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ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
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11

「《シルバー・セブン》?」

 出発前の最終チェックの際、機体の状態を確認していたエマは、いつの間にか登録されていた船名に首を傾げた。その疑問符を解消したのは、ARに投影された文字だった。

《そうだ、この剣の名前だ。いつまでも『宇宙を駆ける剣』では味気がなかろう》

「いや、確かに銀色の装甲ですけど……7はどこから?」

 銀色のセブンと聞くと、エマの脳裏には、下の兄に付き合って鑑賞した、創世期時代の映像作品がよぎる。銀色の巨人が、頭部の突起物で敵の首を次々刈り取っていく光景を思い出して、少し嫌な気分になった。

「まあ、特別言いづらいとか、卑猥な単語の羅列とかでもない限り、名前とか別にどうでもいいですけど」

《はぁ~、この情緒溢れる我のセンスを理解せんとは。これだから汝は、汝なのだ》

「私の存在自体が、蔑称になってませんか?『カネツグ』な粗大ごみさん」

《ほほう、言うではないか……》

 ARが投影される宙を笑顔のままで睨みつけるエマ。そして、その光景を見ていたアカギは思わず噴き出した。その笑い声で我に返ったのか、恥ずかし気に、少女は顔を伏せた。

「たった数日で随分と仲良なったんだな。何か、通じ合うものがお互いにあるのかもな」

《担い手様、いくら我が主の意見と言えども、それは看過できません》

「なんだ、照れているのか、『カネツグ』」

《……はて、何のことやら。我は、《シルバー・セブン》の制御に戻ります》

 文字が投影されていたARが消失し、『カネツグ』が沈黙する。アカギは、軽く頭を下げてエマに謝罪すると苦笑した。

「すまない。アレでも、君の事は憎からず思っているはずだ。できれば、こりずに話相手になってやって欲しい」

「まあ、アカギさんは私の恩人ですし、その、仲間ですし?貴方がそう言うなら、やぶさかではないですけど」

「ありがとう。俺も、君が今回の護衛対象で良かったと思っている」

 アカギは、エマから事前に渡されていた球体を、胸に押し付ける。Lスーツだ。5秒のフィッティング作業が終わり、全身を透明な流動体が覆う。Lスーツを身に纏ったアカギは、両手を開閉しながら、一瞬身震いする。

「君の持っているアイテムはどれも便利だが、やはり、これだけは気持ち悪いな。全身をスライムに丸呑みされているようで、寒気がする」

「慣れてください。万が一の事もあります。そもそも、宇宙へ行くのにLスーツ無しとか、ありないですからね」

「分かっている」

 悪寒を払拭する様にアカギは、台座の愛剣を両手でしっかりと深く握る。

 『装備』することで、《シルバー・セブン》と接続し、感覚を同調させる。

「さあ、マーズマに向けて出発だ。ナビゲーションを頼む」

 エマも、ARのコンソールを起動し、複数の画面を展開しながら、ステータスをチェックする。

「システム、オールグリーン。発射角度の調整、お願いします」

「了解」

 《シルバー・セブン》が重力の楔を引き千切り、浮上を開始する。最初、機体は水平のまま。しかし、先端が徐々に上へと傾き、ある角度で一旦停止する。

「打合せ通り、まずは大気圏外まで飛翔してください。周回軌道上に乗ったら、そこから一番いい《波》を捕捉して、一気のこの星系から脱出します」

「了解だ。往くぞ」

 《シルバー・セブン》が飛翔を開始した。

 周囲の希薄なエーテルに干渉し、収束させる。航行に必要な《波》を船底に発生させ、その光の奔流に乗る。剣の加速に船体前方の大気が圧縮され、破裂する。

 計器が叩き出す驚異的な数値に目を剥きながらも、エマは己の仕事を確実に処理していく。角度のズレがあれば逐次アカギへ情報伝達し軌道を補正。各部に問題が発生すれば、その都度修正。産声を上げたばかりの、ともすれば空中で自壊しかねないジャジャ馬の手綱をしっかりと握り、制動をコントロールする。

