表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・プレイヤーズ  作者: 潮見高流
第1章 エンカウント アンノウン
10/75

09 幕間

今回、内容が短いです。

 人類の歴史は、大きく分けて六つの変遷を辿っている。

 母星での人類という種の誕生、一つの惑星のみですべてが完結し、ライフサイクルが循環していた創世期。

 人口の増加により、母星の土地や資源が限界に達し、しかし技術の袋小路に入った人類は太陽系の脱出すらままならず、遠くない未来の滅びを甘受するしかなかった閉塞期。

 新たなる『航路』、エーテル・ストリームの発見により、国家、企業、個人がこぞって希望を胸に母星から飛び出し、宇宙へとその種を拡げていった航海期。

 多くの星々で人類が繁栄を謳歌し、新技術の確立や新発見が途絶えた日はないとまで言われ、人類の技術水準が現代も含めて最高峰に達していた黄金期。

 正体不明の《大厄災(カタストロフ)》、一説には宇宙規模の太陽嵐とも言われる災害が長期間に渡り発生し、既存の電子機器の殆どが破壊され、これも詳細は不明だがエーテル・ストリームも同時期にその流れを止めた。星間交流(ネットワーク)が完全に寸断され、母星へ帰ることもままならず、文明の利器が破壊し尽くされたため、各々の星で原始的な生活を余儀なくされた暗黒期。

 そして、エーテル・ストリームの復活から始まった銀河連盟の設立。寸断された線が繋ぎなおされ、文明レベルも一定水準まで回復した。一見して黄金期に回帰したようにも見えるが、その実過去の技術を多く保管・保持していた連盟による、技術の秘匿、資源の独占が色濃く、連盟とは名ばかりの多くの国家が、宗主国に首輪つけられた走狗となり果てている。

 一部の特権階級が富と栄光を湯水の如く溢れさせながれら、末端の国々は常に貧困に喘ぐ、濁り澱んだ時代。宗主国の指導者達は訳知り顔で、今の時代を暗い夜の明けた時代、黎明期と呼んだ。

 オーギュスト・フラメルという五十路の坂を越えた男もまた、連盟に首輪つけられた国家指導者の一人であった。マーズマ星系一帯を領土とする国家、フラメル王国の、ただ一人の王。政治形態こそ絶対君主制を採用しているが、碌な個人資産もなければ権力もない。

 そもそも、フラメル王国の領土は、入植を開始した時代から、やせ細った土壌であることが分かりきっており、テラフォーミングで改善されてはいても、食料自給率は低く、国民の食糧は殆どが別星系からの輸入に頼らなければ生活が回らない。オーギュストは、先祖がこの惑星を入植先に選んだ理由を、今尚理解できないでいる。

 特筆すべき様な産業もなければ、人を呼び込めるような観光資源もない。エーテル・ストリームの主流である連盟本星からは遠く離れた辺境の田舎惑星。それが、マーズマだ。

 フラメル王国の王になるということは、貧乏くじを引く事にも等しい。絶対王政の制度も、暗黒期の多発する混乱を乗り切るためには、合議制では遅きに失するため速度に秀でた君主制の形を採用したに過ぎない。現存している王室や帝室は、殆どがこれと似た理由で生まれている。

 自由に振るえる権力を持たないにも関わらず、責任だけは国民全てのものを背負わなければならず、人を雇入れるような余裕もないため、雑用を含めた国家運営の殆どを自ら行わなければならない。

 オーギュストも、若き日は己の身に流れる血を恨んだこともあった。末子として生まれた彼が王位を継いだのは、他の兄弟達が病弱や何かしらの理由をでっち上げ、自らを廃嫡扱いとして、さっさと国を捨てて逃げ出したからだ。

 望まぬ王位。それでも、ただ一人残された後継者は、同じく残された国民を見捨てることはできず、三十年以上も爪に火を点しながら国家の歯車となって国を運営してきた。幸いなことに、彼の血を引いた三人の王族達は、皆優秀で尚且つ三人とも国の為に自ら進んで行動している。

長男は、王位を継ぐべく中央の法学系の大学を主席で卒業し、知識を深めると共に独自のコネクションを作り、今は王の秘書官として彼を支えている。

 次男は、貿易とは切っても切れないフラメル王国を物資面で支えるべく、自身の会社を立ち上げ貿易商となり、銀河中を飛び回って様々な方面と顔を繋げて、交易の線が切れぬよう助力している。

 未成年の長女は、まだ学生だ。それでも親の贔屓目抜きでも才気溢れ、銀河最高学府とも呼ばれる《スクール》への入学まで成し遂げている。少々運が無いのが玉に瑕だが、それを乗り越えるだけの悪運としぶとさも持ち合わせており、いつか誰も想像がつかない事を成し遂げるのではと、将来が楽しみな愛娘だ。

 その長女が、もうじき一時帰省する。金のかかる豪華な出迎えなどできようはずもないが、せめて家族の時間だけは余裕をもって取るべく、一週間前からオーギュストは仕事を前倒しで処理している。胃の痛くなるような数字や報告も、ここ最近は苦ではなかった。

 オーギュストが設備の老朽化に関しての報告書に目を通していると、執務室の扉がノックも無しに突然開けられた。

「陛下、至急のご報告があります!」

 息も荒く飛び込んできたのは、実の息子であり、秘書官でもある、ジェレミーであった。礼儀も様式もあったものではないが、火急の際には礼を排してでも実を取れと、幼少期から教え込んできたのはオーギュスト本人だ。

「報告を聞こう、ジェレミー秘書官」

 平時ならば、服に皺ひとつ作らず、深い知性を感じさせる翠の瞳と髪の毛先から足のつま先まで整った所作から貴公子然とした優雅ささえ感じさせる息子が、服装を崩し乱れた息を整えようとする様は、オーギュストの報告に対する警戒度を跳ね上げた。

