奥の森
チュウタは年うざぎに無事選ばれました。
それは冬至の星降る晩、どこからともなく集まった、かわいいノウサギ達が、丘の上の一本杉に集まって円を描いて踊るのです。
少し離れた林では、杉や桧の妖精が、枝を鳴らして音楽をかなでます。
その曲にあわせて、粉雪が、おごそかに春のはじめを祈る歌を歌うのです。
長い夜はもうおわり。
明日からは春を待つ
お日様が力を取り戻し、
森が静かに目をさます。
チュウタは、とても上手に歌えたので、風に舞った粉雪と夜空の星がきらめいて、チュウタの歌をほめました。
ダンスだって、とびきり上手に踊れました。
白い雪の平原に、チュウタの小さな足跡が、上等のレース生地のように複雑な模様を描いています。
チュウタは、年うざぎに決まりました。
「おめでとう。」
北風がチュウタの耳を優しく撫でました。
「おめでとう。」
ベテルギウスの赤星が、ルビーのように輝いて、チュウタを祝福してくれました。
チュウタは幸せな気持ちになりました。
でも、大変なのはこれからです。
なにしろ、選ばれた生き物しか入ることの許されない、小さな森の奥深く、雪女の住む所へと、一人で行かなければ行けません。
森の奥に住む、雪女、サエとはどんな人物なのでしょうか?
チュウタの母親は、その年のススキの穂先を編み込んだフワフワの帽子をチュウタに被せると、心配そうに言いました。
「はしゃいだり、寄り道はいけないよ。奥の森はイタズラ小僧が嫌いだからね。雪女のサエさんにあったら、ちゃんとあいさつするのですよ。」
「わかってるよ。僕は子供じゃないんだから、ちゃんとやれるよ。やれるんだ。」
チュウタは、心配性のお母さんに強くいい放ちました。
だって、チュウタは年うざぎに選ばれたのです。
それは、もう大人だって皆が認めたあかしなのです。
チュウタは、決意をあらたに奥の森へと向かうことにしました。
冬将軍のコートに使う、
春の精の黄の糸と
夏の精の青の糸と
秋の精の赤い糸を風呂敷に包んで背負います。
さあ、出発です。
チュウタは元気よく飛びました。