 雲の海を突破し、直射日光を反射させながら、《シルバー・セブン》は(くう)を裂いた。

「高度、15000mを突破」

 上昇し、高度を上げれば上げる程に大気は希薄になり、逆にエーテルの密度は濃くなる。よって、機体の速度もそれに比例し、加速する。

「高度、40000mを突破」

 光の道を、アカギの意識は疾走する。

 『カネツグ』を介することでコンバートされた《シルバー・セブン》の感知した情報が、肉体の感覚となってアカギの脳に送り込まれる。

 足裏から感じる、エーテルの流動性。踏み込みすぎると深みに填まり、逆に浅いと流され振り落とされる。

 星々の海への走行の中、一歩、また一歩と試行を繰り返す。足の入りと、抜きの動作。前後に掛ける重心配分。目線、姿勢、速度。一つ一つを、吟味し、少しずつ調整していく。

「高度、80000mを突破」

 エーテルの奔流は濃度が上がる度に、機体を激しく揺さぶられる。踏み間違えれば、たちまち外へと弾き飛ばされる熾烈な流れの中で、アカギは焦らず、しかし速度を失わず、果敢に歩み続ける。

 常日頃から、『カネツグ』の発する霊力の放射、エーテルの波動を常日頃から肌身で感じているアカギにとって、《波》の上を走ることは、初見であっても難事にはならない。

 内燃機関を持たぬ《シルバー・セブン》が、空中に投げ出されることは、墜落を意味し、それが自身と仲間を危険に晒すことは十分に理解している。それでも、己のミス一つでパーティーが崩壊するという点では、アカギにとっていつもの戦闘行為と変わりがない。

 むしろ、エーテルの《波》に乗るという新たなる体験に、少年は心を躍らせていた。

「高度、……150000m!?アカギさん、少しペースが速すぎませんか!?」

「すまない、この剣の感触を試したい。少し、振り回す」

「ふ、振り回すって・・・・・・ちょっと、そんなのは仕様にありまっ」

 《シルバー・セブン》の船底から延びる《波》を、一直線上から螺旋状に変更する。切っ先を中心に機体を徐々にねじり回転させていき、さながら船全体が銀の衝角と化す。安全マージンを多くとって設定された慣性制御により、遠心力によるブラックアウトは避けられ、Lスーツによりシートに固定された身体が吹き飛ぶ心配はないが、船毎回転させられているエマは気が気でない。殆ど根性で、少女はナビを続行する。

「こ、高度、に、200000m!」

 暗黒の果て、銀河の彼方に煌めく星々を、アカギは見る。世界の端から端までを見たつもりになっていた自惚れを、天へと疾走することで後方へ置き去りにする。

 『戦士』は、光の道をひた走る。

 天へ、上へ、その先へ。

 この時ばかりは、何も考えずひた向きに上昇を続ける。

 久しく忘れていた、冒険の感動。未知への挑戦。

 錆び付いた心に血が通い、脈動を始める。

「高度、300000m!」

 最大加速。

 握りこむ柄から全てを注ぎ込み、《シルバー・セブン》を飛翔させる。

 銀の閃光が、暗黒の宙で奔った。




「し、死ぬかと思いました。遭難してから何回も死ぬ死ぬ思っていましたけど、本当の本当に死んでスペースデブリになって、衛星軌道上を漂い続けるかと思いました」

 シートの上で憔悴し、鄙びた木乃伊の様に倒れ込むエマ。

 計器に表示された高度は、407022m。船は、高濃度の《惑星流》が渦巻くエーテル帯に到着していた。今現在は、惑星の引力によってグルグルと衛星軌道上を周回している。

「すまない、はしゃぎすぎた」

 謝罪と共に、アカギは顔に腕を当て羞恥を露わにする。

 外見こそ少年だが、自己認識と内面は老人に近い『戦士』は、自制や自粛と言ったものを捨て去った自身のしでかしたことに、大いに恥じた。

《我としては、普段は見れない担い手様を撮影でき、望外の喜び。そして、今も羞恥に悶える担い手様を記録に残しています》

「ブレないですね、『カネツグ』さん。ある意味、尊敬します」

 エマは、身体を起こすと、船外カメラの映像をそのまま床下に映し出した。船の底が消失したかのように、漂着惑星の映像が投影される。

「せっかくです、最後に私達が五日間住んでいた惑星を目に焼き付けておきましょう」

 それこそ酷い目に何度もあったが、今となってはいい思い出、とまではいかずとも、目的に到達するための必要な行程であったと言い切れる位には、エマも成長していた。今後の人生、大抵の事では動じない自信を期せずして少女は得ていた。

「これが、世界の形・・・・・・前に見た時と、随分と地形が様変わりしている」

「アカギさんは、宇宙から惑星を見たことがあるんですか?」

 エマがアカギの所持品や知識から推測する文明レベルは、一部の分野に於いて銀河の最高峰さえも超えるが、多くの面ではせいぜい母星の創世期中盤レベルの水準。宇宙技術の魁すら誕生してはいないだろう。

