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ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
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 漂着五日目の朝。緊張の面持ちで、エマは船の複座式操縦席の後方上段に座りながら両脇のARで投影されたコンソールを操作する。計器に表示される機体のパラメーターに視線を走らせ、逐一その数値に問題が無いかを精査していく。

「アカギさん、電力供給をお願いします」

「分かった」

 エマの前方、複座式の下段にある、もう一つの操縦席にアカギはいた。ただ、それは操縦席と言うには、あまりにも奇形であった。

 足を肩幅まで広げ仁王立ちする『戦士』の周囲には、コンソールや計器の類はほぼ無いに等しく、正面にのみ場違いな黒の台座が設置されていた。台座には、幅広の剣を差し込むスリットが存在し、今はその溝に『カネツグ』の刀身が収められている。

「纏え、『カネツグ』」

《御心のままに》

 柄を両手で保持しながら、アカギは加護:剣の纏衣を使用する。

 『カネツグ』七変化が一、《らいめいのてっつい》。本来ならば刃を覆う雷の力は台座に吸収され、船を稼働させる血液として循環を開始する。

「10%・・・・・・20%・・・・・・30%」

 エマが、計器の数値を読み上げていく。それと同時に、アカギの脳内には様々な情報が飛び交っていた。それは、『宇宙を駆ける剣』の外部に設置されたメイン・サブを含めたカメラやセンサーが拾い上げた映像であり音であり、船にして剣である機体が、感受したものだ。

 アカギは今、愛剣を介し、全長40m、全幅20m、全高15mの白銀(しろがね)の大剣を『装備』している。その機体のシルエットは剣の形状をそのまま船に落とし込んだような、前方が鋭角的で長く、柄に当たる後方はやや肉厚であった。時間的余裕はほぼ無かったため、塗装等のマーキングや視認性を高めるための処理はほぼされておらず、銀一色の剥き出しの装甲が、この船の唯一の彩りだ。飾り気こそないが、質実剛健で無駄のないデザインは、実直で無骨な力強さを感じさせる。

 『使徒』は、『装備』したアイテムの性能を限界以上に引き出し、それを自らの手足のように扱うことができる。通常、武器を振るう際、己の肉体の操作を疎かにするわけにはいかない為、接続領域はあくまで腕の一部に限定される。しかし、操縦席という周囲を装甲で護られ、密閉された環境に於いて、肉体の操作に頓着する必要はない。

 接続領域を全身へと広げ、白銀の大剣からの(ライン)を肉体の各部と結びつける。

 基礎フレームは骨格、配線は血管にも等しい。アカギの操縦席(シート)に計器の類どころか操縦桿すらないのは、このためだ。エマの様に眼球というフィルター通して計測値を認識するのではなく、機体の観測した情報がダイレクトに脳内に伝達され、その機体操作もアカギの思考が機体へと反映され、思うだけで自由自在な操縦が可能だ。

 既存の技術体系の知識を有するエマの眼から見ても、間違いなく革新的であり、直感的な操作を可能とする時代の一歩も二歩も先を行くインターフェイスであるが、革新的ということは、粗が多いとも言える。

 その粗削りな箇所一つが、あまりにも機体と同調しすぎるという点である。

 『装備』中、白銀の大剣は、接続者そのものと言い換えてもいい。

 機体の挙動全てが、接続者の認識や反応に依存するため、アカギの様な地図を読めない方向音痴の者が接続者であった場合、目的地を見失った漂流船になりかねない。

 しかし、そこは自身の所有者の能力を完全に把握している『カネツグ』の設計。複座式の操作方式を採用し、副操縦席のエマ側から出力調整やナビゲーションなど、主操縦席のアカギをサポートできるように図面の段階から対策は講じられている。

