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ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
16/75

15

 戦闘の口火を切ったのはアカギだった。

 『戦士』の攻撃系《スキル》の射程はほぼ全てが武器に依存するため、大剣を扱うアカギの最適距離は自ずと決まる。武器の射程内に相手を捕捉するため、少年は一直線に『触覚』達との距離を詰めた。

 彼我の距離は、凡そ10m。移動速度は並み程度の『戦士』/『聖騎士』の組合せ(ビルド)であっても、『使徒』であるならば一呼吸の間に、踏破可能。

 それでも、アカギが肉迫するより早く、五体の『触覚』達が動いた。

 横一列。光を固めて形だけ人に似せた歪な『触覚』達は、整然と総計五十の指を目標へと向けた。

 斉射。雨あられと、直線状の物体全てを薙ぎ払う様に、光線が奔る。収束・発射された純エネルギーとしてのエーテルは、人間の作り出すエネルギー兵器などよりも貫通力・殺傷力に長じ、如何に『使徒』と言えども直撃を喰らえば風穴が空く。

 速度をそのままに、アカギは大地を踏み抜いた。

 畳返しの如く、足元の岩盤一枚が起立し光線を遮る壁と化す。元より、隕石全体が精霊によって長年掛けて蓄積されたエーテルへの干渉力を持つ素材で構成されている。岩盤であっても例に漏れず、数秒の間盾となる役割は十分に果たす。

《貴様、我ノ身体ヲ!》

 『触覚』の内の一体の顔面の一部が割れ、その隙間から怒りの声が噴出した。身を削られた事で、精霊が意識の端にも入れていなかった少年を、ようやく憎悪の対象として認識しだした。

 閃光の飛び交う中、アカギは岩盤をそのまま前方へ蹴り飛ばした。剥がされたとは言え元は身体の一部。『触覚』達がどう対応するかの判断の迷いに乗じ、アカギは剣の間合いに相手を捉えた。

 大剣スキル《バッシュ・ライン》上下半身の捩じりから生み出す、横一閃の胴切。刃が『触覚』の表層面を裂き内部へ侵入する、柄から伝わる手応えは、硬い。世界転移以降、殆どの敵を一刀の元に両断してきた『戦士』によって振るわれた『カネツグ』の刃が、中ごろで止められていた。

 背後、槍の様に鋭角化した腕により心臓を貫こうとする別の『触覚』の動きを空気の流れで察したアカギは、剣を引き抜こうとするも、武器が固定されていることに気づく。

 切られた端から『触覚』が大気に満ち満ちているエーテルを吸収し、刃を巻き込みながら再生することで身を以って武器を封じていた。

 呼吸、震脚、捻身。アカギは呼吸の動作の内に他二つを内包させ三つの工程を瞬く間に成立させた。

 固定している『触覚』ごと、背後の敵へ『カネツグ』を叩きつける。

 空気を唸らせて旋回する頭部が、槍腕の『触覚』の頭部と激突し、横殴り気味に吹き飛ばす。衝撃で、『触覚』達の首が捥げ落ちた。アカギは、落ちた首を足の甲で拾い上げ、すかさず遠距離から光線での掃射を狙っていた個体へと蹴り飛ばす。射線が逸れ、あらぬ方向へ発射された光が大地を抉った。

 串刺しにした『触覚』を、丈夫な鈍器として振り回し暴れる『戦士』。腕が圧し折れ、脚が落ちようとも、『触覚』を酷使し続ける。捥げた腕や脚を、投擲武器として再利用することも忘れない。

《我ガ『触覚』マデモヲ弄ブカ!》

 その戦い様から、武器の固定は寧ろ敵に都合のいい別の武器を与えるだけだと精霊は判断。『触覚』の物質化を一度解き、別の場所で再構成させ枷を外せざるを得なかった。

 拘束を解かれたアカギは、敵集団の内に於いて縦横無尽に走周り、その戦闘技術を如何なく発揮した。

 数的不利にあり、多数を一度に殲滅可能な火力がない場合、重要なのは単純なパワーやスピードではなく、立ち回り、即ち位置取り(ポジショニング)だ。

 四方八方から包囲され集中砲火を浴びぬよう、常に動き続け『戦士』は戦闘に於ける機先(イニシアチブ)を放さない。受け切れない攻撃は敵自身を肉壁に利用、敵の攻撃範囲内に別の敵を含ませて、攻撃頻度を下げさせる。自身の対応能力を超える場面を作らせず、視線や足運び、フェイントを混ぜることで個々のみならず集団全体の動きを誘導し、個を包囲する円の隊列をかき乱し連携を要害する。