「三百年位前に、一度だけ。その時は、こんなふうに眺める余裕などなかったがな」

 そして、ふと何か気づいたように、不安に突き動かされたアカギはエマに問いかけた。

「エマ、この惑星の全体図、のようなものを出すことはできるか?」

「え、ええ、可能です。ARで3Dモデルを表示します」

 エマが、コンソールを操作すると、艦内の中央に、衛星軌道上からの観測情報を元に作成された漂着惑星のARビジョンが投影される。

「『カネツグ』」

《はい、心得ております》

 先に投影された3Dモデルの横に、球形の二つのモデルが追加される。大陸があり、海がある、それはいずれもが漂着惑星と同じく惑星を3Dモデルで表現したものだった。

《それぞれ、担い手様が『勇者』と共に旅した『エクセリア』、魔物達の故郷『ワイストン』をこの『カネツグ』に蓄積されていた記憶を元に再現したものです》

 アカギは、慎重に漂着惑星を『エクセリア』と『ワイストン』の映像に重ねて、差異を比較する。

「やっぱりだ、この星は俺が今までいた『エクセリア』とも鏡面世界の『ワイストン』とも違う全く別の星だ」

「どういうことですか?」

「俺は今まで、巨大な《旅の階》に巻き込まれ、『エクセリア』の未実装エリアの何処か飛ばされた、と思っていた。だが、実際には俺は世界の壁を越えてしまっていた可能性が高い」

 誤認を誘発する要素は多くあった。アカギの元いた世界と同じく四つの太陽型の天体、森に生息していた魔物と似た生物達、共通事項のある素材やエーテル、差異を確認できる現地の人間と接触できなかった事などだ。そしてなにより、世界を渡る事など滅多にないと思い込んでいたアカギ自身の固定観念。

 それでも、深く思考を働かせれば、事前告知なしで立て続けに起こった権能の弱体化、『魔物図鑑』に登録されない魔物など、取っ掛かりはあったはずだ。しかし、数百年間に渡って培われた常識という枷が、これは世界刷新だ、そんなはずはないと、疑問符を消してしまっていた。

「俺の落ち度だ。一個人の知識など、たかが知れていると分かっていたはずなのに」

 憤りを感じているアカギへと、状況を察することができていないエマは言葉をかけた。

「あの、よく理解できてはいないんですが、世界を越えていると何かまずいことでもあるんですか?」

 世界を渡る、など言われてもエマには眉唾物であるし、アカギが住んでいた『エクセリア』なる惑星から、何かしらの超自然現象で空間を渡ったと考えたほうがよっぽど納得がいく。そのことを伝えると、深刻な面持ちで少年は言った。

「別の星に飛ばされただけなら、俺の取り越し苦労で済む。問題は、世界を越えていた場合に発生する、クエストの変異だ」

「それは、一体どういうことですか?」

「前に一度説明したが、クエストは『使徒』へ届く世界(システム)からの依頼だ。世界を移動していれば、クエストを依頼する世界自体が変わる、当然クエストは既存のモノとは別物になる」

 『エクセリア』で創造され、その地を活動圏にしていたアカギは、世界(エクセリア)からのクエストを受けた数は百を超え、その傾向、やり口、何をどうすればどういった結果に結びつくのかを、大まかに理解している。しかし、このエマの世界からのクエストを受けた経験が、アカギには今までない。

「クエストが厄災の種を潰すという目的で設定されている点は、どの世界でも変わらない。ただ、その潰し方は、世界毎に異なる。」

 ましくそれは、人ならぬ世界の判断だ。仮に、エマの世界が小の犠牲により大が存続するならば、それを是とする仕組であった場合。

「クエストを達成しようが、しまいが、厄災が発生する事も考えられる」

 エマのマーズマへの到着は、あくまでも後々の起こる何かを未然に防ぐ予防策であり、未来に於ける破滅を防げるならば直近で発生する小の犠牲を無視ことは大いに有り得る。

「そんな、ことって……」

 エマからすれば、故郷の危機を回避するため、死に物狂いで様々なものと戦ってきたのだ。その努力が全て無駄だったと告げられたにも等しい。

「勿論、君がマーズマに到着すれば万事が上手く収まる可能性もある。だが、それを判断するには情報が足りていない」

 見知らぬ土地では、情報は時に命を繋ぐ水よりも価値がある。この世界の住人であるエマは、その情報に触れる方法について、アカギよりも知識がある。努力を無駄にしない為に、なによりも故郷と家族を救うため、エマは萎えかけた心を震わせる。