「各部、漏電等の問題なし。絶縁処理がちゃんと機能しています」

《バイパス形成、問題なし。伝達速度も安定してる》

「こちらも、大丈夫だ。上手く接続領域が全身に拡張できた」

「では、慣らし運転に移りましょう」

 コンソールに指を這わせるエマの面持ちから、緊張の色は褪せていない。嫌になる程、総出でパーツの一つ一つを入念にチェックし、デバック作業を繰り返し、不安要素を潰しに潰したのだ。セルフチェックで深刻なエラーや問題が発生しないのは、もはや既定事項だ。

 問題は、ここから。

 現在の宇宙船の骨子は、推進力発生セイルであることは動かないが、それでもレース競技用の特殊仕様でもない限り、ほぼ全ての船は必ず内燃機関を搭載し、自発的に推進力を得るシステムを備えている。

 これは、エーテル濃度の薄い大気圏内では、搭載内燃機関を稼働させて自発的な推進力と揚力を発生させる通常航行、惑星の衛星軌道の高濃度のエーテル帯、《惑星流》が生じる空間では、セイルで《惑星流》に干渉し《波》に乗る事で推進力を得るエーテル航行と、併用し使い分ける為である。

 内燃機関の役割は他にもあり、《波》から別の《波》と乗り換え、あるいは乗りこなせないレベルでの大荒れの《波》からの脱出する際の後押しとしてなど、重要な役割を担っており無くてはならない機関だ。

 エマが頭を抱えたくなるのは、その船の第二の心臓に値する内燃機関を『宇宙を駆ける剣』が搭載していないことにある。そもそも、設計図の段階から、搭載内燃機関は仕様には含まれてはおらず、度外視されている。

 『宇宙を駆ける剣』は、エーテル航行のみに特化した機体だ。

 自発的に推進力を得る方法一切持たず、エーテルの《波》が無ければ、銀色の棺桶位にしかならない。

「アカギさん、まずは障害物のない上空へ垂直離陸をお願いします。ゆっくりすぎる位にゆっくりで」

 自作ハンガーの機体へのロックが解除。拘束具から解放された剣が、空へと上昇してく。一瞬の浮遊感。外部カメラの映像が、上へ上と移動していき、ある一定の高さまで到達すると、ホバリング状態となってその高度で留まる。

 シミュレーション上では上手くいくことは分かっていたが、自らが搭乗し実験するとなると心臓に悪い。エマは、冷や汗を拭いながら、数値の変動を目で追い、問題が無いことを確認する。

「次は、準備運動のつもりで、二割程度の力で軽く流しながら前進してください」

 AR上に表示されたアカギが首肯した直後、エマは胸を押し潰される感覚を得た。

 加速のGだ。慣性制御システムが殺しきれなかった余剰分の重圧が、少女の心肺機能に負荷をかけていた。加速は、僅かな時間で終了する。計器が示す時間では5秒程度。それでも、エマの体感時間ではその十倍以上の長さを感じていた

 抑圧から解放され、呼吸の荒くするエマの息遣いを感じ取ったアカギは、操縦桿である柄から手を放し、副操縦席へと身を乗り出した。

「大丈夫か?すまない、やりすぎたようだ」

「いえ、これは慣性制御の設定値を甘く見積もっていた、私のミスです。やっぱり稼働させてみないと、色々分かりませんね、本当に」

 白銀の大剣は、エーテル航行のみで、大気圏内の飛行を可能としている。それを実現しているのは、船の全装甲を構成する大質量のエーテル・リフレクション・マテリアルだ。干渉するエーテルが希薄ならば、より強い干渉力で周囲のエーテルを収束させ、運用すればよい、というある種の力技。加工し、表層面に薄くコーティングするのでなく、マテリアルそのものを装甲として鍛え上げた際の干渉力は、従来の船とは比較にならない程の影響力を有する。

 大気圏内でさえ、耐G訓練で加重には耐性のあるエマが苦しむ程の速度を生みだす。これがエーテルの海原で最大船速を発揮した場合、あるいは銀河の船舶に於けるレコードを塗り替える可能性すらある。