 アカギは、次々と千変万化する状況を『触覚』達に対応させ負荷を強いることで、その処理能力を飽和させていく。『触覚』は、精霊の作り出した器官、人間で例えるなら指などの感覚器官に近い。一本や二本なら細かく精密に動かせるだろうが、五本同時、しかも、秒単位変わる命令を指ごとに次々出せば、時間を掛けずとも動作は破綻する。

 そして、歴戦の『戦士』の眼はその綻びを見逃さない。

 僅かな隙を生じさせた『触覚』へ、アカギは頭頂部から股下へ斬撃を見舞った。エーテルにより構成された構造体の密度、粘度、硬度の感触を一度刃を通して得たアカギは、最適化された太刀筋を以って、『触覚』を両断した。

《無駄ダ!貴様ガ幾ラ切リツケヨウトモ、エーテルヲ補給シ再生サセレバ、『触覚』ハ何度デモ蘇ル!》

「交渉に臨むのに、相手への対抗手段を用意しない馬鹿がどこにいる」

 精霊は、気づいた。小さき者の振るう武器が、いつの間にか形状を変化させている事に。

 剣の腹を縦に走るのは、獣の(あぎと)を思わせる乱杭歯型の深い溝。柄頭には鎖が発生し、それが担い手の右腕と剣を結ぶ。エーテルで形成された鮮やかな山吹色の外套が、アカギの肩でたなびいていた。

 エーテルを補填し、形を修復しようとしていた『触覚』だが、『カネツグ』の刃が奔った箇所のみが、回復しない。切断面が剣で一閃した割には粗く、それはまるで凄まじい咬合力で牙が肉を削いだかのように、ぐずぐず(・・・・)に千切れていた。裂傷が、身体全体へと割れ広がり、体表を埋め尽くす。精霊の命令を無視し、強制的に物質化が解かれ最小単位の粒子となったエーテルが、『カネツグ』の剣腹の溝へ吸い込まれていく。

 『カネツグ』七変化が三、《スコール・ファング》。極星精霊(ほし)を喰らった狼を核とする、エーテルを捕食し、自らの力へ変換する精霊殺しの剣。

「認識を改めろ、精霊。俺と『カネツグ』は、お前を殺せる敵だ」




《ナルホド、理解シタ》

 自らの一部である『触覚』を消滅させられ、精霊は却って冷静に成っていた。癇癪気味に発露していた感情は、既に鎮火している。

 『触覚』は、精霊を形作るエーテルを切り取って製作される器官だ。単純な強度は小さき者より頑強であり、破壊されることはまずない。

 しかし、その万が一もないと断じた事態が事実と発生したことで、精霊は小さき者―即ちアカギ―の評価を、全力で対処するべき脅威へと改めた。

 機械的なまでに事実をそのまま事実としてシステマチックに受け入れ分析する(さま)は、『カネツグ』なども含めた精霊の多くが持つ性質だ。生物を小さき者、取るに足らぬモノとしてカテゴライズしていたのは、数千年の蓄積データにより算出された結果に従ったに過ぎない。新たに得られた情報から、自身の結論を覆し更新することに、精霊は一片の躊躇もなかった。

 自らの思考を刷新した精霊は、一秒にも満たない時間で状況を分析し、最善を探る。

 一体の器官の損失は、十万以上ある全体リソース量の1か2を減じた程度にすぎない。相対的なダメージとしては微々たるもの。だが、逆に言えば十万回以上実行されれば、精霊は核を丸裸にされ、消滅することを意味する。

 生物には気の遠くなるような十万回の『触覚』の打倒工程、アカギならば成すと、精霊は判断する。精霊がほぼ有り得ないと断じた結果を、苦も無く手繰り寄せた様は、十万の壁を突破してくると想像させるには十分過ぎた。

 ならば、如何にしてアカギを殺すのか。

 精霊に、戦闘行為の経験値は皆無だ。対し、アカギは無秩序に見えて状況を俯瞰した的確な判断能力を備え、動作一つ一つが無駄なく効率化・最適化されており、数値化が難しい要素さえも内包する熟達の(わざ)は、根底の膨大な量の戦闘経験値を予想させる。駆け引き、戦闘技術の比べ合いは、圧倒的に精霊が不利だ。