「中継ステーションです。あそこならエーテル通信でネットの情報にアクセスできます。何か事件が起きているなら、ニュースや掲示板で騒ぎになっているはずです」

 エマは、コンソールで目的地であったステーションの座標をARのマップ上に表示させる。現在の《惑星流》の状況、大気圏突破によりデータを得た船の性能を計算に入れ、ステーションに至るまでの最短ルートを割り出す。

「出ました、《シルバー・セブン》の性能なら、15時間あれば到着します」

《違うぞ、小娘。そこは、10時間だ。ルートはここだ》

 『カネツグ』が、新たな航路をマップ上に書き加える。そのルートは、エマの立案したものよりも、短距離でデブリ帯などの障害物の少ない理想的なルートであった。ある一点を除いて。

「ちょっと待ってください、確かにそのルートの方が距離は短いですが、エーテル・ストリームの本流から大きく逸れてます。小さな支流の《惑星流》では航行速度が落ちます」

《剣が完成した暁には先導を務めると、我は言ったはずだぞ。先程はコツを掴む為に敢えて最低限の働きしかしなかったが、既に要訣は我が内にありだ。試しに見せてやろう》

 《シルバー・セブン》の進路上、『カネツグ』の指し示したルート上のエーテル濃度が急速に上昇する。糸の様に細かったルートが、数隻の船が運航しても問題ないレベルにまで膨張し、大型の《波》が生まれ始める。

《我の技巧と我が半身たる《シルバー・セブン》の干渉力ならば、エーテルを引き込み支流に本流並みの《惑星流》を一時的に発生させることも可能だ。ここを使え》

 大質量の《ミスリル》とエーテルの集合体である精霊が合わさった際の力を目の当たりにし、エマは驚愕しながらも、己の頭脳でルートを再計算し、確信を得る。

「確かに、これなら10時間で中継ステーションに辿り着けます!」

「なら、後は俺の操舵次第ということか」

 『カネツグ』の柄を握り、アカギは《シルバー・セブン》を発進させる。

「俺も、さっきのやらかしたおかげで、感覚は大体掴めた。安全かつ最速で、目的地に辿り着いて見せる」




 《シルバー・セブン》にオートパイロットなどという上等なものは搭載されておらず、殆どの操作はマニュアルで行われる。途中、僅かな休息を挟んだと言えど、ほぼ10時間ノンストップで神経を使う操舵を大過なくこなせたのは、ひとえに搭乗員の高い集中力と目的に対する真剣さが高いパフォーマンスを長時間維持させた結果だ。

 中継ステーションのからの誘導ビームに従い、《シルバー・セブン》は入港を果たす。積み荷のスキャンや、搭乗員の防疫検査などがオートメーション化されたシステムにより短時間で行われ、アカギ達はステーションの港ブロックへ降り立った。辺境にある多くの中継ステーションは、人件費削減の為、システマチックに無人化されており、職員が訪れるのは、定期点検の時のみだ。それでも、到着した施設は静かすぎた。

「港と言うわりには、人がいないな」

 本来ならば、ステーション内で最も人や物の往来が激しい場所。入港の定番である順番待ちもなく、ドックに停泊している船舶も《シルバー・セブン》の他にいない。閑散とした広大な空間は、うすら寒ささえ感じられる。

「異常ですよ。いくら辺境のステーションでも、こんなにも人がいないなんて」

 エマは、すぐ近くにあった公衆端末に自らの端末を接続すると、ネット上での情報を探った。いつも巡回しているニュースサイトや掲示板はもちろん、裏付けと整合性をとるために、複数のサイトを経由して多角的に情報を収集、矛盾や間違いが無いかを精査し、情報の確度を高めていく。

 少女の頭の中で、複数の情報が結びつき、輪郭と像を形作る度に、エマは心臓を圧迫される感覚を得る。何度もサイトを見直し、仮定を列挙し潰していっても、同じ回答に至った時、エマの膝が折れた。

 倒れ込む寸前で、アカギが後ろから支えるも、エマの表情は蒼白だった。

「どうした、しっかりしろ、エマ!何を見た!」

「……マーズマに、私の故郷に・・・・・・・・・」

 口元を押さえ、少女は辛うじて声を紡いだ。

「隕石が……」



《マーズマ星系へ、巨大隕石!?》


《フラメル王国政府、本星の破棄を決定》


《避難、未だ終わらず。惑星に取り残される人々!》



 無情にも、一つの星の最後の時は刻々と近づいていた。



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