「それにしても、この船、金額に換算したらいくらになるんでしょう。正直乗り回すのが、別の意味で怖いです」

 パーツの殆どを希少金属のレアメタルで構成された宇宙船。貧乏性が染みついているエマからすれば、シートに腰かけるだけでも、ビクビクと警戒心を呷られる。

《阿呆め。何を怖気づいておる。剣だろうと、船だろうと、使われてこそ華。壊れたら、修理してまた使えばよかろう。使って使って、使い尽くされ、その果てに終るのならば、それこそがモノとしての本懐。下手な躊躇は、寧ろこの剣を侮辱する行為と心得よ》

「わ、分かってますよ」

「パーツに破損があれば言ってくれ。幸い、まだ素材にはストックがある」

 船を造るための大量のマテリアルの提供元、それは他でもないアカギであった。

 《カネツグ》の提供した図面を細かく見分するエマが最初に声を上げたのは、その材料一覧についてだ。各部の殆どのパーツに使用されるエーテル・リフレクション・マテリアルを見て、こんなもの何処から用意するんですかと、エマは叫んだ。セイルの表層面に残留しているマテリアルを剥離(はくり)させてかき集めたとしても、必要量に圧倒的に足りていない。

《案ずるな、汝の言う素材ならば担い手様が大量に所持しておる》

 エーテル、アカギ風に言うならば霊力、その流れに干渉し、これを制御する性質を持つ素材。そして、実際にマテリアルを『味見』したことで、『カネツグ』の中では確信に近い回答が出ていた。

 すなわち、エーテル・リフレクション・マテリアルとは、鍛冶の定番素材ミスリル鉱石の別の呼び名であると。

 アカギの《オロチぶくろ》から山の様に吐き出される《ミスリル》を見て、思わずエマの翠の瞳は欲望色に染まった。そして、それらを炉に投下する際には、悲鳴を上げた。

 エマは、自作したARのチェックシートの空白のボックスにレ点を書き込む。新機軸の船の運用の為、より多くの条件下でテストを行いたいが、時間的余裕はもうあまりない。確認するのは必要最低限の項目。最初で最後の稼働テストを行い、今日の正午には脱出を敢行しなければならい。

「順次、テストを続けましょう」




 漂着した惑星でとる、おそらくは最後の食事。機内で食べても味気ない、というより零れた食べカスが精密機器に紛れ込みでもすれば事であるため、場所を湖畔へと移し、太陽の下で机と椅子を設置し、最後の食事を堪能する。ちなみに、食事をする必要のない『カネツグ』は、自ら一人船内に残って最終チェックを行っている。

 昼食のドライカレーを味わいながら、アカギはしみじみと言葉を漏らした。

「今日も、君の作る料理は美味いな」

 辛味は控えめで、その分コクがあり、ひき肉と豆がいい味を醸し出している。アカギの切るだけ焼くだけの調理とは雲泥の差だ。実際、毎食毎食違ったメニューを提供し、飽きさせず尚且つ栄養価や味も一定水準以上となると、それ相応の知識と技術が必要になる。

「別に、普通ですよ。お金が無かったから、安く作れる自炊を憶えただけです」

 ここ数日に寝食を共にしたことで、鈍いアカギにも気づけた事だが、エマという少女は賞賛や賛美に慣れていない。酷く狼狽えるか、こうした素っ気無い態度をとる。その若い感性への憧憬と共に、アカギは少女を微笑ましく思っている。

「なら、普通未満の俺は、今後は調理技術を憶えていかないとな。いつもまでも、君に頼る訳にもいくまい」

 闊達に笑うアカギに対し、エマは思いつめたような真剣な眼差しで言葉を告げた。

「……あの、アカギさん。このクエストを成功させたら、アカギさんはこれからどうされるんですか?」

「当初の目的に戻る。まあ、『勇者』探しの続行だ。今のところ、当てはないが」

「それなら……」

 意を決したエマが、アカギに詰め寄った。

「それなら、私の国に来ませんか?」

「マーズマへか?」

「じ、実はですね、こう見えても、私は一国の王女だったりします」

 胸を張り、手を当てるその姿は、少女なりの精一杯の虚勢だった。

「アカギさんはお強いですし、他にはない貴重な知識もお持ちなので、一国家としては大歓迎です。私が一声かければ、根無し草のアカギさんに国の後ろ盾を作ることも可能です。権力の助勢があったほうが、『勇者』探しも捗るとは思いませんか?」