 ここまでの戦闘記録からおそらくは広域殲滅能力を持っていないと判断できるが、数で押す物量攻撃は、悪手だ。『触覚』を作り出すだけなら、千でも万でも精霊は瞬時に作り出すことができるが、先程の戦闘でもそうだったように、数が増えれば増える程に精霊の処理能力を圧迫する。

 常日頃から行っているマテリアルの探索などなら、千を超える器官の操作も支障はないが、瞬間的な判断能力と操作能力が求められる戦闘となると、百も『触覚』を作り出せば、大半が鈍間な木偶の坊となってしまう。そして仮に、アカギが広域殲滅能力を隠し持っていた場合、恰好の的を晒した精霊は無駄にリソースを大きく減じる事となる。

 辿り着いた答えは、非常にシンプルだった。

 精霊は、残存する四体の『触覚』の内、三体の物質化を解き、粒子へ戻した。

 そして最後の一体へ、隕石の精霊の制御能力で凝縮物質化出来る限界値を超えた、一万ものリソースを投入する。これだけのリソースを注ぎこんだ個体を作成することは、過去数千年の活動記録にもない。隕石内部の核からによる遠隔通信操作では、膨大な量のエーテルを制御するのにタイムラグが生じる。時間に換算すれば、一万分の一秒程度の誤差だが、こと戦闘に於いてはその僅かな時間が成否を分かつと、精霊は学習していた。

 よって、直結操作を実現するため、『触覚』へ己の核さえも移植する。自身の急所を晒すに等しい行為であったが、眼前の敵に対しては、出し惜しみこそが最大の悪手。

 我が身を省みず出来うる全てのリソースを投じてフルパフォーマンスを発揮。技術の引き出しを開かせる間もなく、単純な性能差で圧倒する。それが、精霊の辿り着いた最善手だった。




 比喩抜きで、大気が崩壊した。

 隕石表層面上の環境を維持していたエーテルが、一気に『触覚』の一体へ集約される。酸素濃度の低下、重力の軽減が発生し、Lスーツを身に纏っていいなければ、アカギの生命活動はひどく制限されたであろう。

 周囲のエーテルを根こそぎ食い尽くした『触覚』の姿が、変貌する。

 ぼやけて曖昧だった輪郭が、質量を伴い明確化。存在そのものの密度が上昇し、その形は最早歪な人形などではなく、進化という取捨選択の果てに辿り着いた生物達の回答(カタチ)であった。

 金属生命体。

 姿形は、精霊が『触覚』のデザインモデルに使用した小さき者―人間だ。雌雄を分ける器官は削ぎ落され、人体に置ける基本的な機能のみが先鋭化し細部のディティールまでも再現されている。雌雄のどちらとも言えず、どちらでもあると言えるその形状は、ある意味で人間の原型とも評することができた。

 同じ後天発生型精霊である『カネツグ』は、何が起こったかを正確に把握した。

《窮地に陥った事で変化の兆し得て、事を成したか。これは、我も評価を改める必要があるな》

 器物を発祥とするが故、後天発生型精霊は理想の器を作ろうとする傾向がある。《トウェイン》の精霊がそうであったように、初期は自らの生まれた器に別の物を結合させ、器を巨大化させていく。

 しかし、それでも星に届く事は無く何時かは頭打ちになる。理想はどこまでいっても理想で、この世のどんな物質を収集し結合しても、果て無き理想(ユメ)には届かないからだ。

 ならば、この世に無いモノを自らの手で作ればいい。その結論に、理想を求め続けた精霊達はおのずと辿り着く。

 銀河で輝く星々の煌めきの如き量のエーテルの光を凝縮させ、替えのきかない己の精霊核を結合させた時にのみ誕生する、幻想物質(エキゾチック・マター)

