用意する(すべ)はない。だからこそ、今ある一を極限まで鍛えて練上げることが出来る」

 勇者達と共に数多くの敵と戦い続け百年、その足跡の中で得た反省や感覚を形として体現するのに百年、自己と向き合いひたすらに練磨を続けて更に百五十年。

 三百五十年かけて、『戦士』アカギは完成する。

 個体として蓄積した時間の長さなら精霊が長じるだろうが、本能のみに従い漫然と過ごした時間と、目的意識を持ち創意工夫という過程を積み上げた時間では意味が違う。

 攻防の流れが、変わる。

 無数に交差を繰り返す剣と拳。先に、損傷が生じたのは、拳だった。

《!》

 それは、小さく浅い傷とも言えぬような、傷だった。表層面に生じた細い線。

 その線は、交差を重ねる度に太く深くなっていった。

 『戦士』の嗅覚を以って、アカギは動作のおこりを拾い上げ、相対速度さえも利用して線を重ね刻む。(けん)(てき)(いわ)穿(うが)つが如き、極小にして精密な剣筋。

 精霊が、均一化をすることで疑似的な修復を行うも、埋めたそばから刃がオリハルコンの身体を削る。しかも、その速度は加速度的に上昇していく。

 削り刻まれていく、幻想物質。精霊が学習し、動作を洗練させていくのと同じあるいはそれ以上の速度で、アカギもまた敵の癖や戦闘に於ける思考パターンを蓄積させ先読みに反映させる。必殺という回答を導く公式が、徐々に完成してく。

 時間経過が敵なのはアカギ達のみならず、精霊もまた同じあった。

 隕石の精霊は、悟る。能力で圧倒して尚、上にいかれる。尋常の手段では、勝機はない。

 ならば、賭けにでるしかないと。

 左腕一本。不意を突く形で精霊は、自らの左腕を切り落とした。瞠目する『戦士』の眼前で捨て去った部位の物質化を解除。一気に解き放たれたエーテルが閃光となってアカギの眼を焼く。左腕を犠牲にすることで、『戦士』の読みを外れさせ、精霊は己を飲み込もうとしていた死の濁流から脱する。

《まだだ、まだ私は、出し尽くしていない!》

 上空高く距離をとった精霊は、自己を燃やし尽くす最終攻撃を敢行する。

 光り輝くオリハルコン。金属生命体から漏れ出た光の粒子が周囲の空間を満たしてく。光の密度が濃くなるほどに、精霊の身体は(ほど)け、輪郭をぼやかせる。

 消えゆく身体の中、右腕の拳のみがアカギへ向けられ戦意を示し続けていた。

 急速に高まる、エーテル濃度。隕石の精霊により、御されたその流れは最早小規模な《惑星流》となって小惑星群に吹き荒れる。

 そして、最後の性質変換。右腕が帯びるのは《シルバー・セブン》と同じ白銀の光。

 精霊は知っている、人間達がマテリアルを用いる事で、エーテルの波に乗り超光速で移動することを。その移動手段を、攻撃へと応用する。

 畏怖と共に、『カネグツ』は同族の意図を理解した。

《物質化を解除することで、圧縮されたエーテルを一気に開放。自らがその流れを操り、エーテルストリームを発生させる。そして、残されたオリハルコンボディの性質をミスリルと同等に変化させ、己自身を超光速の弾丸として発射する。差し詰め電磁加速砲(レールガン)ならぬ、霊力加速砲(エーテルガン)とでも言ったところでしょうか》

 貯め込んだエーテルから切り離された現状、それを実行するには文字通り身を削り大量のエーテルを放出する必要がある。後天型精霊は、精霊核を内包する器を失えばその存在を保てずに、霧散して消え果る。

 器を失うリスクを、隕石の精霊が理解していないはずはない。

 自壊覚悟で、精霊は勝機をつかみ取りに来たのだ。

 《惑星流》に変換された精霊の身体はその殆どが分解され、残った部位も戦意の象徴たる右腕に精霊核ごと集約。ただの一撃に全てを賭けた黄金と白銀に輝く巨大な腕だけが、射出される瞬間を待っていた。