 それは、絞り出すような声だった。怯えた子供が、親の手を離すまいとするような、必死さがあった。

 正直なところ、輝きを感じる少女の行く末を見てみたいという願望もアカギの中に生まれていた。どこにいるかも知れない人間を探し出すのには、組織の力を用いた方がより効率的であることも事実だ。それでも、アカギは首を横に振るしか選択肢が無かった。

「すまないな。俺は、『使徒』なんだ。どこかの勢力に肩入れする訳にはいかない」

 それは、『勇者』と旅をしていた時からパーティー全員で決めたルールだ。

「富も権力も、誰もが死した後には手放さざるを得ないがゆえ、どんな権力者に対しても大衆は一定の安心を得ることができる。だが、『使徒』に寿命はない。安全圏で生活していれば、それは事実上の不死にも等しい。不老不死の者が、永遠に富も権力も握り続ければ、人の世は澱む。人々の間には、恐怖が蔓延り、碌な結果にはならない」

 当時の冒険は、常に権力者との関係には一定の距離を置いた。協力関係で一時的に力を貸す、あるいは助力を仰ぐことはあったが、下に就く事も、上に立つ事もしなかった。現在、『僧侶』は宗教を介して国家間の(まつりごと)に関与しているらしいが、それも己の代理人を立て、決して表舞台には立たないよう、細心の注意を払っての行動だ。

 アカギには、『僧侶』程上手く立ち回る才覚はない。昔と変わらず、体制側に属することはできない。

「………駄目、ですか?」

 アカギが理由を語ろうとも、譲らぬエマ。おそらくは、頼るべき寄る辺を失っている危機的状況であるが故の、恐怖と依存が混じり合った心の衝動。己を守ってくれる庇護者と離れると予期させる事柄は、今の少女にとっては耐え難いことなのだろう。そう、アカギは判断する。

 エマは、本来聡明な少女だ。視野狭窄に陥っていることを指摘し、自らが孤独でないことを諭してやれば、自ずと意思を改めるであろう。

 アカギが、口を引きかけた時、手に妙な感触を感じた。

 目を向ければ、食器の金属匙が、握り潰されていた。誰がやったかは考えるまでもない、アカギ自身だ。『戦士』の手は、自覚する間もなく、極度の緊張から拳を作り、戦闘態勢に移行していた。

 認識した瞬間、それが来た。

 全てが、重い。

 全身が、微塵も動かない。

 物理的な圧力ではない、自己がいかに劣等種で惨めな奴隷であるのかを、無理矢理に脳髄へと楔を打ち込む、強大で尊大な威圧。

 唯一動かせる眼球でエマを見た時、アカギは戦慄を憶えた。

 姿形は毛ほども差異が無い、それでもまるで別物だった。

 少女の全身から現出する、漆黒の粒子群。空気中の微細な極小精霊達が、少女たった一人の意思に屈服し、隷属させられている。白紙に墨を垂らすように、空間そのものを塗りつぶし、浸食する。

「私は、アカギさんと……」

 憶えている(・・・・・)