「はい、先ほど観測所から緊急報告があったのですが、17189号彗星である《トウェイン》が急激に周期コースを変更し、当惑星に向かっていると……」

 俄かには信じられない報告。しかし、ここで頭ごなしに否定し報告を無視するほど、三十年以上も国王と務めてきた人間の危機管理能力は甘くない。

「裏付けは、取れているのか?」

 フラメル王国の施設や設備・機器の質はお世辞にも性能が良いとは言えない。誤作動や、あるいは観測員の誤認といったヒューマンエラーの可能性もある。

「はい、各方面との連携、連盟本星アーバロンの観測所も同じ結論に至っています」

「ならば、その報告はほぼ事実、か。詳細を知りたい。資料はあるか?」

「はい、既にここに用意してあります」

 オーギュストは、急ぎで作成されたであろう報告書のファイルを、机に内蔵された情報端末に読み込ませると、目の前にそのまま投影する。

 報告書には、過去の記録や計測値をもとに作成された彗星の3Dモデルが添付されており、それが急激なコース変更によりマーズマ本星に襲来し、本星へと落下してくるシミュレーション映像が記録されていた。

 予測される未来図は、凄惨の一言に尽きた。

「直径約三十km。仮に、直撃すれば地表が禿げ上がるレベルだな」

 二次災害も含めれば、マーズマは壊滅的被害を受け、数千年単位で人の住めない死の星となる。もしこれが、旧来の紙面による報告書であったのなら、オーギュストは怒りのあまりそれを破り捨てていたかもしれない。

「防衛衛星は、この事を観測していなかったのか!?何のために、毎年高い上納金と維持費を連盟に納めていると思っている!」

 銀河連盟に加入する国家は、宗主国の定めた規約を遵守することを定めされている。その一つが、防衛衛星の設置だ。衛星自体は、連盟から送られてくるが、維持費等は加盟国持ちだ。表向きの理由は、加盟国周辺でのエーテル・ストリームの観測や有事の際―今、正にマーズマが直面しているような大災害―、速やかな対応を行うための設備のはずだが、その実、加盟国の動向を監視するための見張り台だ。

 一応、本当に隕石接近などの天体災害を察知する機能もあるが、本命の監視に比べると、明らかに手を抜いている節がある。

「それが、数日前に発生した《惑星流(ストリーム)》の活性化により計器が故障しており、発見が遅れたと」

 その声は、怒りで震えていた。秘書官であるジェレミーもまた、強国の弱小国に対する杜撰な対応に、拳を握りしめる。

「ついでのように駐在外交官も言っていましたよ、辺境であるマーズマには隕石迎撃部隊コメットスィーパーを派遣しても、間に合わない為、即時惑星を放棄せよと。自分達は専用高速艇でさっさと逃げながら!」

「………人面獣心の畜生共が」

 マーズマ星系に本星以外に居住可能な星はない。マーズマにしか領土を持たぬフラメル王国にとって、本星を捨てるという事は滅亡にも等しい。民たちは、流民となり暗く広い銀河を当てもなく彷徨い続けることになる。

 自らの民がそのような理不尽な苦境に立たされるは、王としても個人としては断腸の思いだった。それでも、オーギュストは、王としての責任として、自ら判断を下さなければならない。

「ジェレミー秘書官、君が憤慨する気持ちも分かるが、ここは外交官の言ったとおりに、このマーズマ本星を放棄し、宇宙船にて国民を避難させるのだ」

「陛下っ!しかし、それでは、私達の一族が黄金期より守ってきたフラメル王国が……」

「真に優先すべきは、国という囲いではない。その土壌に芽吹く命だ。種さえ無事ならば、遠く離れた銀河の果てであろうとも、またフラメルの花が咲くと、私は信じている」

「陛下……」

 自身が生まれるより前から、王国に尽くしてきた父の年月を、心中を慮れば、自らの憤りなどなんと浅はかな事かとジェレミーは自戒する。努めて冷静にと自らに言い聞かせ、第一王子にて秘書官は、握りしめていた拳を(ほど)き、政務用のタブレット端末を立ち上げた。

「関係各所に連絡し、一時間、いえ、30分以内には対策室を設置させます。陛下、ご準備の程を」

「うむ。それまでに、儂の方からも、友好国に脱出の協力を打診しておこう。ジェレミー秘書官、民間、国有を問わず、宇宙船を集めよ。使えるものは全て使う。フラメル王国の総力を挙げて、一人でも多くの民を避難させるのだ」

「はっ、御心のままに」

 急ぎ足で部屋を辞す息子の背中を見送りながら、オーギュストは一国の王としては失格ではあったが、一人の親としては当たり前の感情を抱いていた。家族の安否への憂慮だ。

 次男は、現在自ら銀河連盟非加入の多国籍連合クランとの取引に赴いている。計算高く、何が国益につながるかをよく心得ているため、罷り間違っても早まったことはしないであろう。

 苦労人の王が頭を抱えるのは、長女の事だ。

 顔立ちは、今は亡き妻によく似ているのだが、間の悪さ、運の無さは、悲しい程にオーギュストと似ていた。隕石衝突に関して、報道関係はこぞってニュースサイトの一面を埋めていくだろうが、何らかの事情でそれらに触れる機会を無くし、何も知らない状態でマーズマまで帰郷してくる可能性すらある。

 長女は若く、割り切りがまだ出来ていない。この窮状を知った場合、妻譲りの行動力で何をしでかすか、オーギュストには想像ができない。

「頼む、エマ。大人しく安全な場所にいてくれ」

 王は一人、娘の安寧を願った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