 それが、オリハルコンである。

 アカギの世界最強の武器、《勇者の剣》もこの物質で出来ている。

 強く、弱い。硬く、柔い。生命であり、器物。精霊であり、人。

 世にある力を受容しながら拒絶する、全ての矛盾を相反するままに成立させた存在。

 小石から始まった精霊は、示した覚悟により期せずして極みの一端に立つ事となった。

《非礼を詫び、そして礼を言おう》

 返礼は、閃光の如き一撃であった。

 全身オリハルコンの精霊の拳が、迎撃に動いたアカギの剣と衝突する。残り少ない空気が衝撃で鳴き、『戦士』の足元が陥没した。

《お前達という、脅威対象を得たことで、私は新たな道を見出すことができた、精霊として上の段階へ進めた》

 当然の如く声帯も再現されており、精霊の声は流暢な肉声となっていた。全身の筋肉を総動員し攻撃を受け止めながら、アカギは言葉を吐いた。

「そう思うのなら、このあたりで退いてはくれないか。お前やろうとしている事は、多くの人々の生活を損なわせることになる」

《それは、出来ない相談だ。お前達とて、三大欲求の全てを今すぐ捨てろと言われても、頷けまい》

「まあ、確かにな」

 アカギは、苦笑する。

 人間と欲望は、切っても切れない関係にある。仮に、人間が全ての欲を捨てたのなら、それはもう、人間以外のナニカに成り果てているだろう。

「なら、お互い後腐れなく潰し合おうか!」

 拳の勢いを脇下へ逸らし、身体ごと回転させ『戦士』は荷重移動により剣の刃に重さと速さを乗せた一閃で精霊の首を狙った。

 鍛冶師としても長じるが故、アカギは物体の構造解析を得手とする。詳細な検分をせずとも、剣を通して僅かでも刃を通すことが出来れば、その物体を断ち切る理想的な斬撃を脳内で構築し、実行に移すことが可能だ。拳撃を剣で防いだ際、『戦士』は抜け目なく刃を通して情報を得ていた。

 『勇者』により、二度切りと命名されたそのアカギ固有の技術は、しかし細い精霊の首を落とすには至らなかった。

 弾き返された刃。『触覚』に対しては初太刀であっても胴を割りかけたが、オリハルコンの身体に対しては、薄く浅い傷を走らせただけだった。

 カウンター気味に放たれた砲撃の様な蹴りを受けきれず、アカギは後方へ吹き飛ばされた。精霊が、それを追う。

 一足でアカギに追いつき、連打を浴びせかける。頭、胸、腹、腕、腰、脚、降り注ぐ拳は、

身体の至る所を蹂躙した。山吹色の外套が拳の直撃する寸前でアカギを包み込み、主を護ろうとするも、衝撃は容赦なく貫通し、骨身を砕く。大きく振りかぶった終の一撃に耐え切れず、胴部に『装備』されていた《ドラゴンのよろい》が砕け散る。

 大地を粉砕し、赤茶けた不毛の地に一直線上の長い溝を作ることで、その勢いは制止した。

 外套の防衛機能を解除したアカギは、『カネツグ』を杖代わりにして、身体を起こす。

《申し訳ございません。我が防衛機構が至らぬばかりに酷いお怪我を》

「気にするな、この程度日頃お前にかけている苦労を思えば、安いものだ。それよりもあの精霊、分子構造を変えてきた。オリハルコンの特性をもう掴んでいる」

《数千年の活動時間で培われた、ノウハウでしょう。取り込んできた鉱物や物質の種類と量なら、おそらく私よりも上かと》

 全てを内包する幻想物質は、自在にその顔を変える。時に生物の肉体の様に伸縮に富んだしなやかな柔軟性、時に金属の朽ちず折れずの不変の剛体性。その場その場での最適な構造・性質に変化し、ありとあらゆる状況に瞬時に対応する。

 アカギが構造解析により理想の斬撃を構築しようとも、二度切りが実行される頃には構造が別物に変質しているため、刃は通らない。

 そして、攻撃が通らなければ、《スコール・ファング》の捕食能力も発動しない。如何に精霊殺しの剣であっても、無条件・無制限にエーテルを吸収できる訳ではない。獣が、己の牙で仕留めた獲物の血肉を貪る様に、《スコール・ファング》は敵に与えたダメージに比例した量のエーテルを捕食する。有効打を与えられなければ、その性能を十全に発揮することはない。