 『戦士』アカギは、この支配を、この暴虐を、この存在を憶えている。

 嘗て、仲間達と共に挑み、敗走の後に辛くも打倒したモノ。『勇者』の、鏡写し。

 この黒は、他者を屈服させるのみならず、下手をすれば本人さえも飲み込み、深淵へと誘う虚無の沼だ。

 力及ばず、一度は折れた。

 故にこそ、二度目の敗北を、『戦士』は享受しない。対策は、既に内にある。

 限定条件発動スキル《フラッシュ・リアクト》。不屈の意思が生み出した、黒の支配へ対抗能力。

 自由を貶める暴虐の影響に晒された際、一動作(ワンアクション)のみを、ありとあらゆる束縛を無効化し、強制的に事象へと差し込む能力。

 時間経過と共に、増殖し浸食領域を拡大させる黒。少女を救うべく、アカギはそれを実行した。

「心配するな。君が俺を呼ぶなら、俺は何処へだって駆けつけて、力になる」

 息遣いが感じられる至近距離まで一気に詰め寄り、両の手で厚く少女を抱きしめる。黒の出現は、精神の不安定さに起因している。泣きじゃくる子供を安心させるように、強くそれでいて包み込むように優しく抱きすくめ、アカギは体をエマと密着させる。

「辛いなら、俺の前でいくらでも泣き言を言えばいい。寂しいなら、こうして何度でも抱きしめる。だから、そんな眼をするな。俺は、いつもの君が好きだ」

 鼓動が重なる。互いの心臓の音が体感的に分かる距離で、エマは抵抗し暴れるも、体格差、技術差、能力差の三重の拘束により、やがて力なくされるがままになってしまう。

「はう……」

 腰砕けになったエマが、すっぽりと少年の腕の中に収まる。同時に周囲に拡散していた黒斑が一瞬で消え去り、沈静化する。確認の為に、アカギが少女の顔を覗き込むと、黒に染まりかけた翠の瞳が、今はなぜか酒に酔ったかのように潤み、頬も赤く染まっていた。

 力加減を間違えて圧迫しすぎたかと危惧するアカギだが、程なくして素面に戻ったエマは、腕の中から早々に脱出すると、すかさず距離を取った。

「あ、あの、その、今のは・・・・・・」

「本気だ」

「!?、ちょ、ちょっと、顔を洗ってきます!」

 レベルアップ現象により、強化された身体能力を全力で稼働させて、浅瀬へと走り去るエマ。脱兎の如く、逃げゆく少女に、アカギは少なくないショックを受けていた。

「……そんなに、俺が気持ち悪かったのか?」

 肉体のみは若いままなので、加齢臭などはしないはず。風呂にも毎日入っているし、昔日、『勇者』や『魔法使い』に叱られた経験から、身だしなみにも気を使っている。

 そして、ふと年頃の娘は繊細で敏感だとの、『盗賊』の言葉を思い出す。考えてもみれば、多感な時期の娘が、血縁でもない異性の男にいきなり親の様に抱きしめられれば、それは不快に感じるだろう。今回は、その不快感の強い感情のおかげで黒の浸食を払拭する形になったため、なんとも微妙な気分に陥る。

「やってしまった……しかし」

 後で、謝罪しなければと思いながらも、アカギはエマが発現した黒について思考を巡らせる。

 エマ自身には、自覚すらないだろう。あれは感情の高ぶりにより、一時的に(たが)が緩んだ結果、黒の一部が漏れ出したに過ぎない。もし完全に開放されていたなら、この程度ではすまない。

 クエストの護衛対象になるのは、何かしらの影響力を持つ人物である場合が多い。物流に深く関わる豪商や、重要な情報を握っている旅人、国家が動くことになるエマのような王侯貴族などは鉄板中の鉄板と言える。

 これまでの知識や、得られた情報を加味すると、期日までにエマをマーズマに連れて行けば、その地に訪れる何かしらの厄災を退けることができる、と解釈することもできる。

 だが、エマに発現した、暴虐の黒。アレは、人を救うような類のものでは決してない。完全に制御できているならまだしも、無軌道に放出されるだけならば、エマ自身が厄災になりかねない。

 エマの王女としての立場が、何かしらの因果を巡らせるトリガーとなるのかもしれないが、情報が少なくアカギの頭では判断がつかなかった。

「どう転ぶにせよ、このクエストはただあの子を、送り届けただけでは終わらない」

 マーズマで何が起こるのか、予想はつかない。

 それでも、如何なる事態になろうとも、準備だけは怠ってはならない。皿に残っていた料理を一口で飲み込むと、『戦士』は己の装備、能力、所持品の確認を始めた。


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