 アカギは、『戦士』だ。戦いに勝利する為にあらゆる手段を講じ、必要ならば卑怯卑劣と呼ばれる戦法も平気で選択する。戦場には貴賤など存在しない。

 だが、それでも、戦いに己の命を()す者の一人として、義務がある。

 敵対者は殺す。弱みを見せれば徹底的に追い詰める。手心は加えない。

 だからこそ、死力を尽くし向かってくる敵には、一人の『戦士』として応えなければならない。

「『カネツグ』」

《はい、既に蓄積量は十分。いつでもいけます》

 阿吽の呼吸。愛剣は、主の意思を正しく理解している。

 アカギは、相棒を高く突き上げた。

極星(ほし)を吐き尽くせ、《スコール・ファング》!」

 眩き太陽の輝きを、アカギは背負った。

 《スコール・ファング》の能力。それは、吸収と放出。

 与えたダメージに比例したエーテルの吸収。そして、吸収量に比例した放出。

 蓄積したエーテルを推進剤として放出することで、一時的に驚異的な速度を得る噴射加速能力。

 山吹色の外套から吐き出される圧倒的な星の輝きのままに、アカギは光の帯を引きずる彗星となり天を穿った。

 呼応するように、精霊も超光速の拳を撃ちだす。

 天と地、二条の光が激突した。

 その瞬間、光速を生身で超えたアカギは、全身の体液が後方へ引きずられ、骨格や内臓の絶叫を聞いた。アカギという人の(かたち)そのものが砕け散る予兆。

 金属生命体としての全てを集約させた黄金と白銀に輝く拳は、『戦士』としての全てを出し切っても届かぬ程に速く、熱く、眩かった。

《最早本能や霊格の向上など、どうでもいい!お前を打倒し、私は答えを得てみせる!》

 拳一つになって尚、その渇望が果てることはなく、精霊は魂のままに進み続ける。

 アカギは、その閃光の様な在りようを心から賞賛し、羨望し、行動を以って(はなむけ)とした。

「言っただろう、お前では俺達(・・)に勝てない!」

 それは、黒。

 少女が、少年へ勝利への布石として託した小さな欠片。

 精霊は気づいた、強敵の虹彩が漆黒に変色していることに。

 アカギを何度も飲み込もうとした支配の力が、『戦士』の道を切り開く。

 その《スキル》を発動する為に必要な条件が、満たされる。

 《フラッシュ・リアクト》。強制事象介入能力。

 速度の概念とは全く別領域で実行される、一動作の差し込み。

 時間さえも置き去りにして、『戦士』は静止した世界で剣を振るう。


 その一閃を以って、アカギは精霊核を両断した。





 宇宙空間に拡散していく、光の粒子。

 その光景は、花弁を散らす華にも似ていた。

 断ち切られ虚空を力なく漂いながらも、拳は握られたままだった。

《なぜだ!………何をしても、結局は無駄だったということか》

《無駄なものか》

 消えゆく精霊の言葉を否定し、その上で『カネツグ』は断言する。

《担い手様と死合った瞬間、確かに貴様は『生きていた』。個として強固であるが故、自動的、受動的な精霊が多い中、貴様は確固たる己を築き、最後まで死に物狂い足掻き続けた。それは我ら精霊にとってなによりも意義があり価値のある事だ》

 同族とは言え、主たるアカギに敵対した精霊に対し、『カネツグ』は憐憫も哀悼も同情も抱いてはいない。ただ、己の内にある回答を、鋼の精霊は語っただけだ。

 飾らぬ『カネツグ』の言葉に、間際でありながら精霊は穏やかに満たされる感覚を得た。

《そう、か。既に、私は……得ていた、のだな。次に、活かせぬ口惜しさあるが………悪くない、気分だ》

 アカギは黙して語らず、静かに精霊の最期を見守っていた。語るべきことは戦場で語り、果たすべき『戦士』の義務は果たした。後は、敵対者として、その命を殺めた者として、死者を貶めぬように努めるだけだ。

 拳の指が、ゆっくりと一本一本開いていく。

 固く結ばれた戦意を紐解くように、生き残った勝者を讃えるように。

《貰って、くれ。私の………存在した、証だ》

 半分以上が消失した掌に載せられていたのは、小さな、しかしそれでも珠玉の煌めきを宿す宝石だった。アカギが頷きながら無言でそれを受け取ると、役目を果たした手が消え去った。

《―――感謝する》

 最後に遺されたのは、そんな言葉だった。



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