 喉奥から込み上げてくる血の塊をアカギは吐き捨てると、《オロチぶくろ》から取り出したHP回復用のポーションを呷り、鉄臭さごと飲み干す。

「この味、久しぶりだな」

 薬臭さと血が入り混じった味は、苦く重く、嘗ての仲間達との旅を想起させる。

 綿密な作戦を立て、潤沢なアイテムを集め、時間を掛けて経験値を稼いだとしても、得てして不測の事態というものは努力を嘲笑うかのように不意に発生する。

 予想外の逆境の中、知恵を絞り、力を尽くし、技を振るい、最後は運に身を委ねる。

 無様で、必死で、泥臭い、命の足掻き。

「そうだ。これが、冒険」

 打ち据えられた身体に、活力が(みなぎ)るのは、回復アイテムが効力を発揮したのか、それとも痛みさえも凌駕して心が沸き立っているからなのか。

 冒険の旅路は、終わらない。

 『戦士』が、その歩みを止めぬ限り、『勇者』から始まった軌跡は、今でも続いている。

 余裕を崩さず悠然と笑うアカギに、言語化できない不確定要素を精霊は感じ取る。新たなる一手を打たれる前に圧殺すべく、距離を詰めると両腕の拳撃による壁を敷く。拳と言う点により埋め尽くされた空間。アカギの未来位置さえも織り込み済みの飽和攻撃は、空を切った。

 一切の予備動作、筋肉の伸縮なしに、アカギの身体が一枚の静止画を動かしているかのように、前後左右に高速でスライド(・・・・)する。

 Lスーツの基本能力、流体移動を利用した外付け筋肉(アウター・マッスル)。足裏の流体が地面の隆起を掴み押し出すことで、装着者の身体を自在に動かす。

 決戦に備え、『カネツグ』より霊力照射を受けていたLスーツには、『装備』するために必要な核が生じており、《ドラゴンのよろい》が砕けた瞬間から、アカギの装備品となって主を激突の衝撃からも護っていた。

 精霊は、未来予想を即座に修正。新たに発生した要因を加味し、攻撃動作を変更。精霊核からオリハルコンの身体に命令を送る。

 そして、出力先の両腕部位の喪失を感知した。

 切り飛ばされたオリハルコンの腕が落下するより早く、両足までもが二度切り餌食となり、四肢が揃って捕食の理により精霊殺しの剣へと吸収される。

「一瞬で構造を変化されるなら、一瞬より更に早く切ればいい」

 《勇者の剣》を鍛造したアカギにとって、オリハルコンは両手に刻まれた傷痕(れきし)の一つだ。その特性は熟知している。分子構造の組み換えは、一瞬、即ち0.36秒で完了する。理論上、一瞬未満の『戦士』であっても遠い刹那の領域において、刃を通す、解析、切断の三工程を成立させれば、幻想物資と言えども断ち切れる。

 未踏領域に踏み込むため、アカギは切り札を切っていた。

 自己強化スキル《聖戦号令(ジハード・オーダー)》。

 戦闘開始から一定時間の経過、HPが一定値以下を割り込む、使用後は効果終了までほぼ全ての回復効果・蘇生効果が適用されなくなる。

 三つの制約を受け入れた先に、この《スキル》は発動する。

 効果は、全状態異常の無効化と全能力の爆発的上昇。強化系の《スキル》を持つ、『聖騎士』、『僧侶』、『賢者』の全ての同系列《スキル》を含めても、上昇値だけなら最上位。

 極限まで高められた身体能力を以って、アカギは事を成した。

 効果時間は、敵か自己のHPが0になるまで。滅ぼすか滅ぼされるかの二択が、この《スキル》の本質だ。使用したが最後、不退転の覚悟を要求される、切り札。

 『戦士』が、切り札を使うのは基本的に二パターンしかない。

 どう転んでも勝てない、避けえぬと判断した死地から仲間を逃がすための殿として立つ際。

 もう一つは、必勝を確信し勝利を掴む為の布石として。

「エマ、第三フェイズだ」

 地中から突如飛び出したのは、白銀の切っ先。

 《シルバー・セブン》の刃が、四肢を切断され攻撃能力の欠如した精霊の腹を突き上げ、船体が猛烈な勢いで高く天へと飛翔してく。

《こ、これは!》

「隕石に張り付いたままじゃあ、内部に大量のエーテルを貯め込んでいるお前を殺しきれないからな、引きずり出させてもらう」

 アカギもまた、Lスーツの吸着能力で大剣の剣腹に立っていた。

「領域外、近場の小惑星群まで付き合ってもらうぞ」

 その声に応えるように、白銀の大剣は加速した。


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